朝、教室に入った途端、妙な視線を感じた。いつもなら騒いでいる連中が、今日はやけに静かだ。
「……何だ?」
自分の席へ向かったところで、足が止まった。
机の上に、大きな髑髏のマークが描かれていた。交差する二本の骨。その下には、黒いマジックで二つの名前。
『南樹・美鞍葛馬』
「……おいおい」
俺まで名指しかよ。
「カズ!」
振り返ると、オニギリが駆け寄ってきた。
「お前、見たか!?」
「ああ。朝っぱらからご苦労なこった」
「笑い事じゃねえって! スカル・セイダースだよ!」
オニギリが声を潜めた。
「昨日の件で、学校中に脅しかけてんだ。イッキに味方した奴は全員潰すってよ!」
「……マジか」
髑髏十字軍(スカル・セイダース)。
その名前を聞いて、昨日の光景が頭をよぎった。女の子たちを逃がし、俺が戻ったときには、すべて終わっていた。
地面に座り込んだイッキ。腫れ上がった頬と、切れた唇。
「……で、イッキは?」
「来てるぜ。さっき廊下にいた」
「そっか」
俺は鞄を置き、教室を出た。
*
「おい、イッキ!」
廊下の向こうで、見慣れた黒髪が振り返った。
「あ? カズか」
……うわ。
明るいところで見ると、昨日よりひでえな。頬には大きな絆創膏。口の端が切れ、片目の下もまだ腫れている。
「お前、その顔で学校来たのかよ」
「うっせえ。ちょっと転んだだけだ」
「どう転んだら顔面だけそんなことになんだよ」
「知らねえよ!」
イッキが顔をしかめた。いつもならここから言い合いになるところだが、今日はそれきりだった。
「……なあ、昨日――」
「おい、南!!」
俺の声を遮って、男子生徒が数人近づいてきた。
「お前、どうしてくれんだよ!」
「……あ?」
「スカル・セイダースの奴ら、学校まで来て脅してんだぞ!」
「俺らまで巻き込むんじゃねえよ!」
廊下にいた生徒たちが、一斉にこちらを見る。
「謝りに行けよ! お前が始めた喧嘩だろ!」
「……おい、待てよ」
俺が口を挟もうとすると、イッキが片手を上げた。
「カズ、いい」
「……イッキ?」
イッキは男子生徒たちを見回した。
「お前ら、俺に頭下げろって言ってんのか?」
「当たり前だろ! このままじゃ俺たちまで――」
「冗談じゃねえ」
イッキが鼻で笑った。
「誰があんな奴らに頭下げるかよ」
「お、お前! 何考えてんだ!」
「るっせえな。迷惑かけた分は何とかしてやるって言ってんだろ」
「どうやってだよ!」
イッキは答えなかった。代わりに、切れた唇の端をぐいっと持ち上げた。
「へっ。そんなに心配なら見てろよ」
傷だらけの顔で、いつものように笑う。
「俺は東中最強のベビーフェイス!」
廊下中に響く声だった。
「もういっぺん、鷹が空を飛ぶトコ見せてやる!!」
「…………」
男子生徒たちが言葉を失う。誰かが小さく「馬鹿じゃねえの」と呟いた。
だが、イッキは構わず歩き出した。
「おい、イッキ!」
俺が呼ぶと、あいつは面倒くさそうに振り返った。
「何だよ」
「……本気か?」
イッキが、にやりと笑う。
「当たり前だろ」
それだけ言って、階段を下りていった。
残された連中が、また何か文句を言い始める。俺はその声を聞き流し、階段の方を見ていた。
……あいつ。
昨日あんだけやられたくせに、よくあんな顔できるな。
「……カズ」
いつの間にか、オニギリが隣に立っていた。
「イッキの奴、また行く気なのかな」
「だろうな」
「……大丈夫かよ」
俺は肩をすくめた。
「さあな。でも、止めたって聞かねえだろ」
「……それはそうだけどよ」
オニギリが頭を掻く。俺は、もう一度階段の先を見た。
あそこまで言い切ったんだ。今夜は、あいつにとって大事な夜になる。
……さて。
俺も準備しねえとな。
*
放課後、家に戻ると、まずA・Tを机に並べた。昨日の傷を確かめ、車輪を一つずつ回す。
