エア・ギア ~カズに転生した俺は、最速の炎を目指す~   作:とらやす

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はじめまして!

『エア・ギア』の二次創作がもっと読みたくて探していたのですが、なかなか見つからず……それなら自分で書こう!と思い立ちました。

今回はカズが主人公。原作の熱さやキャラの魅力を大切にしながら、「こんなカズも見てみたい!」と思える物語を目指します。

同じ『エア・ギア』好きの方に楽しんでもらえたら嬉しいです!


第1章 最速を目指すその前に
第1話 どうやら俺は美鞍葛馬らしい


人生、何が起こるかわからない。

 そんな言葉は、これまで何度も耳にしてきた。

 実際、二十五年間生きていれば、それなりに予想外の出来事も経験する。

 大学に入ったこと。

 就職したこと。

 仕事で盛大に失敗して、上司にしこたま怒られたこと。

 それなりに楽しいこともあれば、できれば忘れてしまいたいことだってある。

 だから、人生何が起こるかわからないという言葉には、多少なりとも実感があった。

 ……あった、はずなのだが。

「…………」

 目の前の鏡を、じっと見つめる。

 そこには、一人の少年が映っていた。

 金色の髪。

 細身の体格。

 どこか中性的な顔立ち。

 まだ幼さの残るその顔が、俺と同じように眉をひそめている。

「……いやいや」

 右手を上げる。

 鏡の中の少年も右手を上げた。

 左手を上げる。

 当然、同じ動きをする。

 頬を引っ張ってみた。

「いっ……!」

 痛い。

 普通に痛い。

 念のため、もう一度引っ張った。

「いってぇ……」

 二度目は必要なかった気がする。

 どうやら夢ではないらしい。

 少なくとも、夢の中で痛みを感じることはあっても、ここまで鮮明に再現されるとは思いたくない。

「……マジかよ」

 口から漏れた声は、昨日までの俺のものではなかった。

 少し高く、まだ変声期の名残が感じられる少年の声。

 そして何より問題なのは。

 俺が、この顔を知っているということだった。

「……美鞍、葛馬」

 名前を口にする。

 美鞍葛馬。

 通称、カズ。

 漫画『エア・ギア』に登場する少年。

 主人公である南樹の幼なじみであり、後にA・Tチーム『小烏丸』の一員となる男。

 作中では、影が薄いだの、地味だの、散々な扱いを受けることもある。

 だが、その実力は物語が進むにつれて飛躍的に高まっていく。

 炎の道。

 時の支配者。

 そして、最後には——。

「…………」

 そこまで考えたところで、背筋がぞくりと震えた。

 いや。

 待て待て待て。

 何で俺、カズになってんの?

 そもそも昨日まで何してたっけ?

