エア・ギア ~運命を追い越す炎~【カズ転生】   作:とらやす

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第4章 五羽の烏
第18話 五人目の仲間


 

『女子大生歓迎』

 ……おい。何だ、これ。

「南樹くん……先生、こういうのは困るんだけどなあ……」

 朝の教室で、トンちゃん先生が一枚の紙を掲げていた。

 

『最強メンバー募集!!』

『強い奴』『根性ある奴』『俺様の言うことを聞く奴』

 そして最後に、でかでかと『女子大生歓迎』。

「イッキ。お前、何を募集してんだ?」

「あ? 見りゃ分かんだろ。俺様のチームだよ!」

「じゃあ女子大生ってのは?」

「ぐふふ……そこは俺の発案だぜ、カズ」

 オニギリが胸を張った。

 

「強えお姉さんが入ってくれたら最高じゃねえか!」

「お前らが何を期待してんのか、だいたい分かった」

「分かってくれるか、同志よ!」

「同志にすんな!」

「それにねえ、南くん。これ、職員室の前にも貼ってあったんだけど……」

「宣伝すんなら人通り多いとこだろ?」

「先生たちが一番通る場所だよぉ!」

 トンちゃんの方が先に泣きそうになっていた。

 

「ていうか、これ」

 横から覗き込んだ安達が、募集条件を指で叩く。

「『俺様の言うことを聞く奴』って。イッキ君が一番、人の話聞かないじゃん」

「うるせえ! リーダーってのはそういうもんだろ!」

「誰の話も聞かないリーダーって、ただの迷惑な人だよね。カズくん?」

「まあ、否定はできねえな」

「てめえら、言いたい放題か!」

「おはよー。……って、何これ?」

 

 登校してきたリンゴが紙を受け取り、二度見した。

「イッキ。チーム名は?」

「まだ!」

「エンブレムは?」

「これから決める!」

「……もう。正式にチームを作るなら五人は必要だし、パーツ・ウォウのルールだって覚えなきゃいけないんだよ?」

「だから五人目を探してんじゃねえか! 細けえことは揃ってからでいいだろ!」

 ……その割に、募集条件だけはやたら細かいんだな。

 

     *

 

 そもそも、イッキがチームを作ると言い出したのは、少し前のことだった。

『俺らでチーム作ろうぜ!』

『……何だよ、いきなり』

『誰かの下について走るなんて、つまんねえだろ。俺らで好き勝手やった方が面白えじゃねえか!』

 ……まあ、いかにもイッキらしい。

 スピット・ファイアから王やレガリアの話を聞いて以来、こいつはますますA・Tにのめり込んでいた。暇があればリンゴと走り、それでも飽き足らないらしい。

 俺も、こいつと走るのは嫌いじゃない。オニギリも乗り気だったし、ブッチャに至っては『僕も混ぜてもらおうかな』の一言で決まった。

 そんなある日、リンゴが俺たち四人を公園へ呼び出した。

 

「せっかく集まったんだし、鬼ごっこしよっか!」

「……鬼ごっこ?」

「A・Tを履いて一分間。触られたら脱落。障害物も使っていいよ」

「小学生かよ」

「カズくん、馬鹿にしちゃ駄目だよ? 加速も急制動も、相手の動きを読む練習にもなるんだから」

「へっ! 面白そうじゃねえか!」

 イッキが真っ先に食いついた。

 オニギリは、公園でスケートを楽しんでいる若い女性たちに向かって手を振っている。ブッチャは相変わらず余裕たっぷりの笑顔だ。

 見物役はリンゴと、陸上部の練習帰りに誘われた安達。

 

「それじゃあ、最初の鬼はイッキね!」

「おう! 全員まとめて捕まえてやる!」

 ――ピーッ!

「まずはオニギリィ!」

「いきなり俺かよぉぉ!」

 オニギリが逃げる。

 ……お?

