4代目に憧れて   作:ryyonn

8 / 50
自分の念を知る

 

 

 纏を覚えてから、数日が過ぎた。

 

 俺――レオン・クルーガーは、今日も朝早くから森の中を走っていた。

 

「レオン! 足が止まってるわよ!」

 

「止まってないよ、お母さん!」

 

「口答えする余裕があるなら、もう少し速く走れるわね?」

 

「……はい!」

 

 俺は慌てて速度を上げた。

 

 くそっ、相変わらず容赦がない。

 

 とはいえ、これも大切な修行だ。纏を維持したまま走り、呼吸を乱さず、周囲の気配にも注意を払う。単純に見えて、実際にやってみると難しい。

 

 知識があることと、実際にできることは違う。

 

 それを俺は、身をもって理解し始めていた。

 

「はい、そこまで!」

 

 ビスケの声が響く。

 

 俺は足を止め、膝に手をついた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「前よりはずいぶんよくなったわね。纏を維持することにも慣れてきたみたいだし」

 

「お母さんの特訓のおかげだよ」

 

「あら、素直でよろしい!」

 

 ビスケは満足そうに笑うと、俺の頭をぽんぽんと撫でた。

 

 その手が優しくて、思わず頬が緩む。

 

 俺にとって、ビスケは世界で一番大切な人だ。

 

 強くなりたい理由も、念を極めたい理由も、突き詰めればそこに行き着く。

 

 守りたいものがある。

 

 だからこそ、俺は強くなる。

 

     ◇

 

 その日の修行では、絶を教わった。

 

「絶は、体から漏れ出すオーラを断つ技術よ。気配を抑えられるし、心身を休ませる効果もあるわ。ただし、体を覆うオーラがなくなるから、防御力は大幅に落ちる。戦闘中に使うなら注意が必要ね」

 

 ビスケは実際に絶を使ってみせた。

 

 彼女の存在感が、すっと薄くなる。

 

 姿は見えている。それなのに、意識を向けていなければ、うっかり見失ってしまいそうになる。

 

「じゃあ、やってみなさい」

 

 俺は目を閉じた。

 

 自分の中にあるオーラを意識する。

 

 纏で体の周囲に留めていたオーラの流れを、少しずつ静めていく。

 

 やがて、体から漏れ出すオーラが消えた。

 

「……できた」

 

「えっ?」

 

 ビスケが目を丸くした。

 

 俺は目を開ける。

 

「どう?」

 

「どうって……あんた、今、本当に初めてやったの?」

 

「うん」

 

 ビスケは俺の周りを回り、何度かオーラの状態を確かめた。

 

「……ちゃんと絶になってるわね」

 

「よかった」

 

「よかった、じゃないわよ! 普通はもう少し苦労するものなの!」

 

 そう言われても困る。

 

 俺はただ、オーラの流れを感じ取って、それを止めることに集中しただけだ。

 

 とはいえ、ビスケの反応を見る限り、俺の習得速度は普通ではないらしい。

 

「でも、できたことと使いこなせることは別よ。絶を維持したまま歩く、走る、周囲を観察する。そこまでできて初めて実戦で役立つの」

 

「わかった、師匠」

 

「あら。もう師匠って呼ぶの?」

 

「修行中だからね」

 

「ふふっ。そういうところは素直なのよね、あんた」

 

 ビスケは楽しそうに笑った。

 

 その後、俺は絶を維持したまま森の中を歩き、走り、周囲の音や気配を探る訓練を繰り返した。

 

 気配を消すだけでは不十分だ。

 

 危険を察知し、必要ならすぐに動けなければ意味がない。

 

 俺が目指すものを考えても、この訓練は決して無駄にならない。

 

     ◇

 

 翌日。

 

「今日は練を教えるわよ」

 

 ビスケはそう言うと、軽く息を吐いた。

 

 直後、彼女の体から放たれるオーラが膨れ上がる。

 

 空気が変わった。

 

 目に見えない圧力が、周囲を満たしていく。

 

 俺は思わず息をのんだ。

 

 これが、練。

 

 纏のときとは比較にならないほど、濃密なオーラが彼女を包み込んでいる。

 

「練は、体から発するオーラを増大させる技術よ。攻撃にも防御にも関わる、重要な基礎ね。でも、ただ大量に出せばいいわけじゃない。制御できなければ無駄になるわ」

 

 ビスケは練を解いた。

 

「さあ、レオン。やってみなさい」

 

 俺は目を閉じ、体の内側に意識を向ける。

 

 オーラを感じる。

 

 流れを捉える。

 

 そして、それを増やす。

 

 体の奥底から、熱のようなものが湧き上がってくる。

 

 俺はそれを無理に押し出すのではなく、少しずつ広げるように意識した。

 

 すると、オーラが体の外へと勢いよく溢れ出す。

 

「……っ!」

 

 ビスケが息をのんだ。

 

 俺はすぐにオーラを抑え、纏の状態へ戻した。

 

「できたよ、師匠」

 

「……レオン。もう一度やってみなさい」

 

