4代目に憧れて   作:ryyonn

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十四歳、三つの新たな挑戦

 

 

十四歳になった。

 

 この一年で、僕の念能力は大きく進歩した。

 

 避雷針は簡易型と通常型が実戦で使える段階に入り、設置型も少しずつ形になり始めている。円の範囲は半径一・三キロメートルに達し、戦闘中の空間跳躍にも慣れてきた。

 

 けれど、まだ満足するつもりはない。

 

 僕には、やりたいことがいくつもある。

 

 その一つが、螺旋丸だった。

 

「……よし」

 

 森の中、僕は右手を前に出した。

 

 手のひらにオーラを集める。

 

 球状に形を整え、その内部に複数の流れを生み出す。異なる方向から加わる力を制御し、互いに乱れないように調整していく。

 

 かつては、回転を少し強めるだけで球体が崩れていた。

 

 それが今では、回転の強さを変えても、すぐには形を失わない。

 

 オーラの流れが安定する。

 

 球体の表面が細かく揺れながらも、その形を保ち続けた。

 

 僕は、ゆっくりと一歩踏み出す。

 

 目の前には、訓練用に用意した太い丸太がある。

 

 丸太に向かって、右手を押し出した。

 

 ――ドンッ!

 

 重い衝撃音が森に響いた。

 

 丸太が大きく揺れ、表面に深い損傷が刻まれる。僕の手のひらにあったオーラの球体は、接触した瞬間に激しく崩れ、周囲へ散って消えた。

 

 僕は、その場で動きを止めた。

 

 数秒間、丸太を見つめる。

 

 それから、ゆっくりと息を吐いた。

 

「……できた」

 

 ようやく、ここまで来た。

 

球体を維持する。  内部の回転を制御する。  その状態を保ったまま、攻撃としてぶつける。

 

 すべてを一つの動作として成立させることができた。

 

 もちろん、まだ改善の余地はある。オーラの消費も決して少なくないし、動きながら同じ精度で発動できるかは、これから確かめなければならない。

 

 それでも、今の一撃は偶然ではなかった。

 

 僕は同じ手順を、何度も繰り返してきた。

 

 球体が崩れるたびに原因を探し、回転の強さを変え、オーラの流れを調整し、安定する条件を記録してきた。

 

 その積み重ねが、ようやく実を結んだのだ。

 

 僕は右手を握りしめた。

 

 前世で何度も見た、憧れの技。

 

 この世界に来てからは、念という別の力で実現できるかどうかさえ分からなかった。

 

 けれど、今は違う。

 

 これは、僕自身の念能力を使って作り上げた技術だ。

 

「螺旋丸……完成だ」

 

 口に出すと、胸の奥から喜びが込み上げてきた。

 

 長かった。

 

 本当に、長かった。

 

 避雷針を開発していた時と同じように、何度も失敗した。何が足りないのか分からず、同じ場所を行き来していた時期もあった。

 

 それでも、諦めなかった。

 

 僕は丸太から手を離し、すぐに記録を取った。

 

 完成したからこそ、浮かれてはいけない。

 

 再現性を確かめる必要がある。威力を調べ、オーラの消費を把握し、動きながら使う訓練も始めなければならない。

 

 技が完成したことと、実戦で自在に使いこなせることは別なのだから。

 

 それでも――。

 

 今日だけは、少しぐらい喜んでもいいだろう。

 

 僕は空を見上げた。

 

「よし。お母さんに見せに行こう」

 

 今なら、きっと驚いてくれる。

 

 そう思うと、自然と足が速くなった。

 

ビスケ視点 ――息子の新しい力

 

「……ちょっと、レオン。今の、本当にあなたがやったの?」

 

 訓練場に響いた衝撃音。

 

 その直後に駆けつけた私は、丸太の損傷を見て思わず目を細めた。

 

 丸太は、ただ殴っただけでついた傷ではなかった。

 

 表面が大きくえぐれ、内部にまで衝撃が通ったような跡が残っている。

 

 そして、その前に立つレオンは、少し誇らしげな顔をしていた。

 

「うん。ようやく完成したんだ」

 

「完成って……あの、球体の念技?」

 

「そう。螺旋丸って名前にした」

 

 私は息子の手を取った。

 

「ちょっと見せなさい」

 

「えっ?」

 

「手。痛めてないでしょうね?」

 

「ああ、うん。大丈夫だよ」

 

 手のひらや指、手首の状態を確かめる。目立った異常はない。

 

 念を使った攻撃技の開発では、本人が気づかないうちに身体へ負担をかけることもある。特に、オーラを複雑に制御する技は、失敗した時の反動にも注意が必要だ。

 

