「大切な人が——例えば朔先輩が、何か取り返しのつかないことをしたとして。自分が時間を戻す手段を持っていたとしたら。それでも、朔先輩が起こした事件を防ぐためには、ずっと昔にまで——のぞみ先輩が朔先輩と出会うよりも前まで、戻さないといけないとしたら。時間を、戻しますか?」
「そもそも、時間を戻せば避けられるとは限らないよね」
組んだ手の甲に
「違うルートで同じ結果になったり、逆に悪化するのがセオリーですね」
「時間を戻した結果、出会えなくなるだけなら諦めがつくとしよう。悪化している可能性もあるよね。出会わなかった自分には知る由もない、知りたいとすら思わないところで、元よりも不幸になっていたら——自分が余計なことをしたばっかりに」
結構本気で切なそうな顔になるから目を
「結果を追えないのはきついね。だから、時間を戻したことを自分が認識していられるなら、っていう条件つきだな。把握できていればやりようもあるから」
ここまで来て、ニタァと芝居がかった笑みを浮かべる。
「というのはいい子の答え」
目もキラキラしてきたし声も生き生きしてきた。ああ、ここからが本番だ。
「悪い子の答えは?」
「そもそも奥高がしくじるとは思えないもの。奥高が何かやったとすら、我々は気づかないんじゃないかな」
「完全犯罪になるはずってことですか?」
「ま、そこは前提だから、不測の事態が起こって奥高がやったとバレたとしよう。そしたら僕は事件の前まで戻って仲間にしてもらうね。鬼に金棒、虎に翼——奥高に僕が加われば、次こそ成功させられると思わないかい?」
……同意しかない。二人とも頭のいい人で、度胸もあって、アドリブにも強いのだ。二人が一緒になって悪いことを企んだら、防がれることも暴かれることもまずない気がする——というのは
と、それはともかく。
「朔先輩の動機が、もし——高校時代に彼女さんを殺されたからとか、そういうことだったらどうです? 彼女さんが殺される前まで……」
「そこまでは戻さないよ。僕が奥高と出会えなくなるかもしれないっていう想定でしょ」
若干引いた表情になったのかもしれない。ふふっ、と素に戻ったような笑い声がした。
「だってねえ、脚本家にそういうこと訊くんだもの。主人公側の行動原理と悪役側の行動原理を同時に考えないわけにはいかないじゃないか」
演劇サークルの先輩にして、脚本担当という意味でも先輩であるのぞみ先輩は、どちらが本心に近いのかも、そもそもどちらかが本心に近いのかも、そうやってはぐらかしてしまった。