4代目に憧れて   作:ryyonn

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十歳の誕生日

その日の朝、俺はいつもより早く目を覚ました。

 

 理由は単純だ。

 

 今日から、母さんが念の修行を始めてくれる約束になっていたからである。

 

 九歳の頃、初めて心源流の総本山を訪れ、母さんの師匠であるネテロ会長に会った。

 

 あれから一年。

 

 身体を鍛える日々は続いていたが、念については一度も詳しく教わっていない。

 

 もちろん、俺は念の存在を知っている。

 

 前世でハンターハンターを読んでいたのだから、当然だ。

 

 しかし、知識があることと、実際に使えることは別問題である。

 

 念の基本は、知識だけで習得できるほど簡単ではない。

 

 だからこそ、俺は待っていた。

 

 母さんから正式に教わる、その日を。

 

「……よし!」

 

 俺はベッドから飛び起き、身支度を整えた。

 

 そして、階段を駆け下りる。

 

「お母さん!」

 

「あら、レオン。今日はずいぶん早いわね」

 

 台所にいた母さんが、楽しそうに振り返った。

 

「お誕生日おめでとう」

 

「ありがとう!」

 

 母さんは俺を抱きしめ、頬にキスをしてくれた。

 

 いくつになっても、こうして祝ってもらえるのは嬉しい。

 

 ……ただ、今日はそれだけではない。

 

 俺は母さんの服の裾を引っ張った。

 

「お母さん。今日から、念を教えてくれるんだよね?」

 

 母さんは一瞬だけ目を丸くし、それから笑った。

 

「ええ、そうよ。ちゃんと覚えていたのね」

 

「もちろん!」

 

「ふふっ。そんなに楽しみだった?」

 

「うん!」

 

 母さんは俺の頭を撫でた。

 

「なら、朝ご飯を食べたら始めましょう。念は便利な力だけれど、使い方を間違えれば危険なものでもあるの。だから、しっかり学ぶのよ」

 

「はい!」

 

 俺は元気よく返事をした。

 

 胸が高鳴っていた。

 

 ついに、この時が来たのだ。

 

 俺が前世から知っていた知識を、今世の自分の力へと変えるための第一歩。

 

 そして、いつか飛雷神の術を再現するための第一歩でもある。

 

 ただし、浮かれてはいけない。

 

 念の習得は、ここからが本番なのだから。

 

第七話 念という力

 

 朝食を終えた俺は、母さんに連れられて家の裏にある修練場へ向かった。

 

 そこは、普段の体力訓練にも使っている場所だ。

 

 周囲は木々に囲まれ、余計なものは何もない。

 

 修行に集中するには、うってつけの環境だった。

 

「さて、レオン」

 

 母さんは俺の正面に立つと、いつもより少し真剣な表情を浮かべた。

 

「これから教えることは、今までの訓練とは違うわ」

 

「うん」

 

「念は、使い方次第で自分の命を守ることも、誰かの命を奪うこともできる力よ。だから、あたしが教えたことを、面白半分で他人に試したりしないこと」

 

「分かった」

 

「それから、念を覚えたからといって、自分が急に強くなったと思わないこと。念を使えるようになったばかりの人間は、経験を積んだ念能力者に簡単に負けることもあるわ」

 

 母さんは俺の目をじっと見つめた。

 

「いいわね?」

 

「うん。約束するよ、お母さん」

 

 俺の返事を聞いて、母さんは満足そうに頷いた。

 

「よろしい。じゃあ、まずは念とは何か、というところから説明するわね」

 

 母さんは自分の胸に手を当てた。

 

「人間を含め、生き物は誰でも生命エネルギーを持っているの。念というのは、その生命エネルギーを自在に扱う技術よ」

 

 知っている。

 

 ……いや、正確には前世で読んだ知識として知っている。

 

 だが、ここで知っていると言うわけにはいかない。

 

 俺は初めて聞く子供のように、真剣な表情で話を聞いた。

 

「念を学ぶうえで大切なのは、四大行と呼ばれる四つの基本技術よ。纏、絶、練、発。この四つを身につけることが、念能力者への第一歩になるわ」

 

 母さんは一つずつ、丁寧に説明してくれた。

 

 纏。

 

 身体からあふれ出るオーラを、身体の周囲にとどめる技術。

 

 絶。

 

 オーラを外に漏らさないようにする技術。気配を消したり、心身を休めたりする際に役立つ。

 

 練。

 

 オーラを普段よりも多く生み出し、力を高める技術。

 

