それから三年が経った。
俺は八歳になっていた。
母さんとの修行は、相変わらず厳しい。
走り込み、体捌き、格闘術、武器の扱い。
毎日少しずつ、できることが増えていく。
最初は転ぶだけで痛かった受け身も、今ではかなり上達した。
相手の動きを見てから反応する練習も続けている。
もちろん、母さんにはまだまだ及ばない。
そもそも、母さんの動きは速すぎる。
俺が反応しようとした時には、すでに背後に回られていることも珍しくない。
……本当に人間なのだろうか。
いや、人間なのだろうけど。
少なくとも、俺の知っている普通の人間とは違う。
そんな日々の中、俺には一つ気になっていることがあった。
母さんは、時折、修行の合間に遠くを見つめることがある。
誰かのことを思い出しているような顔だ。
気になった俺は、ある日の夕食後に尋ねてみた。
「ねえ、お母さん」
「なぁに?」
「お母さんって、昔からそんなに強かったの?」
母さんは少し驚いたように目を丸くした。
「そんなに、って?」
「だって、僕がどれだけ頑張っても、お母さんには全然追いつけないんだもん」
すると、母さんは楽しそうに笑った。
「あらあら。もう諦めちゃうの?」
「諦めてないよ!」
「ふふっ、そうよね」
母さんは俺の頭を撫でた。
「でもね、レオン。あたしだって、最初から強かったわけじゃないのよ」
「そうなの?」
「ええ。あたしにも先生がいたの」
先生。
その言葉に、俺は思わず反応した。
「先生って、どんな人?」
「そうねぇ……」
母さんは少し考え込んだ。
「とっても強くて、とっても変な人よ」
「……変な人?」
「ええ。本人は自分のことを、ずいぶん立派な人間だと思っているみたいだけどねぇ」
母さんは、いたずらっぽく笑った。
俺はその瞬間、頭の中で一人の人物を思い浮かべた。
白い髪。
長い眉毛。
年齢を感じさせない強さ。
そして、どこか人を食ったような性格。
……まさか。
「お母さん、その先生って、今もいるの?」
「もちろん。元気にしているはずよ」
「会ってみたい!」
思わず口にしていた。
母さんは目を丸くしたあと、嬉しそうに笑った。
「あら、興味があるの?」
「うん!」
「そうねぇ……。あなたも、もう八歳だものね」
母さんは少し考えてから頷いた。
「近いうちに、会わせてあげるわ」
「本当!?」
「ええ。ただし、失礼のないようにね」
「分かった!」
俺は大きく頷いた。
胸が高鳴っていた。
母さんの先生。
俺が思い浮かべている人物が正しければ、それはハンター協会の会長、アイザック=ネテロだ。
もちろん、まだ本人だと確定したわけではない。
だが、ビスケの師匠という条件に当てはまる人物は限られている。
そして、もし本当にネテロに会えるのなら。
俺にとって、それは大きな一歩になる。
ただし、今はまだ、念について尋ねるつもりはなかった。
まずは母さんが教えてくれることを、一つずつ身につけよう。
そして、然るべき時が来たら。
俺は自分の口で、念について学びたいと伝えるつもりだった。
もちろん、前世の知識があることは秘密にしたままで。