「大切な人が——例えば
「おかしいでしょ、なんで準さんなの」
「彼女さんじゃ究極の選択みたいになるじゃないですか」
あたしは澄まし顔で返した。だからといって準先輩を持ち出す必然性は、無論、ない。
「台本の参考にするんだったら一般論でいいじゃん」
「具体的になった方が考えやすいかと思って」
演劇サークルの一員として、あたしは台本を書く。あたししか書かないわけではなく、オリジナル台本しか使わないわけでもないが。
タイムリープ物をやってみたいという話が女子チームの中で出て、けれどもなかなか方向性が決まらないので、男子チームのメンバーにも参考に話を聞きたいのだと頼んだところ、隼先輩は二つ返事で受けてくれた。本当にまだ何もできていない、主人公の立ち位置ぐらい決めないと始まらないのだと進捗を説明した上で、冒頭の質問に至る。
「準さんを名指しするより、『取り返しのつかないこと』をもうちょっと具体的にしてほしいんだけど」
「じゃあ、他人を巻き込むような事件」
そんなに具体的じゃない、と文句のような指摘のような呟きが挟まる。
「時間戻すことのリスクは? 代償とかある設定?」
「それはいいです。戻し放題で」
「何か天秤にかかってなくていいの?」
「代償なんて設定しても、作者の恣意すぎると思って」
やっと納得した様子で、そうだなあと先輩は腕を組んで上を向いた。
「準さんなら、それが起こる前まで戻すかなあ。多分事故か何かだと思うんだよね、準さんなら。故意じゃなくて」
その意見には賛成だ。準先輩が他人に対して、殺そうとか、傷を負わせようとか、心を病ませようとか、陥れようとか考えるとはとても思えない。
「故意だったら、やり直したって同じことやるでしょ。その場合はその——動機だ、動機が発生するより前まで戻さないと意味ないだろうけど」
準先輩ならそこまでは必要ないだろうから、事件そのものだけ防げば十分だ、というのが結論だった。
「『大切な人』を具体的に設定した意味あるんですねえ」
「意味ないと思ってたんなら設定しなくていいじゃんっ」
目を