レオンが纏を習得してから、数日が経った。
ビスケット=クルーガーは、息子の修行を見守りながら、あることに気づき始めていた。
――この子、妙に感覚がいい。
最初は、単に飲み込みが早いだけだと思っていた。
しかし、そうではなかった。
レオンはオーラの流れを感じ取るのが上手いだけでなく、いったん覚えた感覚を再現する精度が高かった。
纏の維持。
オーラの量の調整。
身体の特定の部分へ意識を集中させること。
どれも、普通の初心者なら何度も失敗を繰り返すものだ。
ところが、レオンは失敗するたびに自分の感覚を修正し、次の試行へ反映させていく。
まるで、自分の身体を使って実験しているかのように。
「……ねえ、レオン」
「なに、お母さん?」
「あなた、今、自分のオーラがどんなふうに流れているか分かる?」
「うん。なんとなくなら」
「なんとなく、ねぇ……」
ビスケは腕を組んだ。
まだ十歳。
身体も小さく、念能力者としての経験もない。
それなのに、オーラを扱う感覚は驚くほど鋭い。
この先、どこまで伸びるのだろう。
そんな期待が、胸の中に膨らんでいく。
もちろん、才能があるからといって、何もかもが簡単にできるわけではない。
念の世界では、経験も知識も、戦闘の駆け引きも重要になる。
それでも。
この子には、何かがある。
ビスケはそう感じていた。
「よし。今日は少し違う練習をしましょう」
「違う練習?」
「ええ。今度は、纏を維持したまま歩いてみなさい」
「歩くだけ?」
「そう。最初はゆっくりでいいわ。身体を動かしても、オーラが乱れないようにするの」
「分かった!」
レオンは立ち上がり、ゆっくりと歩き始めた。
一歩。
二歩。
三歩。
そのたびに、身体の周囲に維持しているオーラの状態を確認する。
最初は少し乱れた。
しかし、すぐに修正する。
十歩。
二十歩。
三十歩。
オーラは、ほとんど乱れなくなっていた。
ビスケは思わず目を細めた。
――やっぱり、この子はすごい。
自分の息子が才能を持っている。
それは、母親として嬉しいことだった。
けれど、ビスケは同時に、気を引き締めてもいた。
才能があるからこそ、正しい方向へ導かなければならない。
この世界には、強い者が大勢いる。
そして、強さを手に入れるために、平気で他人を踏みにじる者もいる。
レオンには、そうなってほしくない。
優しさを失わずに、強くなってほしい。
大切なものを守るために、その力を使ってほしい。
「レオン」
「はい、お母さん!」
「よくできました」
ビスケは息子を抱きしめた。
「あなたは、本当に頑張り屋さんね」
「えへへ……」
レオンは照れくさそうに笑った。
その顔を見て、ビスケも笑顔になった。
この子は、あたしの大切な息子だ。
何があっても、守ってみせる。
そして、いつかこの子が自分の足で世界へ羽ばたいていく日が来たら。
そのときは、誰よりも誇らしい気持ちで送り出してあげよう。
ビスケは、そんな未来を思い描いていた。
*
一方、俺はというと。
母さんに抱きしめられながら、別のことを考えていた。
念の操作が、思っていた以上に面白い。
自分のオーラを感じ取り、調整し、狙ったとおりに動かす。
この感覚は、前世で読んだ漫画の知識だけでは分からなかったものだ。
実際にやってみることで、初めて理解できることがある。
俺は、これからもっと多くのことを学んでいくだろう。
纏。
絶。
練。
そして、発。
その先には、自分だけの念能力が待っている。
俺はまだ、自分の念の系統を知らない。
けれど、どんな系統であろうと、工夫次第でできることはあるはずだ。
……まあ、できれば放出系がいいのだが。
何せ、俺が再現したい技は、空間を跳躍する技術なのだから。
とはいえ、今からそれを母さんに話すわけにはいかない。
まずは基礎を身につける。
そのうえで、自分の適性を確かめる。
そして、適性が分かったら、その系統を最大限に活かす技術を考える。
焦らず、一つずつ。
俺は母さんの腕の中で、静かに決意した。
――四代目への道は、まだ始まったばかりだ。
――第八話・了