 確か仕事から帰って、飯を食って。

 そのあと漫画を読んでいたような気もする。

 ……駄目だ。

 記憶が曖昧だ。

 ただ、前世の人生そのものははっきり覚えている。

 自分が二十五歳の社会人だったこと。

 家族や友人のこと。

 通っていた大学。

 勤めていた会社。

 好きだった漫画やゲーム。

 どれも確かに俺の記憶だ。

 しかし、それとは別に。

 もう一つの人生が、頭の中に存在していた。

 中学校での生活。

 家族との思い出。

 友達と喧嘩したこと。

 幼い頃から南樹という少年と遊んできたこと。

 オニギリとくだらない悪ふざけをして、三人まとめて怒られたこと。

 そのすべてが、自分自身の経験として思い出せる。

「……どうなってんだ、これ」

 まるで二人分の人生が、一つの頭に詰め込まれているようだった。

 しかも、厄介なことに。

 どちらの記憶にも、不思議と違和感がない。

 昨日まで社会人だった俺も。

 今日まで中学生として生きてきたカズも。

 どちらも俺自身なのだと、妙に納得できてしまう。

「……転生、ってやつか?」

 誰に聞くでもなく呟いた。

 返事はない。

 当然である。

 そもそも、こんな状況を説明できる人間がいるなら、ぜひ紹介してほしい。

 いや、やっぱりやめてほしい。

 変な研究施設に連れていかれる未来しか見えない。

 とりあえず、俺はもう一度鏡を見た。

 金髪の少年。

 美鞍葛馬。

 ……うん。

 何度見てもカズだ。

 そこで、ようやく一つの考えが浮かんできた。

「……これ、もしかして結構すごいことになってる?」

 いや、すごいどころではない。

 俺は漫画の世界にいる。

 しかも、よりによって『エア・ギア』だ。

 エア・トレック。

 通称、A・T。

 小型モーターを搭載した特殊なインラインスケートを駆使して、街中を縦横無尽に駆け回るストームライダーたち。

 壁を走り。

 ビルを飛び越え。

 果てには風や炎を操るような領域にまで到達する。

 現実世界ではまずあり得ない、超人的な走りの数々。

 その世界に、俺はいる。

 ……正直に言おう。

「……めちゃくちゃ楽しそうじゃねえか」

 思わず笑ってしまった。

 もちろん、不安はある。

 前世の家族はどうなったのか。

 元の世界へ戻れるのか。

 そもそも、なぜ俺が転生したのか。

 何一つわからない。

 だが、今ここで考えても答えは出ない。

 それよりも。

 俺は、カズになっている。

 あの、最後には恐ろしいほどの実力を身につける美鞍葛馬に。

 ……だったら。

「……ちょっと待てよ」

 机に置かれた携帯電話を手に取る。

 日付を見る。

 続いて、学校のプリント。

 部屋のカレンダー。

 そして、美鞍葛馬としての記憶をたどる。

 南樹——イッキは、まだ本格的にA・Tを始めていない。

 小烏丸も結成されていない。

 ということは。

「……原作開始前?」

 慌てて時期を確認する。

 記憶と日付を突き合わせていく。

 正確な開始日まではわからないが、おそらく半年ほど前。

 まだイッキがA・Tの世界へ踏み込む前。

「半年……」

 呟いてみる。

 半年間。

 原作の物語が本格的に始まるまでに、約半年もある。

 それだけの時間があれば、何ができる?