 意外にも、足運びは悪くない。

 最近、公園で大学生のお姉さんたちに混じって朝から練習しているらしい。動機はともかく、ちゃんと上達しているんだな。

 

「そこのお兄さーん、頑張ってー!」

「は、はいぃ! 今そちらへ――」

 ――パシッ!

「はい、一人目!」

「うぎゃあああ!!」

 ……何しに来たんだ、あいつ。

 

「次はコーヒーブタ! 逃げてみろよ!」

「……その呼び方、やめてもらえるかなあ」

 ブッチャの笑顔が少し引きつった。

 四輪が低く唸り、巨体がベンチの脇を滑る。

 イッキは真正面から飛びかかったが、ブッチャが身体をずらしただけで手が空を切った。

 

「ふふっ。残念だったねえ、カラス」

「誰が終わりっつったよ!」

 イッキは通り過ぎる勢いのまま、ベンチの背もたれを踏んだ。

 ――タンッ!

 ……あ?

 反動で身体をひねり、空中で向きを変える。

 ブッチャが見上げたときには、イッキの手が真上から伸びていた。

 

 ――パシッ!

「捕まえたぁ!」

「……おや。油断したねえ」

 ブッチャが悔しそうに頭を掻く。

 ……こいつ、相変わらず無茶苦茶な跳び方をするな。

 普通なら通り過ぎて終わりのところを、空中で無理やり追いかけてきやがった。

 

「よーし、次! カズ!」

「おう。来いよ」

 軽く手招きすると、イッキの眉が跳ねた。

「その余裕、すぐ消してやっからな!」

 ――ギュンッ!

 一直線に距離を詰めてくる。

 ……速くなったな、こいつ。

 少し前とは踏み込みが違う。しかも、こっちの進路を見ながら走っている。

 だが。

 

 ……まだ、見える。

 イッキが右から手を伸ばした。

 俺はわずかに肩を落とし、左足を滑らせる。

 ――キュッ!

「……あっ!?」

 指先が空を切った。

 振り向いたイッキの目が丸くなる。

 

「何でそっちにいんだよ!?」

「お前がそっちに突っ込んだからだろ」

「てめえっ!」

 また来た。

 今度は、わざと右へ身体を向けてみる。

 イッキが食いついた。

 その瞬間、左へ。

 

 ――ギャリッ!

「うおっ!?」

 ……ははっ。

 面白え。

 追ってくる相手の肩が動く。足が踏み込まれる。その小さな変化が、前よりずっとよく見える。

 身体も、思った方向へ動いてくれる。

 

「カズのくせに! カズのくせにぃぃ!!」

「お前、さっきからそればっかだな!」

 イッキは何度か追ってくるうちに、俺が横へ逃げるのを見越し始めた。

「……へっ!」

 突然、壁へ向かって加速する。

 ――ギュンッ!

 壁を蹴り、頭上を越えてきた。

 

 ――タンッ!

 着地。

 右はフェンス。左にはベンチ。

 俺の進路を、綺麗に塞いでいる。

 

「今度こそ逃がさねえぞ!」

 ……へえ。

 やるじゃねえか。

 イッキが腕を広げて踏み込んできた。

 少し前の俺なら、ここでブレーキを踏んでいただろう。

 だが、今は。

 イッキの右肩が動いた。

 ……そこか。

 

「捕まえたぁ!!」

 伸びてくる腕。

 俺は膝を沈め、余計な力を抜いた。

 ――キュンッ!

「……は?」

 イッキの手が、俺のいた場所を通り抜ける。

 俺はもう、その背後へ出ていた。

 

「……おい、イッキ」

「……っ!?」

 慌てて振り返る。

「こっちだぞ」

 軽く手を振ってやった。

 

「……てめっ、今何しやがった!?」

「さあな!」

 ……いや。

 今のは、俺もちょっと驚いたぞ。

 ほとんど減速してねえ。

 ――ピーッ!

