4代目に憧れて   作:ryyonn

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回転の先にあるもの

 

 

 

螺旋丸の開発を始めてから、二週間が経った。

 

 結論から言おう。

 

 思っていた以上に、難しい。

 

「……またか」

 

 手のひらの上で、球状にまとめたオーラが弾けた。

 

 僕はため息をつき、手帳を開く。

 

 球体の維持自体は、できるようになってきた。ゆっくり回転を加えれば、数秒程度なら形を保てる。

 

 しかし、回転を速くすると球体が歪む。

 

 歪みを直そうとオーラを制御すれば、今度は回転が弱まる。

 

 回転を維持しようとすれば、球体の一部が外側へ飛び出してしまう。

 

 まるで、互いに反発する二つの課題を、同時に解決しようとしているようだった。

 

「回転を維持することと、形を維持すること……」

 

 僕は手帳に書き込んだ。

 

 前世で見た螺旋丸は、術者が手のひらの上でチャクラを回転させ、球状に圧縮していた。

 

 けれど、あの世界とこの世界では、力の仕組みが違う。

 

 こちらで使うのはチャクラではなく、念。

 

 オーラをどのように動かし、どこまで制御できるか。それを一から確かめなければならない。

 

 知識があることは、確かに助けになる。

 

 しかし、答えを知っていることと、答えを実現できることは別なのだ。

 

 僕は手帳を閉じ、もう一度手のひらを上に向けた。

 

 オーラを集める。

 

 まずは球体を作る。

 

 次に、時計回りの流れを生み出す。

 

 そこまでは順調だった。

 

 続いて、反対方向からも流れを加える。

 

 球体の内部で二つの流れがぶつかり、オーラの表面が激しく揺れた。

 

「っ……!」

 

 慌てて制御しようとした瞬間、球体は崩れた。

 

 僕は目を閉じる。

 

 今の失敗には、何か手がかりがあるはずだ。

 

 ただ回転を速くすればいいわけではない。

 

 複数の方向から流れを加えるだけでも駄目だ。

 

 必要なのは、それらを一つの球体の中に保つこと。

 

 つまり、オーラの流れを作るだけでなく、流れ同士がぶつかった時の変化まで制御しなければならない。

 

「……一度、単純にしてみるか」

 

 僕は反対方向からの流れを止めた。

 

 まずは一方向の回転だけに集中する。

 

 ゆっくりと、ゆっくりと。

 

 球体が回り始めた。

 

 数秒。

 

 五秒。

 

 十秒。

 

 球体は少しずつ歪んでいくものの、以前より長く形を保っている。

 

 僕はそこでオーラを消した。

 

 成功とは言えない。

 

 けれど、進歩はあった。

 

 複雑なことをする前に、単純な動作を確実にする。

 

 避雷針の開発でも、同じことを繰り返してきた。

 

 焦る必要はない。

 

 僕は手帳に新たな記録を残した。

 

 そして、ふと顔を上げる。

 

 少し離れたところで、お母さんがこちらを見ていた。

 

「お母さん、いつからいたの?」

 

「球体が十秒もったあたりからよ」

 

「声をかけてくれればよかったのに」

 

「集中していたでしょう?」

 

 お母さんは近づいてきて、僕の手帳を覗き込んだ。

 

「ふうん。一方向の回転を安定させるところからやり直すのね」

 

「うん。いきなり複雑にしすぎていたみたいだ」

 

「いい判断よ。自分の失敗を認めて、やり方を変えられるのは大事なことだもの」

 

 そう言って、お母さんは僕の頭を撫でた。

 

「でも、今日はここまで」

 

「えっ、まだできるよ」

 

「指先が震えてるわ」

 

 言われて、自分の手を見る。

 

 確かに、わずかに震えていた。

 

 オーラの制御に集中しすぎたせいだろう。

 

「……分かった」

 

「よろしい。頑張るのと、限界を無視するのは違うんだからね」

 

 お母さんの言葉に、僕は苦笑した。

 

 この調子では、螺旋丸の完成までどれだけかかるか分からない。

 

 それでも、今は一歩ずつ進むしかなかった。

 

ビスケ視点 ――教えないという選択

 

 レオンが新しい技の開発に取り組み始めてから、私は意識して口を出しすぎないようにしていた。

 

