4代目に憧れて   作:ryyonn

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完成の先にあるもの

 

 

 

螺旋丸が完成した。

 

けれど、技が完成したことと、実戦で使いこなせることは別だ。

 

僕はその当たり前の事実を、翌日の訓練で思い知らされることになった。

 

「よし、もう一度やってみなさい」

 

お母さんの声に頷き、右手にオーラを集める。

 

球状に練り上げたオーラ。その内部では複数の流れが複雑に絡み合い、互いの均衡を保ちながら回転している。

 

螺旋丸。

 

見た目は単純な球体でも、維持するためにはかなり細かな制御が必要だった。

 

僕はゆっくりとオーラを集め、球体を作り上げる。

 

――安定している。

 

昨日よりも、明らかに滑らかだ。

 

「……よし」

 

僕は訓練用の丸太に向かって踏み込んだ。

 

だが、接触する直前、球体がわずかに歪む。

 

「っ!」

 

慌てて力を調整したものの、螺旋丸は丸太に触れた瞬間に崩れた。衝撃で丸太が揺れ、表面に浅い傷が残る。

 

「今のは、惜しかったわね」

 

「接触する直前に、内部の流れが乱れました。踏み込むときに、身体の動きへ意識を割きすぎたのかもしれません」

 

「そうね。技そのものを維持することと、技を使いながら動くこと。その二つは別の課題よ」

 

お母さんは丸太を確認しながら言った。

 

「もう一度、立ち止まった状態で試してみなさい」

 

僕は頷いた。

 

今度は動かずに螺旋丸を作る。

 

一秒、二秒、三秒。

 

球体は安定している。

 

そのまま丸太へ押し当てると、先ほどよりも深い傷が刻まれた。

 

完全に崩れることもなかった。

 

「成功ね」

 

「はい。でも、これじゃあ実戦では足りません」

 

「その通り。だからこそ、順番に練習するの」

 

お母さんの言葉に、僕は苦笑した。

 

わかっている。

 

わかっているのだが、頭の中ではすでに次の段階を考えてしまっていた。

 

避雷針で間合いを詰め、螺旋丸を叩き込む。

 

あるいは、敵の攻撃を避雷針でかわし、死角から反撃する。

 

想像するだけなら、いくらでも組み合わせられる。

 

しかし、実際にやろうとすると問題が山積みだった。

 

避雷針で移動した直後、姿勢を崩さずにオーラを集められるのか。

 

移動先で敵の動きを見極め、攻撃を選択できるのか。

 

螺旋丸を作ることに集中しすぎて、周囲への警戒がおろそかにならないか。

 

――結局、必要なのは一つずつの完成度だ。

 

僕は螺旋丸を消し、深く息を吐いた。

 

「今日は、動かずに作る練習を繰り返します」

 

「ええ。それがいいわ」

 

お母さんは満足そうに頷いた。

 

焦る必要はない。

 

僕には、まだ時間がある。

 

そう自分に言い聞かせながら、僕は再び右手にオーラを集めた。

 

 

 

 

ビスケ---視点

 

レオンは、以前にも増して難しいことを考えるようになった。

 

螺旋丸を完成させたと思ったら、すぐに実戦での応用を考え始める。

 

円の代わりになる感知技術を研究し、脚力を利用した高速移動にも取り組んでいる。

 

さらに、避雷針の設置型まで並行して研究していた。

 

――欲張りなのよね、本当に。

 

けれど、ただ新しい技を集めたいだけではない。

 

それぞれの技術に、明確な目的がある。

 

螺旋丸は、強力な攻撃手段。

 

念波は、戦闘中の危険察知。

 

瞬身の術は、避雷針だけに頼らない移動手段。

 

そして避雷針は、レオン自身が求め続けてきた、誰かのもとへ素早く駆けつけるための能力。

 

どれも、根っこにある願いは同じなのだ。

 

大切な人を守りたい。

 

だからこそ、私は応援したいと思う。

 

でも――。

 

「レオン、ちょっとこっちへ来なさい」

 

「はい、お母さん」

 

「今週の訓練内容を見直すわよ」

 

彼は不思議そうに首を傾げた。

 

「見直す、ですか?」

 