 私は念入りに確認してから、ようやく息をついた。

 

「……よし。怪我はなさそうね」

 

「心配しすぎだよ、お母さん」

 

「心配するのが母親なの!」

 

 思わず声が大きくなる。

 

 レオンは苦笑した。

 

 まったく、この子は。

 

 新しい技を完成させたことは、もちろん嬉しい。

 

 十四歳で、自分の発想から新しい攻撃技を組み上げたのだ。しかも、ただオーラをぶつけるのではなく、球体の維持と内部の流れを制御し、それを攻撃へつなげている。

 

 念能力者として見ても、立派な成果だった。

 

 けれど、私にとっては、それ以上に大切なことがある。

 

 この子が、無事にここまで来てくれたことだ。

 

「もう一度、見せてくれる?」

 

「もちろん」

 

 レオンは手のひらにオーラを集めた。

 

 球体が生まれ、内部で複雑な流れが動き始める。

 

 以前よりも安定していた。

 

 表面の揺らぎは小さく、オーラが無駄に外へ漏れている様子も少ない。

 

 私は感心しながら、その動きを観察した。

 

 やがて、レオンが丸太へ向かって技を放つ。

 

 再び、重い衝撃音が響いた。

 

「……なるほどね」

 

 私は腕を組んだ。

 

 単純な威力だけなら、もっと大量のオーラをぶつける方法もある。

 

 けれど、この技の特徴は、単純なオーラ量だけでは説明できない。

 

 球体の中で生まれる複雑な流れを維持し、接触した瞬間に相手へ力を伝える。制御の精度と、オーラの使い方が重要になる技だ。

 

「いい技ね。よくここまで作り上げたわ」

 

「ありがとう、お母さん」

 

「でも、完成したからって、すぐに実戦投入するのは駄目よ」

 

「……やっぱり?」

 

「当たり前でしょう。まずは発動の安定性、消費するオーラ、攻撃した時の反動。それから、移動しながらでも同じように使えるか。確かめることは山ほどあるわ」

 

「分かってるよ」

 

 レオンは素直に頷いた。

 

 その表情を見て、私は少し安心する。

 

 以前のあの子なら、新しい技が形になった時、すぐに次の段階へ進みたがったかもしれない。

 

 今は違う。

 

 完成と実用化を、きちんと分けて考えている。

 

 それも、これまでの訓練で身につけたものなのだろう。

 

「……本当に、成長したわね」

 

「え?」

 

「何でもないわ」

 

 私は息子の頭を撫でた。

 

 レオンは照れくさそうに笑った。

 

 その顔を見ていると、胸の奥が温かくなる。

 

 この子は、まだ十四歳だ。

 

 これから先、どれほど強くなるのか、私にも分からない。

 

 でも、どれほど強くなったとしても、私はこの子の母親であり続ける。

 

「今日はお祝いね」

 

「えっ、いいの?」

 

「もちろん。ただし、食べたら少し休むこと。明日からは、完成した技を安定させる訓練よ」

 

「……はい!」

 

 元気な返事に、私は笑った。

 

 努力を続けることも大切。

 

 でも、努力が実を結んだ時に喜ぶことも、同じくらい大切なのだ。

 

レオン視点 ――円だけでは足りない

 

 螺旋丸の完成は、僕にとって大きな節目になった。

 

 けれど、次の課題はすでに決まっている。

 

 円に代わる感知技術の開発だ。

 

 正確には、円を捨てるわけではない。

 

 円は優れた技術だし、僕自身、半径一・三キロメートルという広範囲を感知できるようになっている。

 

 ただ、円には欠点もある。

 

 広範囲にオーラを展開する以上、相応のオーラを維持しなければならない。範囲を広げるほど、得られる情報も増える。

 

 そして、戦闘中に広い円を維持しながら、細かな攻防を続けるのは簡単ではない。

 

 僕が欲しいのは、円とは異なる方法で、周囲の危険を察知する技術だった。

 

 特に、戦闘中でも使いやすいもの。

 

 空間跳躍を使う場合、相手の攻撃が始まったことを早く察知できれば、対応の幅が大きく広がる。

 

 相手の動きをすべて詳細に把握する必要はない。

 

 どこから攻撃が始まったのか。

 

 どの方向に危険が生じたのか。

 

 その兆候を、できるだけ早く捉えられればいい。

 

「……なら、オーラを広げ続ける必要はないのかもしれない」

 

 僕は、そう考え始めていた。

 

 円は、オーラを周囲へ広げ、その中にあるものの変化を捉える。

 

 ならば、別の方法として、自分の身体からごく微弱なオーラを放ち、その反応を観察することはできないだろうか。

 