 もちろん、危険があれば止める。

 

 オーラの扱いに問題があれば助言する。

 

 でも、技の仕組みそのものを私が考えてしまうのは違う。

 

 あの子は、すでに自分の能力を一から組み上げる経験をしている。

 

 避雷針の開発が、その証拠だ。

 

 最初は偶然の空間跳躍だった。

 

 そこからオーラの感知、放出、目印の識別、神字の組み合わせと、一つずつ要素を確かめていった。

 

 何度も失敗しながら、自分なりの仕組みを作り上げた。

 

 今では、戦闘中に空間跳躍を使うことさえできる。

 

 十三歳の子供が成し遂げるには、十分すぎるほどの成果だ。

 

 だからこそ、次の課題も自分で乗り越えてほしい。

 

「……とはいえ、簡単にはいかなそうね」

 

 私は訓練場の片づけをしながら、レオンの記録を思い返した。

 

 オーラの球体を作る。

 

 回転を与える。

 

 形を保つ。

 

 それぞれの動作は、別々ならできるようになってきている。

 

 問題は、それらを同時に行うことだ。

 

 念能力は、単にオーラの量が多ければ強くなるというものではない。

 

 どれだけ繊細に扱えるか。どれだけ無駄なく力を伝えられるか。そうした要素も、結果を大きく左右する。

 

 レオンには、その制御能力がある。

 

 しかし、能力があるからといって、すべてがすぐにできるわけではない。

 

 むしろ、器用な子ほど、少しできた段階で次の工程へ進もうとしてしまうことがある。

 

 レオンも例外ではなかった。

 

 だから今日、私はあえて何も教えなかった。

 

 あの子自身が、一方向の回転へ戻ることを選んだからだ。

 

 私はその判断を評価している。

 

 自分の理想に固執するのではなく、現実に合わせて手順を組み直せる。

 

 それは、念能力者として成長していくうえで大切な資質だ。

 

「それにしても……」

 

 私は窓の外を見た。

 

 レオンは休憩を終えたあと、今度は身体能力の訓練に移っていた。

 

空間跳躍を使った移動。  着地直後の姿勢制御。  跳躍後に攻撃へ移るまでの時間短縮。

 

 螺旋丸の開発がうまくいかないからといって、ほかの訓練を疎かにすることはない。

 

 その点は安心できる。

 

 新しい技を作ることだけが強さではないと、あの子も理解しているのだろう。

 

 私は小さく息を吐いた。

 

「……あんまり早く大人にならなくてもいいのにね」

 

 誰に聞かせるでもなく、そう呟く。

 

 レオンは努力家だ。

 

 そして、努力を続ける理由を自分の中に持っている。

 

 だからこそ、私はあの子に、強くなること以外の時間も大切にしてほしいと思う。

 

 食事をして、笑って、時には失敗して落ち込んで。

 

 そういう普通の時間も、あの子には必要なのだ。

 

 私は戸棚から、おやつを取り出した。

 

 今日の訓練が終わったら、甘いものでも食べさせよう。

 

 少しくらいは、母親らしいことをしてもいいだろう。

 

ネテロ視点 ――力を形にするということ

 

「ふむ。まだ完成せんか」

 

 数日後、ネテロはレオンの訓練を眺めながら呟いた。

 

 今日は、レオンが自分から新しい技の進捗を見せに来たのだ。

 

 手のひらの上に、オーラの球体が浮かんでいる。

 

 ゆっくりと回転しているが、表面にはわずかな歪みがあった。

 

 やがて球体が崩れ、オーラが霧散する。

 

「以前よりは長く保てるようになったんじゃがな」

 

「はい。でも、回転を速くすると崩れてしまいます」

 

「ならば、速くすることばかり考えぬことじゃ」

 

 ネテロは穏やかに笑った。

 

「速さも、強さも、安定して扱えて初めて意味を持つ。力を大きくすることと、力を使いこなすことは違うからの」

 

「……はい」

 

 レオンは真剣な表情で頷いた。

 

 ネテロは、その顔を見ながら考える。

 

 この少年は、目標を見つけると驚くほどの集中力を発揮する。

 

 空間跳躍を開発した時もそうだった。

 

