「大切な人が——例えばのぞみ先輩が、何か取り返しのつかないことをしたとして。自分が時間を戻す手段を持っていたとしたら。その前まで、時間を戻しますか? 時間を戻したからといって、好転するとは限らない、逆に悪化する可能性もあるとわかっていて」
「そこは間野なんだね?」
「そこ、みんなつっこむんですよね」
あ、でも、のぞみ先輩はスルーだったな。
「間野なら想像しやすそうだからいいけどね。つまり、うまくいくまで何度でもやり直す覚悟があるかっていう話になってくるのかな」
両手を合わせて、朔先輩は思案するようだった。
次の台本の参考にしたいからと言って、演劇サークルの先輩何人かに同じような質問をしている。結構みんなちゃんと考えてくれるものだ。
「ああ、時間を戻したことは覚えてていいのかな?」
「のぞみ先輩もその話してました」
「……先を越されたみたいな気分だなあ」
楽しそうに見えるけれども、意味から考えて苦笑なのだろう、多分。
「記憶を持った上でなら、戻してやり直すかな。いつ何をしたかにもよるけど、事によったらそもそも僕が未然に防がないといけなかったかもしれないし」
同期の二人はサークル絡みで一緒にいることも多かった。のぞみ先輩が何か企んだとして、確かに事前に気づけてもおかしくない。
「それで最初より悪化したら、またやり直します?」
「その前に、悪化しないように頑張りたいけどね」
……前提というか問いの立て方を否定されたような。……のぞみ先輩と出会う前まで、つまり自分が直接手を出せないときまで、戻さなければ防げないとしたら、って訊くべきだったかな。
実際、時間を戻す前の記憶があって、つまり後手に回らずに済むなら、朔先輩なら防げそうな気もする。知恵比べという意味では互角だろうけど、朔先輩に諭されたらのぞみ先輩は思い
「もう一つ、気になることがあるんだけど。時間は本当に戻せてる設定でいいの?」
「実は夢や幻覚やVRっていうオチじゃないですよ」
「そうじゃなくて。本当にやり直せたのか、実は歴史が分裂したのかは、時間を戻した本人でもわからないんじゃないかなっていうこと。戻ったその時点から、事件が起こった元の世界とは違う世界が始まったのかもしれないでしょ」
あたしは瞬きをした。
「……パラレルワールド、っていうことですよね」
考えなかった。それぐらい思いついてもよさそうなのに。
「そうはならないっていう確証がない限りは、時間を戻したりはしないかな。それよりも確実に今ここにいる間野をフォローしてやらないと」
「……なんか身内みたいなこと言ってません?」
からかうような声をどうにか出した、ものの。