「大切な人が——例えば天馬先輩が、何か取り返しのつかないことをしたとして。自分が時間を戻す手段を持っていたとしたら。どうしますか?」
「なんで荒川なんだよそこで」
「彼女さん持ち出すのはエグいかと思って」
大体みんな同じ反応するな。
「ま、確かに、彼女とサークル仲間じゃ話は変わってくるな。他に考慮に入れるべき条件はあるかね」
一方の手で
次の台本の参考にしたいからと言って、演劇サークルの先輩何人かに同じような質問をしている。結構みんなちゃんと考えてくれるものだ。
「……時間を戻すとは、言いましたけど。世界全体が戻ったのか、実は自分一人だけがタイムスリップしたのかは、本人には区別できないだろうなって」
昔に戻った、その戻った昔を岐点として、歴史が、世界が、分かれるのだとしたら。そのまま時を経て事件が起こる世界と、その記憶を持った自分が事件を防ぐ世界に。
自分一人が幸せな世界に逃げられるだけだったとしたら?
「となると『取り返しのつかないこと』の中身が重要になるんだけども、まだそこまで設定はできてないんだな、台本の」
「深刻なことにはしますよ。悩むに値するだけの出来事には」
そんな賭けをするぐらいなら諦める、という結論をあっさり出してしまえるようでは物語にならない。諦めろよ、と観客が思うようでもいけない。
なるほど、と相槌のように言って、先輩は足を組み替えた。
「その『時間を戻す手段』ってのを荒川にやらせるな。そもそも多分本人が一番、やり直せるもんならやり直したいだろ」
「自分ではやらない、んですか?」
「世界ごと戻ったのか自分だけ戻ったのかわからんってのが気持ち悪いんだよ」
それは
「荒川がやる分には、結果一人でタイムスリップしても、そっちだったかって俺にはわかるからな。その場合は今生の別れってことになるけども、……だからまあ、最後の語らいの時間ぐらいは取るだろうな」
今生の別れ。最後の語らい。舞台としても見せ場になりそうだ。
そのシーン台本に入れていいですか、と訊こうとしたときだ。
「語らうか?
不意に名を呼ばれて肩が跳ねた。
見透かしたようなまなざしと微笑みを、先輩はあたしに向けていた。
「……そんな鎌のかけ方あります?」
優しげだった唇の両端が、それはそれは得意げに吊り上がった。