――カラッ。
「……ん?」
左足の車輪が、少し引っかかった。もう一度回すと、今度は普通に動く。
「……気のせいか?」
中古で手に入れたA・Tだ。元から傷も多いし、最近は練習で酷使している。そろそろ本格的に整備した方がいいかもしれない。
とはいえ、今夜はこいつに頑張ってもらうしかない。
俺は車輪の緩みを確かめ、留め具を締め直した。次に、携帯を取り出す。
イッキの連絡先を開いたところで、指が止まった。
……まあ、連絡したところで来るなって言うよな。
あいつ、昨日の借りを自分で返すつもりだろうし。
俺は携帯を閉じた。
原作の流れなら、今夜あたりに野山野家の姉妹たちが動くはずだ。
眠りの森(スリーピング・フォレスト)。
イッキの家にいる、リンゴ、みかんさん、ウメ。
普段の姿からは想像もつかないが、あの三人が揃えば、髑髏十字軍程度のチームは相手にならない。
問題は、いつ出発するのかだ。原作を読んでいたとはいえ、時刻まで覚えているわけじゃない。
「……ま、早めに行くか」
俺はA・Tを鞄へしまった。
昨日、イッキが倒れていた場所を思い出す。あいつの喧嘩を代わりにやるつもりはない。ただ、今度は近くにいたい。
あいつがまた無茶をしたとき、指をくわえて待っているのは御免だった。
*
夜。
野山野家から少し離れた道端で、俺は携帯の時計を確認した。
……まだか。
もう随分待っている。さすがに家の前で張り込むのも怪しいので、角を曲がったところの塀に寄りかかっていた。
……これ、出発した後だったら笑えねえな。
そう思ったときだった。
――キュンッ!
頭上を、車輪の音が横切った。
「……おっ?」
顔を上げる。
街灯の向こう。屋根の縁に、一人の少女が降り立った。続いて、もう一人。さらに、小柄な影がその後ろへ並ぶ。
リンゴ、みかんさん、ウメ。
その姿を見た瞬間、思わず口元が緩んだ。
……来た。
「……あれ?」
道路の向こうから声がした。
「……カズ!?」
イッキだった。制服姿のまま、目を丸くしている。
「よう」
「よう、じゃねえよ! 何でここにいんだよ!」
「ちょっと散歩にな」
「こんな時間に、A・T持ってか?」
「夜風が気持ちよくてさ」
「嘘つけ!」
……まあ、無理があるよな。
イッキは俺の鞄を見て、顔をしかめた。
「お前も来んのかよ」
「悪いか?」
「悪いっつーか……お前、昨日もあいつらとやり合ったんだろ」
「お前こそ、昨日あんだけやられたのにまた行くのかよ」
「……あ?」
「同じだろ」
「…………」
イッキはしばらく俺を睨んでいたが、やがて鼻を鳴らした。
「……勝手にしろよ」
「おう。勝手にする」
俺が笑うと、イッキは舌打ちした。
「足引っ張んなよ」
「そっちこそな」
「……おーい!」
頭上から、みかんさんの声が降ってきた。
「カズ! お前まで来んのかよ!」
「こんばんは、みかんさん」
「何がこんばんはだ、ボケ! 昨日の今日で懲りねえ奴だな!」
相変わらず挨拶が物騒な人だ。
「まあ、イッキだけ行かせるわけにもいかないんで」
「ハッ! 言うようになったじゃねえか」
みかんさんは俺の足元を見た。
「それ、その前のボロ靴だろ?」
「……はい」
「途中でぶっ壊れても知らねえぞ!」
「そこは何とか頑張ります」
「靴に頑張らせんなよ!」
……ごもっとも。
横でリンゴがくすくす笑っている。
「カズくんも来るんだね」
「ああ。邪魔にならないようにはするよ」
「ふふっ。無理しないでね」
リンゴがそう言って、イッキへ視線を向けた。イッキは屋根の上の姉妹たちを見上げ、面白くなさそうに鼻を鳴らしている。
「……で、まだ行かねえのかよ」
「おっ。やる気じゃねえか!」
みかんさんが笑った。
「じゃ、行くぞ!」
「ウメも行くでし!」
――タンッ!
