「大切な人が——例えば隼先輩が、何か取り返しのつかないことをしたとして。自分が時間を戻す手段を持っていたとしたら。その前まで時間を戻しますか? それとも、そんなことをしてしまう動機になった何かが起こる前まで戻しますか?」
「隼くんなんだ」
「隼先輩も同じこと言ってました」
人選がおかしいと抗議した隼先輩と違って、準先輩はおかしがって
準先輩は演劇サークルの一年上の先輩だ。隼先輩も同じくで、つまり準先輩とは同期ということになる。隼と準——漢字も似ていれば読みも似ている名前をしていて、そのせいもあってかサークルのメンバーからはコンビ扱いされているのだ。
「恨みがあって復讐したとか、お金がなくて盗んだとかいうことね。……ううん、それが何だったかによるなあ、やっぱり。何があったんだとしたらそこまで戻すかな」
「あ、そう訊くべきだったのか」
演劇サークルの一員として、あたしは台本を書く。あたししか書かないわけではなく、オリジナル台本しか使わないわけでもないが。
タイムリープ物をやってみたいという話が女子チームの中で出て、けれどもなかなか方向性が決まらないので、男子チームのメンバーにも参考に話を聞きたいのだと頼んだところ、準先輩はいいよいいよと頷いてくれた。本当にまだ何もできていない、主人公の立ち位置ぐらい決めないと始まらないのだと進捗を説明した上で、冒頭の質問に至る。
「お父さんが騙されて多額の借金を負ったから、とかだったら借金を負う前まで戻すと思うけど、彼女を取られて復讐したとかだったら——って全然隼ちゃんっぽくないけど、例えばね。彼女を取られる前までは戻さないかな。被害者がいるんだから、事件の前までは戻すかもしれないけど」
その人を僕が見捨てたことになるのも嫌じゃない、と苦笑する。
それからまた、考え込んだ。軽く握った手を口元に当てて、小首を傾げて。そういう仕草が子供っぽい、というより可愛いのだけれど、年下のあたしがそう言ったら気にするかもしれないので黙しておく。
「ずっといじめられてて復讐した、とかだったら……いじめてきた相手と知り合う前まで戻さないと解決しないかなあ……。正直ね、大学受験もう経験したくないんだよ」
言葉通り正直な吐露に、あたしもヤです、と笑って同調する。
「受験だけの問題じゃないけどね。うまくいってたこと全部諦めて、自分の人生もそこからやり直さなきゃいけないわけだから」
だからそんなに昔までは戻さないと思う、と先輩は仮定の中の自分を推し
「じゃあ、その場合は事件だけ止めます?」
「……止めないって言ったら引く?」
仕返しはさせてあげたい気がする、と。即ち、果たせたはずの復讐を白紙にしたくないと。声をひそめる様子は、校則違反を白状するときか何かのようだった。