「はい、一分終了!」

「……はあ!?」

 

 イッキが目を剥いた。

「おい! 今の触っただろ!」

「触ってねえよ」

「ぜってえ触った!」

「じゃあ、どこ触ったんだ?」

「……っ!」

 イッキが俺の制服を睨む。

 それから、悔しそうに歯を食いしばった。

 

「……くそっ!」

「じゃあ、次はカズくんが鬼ね!」

 リンゴが笛を構え直した。

「お、いいぜ」

「へっ! 追いかける方は勝手が違うぜ、カズ!」

 イッキが得意げに笑う。

 

「今度は俺様が一分間、逃げ切ってやる!」

「……言ったな?」

 俺が笑い返すと、イッキは鼻を鳴らして距離を取った。

「それじゃあ、位置についてー!」

 ――ピーッ!

 ――ギュンッ!!

「……うおっ!?」

 オニギリが振り返る。

 

 ――パシッ!

「はい、一人目」

「はあ!? ちょっ、まだ始まったばっかだろ!?」

「悪いな!」

 そのまま地面を蹴る。

 次はブッチャだ。

 

「ふふっ。そう簡単には――」

 ――ギャリッ!

 ブッチャが身体をずらす。

 その脇を抜けざま、手を伸ばした。

 ――パシッ!

「はい、二人目」

「……ぬぅっ!?」

 ブッチャが目を丸くした。

 

「……おやおや。これは……」

 ……へっ。

 悪いな、ブッチャ。

 今日はちょっと、調子がいいんだ。

 

「……おい、イッキ!」

「へっ! 来やがったな!」

 残りは一人。

 イッキは俺を見るなり、にやりと笑った。

「地面じゃてめえが速えのは分かってんだよ!」

 ――ギュンッ!

 手すりを踏み、壁を蹴る。

 

 ――タンッ!

「……おおっ!」

 イッキの身体が、ぐんぐん高く上がっていく。

 そのまま公園の反対側へ。

 ベンチを飛び越え、花壇を飛び越え、低い柵の向こうへ軽々と着地した。

 ……すげえな。

 相変わらず、とんでもねえ跳躍だ。

 

「ふふっ。さすがカラスだねえ」

 ブッチャが感心したように声を上げる。

「あの高さに、あれだけの距離。なかなか真似できるものじゃないよ」

 ……確かに。

 距離も相当ある。

 しかも、俺とイッキの間にはベンチや花壇、柵がいくつも並んでいた。

 正面から追いかけたら、あの障害物を全部回り込むことになる。

 ……でも。

 あれくらいだったら――。

 

「ハハッ! 見たか、カズ!」

 イッキが勝ち誇った顔で振り返った。

「この帝王が本気を出せば、一分なんて――」

 ……よし。

 俺は膝を沈めた。

 ――ギュンッ!!

 足元で、車輪が甲高く唸った。

 一つ目のベンチ。

 

 ――ギャリッ!

 右へ。

 花壇の角。

 ――キュンッ!

 左へ。

 柵の切れ目へ身体を滑り込ませ、そのまま逆へ切り返す。

 ――ギャリィッ!!

 視界が左右へ弾けた。

 ベンチ、花壇、柵。

 次々に迫る障害物の隙間を、車輪が縫うように走る。

 曲がるたびに路面を削る音が響いた。

 

 ……っ!

 速い。

 自分でも笑っちまうくらい、身体が軽い。

 最後の角を抜け、一気に加速する。

 ――ギュンッ!!

「――この俺様にかかれば……」

「はい、三人目」

 

 ――パシッ。

「……えっ?」

 イッキの肩に手を置いた。

「捕まえたぞ、イッキ」

「…………」

 ゆっくりと振り返る。

 その顔から、笑みが消えた。

 

「……は?」

「だから、捕まえたって」

「……いや」

 イッキが俺を見る。

 それから、遠くにあるベンチと花壇を振り返る。

 

「……お前、さっきまであそこに……」

「おう」

「……何で?」

「走ってきたからだけど」

「そういうこと聞いてんじゃねえよ!!」

 ……ははっ!