 身体を鍛える。

 A・Tを入手する。

 練習する。

 技術を磨く。

 将来の強敵について調べる。

 原作のカズが身につける能力を、できる限り先取りする。

「……いや、これ」

 思わず顔がにやける。

「相当なアドバンテージじゃね?」

 原作のカズは、仲間たちと一緒にA・Tの世界へ飛び込んだ。

 その過程で数々の壁にぶつかり、何度も挫折している。

 だが、俺はその未来を知っている。

 どんな道を進むべきなのか。

 どんな技術を磨くべきなのか。

 誰を目標にするべきなのか。

 少なくとも、大まかな方向性は知っている。

 ならば。

「……やるしかねえだろ」

 鏡の中の少年が笑った。

 さっきまでの困惑した顔とは、少しだけ違って見えた。

 もっとも。

 このときの俺は、まだ理解していなかった。

 未来を知っていることが、必ずしも幸運とは限らないということを。

     *

「カーズーッ!!」

 背後から、聞き慣れた声が響いた。

 次の瞬間、肩に腕が回される。

「お前さぁ! 昨日のアレ見たか!?」

「うおっ!?」

 危うく転びそうになった。

 振り返る。

 黒いツンツン頭。

 やたらと自信に満ちた顔。

 そして、その頭に居座る一羽の小さな烏。

 南樹。

 通称、イッキ。

『エア・ギア』の主人公。

 そして、俺の幼なじみ。

「……イッキか」

「あ? 何だよ、その反応」

「いや、別に」

「お前、朝からテンション低くね?」

「お前が高すぎるんだよ」

「はぁ!?」

 イッキが大げさに顔をしかめる。

 ……うん。

 間違いない。

 イッキだ。

 漫画で何度も見た顔が、目の前で騒いでいる。

 しかも、当たり前のように俺の肩を組んでいる。

 不思議な感覚だった。

 だが、それ以上に。

 懐かしかった。

 美鞍葛馬としての俺は、こいつと何年も付き合ってきた。

 何度も喧嘩して。

 何度も馬鹿なことをして。

 時には巻き込まれて、一緒に怒られて。

 そうやって過ごしてきた。

「でよ、昨日あいつがマジで調子乗ってっから——」

「あー、はいはい」

「聞けよ!」

「聞いてるって」

「絶対聞いてねえだろ!」

 イッキが騒ぐ。

 俺は適当に相槌を打つ。

 そのときだった。

「おーい! イッキ! カズ!」

 今度は、別の声が飛んできた。

 振り返る。

 こちらへ走ってくる、小柄で丸っこい少年。

 オニギリ。

 イッキと俺の幼なじみであり、後に小烏丸の一員となる男だ。

「何だよ、オニギリ」

「お前ら、聞いてくれよ!」

「何を?」

「昨日さぁ、すげえ可愛い子見つけたんだけど!」

「おっ、マジか!」

 イッキが即座に食いついた。

 ……ああ。

 嫌な予感がする。

「でな、その子がさ——」

 オニギリが嬉々として語り始める。

 内容は、実にくだらなかった。

 いや、くだらないというか。

 こいつ、朝っぱらから女の子の話しかしないのか。

「……お前ら、元気だな」

 思わず呟く。

 すると二人が同時に振り返った。

「は?」

「カズ、お前どうした?」

「いや、何でもない」

「何だよ、女に興味なくなったのか?」

「そんなわけあるか!」

 反射的に言い返す。

 するとイッキとオニギリが、顔を見合わせた。

 そして。

「なーんだ!」

「びっくりしたぜ!」

「……お前ら、何を心配してたんだよ」

 まったく。

 こいつらは。

 そう思いながらも、口元が緩んでしまう。

 イッキ。

 オニギリ。

 そして俺。

 原作開始前からの付き合い。

 東中ガンズの仲間。

 後に小烏丸の中心となる三人だ。

 もちろん、今はまだA・Tチームなど存在しない。

 ブッチャやアギトとも、原作通りならこの先の出来事を経て仲間になる。

 だが、少なくとも。

 この三人の関係だけは、すでにできあがっている。

「……何ニヤついてんだよ、カズ」

 イッキが不審そうに顔を覗き込んできた。

「いや、何でもない」

「絶対何かあるだろ!」

「ねえよ!」

「怪しいなぁ」

 オニギリまで混ざってくる。

「カズ、まさか女か?」

「何でそうなるんだ!」

「だって最近、妙に機嫌よくね?」

「……そうか?」

「そうそう。何かいいことあったんだろ?」

 ……いいこと。

 まあ、そうかもしれない。

 突然漫画の世界に転生して、これから超人的なストームライダーを目指せるのだから。

 普通に考えれば大事件だ。

 ただ。

 それを説明できるはずもない。

「……ちょっとな」

 俺がそう答えると、二人が顔を見合わせた。

 次の瞬間。

「おいオニギリ! やっぱ女だぞ!」

「間違いねえ!」

「だから違うって!」

 朝の通学路に、三人分の馬鹿騒ぎが響いた。

 ……先が思いやられる。

     *

 学校に着いてからも、俺の頭の中は忙しかった。

 目の前の友人たち。

 教室。

 教師。

 窓の外に広がる街。

 そのすべてが、知っているはずの世界でありながら、知らない現実でもある。

 原作の『エア・ギア』。

 俺は、その結末を知っている。

 イッキがA・Tと出会うこと。

 小烏丸を結成すること。

 アギトやブッチャが仲間になること。

 ベヒーモスとの戦い。

 京都での出来事。

 スピット・ファイア。

 アイオーン。

 ヨシツネ。

 そして。

 ニケ。

「…………」

 そこで、少しだけ気分が重くなった。

 そうだ。

 この世界は、決して楽しいことばかりではない。

 作中では、多くの人間が傷つく。

 命を落とす人間もいる。

 しかも俺は、その未来を知っている。

 知ってしまっている。

 だったら。

 どうする?

 原作をそのままなぞるのか?

 誰かが死ぬと知りながら、黙って見ているのか?

