「荒川先輩はどうですか? もし、時間を戻す手段を持っていたら」
「どうって言われても」
意図が呑み込めないというように、先輩は反復した。
サークルを卒業した先輩たちが劇団を作って演劇を続けていることは、発起人である槍崎先輩という人を知っていれば驚くことではなかった。飽くまで趣味だ、アマチュアだ、学生演劇の延長だという姿勢は崩さないけれど、公演を撮影した動画をネットに上げたのがじわじわ伸びて広まって、今やちょっとした人気者になっている——のは、
荒川先輩も何年かはその劇団に所属していて、だが、急に辞めてしまったのだ。サークル時代も男子チームと女子チームは分かれて活動していたし、まして劇団の方とはあたしは何の関係もないから、内部事情はわからない。
「……プライベートを写真に撮られて拡散される前や、彼女さんが攻撃される前に戻れたら……何も起こってない頃に戻れたら、今度は辞めないのかなって」
「僕が戻っても仕方ないと思うよ。それをやった人たちを変えられるわけじゃないもの」
「じゃあ、ネットに顔を出す前まで戻れたら?」
「そうだね、そこまで戻れたら……動画を出す前に舞台に立つのをやめて、裏方に徹したかもしれない。でも、僕らは——劇団は、いろんな幸運に恵まれて人気になったからね」
やり直したら同じことにはならないだろう、と言われれば反論はできなかった。他人の評価という後ろ盾がなければ、今のように続けられていたかもわからないのだし。
そもそもそれ以前に、先輩に響いている気配がない。辞めないでほしかったというのは外野の未練で、当人にとってはすっかり終わった話なのだろう。
自分が迷惑なファンと変わらない気がして、あたしは幾分投げやりに苦笑した。
「劇団が続けられて、先輩も辞めなくて済むルートってないものですかね」
「探そうとしないでよ。——やり直した結果が今かもしれないのに」
その返しに目を
「悲惨なことがあって、時間を戻して——その出来事を回避して、やり直した結果が今かもしれないでしょう。欲を出して余計なことをして、元の木阿弥になったら後悔してもしきれないよ」
別に不自然なことではなかった。もしもの話にもしもの話で応じられただけだ。意外性があるというほどの発想でもない。
本気で釘を刺されたかのように、一瞬、感じたけれど。
まさか……ね。
「時間を戻した自覚がなければ後悔もできませんけどね」
「それが怖いところだね。——もう一つ怖いのは、他にも同じ手段を持っている人がいるかもしれないこと。その人が自分の事情のために時間を戻してしまったら、全世界が巻き添えになるもの」
「やっぱり本当に言ってます?」
口の中で呟いたのが聞こえなかったためか、それとも聞こえたためか、先輩は眉を上げた。あたしは降参の溜め息を
「全世界を巻き添えにする理由としては弱いですね。正当化できないや」
今度はちゃんと聞こえる声で、告げる。こうまではっきり否定されたら仕方ない。
時間を戻す——非現実的な奇跡の引き金を、思いがけず手に入れたと先輩に打ち明けることも、引くことも——やめよう。好意を履き違えた身勝手なファンとは違うのだ、という
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