4代目に憧れて   作:ryyonn

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再び、世界が歪む

 

 

翌朝。

 

目を覚ました瞬間から、僕の頭の中には昨日の感覚が残っていた。

 

放出したオーラの先端が、木片に残ったオーラに触れたような感覚。

 

あれが何だったのか、まだ分からない。

 

けれど、初めて空間跳躍が起きたときも、始まりは小さな違和感だった。

 

木片に残ったオーラを感じ取り、右手を伸ばした。

 

そして、次の瞬間には、いたはずの場所から消え、木片が置かれていた場所に移動していた。

 

あの現象を再現したい。

 

いや、今度こそ再現するための手がかりをつかみたい。

 

僕は急いで着替え、訓練場へ向かった。

 

「おはよう、お母さん!」

 

「おはよう。……ふふっ、今日はずいぶん張り切っているわね」

 

ビスケは僕の顔を見て、すぐに察したらしい。

 

「昨日の感覚が気になっているんでしょう?」

 

「うん。もう一度、確かめたいんだ」

 

「いいわ。でも、最初から空間跳躍を狙うのは駄目よ。まずは昨日と同じ現象が起きるかどうか。それから先は、結果を見て決めましょう」

 

「分かった」

 

僕は頷いた。

 

期待しすぎてはいけない。

 

それは、これまでの実験で何度も学んできたことだ。

 

ビスケは訓練場の中央に木片を置いた。僕が何度もオーラを残してきたものだ。

 

「今日は、私が条件を記録するわ。あなたは、感じたことをその場で説明してちょうだい。無理に続ける必要はないからね」

 

「うん」

 

僕は木片から三メートルほど離れた場所に座った。

 

目を閉じる。

 

まず、自分の身体を覆うオーラを確認する。

 

次に、木片に残されたオーラを探る。

 

そこにある。

 

昨日よりも、ずっとはっきりと位置を感じ取れた。

 

僕は右手を前へ伸ばし、少量のオーラを放出した。

 

細く、ゆっくりと。

 

先端が揺れたら、形を整える。

 

距離を詰めようと焦らず、木片の位置を意識しながら制御する。

 

一メートル。

 

二メートル。

 

そして、木片まで残りわずかというところで、僕は動きを止めた。

 

ここからが重要だ。

 

木片の位置を感じ取ること。

 

放出したオーラをそこへ導くこと。

 

二つの感覚を、同時に保つ。

 

僕は呼吸を整え、右手の先に意識を向けた。

 

そのときだった。

 

昨日と同じ感覚が、指先から伝わってきた。

 

――触れた。

 

今度は、曖昧なものではなかった。

 

放出したオーラの先端が、木片に残されたオーラの位置に重なった瞬間、二つの感覚が一つになったように感じられた。

 

僕は目を開けた。

 

「お母さん、今――」

 

「動かないで!」

 

ビスケの鋭い声が飛んだ。

 

僕は反射的に動きを止めた。

 

「今の感覚を、もう少し詳しく説明して。何が変わったの?」

 

「僕が伸ばしたオーラの先端と、木片に残っていたオーラの位置が重なったんだ。今までみたいに、場所が分かっただけじゃない。触れた瞬間、木片の位置が急にはっきりした」

 

「それ以外には?」

 

僕は右手を見つめた。

 

「……何かが、向こう側にあるような感じがする」

 

「向こう側?」

 

「うまく説明できない。でも、ただ遠くにあるものを感じているんじゃなくて、そこにあるものへ、何かが通じたような……」

 

言葉にしながら、自分でも戸惑った。

 

通じた。

 

何が?

 

どういう仕組みで?

 

まだ何一つ説明できない。

 

けれど、今までの感覚とは明らかに違った。

 

ビスケは慎重に僕の様子を観察していた。

 

「レオン。いったん、オーラを消せる?」

 

「うん」

 

僕は放出したオーラを消した。

 

すると、木片の位置は依然として感じ取れるものの、さっきまでの奇妙な感覚は薄れていった。

 

僕は思わず息を呑んだ。

 

「消えた……」

 

「何が?」

 

「さっきの、通じたような感覚。オーラを消したら、薄くなったんだ」

 

ビスケは少し考えたあと、木片を見た。

 

「それなら、もう一度、同じ条件で試してみましょう。ただし、今度は私がすぐに止められる距離にいること。何か異変があったら、すぐに中断するわ」

 

僕は頷いた。

 

再び目を閉じる。

 

木片の位置を感じ取る。

 

右手からオーラを放出する。

 

先端を少しずつ伸ばしていく。

 

そして、残留オーラに触れる。

 

――今だ。

 

そう思った瞬間、僕は右手をわずかに前へ伸ばした。

 

その動きに合わせて、感覚が急激に強くなった。

 

木片の位置が、遠くにある目標としてではなく、妙に近いものとして感じられる。

 

次の瞬間。

 

世界が歪んだ。

 

視界がぐにゃりと曲がり、身体の感覚が一瞬だけ消える。

 

前回と同じだ。

 

この感覚を、僕は知っている。

 

「――っ!」

 

気がついたとき、僕は床に片膝をついていた。

 

目の前には木片がある。

 

さっきまで、三メートルほど先に置かれていたはずの木片が。

 