 ……いや。

 それは、違うだろ。

「……カズ」

「ん?」

 隣から声をかけられた。

 イッキだった。

「何ぼーっとしてんだよ」

「いや、考え事」

「お前が?」

「……おい」

「いや、だってよ!」

 イッキが笑い出す。

「カズがそんな真面目な顔してんの、珍しいじゃん!」

「俺だって考え事くらいするわ!」

「何考えてたんだ?」

「……将来のこと」

「は?」

 イッキが目を丸くした。

 次の瞬間。

「ぶはっ!」

 吹き出した。

「お前、何だそれ! 急に真面目かよ!」

「うるせえな!」

「なあオニギリ! カズが将来のこと考えてるって!」

「えっ!? マジで!?」

「お前らなぁ……!」

 ……こいつら。

 いつか絶対見返してやる。

     *

 放課後。

 俺は一人、教室に残っていた。

 机の上にはノート。

 その一ページ目に、大きく文字を書く。

 ——目標。

 少し考えてから、さらに書き足した。

 ——誰よりも速くなる。

「…………」

 我ながら、大きく出たと思う。

 だが、それくらいでちょうどいい。

 せっかく美鞍葛馬になったのだ。

 原作と同じように、ただ仲間の背中を追いかけるだけではつまらない。

 もっと早く。

 もっと強く。

 そして。

 できることなら、原作で失われる命を救いたい。

 ただし、問題が一つ。

「……俺、まだA・T持ってねえんだよな」

 実に重大な問題だった。

 炎の道どころではない。

 そもそも靴がない。

 いくら未来を知っていても、A・Tがなければ走れない。

 それに。

 身体だって、今の俺は普通の中学生だ。

 運動神経は決して悪くない。

 だが、あの化け物じみた連中と戦えるような身体ではない。

 ならば、まずは基礎からだ。

 脚力。

 体幹。

 バランス。

 持久力。

 反射神経。

 全部、必要になる。

「……とりあえず、走るか」

 立ち上がる。

 窓の外には、夕暮れの校庭が広がっていた。

     *

「……っ、はぁ、はぁ……!」

 十分後。

 俺は早くも後悔していた。

 走る。

 という行為を、少々甘く見ていたらしい。

 息が切れる。

 脚が重い。

 汗が止まらない。

「……くっそ……!」

 何だこれ。

 思っていた以上にきつい。

 漫画のカズって、もっと速かっただろ。

 いや、あれは後半のカズだ。

 今の俺と比べるものではない。

 そう自分に言い聞かせて、再び走り出す。

 その時。

「あれ? カズくん?」

 聞き覚えのある声がした。

 顔を上げる。

 そこにいたのは、安達絵美理。

 エミリだった。

「……あれ、安達?」

「何してんの? こんな時間に」

「……走ってる」

「それは見ればわかるけど!」

 エミリが笑った。

 そして、俺の様子をじっと見つめる。

「何? 急に陸上でも始めるの?」

「いや、ちょっと身体鍛えようかと思って」

「へえ?」

 露骨に疑わしそうな顔。

「……何だよ、その目」

「いやぁ、カズくんが珍しいこと言うなーって」

「そんな珍しいか?」

「だって、いきなりじゃん」

 まあ、そうだろう。

 美鞍葛馬としての記憶をたどっても、今まで自主的に走り込むような生活はしていない。

 急に身体を鍛え始めれば、怪しまれて当然だ。

「……ちょっと、速くなりたくてさ」

「速く?」

「ああ」

「ふーん……」

 エミリが首を傾げる。

 そして、にやりと笑った。

「じゃ、競争する?」

「……は?」

「走るんでしょ?」

「いや、そうだけど」

「じゃあ決まり!」

「ちょっと待て!」

 言い終わるより早く、エミリが駆け出した。

「負けた方、ジュース一本ねー!」

「勝手に決めんな!」

「カズくん、早くー!」

「くっそ……!」

 慌てて追いかける。

 だが。

 速い。

 思っていた以上に、速い。

 スタートで出遅れたこともあるが、それだけではない。

 エミリの走りは、無駄が少なかった。

 身体の使い方が上手い。

 なるほど。

 これが陸上部か。

「……待てって!」

「あはは! 競争で待つわけないじゃん!」

 遠ざかる背中を追いながら、俺は思わず苦笑した。

 ……何だよ。

 未来を知っていて。

 炎の道も知っていて。

