4代目に憧れて   作:ryyonn

5 / 50
心源流総本山

 

九歳の春。

 

 俺は母さんに連れられ、山奥にある施設を訪れていた。

 

 周囲は自然に囲まれ、空気が澄んでいる。

 

 都会の喧騒とは無縁の場所だった。

 

「お母さん、ここは?」

 

「心源流の総本山よ」

 

 心源流。

 

 その言葉を聞いて、俺は心の中で頷いた。

 

 やはり、そういうことか。

 

 原作でゴンたちが念を学ぶ際にも、心源流の教えが関わってくる。

 

 ただし、俺はまだ念を教わっていない。

 

 だから、今は余計なことを口にしない。

 

 知らない子供として、母さんについていけばいい。

 

「ここで、お母さんも修行していたの?」

 

「ええ。もっとも、あたしの場合は、ここ以外でも色々と鍛えられたけどね」

 

 母さんは懐かしそうに笑った。

 

「今日は、先生にあなたを紹介するの。きちんと挨拶するのよ?」

 

「うん!」

 

 俺は元気よく返事をした。

 

 施設の奥へ進んでいくと、やがて開けた場所に出た。

 

 そこには、一人の老人が立っていた。

 

 白い髪。

 

 細い身体。

 

 穏やかな笑み。

 

 そして、どこか底知れない雰囲気。

 

 俺は思わず息を呑んだ。

 

 間違いない。

 

 アイザック=ネテロ。

 

 ハンター協会の会長にして、作中でも屈指の実力者。

 

 俺が憧れている四代目火影とは、まったく異なるタイプの強者だ。

 

 だが、彼もまた、俺が目指すべき高みの一つだった。

 

「おお、ビスケ。久しぶりじゃのう」

 

「お久しぶりです、会長」

 

 母さんは丁寧に頭を下げた。

 

「今日は、あたしの息子を紹介しに来ましたの」

 

「ほう?」

 

 ネテロの視線が、俺に向いた。

 

 俺は背筋を伸ばした。

 

「初めまして! レオン・クルーガーです!」

 

「ほっほっほ。これは元気がよい」

 

 ネテロは楽しそうに笑った。

 

「ビスケの息子か。なるほど、確かに面影があるのう」

 

「そうでしょう? あたしの自慢の息子ですもの」

 

 母さんが、誇らしげに答えた。

 

 その言葉が、少しくすぐったかった。

 

 自慢の息子。

 

 そう言ってもらえることが、何より嬉しい。

 

「ほうほう。自慢の息子とな」

 

 ネテロは俺の前にしゃがみ込んだ。

 

「レオン君。おぬし、強くなりたいかね?」

 

 突然の質問だった。

 

 だが、俺は迷わず答えた。

 

「はい!」

 

「なぜじゃ?」

 

 俺は少しだけ考えた。

 

 そして、いつも母さんに話していることを口にした。

 

「大切な人を守りたいからです!」

 

 ネテロは俺をじっと見つめた。

 

 その瞳は穏やかだったが、どこか底知れないものを感じさせた。

 

 やがて、老人は笑った。

 

「……よい答えじゃ」

 

 ネテロはゆっくりと立ち上がった。

 

「じゃが、強さとは一朝一夕で手に入るものではない。長い年月をかけ、積み重ねていくものじゃ」

 

「はい!」

 

「そして、強さを求める者には、時として苦しい道も待っておる」

 

 ネテロは俺の肩に手を置いた。

 

「それでも、おぬしは進むかね?」

 

 俺は拳を握った。

 

 前世で、俺は物語の中の英雄たちに憧れていた。

 

 けれど、今の俺は違う。

 

 この世界で生きている。

 

 守りたい人がいる。

 

 そして、叶えたい夢がある。

 

「進みます!」

 

 俺の答えを聞くと、ネテロは満足そうに頷いた。

 

「よろしい。ならば、まずは今できることを大切にするのじゃな」

 

 ネテロは俺の頭を軽く撫でた。

 

「身体を鍛え、心を鍛え、自分自身を知る。そうした積み重ねが、いつか大きな力になる」

 

「はい!」

 

 その言葉を、俺は胸に刻んだ。

 

 ネテロは俺を見て、どこか面白そうに目を細めた。

 

「ふむ……。この年齢で、なかなかしっかりした子じゃのう」

 

「そうでしょう? あたしの息子ですもの」

 

 母さんが、得意げに胸を張った。

 

「ほっほっほ。ビスケ、おぬしも親バカになったものじゃな」

 

「なっ……! 失礼ね!」

 

 二人のやり取りに、俺は思わず笑ってしまった。

 

 なんだか、いい雰囲気だ。

 

 原作のネテロは、もっととんでもない人物だった気がするが、こうして見ると、母さんにとっては大切な師匠なのだろう。

 

 そして、俺にとっても。

 

 いつか、この人から学べることがあるはずだ。

 

 その日が来るのを、俺は楽しみにしていた。

 

 *

 

 帰り道。

 

 俺は母さんの手を握りながら、今日のことを振り返っていた。

 

 ネテロに会えた。

 

 それだけでも、大きな収穫だった。

 

 ただし、俺はまだ念について何も聞いていない。

 

 母さんも、ネテロも、俺に念の話をしていない。

 

 今の俺は、あくまでも身体を鍛えている九歳の子供だ。

 

 そして、それでいい。

 

 いずれ、母さんが教えてくれる時が来る。

 

 その時には、念の基礎を一から学び、俺自身の力として身につけていこう。

 

 前世の知識だけに頼るつもりはない。

 

 この世界で生きる以上、この世界の理屈を理解しなければならないのだから。

 

「レオン?」

 

「なに、お母さん?」

 

「今日は楽しかった?」

 

「うん! また会いたいな、先生に!」

 

「ふふっ。そうね。あなたがもっと成長したら、また連れてきてあげるわ」

 

「約束だよ!」

 

「ええ、約束」

 

 母さんは俺の手を握り返した。

 

 その温かさを感じながら、俺は空を見上げた。

 

 青く澄んだ空。

 

 どこまでも広がる世界。

 

 この世界には、俺の知らないことがまだまだたくさんある。

 

 だからこそ、学びたい。

 

 強くなりたい。

 

 そして、いつか。

 

 誰よりも速く、大切な人のもとへ駆けつけられる男になりたい。

 

 四代目火影に憧れた男として。

 

 レオン・クルーガーとして。

 

 俺の物語は、まだ始まったばかりだった。

 

――第五話・了

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。