 こいつ、すげえ顔してんな。

 イッキはもう一度、俺が通ってきた道を見た。

 ベンチの脇から花壇を抜け、柵の間を縫うように、細い車輪の跡が残っている。

 

「……何だよ、あれ」

 オニギリがぽかんと口を開けていた。

 その横で、ブッチャが小さく唸る。

「……ぬう」

 ……お?

 珍しいな。こいつまでそんな声出すのか。

 ふと、鼻先にかすかな焦げ臭さが漂った。

 ……ん?

 足元を見る。

 車輪の通った跡から、焼けたゴムみたいな匂いがしていた。

 

 ……おいおい。

 今、そんなに強く擦ってたのか?

 ――ピーッ!

「はい、終了ー!」

 リンゴの笛が響く。

 

「カズくんの勝ちだね!」

「……くそっ!!」

 イッキが頭を掻きむしった。

「カズのくせに! カズのくせにぃぃ!!」

「だから何なんだよ、その言い方!」

 ……ったく。

 でも、今のは俺もちょっと驚いた。

 あの障害物の間を、ほとんど速度を殺さずに抜けられた。

 こんな動き、少し前なら考えられなかったぞ。

 安達に教わった、余計な力を抜く感覚。

 夜王戦で身についた、相手の動きを最後まで見続ける癖。

 

 みかんさんに教わった、速度を殺さない切り返し。

 別々に覚えたはずのものが、今になって一つにつながってきた。

 ……なるほどな。

 思わず、自分のA・Tへ目を落とした。

 一人で練習していた最初の三か月間は、なかなか思うように上達しなかった。

 同じ道を何十回も走って、少しだけ速くなる。転んで、また走る。そんなことの繰り返しだった。

 もちろん、あの時間が無駄だったとは思わない。

 むしろ、あの頃に積み重ねたものがなかったら、今の走りは絶対にできない。

 ただ――。

 ケンと競走して、ブッチャと本気でぶつかって、みかんさんに扱かれて。

 イッキたちと走るようになってからも、毎回、新しい発見がある。

 

 一人じゃ思いつかなかった走り方。

 一人じゃ試せなかった速さ。

 誰かに追い詰められて、初めてできるようになった動き。

 ……このところ、できることが一気に増えている。

 三か月かけて作った土台が、ようやく生き始めた。

 ……すげえな。

 誰かと走るって、こんなに違うのか。

 

「おい、カズ!」

 顔を上げると、イッキがまだこっちを睨んでいた。

「次はぜってえ負けねえからな!」

「……へっ」

 俺も笑い返す。

 

「おう。楽しみにしてるぜ」

 ……ただし。

 こっちだって、簡単に追いつかせるつもりはねえけどな。

 

     *

 

「……マジっすか」

 隣の安達さんが、口をぽかんと開けていた。

「今の、何やったか全然見えなかったんですけど……」

「……うん。速かったね」

「いやいや! だってカズくん、あそこにいたじゃん! いつの間にイッキ君の後ろに行ったの!?」

 ……うん。

 私もちょっと驚いた。

 イッキが着地したとき、カズくんはまだ遠くにいた。

 それは間違いない。

 なのに、次の瞬間には。

 ベンチと花壇の間を、何かがジグザグに走り抜けた。

 

 まるで、地面を這う稲光みたいに。

 ……あんな動き、いつの間に。

「……リンゴちゃん?」

「あ、ううん。何でもない!」

 慌てて笑う。

 広場では、イッキがカズくんに食ってかかっていた。

 

「もう一回だ、カズ!」

「お前、何回やる気だよ!」

 ……ふふっ。

 それにしても、あの切り返し。

 確か、みかん姉に教えてもらったって言ってたよね。

 ……みかん姉、何教えたの?

 もう一度、カズくんの足元を見る。

 ……なんだか、すごいことになってきたかも。

 

     *

 

 その日の帰り際。

 ベンチに置き忘れた上着を取りに戻ると、車輪が路面を削る音がした。

 ――ギャリッ!