三人が、一斉に屋根を蹴った。俺も慌ててA・Tを履き、地面を蹴る。
「おい、イッキ! 置いてくぞ!」
「うっせえ! 今行く!」
街灯の下を、二つの影が走り出した。
*
――ギュンッ!
上では、みかんさんたちが建物から建物へ跳んでいる。俺とイッキは、その下の道路を走っていた。
「……くそっ、速え!」
最初の角を曲がったときには、三人の姿はもう二つ先の屋根にあった。こちらは交差点を回り込み、細い路地を抜けなければならない。
「おーい! 遅えぞ、カズ!」
みかんさんが屋根の縁から叫ぶ。
「無茶言わないでくださいよ!」
「ハハッ! 声だけは元気じゃねえか!」
……あの人、絶対楽しんでるだろ。
俺は姿勢を低くして加速した。
――ギュンッ!
街灯が横を流れていく。
ここ三か月、必死に走り込んできた。直線なら、以前とは比べものにならないくらい速度が出る。
だが、みかんさんたちは違う。
建物の角でもほとんど減速せず、屋根の段差を次々に越えていく。ウメでさえ、俺が苦労する高さを軽々と跳んでいた。
「……マジかよ」
あんな小さい子まで、普通に走ってやがる。
「おい、カズ!」
後ろからイッキが怒鳴った。
「てめえまで速く走ってんじゃねえよ!」
「だったら追いついてこい!」
「上等だ、コラ!」
イッキが踏み込む。
――ギュンッ!
そのまま俺の横へ並ぼうとして、カーブで大きく膨らんだ。
「うおっ!?」
「おいおい、危ねえぞ!」
「分かってるって!」
……ほんと、無茶な奴。
だが、さっきから目だけは屋根の上を追っていた。リンゴたちが跳ぶたび、あいつも足元を見て、何かを試そうとしている。
……ああ。
こいつ、もう覚える気でいやがる。
俺は少しだけ笑って、前を向いた。
*
髑髏十字軍の縄張りに入ると、街の様子が変わった。
シャッターの閉まった店。壁に描かれた髑髏の落書き。路地の入口には、同じような服装の男たちがたむろしている。
屋根の上を走っていた三人が、建物の陰で速度を落とした。俺とイッキも、その下で足を止める。
「……あそこか」
少し先の建物に、髑髏十字軍の旗が見えた。
外階段に二人。屋上にも一人。さらに路地の奥から、無線機を持った男が歩いてきた。
「……何だ?」
イッキが怪訝そうな顔をする。
「昨日より、やけに人が多くねえか?」
……確かに。
原作では、眠りの森が見張りを片づけて、そのまま奥へ進んでいたはずだ。だが、今夜は外周にまで連中がいる。
それも、ただたむろしているだけじゃない。無線を持って交代しながら見張っている。
「……昨日の仕返しを警戒してんのかね」
俺が呟くと、みかんさんが上から顔を出した。
「何だ。お前ら、随分嫌われてんじゃねえか」
「……嬉しくないですけどね」
「ハハッ! ま、数が増えたところで関係ねえよ」
みかんさんが立ち上がる。その横で、リンゴが遠くの建物へ目を向けた。
「……行こっか」
さっきまで笑っていた声が、すっと静かになる。ウメも小さく頷いた。
三人の足元で、A・Tの車輪が鳴る。
……あ。
空気が変わった。
*
『こちら東地区。敵影、未だ見えず――』
無線を持った男が、路地を歩いていた。
その頭上。月を背に、リンゴが立っている。
「……ん?」
男が足を止めた。どこからか、歌声が聞こえてきたらしい。
「木々は腕をからめ、
天へと伸ばす……♪」
「……あ?」
男が屋根を見上げる。リンゴは動かない。
その後ろで、別の影がすっと立ち上がった。
「……おい。誰だ、てめえら!」
「子守歌だよ」
みかんさんが、にやりと笑った。
「おやすみ坊や」
――ドガッ!!