「ええ。あなた、研究に夢中になると、同じ日にあれもこれも試そうとするでしょう?」

 

「……否定はできません」

 

「でしょうね」

 

私は小さくため息をついた。

 

「新しい技術を考えるのはいいことよ。でも、基礎訓練と休息を削ってまでやることじゃないわ」

 

「はい」

 

「それに、研究だけじゃ実戦では勝てない。技術を使わない状態でも、ちゃんと戦えること。そこも忘れないことね」

 

レオンは真剣な顔で頷いた。

 

彼は自分の弱点を指摘されても、言い訳をしない。

 

その素直さは長所だ。

 

同時に、自分が納得するまで努力を続けてしまう危うさでもある。

 

私は彼の頭を軽く撫でた。

 

「あなたが強くなるのは嬉しいわ。でも、無理をして倒れるのは駄目。これは師匠としてじゃなく、お母さんとしての命令よ」

 

「……わかりました、お母さん」

 

その返事を聞いて、私はようやく笑った。

 

この子には、強くなってほしい。

 

だけど、それ以上に。

 

ちゃんと生きて、帰ってきてほしいのだ。

 

 

 

 

レオン---視点

 

数日後。

 

僕は念波の研究を再開していた。

 

円は優れた技術だ。

 

自分のオーラを広げ、その範囲内にあるものの位置や動きを探ることができる。

 

しかし、円を展開し続けるには集中力が必要になる。

 

相手の攻撃を受け止めながら、円の情報を細かく読み取るのは簡単ではない。

 

そこで考えたのが、念波だった。

 

身体から、ごく微量のオーラを放出する。

 

そして、周囲の変化によって生じる微かな反応を感じ取る。

 

円のように周囲を詳しく把握するのではなく、危険の兆候だけを拾い上げる。

 

いわば、警報装置のようなものだ。

 

……理屈の上では。

 

「さて、どうなるかな」

 

僕は訓練場の中央に立ち、目を閉じた。

 

身体の表面から、薄くオーラを広げる。

 

量は少なく。

 

広げすぎず。

 

感覚を研ぎ澄ませる。

 

最初は、何も感じなかった。

 

風が頬を撫でる。

 

木々の葉が揺れる。

 

遠くで鳥が鳴いている。

 

どれも普段から感じられるものばかりだ。

 

これらと、オーラを通じて感じた変化を区別できなければ意味がない。

 

「……難しいな」

 

僕は一度、オーラを引っ込めた。

 

念波という名前をつけたのはいいが、現状では単に身体からオーラを放出しているだけだ。

 

感知技術として成立しているとは言えない。

 

まずは、何を感じ取るべきなのかを明確にする必要がある。

 

そう考えていると、お母さんが訓練用の小さな木片を手にやってきた。

 

「試すなら、条件を一つずつ変えなさい。最初から何もかも感じ取ろうとするから、わからなくなるのよ」

 

「確かに……。対象を絞るべきですね」

 

「そういうこと」

 

お母さんは僕から少し離れた場所に立った。

 

「私が木片を動かすわ。あなたは、動かした瞬間がわかるか試してみなさい。ただし、目は閉じたままよ」

 

「わかりました」

 

僕は目を閉じ、念波を薄く広げた。

 

しばらくして、木片が動く。

 

……今だ。

 

そう思った瞬間、僕は目を開けた。

 

木片は確かに移動していた。

 

「わかったの?」

 

「いえ……」

 

僕は首を横に振った。

 

「動いた気がしたんですが、音を聞いたのかもしれません。空気の動きもありますし、念波で感じ取れたとは言い切れません」

 

「よくわかっているじゃない」

 

お母さんは木片を元の位置へ戻した。

 

「なら、次は音が出にくい動かし方にしてみましょう。それでもわかるかどうか」

 

僕は再び目を閉じる。

 

同じ実験を、何度も繰り返した。

 

わかったような気がすることはあった。

 

けれど、正答率は安定しない。

 

念波によって感じ取ったのか。

 

それとも、別の感覚から推測しただけなのか。

 

今の僕には、まだ区別できなかった。

 

それでも、少なくとも一つはわかった。

 