「……くそっ!」

 イッキだ。

 さっき俺が曲がった場所で、何度も同じ切り返しを試している。

 足は入っているが、出口で身体が流れ、速度が落ちる。

 

「……っだあ! 何でだよ!」

 イッキが地面を蹴った。

 車輪の跡を睨み、また少し離れた位置へ戻る。

 次は踏み込みを変えた。

 だが、今度は曲がりきれず、靴底が地面を擦った。

 

「……ちっくしょう……!」

 握った拳が、膝の上で震えていた。

 ……あいつ、あんな顔すんのか。

 声をかけかけて、やめた。

 イッキはもう助走に入っている。

 笑ってもいないし、こっちにも気づいていない。

 俺はそっと踵を返した。

 ……次に走るとき、あいつはどこまで近づいてくるんだろうな。

 

     *

 

「……カズくん?」

「ん?」

「聞いてる?」

 安達に呼ばれて顔を上げた。

 目の前では、イッキがまだ募集用紙を振り回している。

 

「五人目の話だろ?」

「そうそう。……あ、A・Tの調子はどう?」

「おかげさまで。左足もちゃんと直ったぜ」

「よかった! もう壊さないでよね」

「そういや、カズ」

 イッキがにやつきながら割って入った。

 

「お前、最近みかんとつるんでんだろ。二人で買い物まで行ってよ」

「A・Tの部品を買いに行っただけだって」

「ふーん? じゃあ、あいつが最近つけてる髪留めは何なんだろうなあ?」

 ……あの黒と赤のヘアピンか。

 使ってくれてるんだな。

 

「……髪留め?」

 安達のペン先が、ノートの上で止まった。

「カズくんが、あげたの?」

「まあ、世話になったお礼っていうか。たまたま店で見つけてさ」

「……へえ。そうなんだ」

 安達は一度だけ頷き、ノートへ視線を戻した。

 

「おいカズ! お前、みかんにプレゼントなんかしてんのかよ!」

「だから、大げさに言うなって!」

「へっへー。やるじゃねえか!」

 イッキのからかいを受け流していると、安達がノートを閉じた。

 

「……ねえ、カズくん」

「ん?」

「次の競走、忘れてないよね?」

「もちろん。怪我も治ったし、いつでもいいぜ」

「そっか。……じゃあ、今度こそ負けないから」

 少し笑った安達の顔を見て、俺も笑い返した。

 ……お。

 何だか今日は妙に気合い入ってんな。

 

     *

 

 休み時間も終わりかけた頃、リンゴが携帯を取り出した。

「ねえ、今日の放課後、みんな空いてる?」

「何だよ。また鬼ごっこか?」

「違うよ。ウメちゃんが面白い情報見つけたんだ」

 画面に表示されていたのは、『金鉄ブルズ VS AGITO』。

 

「Aクラスのチームなんだって。今日、試合があるみたい」

「Aクラス!? マジかよ!」

 オニギリが身を乗り出す。

 リンゴは画面をスクロールした。

 

「それがね、相手は一人らしいの」

「……一人で?」

 イッキが携帯を覗き込む。

 俺も横から見て、指が止まった。

 ――AGITO。

 ……咢。

 いよいよ、あいつと会うことになるのか。

 

「カズくん?」

「……ああ、何でもない」

 リンゴに答えると、イッキが口元を歪めた。

「一人でAクラスに喧嘩売るってのか。……面白え奴がいんだな」

「イッキ、見に行く?」

「行くに決まってんだろ。俺、上のクラスのパーツ・ウォウってまだ見たことねえし」

 リンゴが頷いた。

「じゃあ、みんなで行こっか。チームを作るなら、見ておいて損はないよ」

「よっしゃ、決まり!」

 