「ぐあっ!?」
男の身体が、路地へ吹き飛んだ。手から離れた無線機が地面を跳ねる。
『こ、こちら東地――うぐっ!?』
『おい、東地区! どうした!?』
返事はない。
その代わり、少し離れた建物から悲鳴が響いた。
『こちら南……なんだ、あれは……!?』
――ガシャンッ!!
『ぐああっ!!』
俺は慌てて顔を上げた。
隣の建物、そのまた向こう。屋根の上を、小さな影が駆け抜ける。
ウメだ。
男が二人、屋上の手すりへ駆け寄った。
「おい! どこ行きやがった!?」
「上だ! 上に――」
――タンッ!
「……え?」
二人が振り返る。その背後には、もうウメがいた。
「ウメも行くでし!」
――ドガッ!!
一人がもう一人を巻き込み、屋上へ転がった。
……おいおい。あっちも一瞬かよ。
「群がる葉々は光を喰らい、
森の闇をいよいよ深くする……」
リンゴの声が、夜の建物に響く。
その下では、男たちが必死に周囲を見回していた。
「くそっ! どこだ!?」
「見えねえ! 何人いるんだよ!」
懐中電灯の光が、屋上から路地へと走る。
だが、その光が誰かを捉えるより早く、別の場所で悲鳴が上がった。
――キュンッ!
みかんさんが、建物の壁を蹴る。
「……あっ!?」
男が顔を上げたときには、もう遅かった。
――ドゴッ!!
「がっ!?」
蹴りを食らった男が、後ろの仲間を巻き込んで倒れた。
「狩人は気付かない。
闇に潜むケダモノ達の双眸も牙も――」
さっきまで、見張りの連中は余裕そうに歩き回っていた。それが今は、誰もまともに前を見ていない。
頭上の物音に振り返れば、背後から別の影が現れる。逃げようとすれば、その先にもう一人が待っていた。
『なっ……ピ――! 増援を……!』
無線から切羽詰まった声が漏れる。
『ひいいいいっ!!』
――ガシャァン!!
『た、助け……!』
そこで声が途切れた。
俺は、思わず足を止めた。
……おい。
これ、もうほとんど終わってねえか?
「今日は狩人が、
狩られる夜……」
リンゴが、最後の見張りの背後へ降り立つ。
「……ひっ!?」
男が振り返る。
――タンッ!
次の瞬間には、足元を払われていた。
「うわああっ!!」
――ドサッ!!
男が倒れる。
転がった無線機から、まだ声が漏れていた。
『おい! 東地区! 南地区! 応答しろ!』
『誰かいねえのか!?』
誰も答えない。
さっきまであちこちから聞こえていた足音も、もうなかった。
月明かりの下。
リンゴ、みかんさん、ウメの三人が、屋根の縁に並ぶ。
「ここは眠りの森《スリーピング・フォレスト》……」
リンゴの声が、静かに響いた。
――ザザッ。
地面に転がった無線機が雑音を吐く。
『……おい』
少し間を置いて、男の声がした。
『まさか……外の見張り、全滅したのか……?』
返事はなかった。
……いや。そりゃそうだろ。
俺がようやく状況を飲み込んだ頃には、あの三人は外周の見張りを片づけちまったんだから。
「……ふう」
みかんさんが首を鳴らす。
「ま、こんなもんか」
……いやいやいや。
こんなもん、じゃねえだろ。
「おーい、カズ!」
みかんさんが振り返った。
「いつまで突っ立ってんだ! 行くぞ!」
「……はい!」
俺は慌てて地面を蹴った。
*
建物の奥へ進むにつれ、様子がおかしくなってきた。
見張りはほとんど片づいている。それなのに、裏手の通路からはまだ何人もの足音が聞こえていた。
「……何だ?」
俺は角の陰から覗き込んだ。
男たちが、慌てて建物の裏へ走っていく。
「間垣さん! 南側、開けました!」
「急げ! こっちの出口も押さえろって!」
……出口?