ただオーラを放出するだけでは、欲しい情報は得られない。

 

何を感知したいのか。

 

どんな変化を危険と判断するのか。

 

その仕組みを、もっと具体的に考える必要がある。

 

僕は実験結果をノートに書き込んだ。

 

念波は、まだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

レオン---視点

 

瞬身の術の訓練も、思った以上に難航していた。

 

脚の筋肉をオーラで強化し、地面を蹴る瞬間に足裏からオーラを放出する。

 

その反作用も利用して、一気に加速する。

 

理論だけなら単純だ。

 

問題は、加速した後だった。

 

「――っ!」

 

僕は地面を蹴った。

 

身体が前方へ飛び出す。

 

視界が流れ、風が頬を叩いた。

 

速い。

 

以前より、明らかに速い。

 

しかし――。

 

「うわっ!」

 

止まれなかった。

 

僕は地面を蹴って方向を変えようとしたが、勢いを殺しきれず、訓練場の端まで走り抜けてしまった。

 

どうにか転倒は避けたものの、最後は両足を踏ん張り、土煙を上げながら停止した。

 

「……危なかった」

 

「危なかった、じゃないわよ!」

 

お母さんの声が飛んできた。

 

「加速することしか考えていないでしょう!」

 

「はい……」

 

「速く動けても、止まれなければ攻撃を避けた後に隙だらけになるわ。曲がることも、姿勢を立て直すことも、全部必要なの!」

 

「おっしゃる通りです」

 

僕は素直に頭を下げた。

 

瞬身の術は、避雷針とは違う。

 

空間を移動するのではなく、自分自身が高速で走る技術だ。

 

だからこそ、移動の途中にも身体の制御が必要になる。

 

地面の状態。

 

踏み込む角度。

 

筋肉の強化。

 

足裏から放出するオーラの量。

 

そして、減速するための動作。

 

どれか一つでも失敗すれば、思った方向へ進めなくなる。

 

「しばらくは速度を抑えなさい。まずは、決めた地点で正確に止まること」

 

「わかりました」

 

僕は地面に目印を置いた。

 

目標地点まで走り、そこで止まる。

 

まずは普通の速度で。

 

次に、少しだけ脚を強化する。

 

何度も繰り返すうちに、ようやく目印の近くで止まれるようになった。

 

まだまだ遅い。

 

少なくとも、見た目が瞬間移動に見えるような速度には程遠い。

 

それでも、最初の一歩としては悪くない。

 

――急ぐな。

 

自分に言い聞かせる。

 

僕が目指しているのは、ただ速く走ることではない。

 

戦闘の中で、必要な場所へ、必要な速度で移動することだ。

 

それなら、制御できない速さに意味はない。

 

 

 

 

ネテロ---視点

 

「ふむ。次は高速移動か」

 

ビスケから届いた報告書を読み、わしは思わず笑みを浮かべた。

 

螺旋丸。

 

念波。

 

瞬身の術。

 

それに、まだ完成していない設置型の避雷針。

 

十四歳の少年が取り組む量としては、ずいぶん多い。

 

だが、レオンのことだ。

 

ただ闇雲に技を増やしているわけではあるまい。

 

問題は、どこまで実戦で使えるようになるかじゃ。

 

わしは机の上の報告書を置き、立ち上がった。

 

ちょうどいい。

 

少し、試してみるとするか。

 

「おじいちゃん、今日は何をするんですか?」

 

道場に顔を出したレオンが尋ねた。

 

わしは笑って答えた。

 

「お前さんの新しい技を見せてもらおうと思ってな」

 

「新しい技、ですか?」

 

「螺旋丸でも、高速移動でも構わん。好きなものを使ってみなさい」

 

レオンは少し考えたあと、構えを取った。

 

「では、普通に戦わせてください」

 

「ほう。技の披露ではなく、実戦を選ぶか」

 

「技が使えることと、戦いの中で使えることは違うと、お母さんに言われたので」

 

「くくく。ビスケらしいのう」

 

わしは軽く手を振った。

 

「よかろう。来なさい」

 

レオンが動く。

 

脚を強化して、一気に間合いを詰めようとした。

 

しかし、わしが半歩ずれただけで、彼の進路はわずかに逸れた。

 