「おい、イッキ。五人目は?」

「ああ? そんなもん、走ってりゃそのうち見つかんだろ!」

 さっきまであれだけ騒いでいたくせに、もう試合のことで頭がいっぱいらしい。ブッチャまで横から覗き込み、イッキと何か言い合っていた。

 少し前までは、こいつと本気でやり合っていたのにな。

俺が先にA・Tを始めても、原作とは違う行動を取っても、夜王との一件は起きた。

 ……この先も、そう簡単にはいかないんだろうな。

 俺が何をしようと、相手には相手の事情がある。こっちの都合で動いてくれるわけじゃない。

 もっと強くなれば、できることは増える。けど、それだけで全部何とかなると思うのは甘い。

誰かの力を借りる必要もある。

 問題は、どうやって信用してもらうかだ。大きな出来事は覚えていても、正確な時期や細かい経緯までは曖昧だ。そもそも、未来を知っている証拠なんて出せるはずもない。

 

 ……さて、どうしたもんか。

 まずは、話を聞いてくれそうな相手を探すところからだな。

 

     *

 

 放課後、校門でトンちゃん先生に捕まった。

「イッキくん、募集用紙がまだ一枚残ってたよぉ」

「あっ、トンちゃん! ちょうどよかった!」

「……え?」

「車出せるか? ちょっと遠出すんだけど!」

「話、聞いてた!?」

 先生の声を無視して、イッキはリンゴに場所を聞いている。

 

「おい、まず紙を剥がせよ」

「帰ってきたらやる!」

「お前、そのまま忘れるだろ……」

「先生、お願い!」

 リンゴまで頭を下げると、トンちゃんは困った顔で頬を掻いた。

 

「も、もう……今回だけだからねえ……」

 ……押し切られた。

 

     *

 

 ――ミシッ。

「……おい、ブッチャ。じっとしてろよ」

「動いているのは車の方だよ、カズくん」

「そういう意味じゃねえ!」

「お願いだから降りてぇ! 先生の車、壊れちゃうよぉ!」

 運転席のトンちゃんは半泣きだ。

 俺とイッキとオニギリ、それに見物に行くと言い出した安達と中山まで、後部座席へぎゅうぎゅうに押し込まれていた。リンゴは助手席で道案内。ブッチャは屋根の上。

 

「ちょっと、カズくん! 肘、当たってる!」

「悪い! イッキ、もうちょいそっち寄れよ!」

「こっちだって限界だっつーの!」

 中山は二人の間で肩をすぼめ、困ったように笑っている。

 ブッチャに至っては、そもそも車内に収まらなかったのだ。

 

「なあ、トンちゃん。あとどんくらい?」

「ちょっとは先生の心配してよ、イッキくん!」

「俺は屋根が心配だよ……」

 またミシッと鳴った。

 トンちゃんの顔色が一段悪くなる。

 

「なあ、リンゴ。Aクラスってそんなにすげえのか?」

 イッキが助手席へ顔を寄せた。

「うん。今までイッキたちが戦ってきた相手とは、また違うと思うよ」

「……へえ」

 イッキが窓の外へ目を向ける。

 

「楽しみだぜ。どんな走りすんだろうな」

「ふふっ。イッキって、本当に走るの好きだね」

「ああ? お前だってそうだろ」

「……うん。そうだね」

 リンゴが笑った。

「昨日できなかったことが、今日できるようになる。それだけでも、結構嬉しいもんね」

「……ああ」

 俺は頷いた。

 この前の鬼ごっこなんか、まさにそうだった。

 

 ……いや。

 あれは、自分でもちょっと予想外だったけどな。

「へっ! だったら俺様は、誰よりも高く飛んでやる!」

 イッキが拳を握る。

 

「おう。じゃあ俺は、誰よりも速く走るかな」

「へっ! 負けねえぞ!」

 ……いや。

 お前、飛ぶんじゃなかったのかよ。

 

「そういやカズ!」

 イッキが急に顔を寄せてきた。

「帰ったら、もう一回勝負だ!」

「まだ言ってんのか、お前」

「次はぜってえ負けねえからな!」

 ……やっぱ、相当悔しかったらしい。

 

