頑張ったヤチヨへのご褒美イベント
ツクヨミでの冒険から、数か月が経ちました。
冬の寒さも少しずつ和らぎ、窓の外から差し込む日差しにも、どこか春の気配が感じられるようになってきた頃。
私は、ある計画を立てていました。
それは――ヤチヨへのご褒美イベントです!
そもそものきっかけは、数か月前に遡ります。
あの日、私はヤチヨに案内されて、初めて一人のユーザーとしてツクヨミの世界を楽しみました。
美しい街並みを歩き、様々な場所を巡り、KASSENを体験して。そして最後には、私たちが縄文時代に過ごした、あの思い出の場所まで再現してくれました。
あれは、ヤチヨから私への素敵なプレゼントでした。
けれど、あの場所を用意してくれた理由を聞いたとき、私は少し考え込んでしまったのです。
ヤチヨは普段、ツクヨミの管理者として世界の運営を支えています。もちろん、それだけではありません。AIライバーとしての活動もあり、配信やライブ、ユーザーとの交流など、毎日とても忙しそうにしています。
そんなヤチヨが、私のために時間を作り、あんなにも素敵なプレゼントを用意してくれたのです。
ならば、勇者アリスとして黙っているわけにはいきません!
大切な仲間からプレゼントをもらったのなら、今度は私がお返しをする番です。
そう考えた私は、ヤチヨへのご褒美イベントを計画することにしました。
そして、まず考えたのが開催場所です。
前回、ヤチヨは仮想世界ツクヨミを案内してくれました。
ならば今回は、私が現実世界を案内するのはどうでしょう?
ヤチヨが現実の身体を取り戻してから、まだ一年も経っていません。
それまでの約八千年間、ヤチヨはずっと小さなウミウシの姿で過ごしてきました。人間のように自由に歩き回ることも、旅行を楽しむことも、簡単にはできなかったはずです。
そして、ようやく身体を取り戻した今も、ツクヨミの運営やライバーとしての活動で忙しい毎日を送っています。
せっかく自由に動ける身体を手に入れたのですから、もっと色々な場所へ出かけて、たくさんのものを見て、食べて、楽しんでほしい。
きっと、素敵な思い出になるはずです!
もちろん、これはヤチヨだけの話ではありません。
私たちには、もう一人……いえ、一匹、大切な仲間がいます。――FUSHIです。
FUSHIもまた、八千年もの長い旅路を共にしてきた仲間です。楽しいときも、悲しいときも、数え切れないほどの出来事を一緒に乗り越えてきました。
そんな大切な仲間を、置いていくわけにはいきません。
今回のご褒美イベントは、三人で楽しむ旅行にしましょう!
そうと決まれば、次は行き先を決めなければなりません。
私は旅行のパンフレットを集め、インターネットでも情報を調べることにしました。
国内には魅力的な観光地がたくさんあります。美しい自然、歴史ある建造物、温泉に海。どこも楽しそうで、なかなか一つに絞ることができません。
しかし、いくつもの候補を見比べているうちに、ふと目に留まった場所がありました。
『京都府』
歴史ある寺社仏閣に、昔ながらの街並み。石畳の道や町家が並ぶ風景は、まるで昔の時代に迷い込んだかのようです。
……これは、良いですね!
思えば、私たちが作り上げてきたツクヨミの街並みも、和風を基調としたものです。
水上に浮かぶ島々に、趣のある建物や大きな鳥居。夜空を彩る光や、どこか幻想的な雰囲気。
そんなツクヨミの世界に影響を与えたものの一つが、京都のような歴史ある街並みなのかもしれません。
実際に訪れてみれば、きっと新しい発見があるでしょう。
それに、京都には美味しい食べ物もたくさんあります!
抹茶を使った甘味に、和菓子、湯葉料理、京料理……。
写真を眺めているだけでも、どれも美味しそうです。
……決まりました!
今回のご褒美イベントの開催地は、京都です!
私はさっそく旅行の計画を立て始めました。
観光する場所を調べ、食べたいものを選び、移動手段や宿泊先も確認していきます。
もちろん、ヤチヨにはまだ秘密です。
ふふふ……。きっと驚いてくれるでしょう。
そして、いよいよ旅行当日。
春の訪れを感じさせる穏やかな朝、私はヤチヨとFUSHIと一緒に出かける準備を整えていました。
今日の私の服装は、白いパーカーに紺色のロングスカート。腰には黒と青のウエストポーチを身につけ、足元は白いスニーカーです。
一方のヤチヨは、白いノースリーブに赤いラインの入った茶色のチェック柄ロングスカート。肩には薄茶色のカーディガンを羽織り、足元は茶色のブーツという、落ち着いた上品な装いでした。
そして、FUSHIはいつもの白い子犬の姿です。
三人そろっての旅行。準備は万全です!
……あっ、そうでした。
忘れてはいけないことが一つあります。
私の頭上には、幾何学模様の青いヘイローが浮かんでいます。
もちろん、これをそのままにしておくわけにはいきません。普通の人たちに見られてしまえば、色々と面倒なことになるでしょう。
そのため、以前からシステムウィンドウの機能を利用して、周囲の人間にはヘイローが認識されないように視認制御を行っています。
見た目には何も変わりませんが、これで準備は万全です!
「ヤチヨ、準備はできましたか?」
「うん、ばっちり! ヤッチョ、いつでも出発できますぞよ~~☆」
「ふふふ。実は、今日はヤチヨのために特別なイベントを用意しました!」
「えっ? なになに? ヤッチョのため?」
「はい! 前回、ヤチヨがツクヨミを案内してくれたお礼です。今回はアリスが現実世界を案内します!」
「おおっ! それは楽しみだねぇ!」
ヤチヨは目を輝かせ、嬉しそうに笑いました。
「それで、それで? 行き先はどこなの?」
「京都府です!」
「おお~~! 京都かぁ! いいねぇ、京都!」
「はい! 今回は観光が目的ですからね。お仕事のことは忘れて、思いっきり楽しみましょう!」
「わ~~い! それは素晴らしいご褒美ですなぁ! ヤッチョ、今からわくわくが止まりませんぞよ~~☆」
ヤチヨは両手を軽く握り、弾むような声で喜びました。
その隣では、FUSHIが静かにこちらを見上げています。
「FUSHIも楽しみですか?」
私が尋ねると、FUSHIは小さく頷きました。
「行くぞお」
「はい! 三人で楽しみましょう!」
「おおっ、FUSHIもやる気満々だねぇ!」
ヤチヨはFUSHIの頭を優しく撫でました。
「えへへ。今日はアリスにいっぱい甘えちゃおうかな!」
「お任せください! 今回のクエストは、ヤチヨとFUSHIに最高の思い出をプレゼントすることです!」
「よーし! それじゃあ、今日一日よろしく頼むよ、私の勇者!」
「はい! 勇者アリスにお任せください!」
こうして私たちは、春の京都へ向けて出発しました。
大切な仲間たちへの、ささやかで、とびきり素敵なご褒美イベント。
さてさて、どんな冒険が待っているのでしょうか!