 身体の周囲に、一定の感覚を持つオーラの流れを作る。

 

 その流れが外部のオーラや動きに触れた時、わずかな変化を捉える。

 

 円ほど細かい情報は得られなくても、危険の兆候だけなら察知できる可能性がある。

 

 もちろん、まだ仮説だ。

 

 実際に使える技術になるかどうかは分からない。

 

 僕はノートに新しい項目を書いた。

 

 念波――仮称。

 

 円とは異なる感知技術。

 

 身体から微弱なオーラを放ち、その変化を通じて周囲の危険や動きの兆候を捉える。

 

 戦闘中の使用を想定。

 

 感知の精度より、反応の速さと継続性を重視する。

 

 書き終えて、僕はペンを置いた。

 

 今までの経験を考えれば、開発には相当な時間がかかるだろう。

 

 避雷針の時も、螺旋丸の時も、最初の発想から実用化までには長い試行錯誤が必要だった。

 

 それでも、始める価値はある。

 

 空間跳躍だけでは、攻撃を避けきれない場面がある。

 

 感知能力があっても、情報を得るのが遅ければ意味がない。

 

 ならば、両者をつなぐための技術が必要だ。

 

 僕は立ち上がり、訓練場へ向かった。

 

 まずは、自分の身体から放出するオーラを、できるだけ均一に保つところから始めよう。

 

 円とは違い、遠くまで広げることを目的にしない。

 

 身体の周囲でオーラを動かし、そのわずかな変化を感じ取る。

 

 うまくいく保証はない。

 

 でも、試さなければ何も始まらないのだ。

 

ネテロ視点 ――新しい感知の形

 

「円とは別の感知技術を作りたい、か」

 

 心源流総本山で、ネテロはレオンの話を聞いていた。

 

 十四歳になった少年は、以前にも増して自分の課題を明確にするようになっている。

 

 螺旋丸を完成させたばかりだというのに、すでに次の技術へ取り組み始めているらしい。

 

「円は広い範囲を捉えられる反面、維持する負担もあります。僕は、戦闘中に使い続けられる感知技術が欲しいんです」

 

「ほう。それで、どんな仕組みを考えておる?」

 

「身体から微弱なオーラを放って、その変化を感じ取る方法です。まだ具体的な仕組みはできていませんけど」

 

 ネテロは顎を撫でた。

 

 着眼点は悪くない。

 

 円は周囲に展開したオーラを通じて情報を得る技術だが、感知の方法はそれだけではない。

 

 オーラの動きや、外部から加わる変化をどこまで捉えられるか。

 

 その可能性を探ること自体は、十分に意味がある。

 

 ただし、ネテロは一つだけ注意を促した。

 

「レオンよ。感知することと、理解することは違うぞい」

 

「理解すること、ですか?」

 

「何かの変化を感じ取れたとしても、それが何を意味するのか分からなければ、正しい判断にはつながらん。逆に、すべてを詳しく感じ取れずとも、危険の兆候だけ分かれば十分な時もある」

 

 レオンは真剣に頷いた。

 

「つまり、何を知りたいのかを先に決める、ということですね」

 

「そういうことじゃ」

 

 ネテロは笑った。

 

 この少年は、説明を受けると、すぐに自分の課題へ結びつけて考える。

 

 その姿勢は好ましい。

 

「ただ、円の鍛錬も続けるんじゃぞ。今ある技術を捨てて、新しいものに賭ける必要はない」

 

「はい。円は円で、もっと精度を上げたいと思っています」

 

「ほっほっほ。ならばよい」

 

 ネテロは立ち上がった。

 

「さて、話はここまでじゃ。今日は身体を動かすぞい」

 

「お願いします!」

 

 レオンも構える。

 

 新しい技術を考えることと、戦闘の訓練を続けること。

 

 その両方を欠かさないのが、この少年のよいところだ。

 

 ネテロは楽しげに笑った。

 

 この先、どのような感知技術を作り上げるのか。

 

 それを見届けるのも、また一つの楽しみだった。

 

レオン視点 ――瞬身の術

 

 念波の研究と並行して、僕はもう一つの訓練を始めた。

 

 瞬身の術。

 

 もちろん、忍術が使えるようになるわけではない。

 

 僕が目指しているのは、念による身体強化と、足元からのオーラの放出を組み合わせた高速移動だ。

 

 脚の筋肉を強化する。

 

 地面を蹴る瞬間に、足裏からオーラを放出する。

 

 その力を利用して、身体を前方へ加速させる。

 

 単純に脚力を鍛えるだけよりも、速く動ける可能性がある。

 

 ただし、速く走ることと、速く走り続けられることは違う。

 