「へっ。楽しみにしてるぜ」

 俺が笑うと、イッキは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

     *

 

 車が街を離れると、住宅の代わりに倉庫や工場が増え始めた。

 やがてトンちゃんが車を止めたのは、配管と鉄骨が絡み合う工業地帯だった。

「うっわ、すげえな!」

 イッキが窓から身を乗り出した。

 太い配管が頭上を走り、足場が何層にも重なっている。

 A・Tを履いて眺めると、手すりも階段も、全部が道に見えた。

 

「おい、カズ。ここ、走ったら楽しそうじゃねえか!」

「試合見に来たんだろ、お前」

「分かってるって!」

「おーい! ブルズの試合なら向こうだぜ!」

 近くのライダーが鉄階段を指差した。

 俺たちは礼を言って上階の足場へ向かう。

 階段を上りきったところで、歓声が聞こえた。

 

「おおっ! 何だよ、あいつら!」

 オニギリの指した先には、いかにも喧嘩慣れした大男が何人も並んでいた。

 太い腕。厚い胸板。傷だらけのA・T。

 ……金鉄ブルズ。

 いかにも強そうだ。

 

「相手はどこだよ?」

 イッキが首を伸ばす。

 俺はすぐに見つけた。

 大男たちの向かいに、小柄な少年が一人だけ立っている。

 細い身体。長い髪。片目を覆う眼帯。

 

「……あいつ、一人?」

「そうみてえだな」

 オニギリの問いにイッキが答え、にやりと笑った。

「おいおい。あの人数を前にして、眉ひとつ動かさねえのかよ」

 ……咢。

 牙の王。

 俺は少年の足元へ目を向けた。

 力の抜けた膝。わずかに開いた足。

 いつでも動き出せそうなのに、妙な落ち着きがある。

 

 ……なるほどな。

 原作で知っていた相手が、今こうして目の前にいる。

 少し前の俺だったら、まともに相手をするなんて考えもしなかっただろう。

 けど、今は――。

 

「へへっ。いいじゃねえか、あいつ」

 イッキはもう、目を離せなくなっていた。

 ……お前、本当に楽しそうだな。

 そのとき、眼帯の少年がこちらを向いた。

 イッキと目が合う。

 

「……ファック」

 吐き捨てるような声。

 直後、ブルズの男が怒鳴った。

「おいガキ! こっちは何人いると思って――」

 ――ギュンッ!

 少年の身体が沈み、一気に加速した。

 ……速え!

 だが、見える。

 踏み込んだ足も、身体が向かった先も。

 咢は巨漢の懐へ潜り込むと、鋭く脚を振り上げた。

 

 ――ギャリッ!

 銀色の車輪が、男の喉元へ迫る。

 ……おいおい。

 初っ端から、随分えげつねえな。

 俺は思わず口元を緩めた。

 この前は、イッキたちを相手に好き放題走れた。

 だが、相手が王級のライダーだったら?

 あの速さで攻め込まれたとき、俺は同じように動けるのか。

 

 ……試してみてえな。

 もちろん、簡単に通じるとは思っていない。

 それでも。

 夜王と戦い、みかんさんに鍛えられ、ようやく掴みかけているこの速さ。

 今の俺なら、どこまでやれる?

 目の前で牙を剥く少年から、俺は目を離さなかった。

 

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 一度目の死後、彼はギルガメッシュとして古代ウルクに生を受けた。▼ 王となり、エルキドゥと出会い、その死を見届け、不死を求めて世界を巡る。▼ やがて自ら不死を捨て、ウルクの王として126年の生涯を終えた。 ▼ そして、二度目の死。▼ 次に目を覚ました時、ギルガメッシュは再び若き肉体を得ていた。▼ そこは、魔法使いたちが存在する現代――『魔法先生ネギま!』の世…


総合評価:8101/評価:7.41/連載:24話/更新日時:2026年09月20日(日) 23:43 小説情報


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