レオンはすぐに姿勢を立て直し、拳を繰り出す。

 

わしはそれを受け流す。

 

彼は続けて螺旋丸を作ろうとした。

 

――その瞬間。

 

わしは彼の懐へ踏み込んだ。

 

「っ!」

 

レオンは技の形成を中断し、後方へ跳ぶ。

 

判断そのものは悪くない。

 

だが、距離を取ったあと、彼の視線はわしの動きと自分の右手を行き来していた。

 

技を使うべきか。

 

避雷針で移動すべきか。

 

それとも、もう一度攻めるべきか。

 

選択肢が増えたぶん、判断に迷いが生まれている。

 

わしは攻撃を緩めず、レオンに考える時間を与えなかった。

 

数合の打ち合いの末、レオンは床に片膝をついた。

 

「……参りました」

 

「うむ。技は面白い。じゃが、今のお前さんは技を使うことに気を取られすぎておる」

 

「はい」

 

「どの技を使うか迷う前に、相手を見なさい。技が必要な場面なのか、普通の拳で十分なのか。そこを見誤れば、どんな能力も隙になる」

 

レオンは自分の手を見つめた。

 

悔しそうではあったが、落ち込んではいない。

 

「技を使わない選択も、技術の一部……ということですね」

 

「そういうことじゃ」

 

わしは彼の肩を軽く叩いた。

 

「お前さんは、これからもっと強くなるじゃろう。じゃが、能力が増えるたびに判断が複雑になるのなら、強くなったとは言えん」

 

「覚えておきます」

 

「うむ。では、もう一度じゃ」

 

「えっ、休憩は……?」

 

「さっき参ったと言ったじゃろう。休憩は次に参ってからじゃ」

 

「……おじいちゃん、厳しくないですか?」

 

「ほっほっほ!」

 

レオンの困った顔を見て、わしは声を上げて笑った。

 

まだまだ、伸びしろは十分にある。

 

それをどう育てるか。

 

それもまた、わしの楽しみの一つじゃった。

 

 

 

レオン--視点

 

その日の夜。

 

僕はノートを開き、今日の訓練を振り返っていた。

 

螺旋丸は、静止状態なら安定して使えるようになってきた。

 

しかし、移動しながらの形成には課題が残っている。

 

念波は、感知できたと思う瞬間があっても、ほかの感覚との区別がついていない。

 

瞬身の術は、加速することよりも、止まることと曲がることが難しい。

 

そして避雷針。

 

簡易型と通常型は、実戦でも使える。

 

一方、設置型は、まだ不安定なままだった。

 

遠くへ設置した印とのつながりを維持しようとすると、オーラの制御が乱れやすい。距離が伸びるほど、安定して扱うことが難しくなる。

 

それでも、以前よりは形になり始めている。

 

あと少しで完成する――と言える段階ではない。

 

むしろ、完成までに何を解決しなければならないのか、ようやく見え始めたところだった。

 

僕はノートの最後に書き加えた。

 

避雷針に制約と誓約は、まだ施さない。

 

今の僕には、技術そのものの限界がどこにあるのか、まだ正確にわかっていない。

 

ここで安易に制約を設ければ、確かに能力を強化できる可能性はある。

 

けれど、それによって本来なら技術の工夫で解決できる問題まで、制約に頼ってしまうかもしれない。

 

まずは、神字とオーラ制御で、どこまで到達できるのかを確かめたい。

 

その先で、どうしても必要なら――制約と誓約を組み合わせることも考えればいい。

 

僕はペンを置き、窓の外を眺めた。

 

十四歳。

 

螺旋丸は完成した。

 

念波と瞬身の術は、まだ研究の入り口。

 

避雷針の設置型も、完成には程遠い。

 

一つの技が形になれば、次の課題が見えてくる。

 

強くなればなるほど、自分の足りない部分もわかってくる。

 

でも、それは悪いことじゃない。

 

むしろ、まだ先へ進めるということだ。

 

「……明日も頑張ろう」

 

僕はノートを閉じた。

 

焦らず、一歩ずつ。

 

いつか本当に、大切な人を守れる強さを手に入れるために。

 

 

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