 ビスケの声は真剣だった。

 

 俺は言われたとおり、再び練を行う。

 

 今度もオーラは安定して膨れ上がった。

 

「まいったわね……」

 

「失敗した?」

 

「逆よ。うまくいきすぎてるの!」

 

 ビスケは腕を組んで、俺の顔をじっと見つめた。

 

「念の修行で大切なのは才能だけじゃないわ。経験も、理解も、積み重ねも必要なの。それなのに、あんたは感覚をつかむのが早すぎる」

 

「お母さんに教えてもらうのが上手だからだよ」

 

「……もう、この子ったら」

 

 ビスケは一瞬だけ呆れた顔をした。

 

 けれど、その頬は少し緩んでいた。

 

「そうね。あたしが教えるのが上手なのは間違いないわね!」

 

 胸を張るビスケを見て、俺は笑った。

 

 ――ありがとう、お母さん。

 

 心の中で、そっと感謝した。

 

     ◇

 

 それからしばらく、俺は纏、絶、練の反復練習を続けた。

 

 歩きながら纏を維持する。

 

 絶の状態で周囲を観察する。

 

 練でオーラを増やし、必要な分だけ正確に抑える。

 

 基礎の完成度を高めることに、俺は全力を注いだ。

 

 そして、ある日のこと。

 

「レオン。そろそろ、あんたの念の系統を調べましょうか」

 

 ビスケがそう切り出した。

 

 ついに来た。

 

 俺は胸の高鳴りを抑えながら、平静を装って答えた。

 

「系統って、念には種類があるの?」

 

「あるわ。大きく分けて六つ。強化系、変化系、具現化系、放出系、操作系、そして特質系よ」

 

 ビスケはそれぞれの特徴を説明してくれた。

 

 強化系は、物や肉体などの持つ性質を強める。

 

 変化系は、オーラの性質を変える。

 

 具現化系は、オーラを物質化する。

 

 放出系は、オーラを体から離しても維持することに長ける。

 

 操作系は、物や生物などを操る。

 

 そして特質系は、それらの枠に収まらない特殊な能力を発現する系統。

 

 説明を聞きながら、俺は心の中で祈った。

 

 どうか、放出系であってくれ。

 

 俺が目指しているのは、四代目火影のような戦い方だ。

 

 マーキングした場所へ瞬時に移動する。

 

 手元から離れた武器を呼び戻す。

 

 戦場を縦横無尽に駆け、敵の攻撃を紙一重でかわし、一瞬の隙を突く。

 

 念の仕組みを応用し、それを実現する。

 

 そのためには、放出系が最も相性がいいはずだった。

 

「じゃあ、水見式をやりましょう」

 

 ビスケは水を入れたコップを用意し、その上に一枚の葉を浮かべた。

 

「コップに手をかざして練を行うの。水や葉に起きる変化で、自分の系統がわかるわ」

 

 俺はコップの前に座った。

 

 手をかざす。

 

 練を行う。

 

 水面が静かに揺れた。

 

 俺は息を整え、オーラをコップへ向けて集中させる。

 

 しばらくすると――。

 

 水の色が、ゆっくりと変わり始めた。

 

 透明だった水が、少しずつ色づいていく。

 

 水面に映る光景を見て、俺は思わず息を止めた。

 

 成功だ。

 

 放出系の反応。

 

 俺が望んでいた結果だった。

 

「……放出系ね」

 

 ビスケは水の色を確かめてから、満足そうにうなずいた。

 

「おめでとう、レオン。あんたは放出系よ」

 

 その瞬間、胸の奥で何かが弾けた。

 

 よし。

 

 心の中で、俺は拳を握った。

 

 ――これで、目指す道が見えてきた。

 

「ありがとう、お母さん!」

 

 俺は笑顔で答えた。

 

 嬉しい。

 

 その気持ちに嘘はない。

 

 ただし、俺が本当に喜んでいる理由を、ビスケは知らない。

 

 俺はまだ、何も語っていない。

 

 前世のことも。

 

 四代目火影への憧れも。

 

 そして、いつか作り上げようとしている能力のことも。

 

 それらは、俺だけの秘密だ。

 

「これからは、系統に合った修行も始めるわ。でも、放出系だからといって、ほかの技術をおろそかにしてはいけないわよ」

 

「うん。基礎もちゃんと続ける」

 

「よろしい!」

 

 ビスケは満足げにうなずいた。

 

 俺はもう一度、水の入ったコップを見た。

 

 放出系。

 

 俺が望んだ系統。

 

 ここから先は、ただ念を覚えるだけではない。

 

 自分の理想を、現実の能力へと変えていく段階だ。

 

 焦らず、少しずつ。

 

 マーキングの仕組みも、移動の条件も、能力の制約も、すべて自分で考えていく。

 

 いつか必ず、俺だけの飛雷神を完成させる。

 

 そして、その力で大切な人たちを守る。

 

 俺はそっと拳を握りしめた。

 

 ――四代目への道は、確かに一歩ずつ進んでいた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。