 発。

 

 自分の念を、実際の能力として発現させるための技術。

 

 説明の仕方は、俺が知っている原作の内容と一致していた。

 

 ただ、実際に目の前で母さんがオーラを扱う様子を見ると、漫画で読んだときとは印象が違う。

 

 彼女の身体から、目には見えない何かが立ち上っているように感じる。

 

 圧倒的な存在感。

 

 これが念なのか。

 

「じゃあ、最初は纏から始めましょう」

 

 母さんが手を差し出した。

 

「レオン。あたしの手を握ってみて」

 

「こう?」

 

 俺は母さんの手を握った。

 

「ええ。今から、あたしのオーラを少しだけ流すわ。怖がらなくていいから、どんな感覚がするのか意識してみて」

 

 次の瞬間。

 

 母さんの手から、温かい何かが伝わってきた。

 

 熱とは違う。

 

 電気でもない。

 

 けれど、確かにそこに何かがある。

 

「……これが、念?」

 

「そうよ。これがオーラ。生き物が持つ生命エネルギーね」

 

 母さんは俺の手を離した。

 

「今度は、自分の身体に意識を向けてみなさい。普段、身体から何かが漏れていくような感覚がないかしら?」

 

 俺は目を閉じた。

 

 身体の内側に意識を向ける。

 

 心臓の鼓動。

 

 呼吸。

 

 血液が流れる感覚。

 

 そして――。

 

 身体の表面から、何かが絶えず流れ出しているような感覚があった。

 

 これか。

 

 俺はゆっくりと目を開けた。

 

「……ある」

 

 母さんの眉が、ぴくりと動いた。

 

「何か、感じられたの?」

 

「うん。身体の外に、何かが流れているような感じがする」

 

「そう……」

 

 母さんは俺の身体を観察するように見つめた。

 

 それから、静かに微笑んだ。

 

「いいわ。じゃあ、その感覚を忘れないようにしなさい。今日は、まず自分のオーラを感じるところから始めましょう」

 

「うん!」

 

 こうして、俺の念の修行が始まった。

 

 *

 

 その日の訓練は、予想以上に難しかった。

 

 自分のオーラを感じることはできても、それを自在に扱うのは別問題だったからだ。

 

 母さんの手本を見ながら、俺は何度も挑戦した。

 

 身体の内側に意識を向ける。

 

 オーラの流れを感じる。

 

 その流れを、身体の周囲にとどめる。

 

 だが、うまくいかない。

 

 少し集中を切らすと、オーラが外へ漏れてしまう。

 

「焦らないの。力を入れすぎると、かえって制御しにくくなるわよ」

 

「うん……」

 

「念は、力任せに扱えばいいというものじゃないの。大切なのは、どれだけ自分のオーラを理解しているかよ」

 

 俺は深呼吸した。

 

 そうだ。

 

 焦る必要はない。

 

 念の知識はあっても、実際に使うのは初めてなのだ。

 

 ここで変に知識に頼るよりも、母さんの教えを素直に吸収するべきだろう。

 

 俺は再び目を閉じた。

 

 そして、身体から流れ出すオーラを意識する。

 

 少しずつ。

 

 少しずつ。

 

 漏れ出す流れを抑え、身体の周囲にとどめる。

 

 やがて、身体の表面を薄い膜のようなものが包み込んだ。

 

「……できた?」

 

 俺が目を開けると、母さんは驚いたように目を見開いていた。

 

「レオン……。今、自分で纏を完成させたの?」

 

「うん。これで合ってる?」

 

 母さんはすぐには答えなかった。

 

 俺の周囲に維持されているオーラを、じっと観察している。

 

 そして。

 

「……ええ。できているわ」

 

 その声には、わずかな驚きが混じっていた。

 

「すごいわね、レオン」

 

「本当?」

 

「ええ。でも、できたからといって安心しないこと。今度は、その状態を長時間維持できるようにするのよ」

 

「分かった!」

 

 俺は再び集中した。

 

 ……よし。

 

 最初の一歩は踏み出せた。

 

 だが、ここからだ。

 

 纏を身につけただけでは、何も始まらない。

 

 俺の目標は、念を使いこなすこと。

 

 そして、空間を跳躍する技術を完成させることだ。

 

 そのためには、もっともっと修行を積まなければならない。

 

 俺はオーラを維持しながら、心の中で決意した。

 

 いつか必ず。

 

 この力を、自分だけの技へと昇華させてみせる。

 

 

 

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