僕は、そこにいた。

 

二度目の空間跳躍。

 

偶然ではない。

 

少なくとも、今回は前回と違う。

 

僕は、自分が何をしていたのかを覚えている。

 

残留オーラを感知した。

 

放出したオーラを伸ばした。

 

その先端を、残留オーラの位置に重ねた。

 

そして、右手をわずかに前へ伸ばした。

 

「レオン!」

 

ビスケが駆け寄ってきた。

 

「怪我はない? 気分が悪くない? どこか痛むところは?」

 

「だ、大丈夫……」

 

僕は自分の身体を確かめた。

 

頭も、腕も、脚も、問題ない。

 

ただ、心臓が激しく鼓動していた。

 

驚きと興奮で、すぐには立ち上がれない。

 

「お母さん……僕、もう一度、跳んだ」

 

ビスケは僕の肩を支えながら、真剣な表情で頷いた。

 

「ええ。確かに、あなたは今、別の場所に移動したわ」

 

彼女は僕がいた場所と、今いる場所を交互に見た。

 

「今度は、私もあなたが何をしていたか、最初から見ていた。前回と同じように突然消えたけれど、今回は直前までの動きがはっきりしている」

 

「うん……!」

 

僕は拳を握りしめた。

 

今まで、何度も試してきた。

 

何度も失敗した。

 

残留オーラを感じ取っても、オーラを伸ばしても、空間跳躍は起きなかった。

 

それが、今。

 

二度目の現象が起きた。

 

しかも、今回は直前に何を感じたのか、かなり具体的に説明できる。

 

「お母さん。これ、僕の念能力につながっているんだと思う」

 

「可能性は高いわね。でも、まだ断定はしないこと。今は、何が起きたのかを整理するのが先よ」

 

「分かってる。でも……!」

 

言葉が止まらなかった。

 

「前回は何が起きたのか分からなかった。でも今回は違う。残留オーラを感じて、放出したオーラをそこまで伸ばして、触れた瞬間に……!」

 

「ええ。あなたが積み重ねてきた練習が、今回の現象に関係している可能性は十分にあるわ」

 

ビスケは僕の頭を撫でた。

 

「よく頑張ったわね、レオン」

 

その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなった。

 

ようやく、一歩進めた。

 

長い間、手探りで続けてきた実験が、初めて大きな結果につながった。

 

僕は立ち上がり、木片を見つめた。

 

そこには、僕自身のオーラが残っている。

 

その位置を感じ取ることもできる。

 

けれど、今はもう、それだけではない。

 

放出したオーラが、残留オーラに触れた瞬間。

 

何かが起きた。

 

その先に、空間跳躍があった。

 

まだ、自由自在に使えるわけではない。

 

距離も短い。

 

条件も分からない。

 

けれど、少なくとも僕は、もう一度そこへたどり着いたのだ。

 

 

 

 

◯飛躍の手応え◯

 

その日の訓練は、そこで終わりになった。

 

僕はすぐにもう一度試したかったが、ビスケは首を縦に振らなかった。

 

「今日はもう駄目。二度も空間跳躍を経験したばかりでしょう? 身体への影響も、オーラの消耗も、まだ分からないのよ」

 

「でも、今なら、何をすればいいのか分かる気がするんだ」

 

「その気持ちは分かるわ。でも、分かった気がすることと、再現できることは違うの」

 

僕は口を閉じた。

 

その言葉は、これまで何度も聞いてきた。

 

そして、今回も間違ってはいない。

 

「……明日、実験してもいい?」

 

「身体に問題がなくて、今日の記録を整理してからならね。もちろん、私が立ち会うわ」

 

「約束だよ」

 

「ええ、約束」

 

僕はノートを開き、今回の現象をできる限り詳しく記録した。

 

前回と違い、今回は直前の手順を明確に覚えている。

 

ただし、重要なのは、今回の手順が本当に空間跳躍を引き起こした原因なのか、という点だ。

 

偶然、別の条件が重なった可能性もある。

 

だからこそ、今後は一つずつ条件を変えて、再現性を確かめる必要がある。

 

僕は記録の最後に、太字で一文を書いた。

 

「残留オーラの位置へ放出したオーラを導き、両者が重なった直後に、空間跳躍が発生した」

 

その下には、まだ疑問符を残した。

 

「この接触が、空間跳躍を起こすための条件なのか?」

 

答えは、まだ出ていない。

 

だが、今までの実験とは決定的に違う。

 

これまでは、感覚の変化を観察することしかできなかった。

 

今回は、空間跳躍という明確な現象が、再び起きた。

 

その直前の感覚も、手順も、前回より詳しく把握できている。

 

これは大きな進展だった。

 

僕はノートを閉じ、窓の外を見た。

 

四代目の飛雷神のような技。

 

前世からずっと憧れてきた力。

 

それを、この世界の念能力で実現するための道が、ほんの少しだけ見えた気がした。

 

まだ、完成には程遠い。

 

それでも、今なら言える。

 

僕は、確実に前へ進んでいる。

 

そして、明日からの研究は、これまでとは違う段階に入る。

 

偶然起きた空間跳躍を、再現できる技術へ。

 

そのための、本当の挑戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 

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