 普通なら、偶然一度成功しただけで満足するか、反対に何度も試して危険を冒してしまう。

 

 だがレオンは、失敗を記録し、条件を比較し、再現性を確かめようとした。

 

 それは研究者のような姿勢であり、同時に優れた念能力者の姿勢でもある。

 

 ただし、戦闘においては、研究だけでは足りない。

 

 考える時間がない状況でも、身体が正しく動かなければならない。

 

 その点を、ネテロは何度もレオンに教えてきた。

 

「ところで、レオンよ」

 

「はい?」

 

「新しい技が完成したら、それでわしに勝てると思うか?」

 

 レオンは少しだけ考えた。

 

「……今のままでは、無理だと思います」

 

「ほっほっほ。正直でよろしい!」

 

 ネテロは声を上げて笑った。

 

「じゃが、技が完成すれば勝てる可能性が上がる。そう考えておるのじゃろう?」

 

「はい。攻撃の選択肢が増えますから」

 

「それも正しい。じゃが、技を増やすだけでは足りんぞい」

 

 ネテロは一歩、前へ出た。

 

「相手が何をしてくるのか。自分の技をいつ使うのか。使わぬ方がよい時はいつなのか。そうした判断まで含めて、技術なのじゃ」

 

 レオンは黙って聞いていた。

 

 ネテロは、その反応を見て満足そうに頷いた。

 

「よし。今日はその判断を鍛えるとしよう」

 

「……新しい技の練習ではなく?」

 

「新しい技ばかり練習しておっても、わしには勝てんからのう」

 

「それは、そうですけど……」

 

「ほっほっほ! では、始めるぞい!」

 

 ネテロの姿が動いた。

 

 レオンは即座に反応し、空間跳躍を使う。

 

 だが、移動先に現れた瞬間、ネテロがすでに攻撃の姿勢を整えていた。

 

 レオンは身をひねり、ぎりぎりで拳をかわす。

 

 そこから反撃へ移ろうとするが、ネテロはすでに距離を取っていた。

 

「今のは、跳躍を使わずとも避けられたかもしれんのう」

 

「……確かに」

 

「跳躍すれば有利になるとは限らん。時には、その場で避けた方が早いこともある」

 

 レオンは悔しそうに唇を引き結んだ。

 

 ネテロは、そんな少年を見て目を細める。

 

 空間跳躍は強力な技術だ。

 

 しかし、強力であることと、常に最適であることは違う。

 

 あらゆる技を状況に応じて使い分けられるようになった時、レオンは今よりも一段上の領域へ進むだろう。

 

 その日が来るのが楽しみだった。

 

レオン視点 ――焦らず、一歩ずつ

 

 総本山での訓練を終えた帰り道。

 

 僕は、ネテロ会長の言葉を思い返していた。

 

 技を増やすだけでは足りない。

 

いつ使うのか。  使わない方がいい時はいつなのか。

 

 確かに、そのとおりだ。

 

 避雷針が使えるようになったからといって、毎回跳躍すればいいわけではない。

 

 状況によっては、普通に避けた方が効率的だし、跳躍することで次の攻撃への対応が遅れることもある。

 

 大切なのは、技そのものではなく、それを使いこなすこと。

 

 僕は空を見上げた。

 

 前世で憧れた技を、この世界で再現する。

 

 そう考えると、どうしても完成を急ぎたくなる。

 

 けれど、僕にはまだ時間がある。

 

 十三歳。

 

 これから先、いくらでも鍛えることができる。

 

 焦って不完全な技を無理に使うより、確実に身につけた方がいい。

 

「……よし」

 

 帰宅したら、まずは一方向の回転を安定させる。

 

 そのあとで、少しずつ複雑な流れを加えていこう。

 

 螺旋丸の完成は、まだ遠い。

 

 でも、今日の失敗にも意味はあった。

 

 僕は歩みを進めた。

 

 その先には、夕食を用意して待っているお母さんがいる。

 

 そして明日には、また新しい訓練が待っている。

 

 避雷針をさらに磨き、円を鍛え、螺旋丸を形にしていく。

 

 いつか来る、本当の戦いに備えて。

 

 そのための時間を、僕は一日たりとも無駄にするつもりはなかった。

 

 

 

 

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