 いつかニケを倒そうとまで考えているのに。

 目の前の女子中学生にすら追いつけないのか。

 ……笑える。

 だが。

「……絶対、追いついてやる!」

 不思議と、嫌な気分ではなかった。

     *

 結局、俺は負けた。

 完敗だった。

「いやぁ、カズくん、弱ーい!」

「……うるせえ」

「さっきの勢い、どこ行ったの?」

「お前が勝手に走り出したんだろ」

「言い訳ですかー?」

「ぐっ……」

 エミリは俺が買ったジュースを、実に美味しそうに飲んでいた。

 こいつ、絶対楽しんでる。

「……そんな悔しかった?」

 ふと、エミリが聞いてきた。

「ん?」

「さっきから、ずっと難しい顔してるから」

「ああ……まあ、ちょっとな」

「ふーん」

 エミリは少し考えてから、笑った。

「じゃあ、明日もやる?」

「……え?」

「競争。明日も」

「何で?」

「だって、悔しいんでしょ?」

 そう言って、俺の顔を覗き込む。

「リベンジさせてあげてもいいよ?」

「……言ったな?」

「言った言った」

「絶対勝つからな」

「はいはい。楽しみにしてまーす!」

 実に軽い返事だった。

 だが、その笑顔を見ながら、俺は思った。

 明日も走ろう。

 明後日も。

 その次の日も。

 少しずつでいい。

 今より速く。

 今より強く。

 いつか、あの世界の頂点に立てるくらいに。

     *

 その夜。

 自室に戻った俺は、昼間のノートをもう一度開いた。

 今日の記録。

 走った距離。

 身体の感覚。

 改善すべき点。

 そして、新しい目標。

 一番上には、すでに大きく一つの言葉が書かれている。

 ——炎の道。

 それを、じっと見つめた。

 原作のカズは、最初から炎の王だったわけじゃない。

 何度も挫折して。

 仲間に置いていかれそうになって。

 憧れた人間を失って。

 それでも走り続けた。

 そして最後には、途方もない領域へと到達した。

 ならば、俺はどうする?

 同じ未来を辿るのか?

 原作通りに努力して。

 原作通りに苦しんで。

 原作通りに、誰かを失うのか?

「……冗談じゃねえ」

 思わず声が漏れた。

 俺は未来を知っている。

 全部ではない。

 細かな日付も、出来事の順番も、正確には覚えていない。

 それでも。

 知らないわけじゃない。

 誰が死ぬのか。

 誰が裏切るのか。

 どこで、何が起こるのか。

 知っていることは、いくらでもある。

 だったら。

「……変えてやるよ」

 誰に聞かせるでもなく呟いた。

 イッキは強くなる。

 オニギリも、ブッチャも、アギトも、いつか同じチームで走ることになる。

 それは、俺が知っている未来だ。

 だが。

 そこに至るまでの道まで、同じである必要はない。

 俺は俺の道を走る。

 美鞍葛馬として。

 誰かの背中を追い続けるだけではなく。

 いつか、誰かに追いかけられるようなライダーになってやる。

「……まずは一年」

 ノートに書き加える。

 ——原作開始までに、A・Tを実戦で使えるレベルまで習得する。

 ——炎の道の基礎を研究する。

 ——可能な限り、原作の出来事を整理する。

 そして最後に。

 少し考えてから、一行を足した。

 ——仲間の戦う意思は尊重する。ただし、助けられる人間は助ける。

「…………」

 これは、きっと難しい。

 原作を変えれば、俺の知っている未来も変わる。

 何が起こるかわからなくなる。

 それでも。

 誰かが傷つく未来を知っていて、何もしないつもりはなかった。

「……ま、何とかするしかねえか」

 ノートを閉じる。

 窓の外には、夜の街が広がっていた。

 遠くで車が走る音がする。

 どこかには、もうストームライダーたちがいるのだろう。

 いつか、俺もあそこを走る。

 地面を蹴って。

 壁を駆け上がって。

 誰にも追いつけない速度で。

「……楽しみだな」

 そう呟くと、自然に笑みがこぼれた。

 ……ちなみに。

 その翌朝。

 俺は全身の筋肉痛で、ベッドから起き上がれなくなった。

「……いってえええええ!!」

 ……先は長そうだった。

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