逃げるつもりか。
そのとき、倒れた見張りの無線機から、がなり声が響いた。
『ふざけんな! 何で眠りの森が来てんだよ!』
……おっ。
聞き覚えのある声だな。
『昨日のガキ二人くらいなら、お前らで何とかできるっつっただろ!』
間垣だ。
『そ、それが、いきなり屋根から――!』
『うるせえ! とにかく裏を空けろ! 早くしろってんだよ!』
そこで通信が途切れた。
「……なるほどね」
思わず笑ってしまった。
昨日、俺が追っ手を倒したせいか。イッキ一人ではなく、俺も仕返しに来ると考えて、間垣は人を増やしていたらしい。
だが、来たのは眠りの森。
完全に当てが外れたわけだ。
……まあ、あの三人が来るなんて、普通は思わねえよな。
「……カズくん?」
屋根の上から、リンゴが声をかけてきた。
「どうしたの?」
「間垣が裏から逃げる気らしい!」
俺が答えると、みかんさんが顔を出した。
「……ああ?」
「まだ部下が何人か残ってる。裏口を空けろって騒いでるんですよ」
「ハッ! だっせえ奴だな!」
みかんさんが笑った。リンゴは建物の奥へ目を向けた。
「……じゃあ、先に行こっか」
そう言って、屋根を蹴る。ウメも後に続いた。
「おい、カズ!」
みかんさんがこちらを見る。
「お前は地上から来い。無理して屋根に上がんなよ!」
「分かってますって!」
「イッキもな! 遅れんなよ!」
「うっせえ!」
イッキが言い返す。
みかんさんは楽しそうに笑うと、二人の後を追った。
――キュンッ!
三人の姿が夜の屋根へ消える。
「……よし」
俺も裏口へ続く道へ向き直った。
だが、すぐに足が止まる。
細い通路の先に、男たちが集まっていた。
一人、二人、三人。さらにその後ろにも、数人。
さっきの見張りとは違う。A・Tを履き、鉄パイプまで持っている奴がいる。
「……おい」
先頭の男が俺を指差した。
「こいつだ! 昨日、仲間をやったガキ!」
「……へえ」
俺は男たちを見回した。どうやら、俺のことも覚えていてくれたらしい。
「間垣さんから言われてんだよ。てめえが来たら、絶対通すなってな!」
……なるほど。
そういうことか。
間垣は、俺たちが仕返しに来た場合に備えて、ここにも人を置いていたんだな。だが、今となっては逃げ道を守るための壁になっている。
「……カズ!」
後ろから、イッキが呼んだ。
俺は振り返らずに答えた。
「イッキ、お前は先に行け!」
「……はあ!?」
「間垣、逃げる気だ! あいつを逃がすな!」
「……っ!」
イッキの足音が止まる。
それから。
「……へっ!」
あいつが笑った。
「言われなくても分かってら!」
――ギュンッ!
イッキが横の細い道へ走り出す。
男たちの一人が、慌てて追おうとした。
「おい! 待て!」
「……おっと」
俺はそいつの前へ滑り込んだ。
「そっちは通行止めだ」
「……このガキ!」
男が鉄パイプを振り上げる。
俺は膝を曲げた。
……さて。
昨日とは、少し違うところを見せてやるか。
――ギュンッ!
夜の路地に、A・Tの駆動音が響いた。