 身体を強化しすぎれば、着地の衝撃が大きくなる。

 

 足裏からオーラを放出しすぎれば、無駄な消耗につながる。

 

 そして、加速した身体を制御できなければ、障害物にぶつかったり、転倒したりする危険もある。

 

「まずは、短い距離からだな」

 

 僕は地面に目印を置いた。

 

 十メートル。

 

 その距離を、できるだけ速く走る。

 

 最初は普通に走り、次に脚の筋肉を念で強化する。

 

 最後に、地面を蹴る瞬間だけ足裏からオーラを放出した。

 

 身体が前へ押し出される。

 

 予想以上の加速だった。

 

「うわっ!」

 

 だが、勢いを制御できず、目印を通り過ぎて数歩先まで走ってしまった。

 

 僕は慌てて足を止めた。

 

「……速いのはいいけど、止まれないんじゃ意味がないな」

 

 思わず苦笑する。

 

 これも、避雷針の開発と似ている。

 

 能力の一部分だけを強くしても、全体として使いこなせなければ意味がない。

 

 速く動く技術。

 

 進行方向を変える技術。

 

 安全に止まる技術。

 

 それらを組み合わせて、初めて実戦で使える移動技術になる。

 

 僕は記録を取り、再びスタート地点に戻った。

 

 念波も、瞬身の術も、まだ始まったばかりだ。

 

 螺旋丸のように、すぐに形になるとは限らない。

 

 それでも、焦る必要はない。

 

 僕には避雷針がある。

 

 円もある。

 

 そして、これまで積み重ねてきた念の基礎がある。

 

 それらを活かしながら、新しい技術を一つずつ作っていけばいい。

 

レオン視点 ――設置型の壁

 

 夕方。

 

 僕は避雷針の設置型について、改めて実験を行っていた。

 

 簡易型と通常型は、すでに一定の実用性を持っている。

 

 簡易型は、戦闘中に素早く印をつけるためのもの。

 

 通常型は、印を残し、後から利用するためのもの。

 

 そして設置型は、あらかじめ特定の場所に印を置いておき、長距離の移動に利用することを目指している。

 

 だが、この三つ目が難しい。

 

 遠くの場所に印を設置すること自体は、少しずつできるようになってきた。

 

 問題は、その印を長時間安定させることと、離れた場所から正確に認識し、跳躍につなげることだった。

 

 距離が伸びるほど、オーラの扱いは難しくなる。

 

 さらに、設置場所によっては周囲の環境も影響する。

 

 同じ手順で印を作っても、毎回同じ結果になるとは限らない。

 

「……やっぱり、まだ足りないか」

 

 僕は試作品を見つめた。

 

 印そのものは残っている。

 

 だが、そこへ跳躍しようとすると、感覚が不安定になる。位置を捉えられても、空間跳躍に必要なつながりを維持できないことがあった。

 

 無理に跳躍しようとすれば、オーラを大きく消耗する。

 

 今の段階では、安定した技術とは言えなかった。

 

 僕はノートに失敗の内容を書き込む。

 

 ここで、制約と誓約を使えばどうなるだろう。

 

 例えば、設置できる場所を限定する。

 

 設置に時間をかける代わりに、印の維持を安定させる。

 

 あるいは、特定の条件を満たした時だけ長距離跳躍を可能にする。

 

 そうすれば、現在の問題を解決できる可能性はある。

 

 しかし、まだ早い。

 

 まずは、今の技術でどこまでできるのかを確かめたい。

 

 神字の組み合わせも、まだ改善できる余地がある。

 

印を識別する方法。  オーラを維持する方法。  遠距離の印へつながる感覚を安定させる方法。

 

 それらを詰めていけば、制約を使わずに改善できる部分もあるはずだ。

 

 そして、技術だけでは難しい部分が明確になった時、初めて制約と誓約の導入を検討すればいい。

 

 僕は試作品を片づけた。

 

 設置型は、形になり始めている。

 

 けれど、完成には程遠い。

 

 それでも、以前は何も分からなかった。

 

 今は、何ができて、何ができないのかが少しずつ見えてきている。

 

 それだけでも、十分な進歩だ。

 

 十四歳。

 

 螺旋丸は完成した。

 

 念波と瞬身の術は、開発を始めたばかり。

 

 そして避雷針は、さらなる発展の可能性を残している。

 

 僕は空を見上げた。

 

 やりたいことは、まだ山ほどある。

 

 けれど、時間はある。

 

 焦らず、一つずつ。

 

 積み重ねた基礎を土台にして、僕だけの技術を作り上げていこう。

 

 その先に何が待っているのか――今はまだ、分からない。

 

 だからこそ、楽しみだった。

 

 

 

 

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