本編に関係があるかは知らん。何なら一部キャラ崩壊が起きているかも……
以上の事が許せる方のみお進みください。
アリス、ヤチヨ、かぐや、彩葉の四人がホラーゲームを実況するIFの話。
【番外編】四人でホラーゲーム実況!
「神々のみんな~~、ヤオヨロ〜! 本日の配信にはなんと!AL1CE(アリス)とかぐや、イロPのスペシャルゲストを三人もお迎えしておりまーす!今回はヤッチョを入れたこの4人でホラゲー実況をやっていくよ~~!」
ツクヨミの配信ルームに、ヤチヨの明るい声が響いた。
画面の中央には、いつものように楽しげな笑顔を浮かべたヤチヨのアバター。その左右には、アリス、かぐや、彩葉のアバターが並んでいる。
配信タイトルは『【絶叫注意?】四人で和風ホラーゲームに挑戦!』。
今回のゲーム操作を担当するのはアリス。ヤチヨ、かぐや、彩葉の三人は、画面を見ながらアドバイスや応援をする役だ。
コメント欄は、配信開始直後から大いに賑わっていた。
《待ってました!》
《今日は四人コラボ!?》
《ホラーゲームってマジ?》
《ヤチヨさん、ホラー大丈夫なんですか?》
「いやいや、皆の者。ヤッチョを誰だと思っているのかね?」
ヤチヨは胸を張る。
「ツクヨミの人気配信者、月見ヤチヨですよ? ホラーゲームくらい余裕のよっちゃんですとも!」
「その自信、どこから来るの……」
彩葉が早速ツッコミを入れた。
「彩葉、今のうちに言っておきますが、ヤッチョはこう見えて肝が据わっているのですぞ」
「こう見えてって、自分で言うことじゃないでしょ」
「大丈夫です! アリスもホラーゲームは初めてですが、ゲームである以上、クリアできるはずです!」
「おお、頼もしい! さすがアリス!」
「ふふん。ま、怖いものなんてないけどねー」
かぐやは椅子の上で足をぶらぶらさせながら、ゲーム画面を覗き込んでいた。
「それで、今日はどんなゲームをするの?」
「こちらです!」
ヤチヨがタイトル画面を表示する。
そこには、夕暮れ時の住宅街を背に、ひとりの少女が立っていた。
画面中央に表示されたタイトルは――
『つ○のひ ―帰り道―』
「……なんか、すでに嫌な雰囲気がするんですけど」
彩葉が眉をひそめる。
「えー? 普通の帰り道じゃない?」
かぐやは興味津々といった様子で画面に顔を近づけた。
「ふむふむ。日本の住宅街を舞台にしたホラーゲームですね。日常の中に潜む怪異を探しながら進むタイプでしょうか」
「そうそう! じわじわ怖くなるタイプらしいよ!」
ヤチヨが説明する。
「ちなみに、ゲームの説明には『最後まで振り返らずに帰りましょう』って書いてあるね」
「……振り返らずに?」
彩葉がその一文を読み上げる。
「こういうのって、振り返ったら何かいるんじゃないの?」
「かぐや、そういうことを最初に言うのはやめて!」
「えー? だって、そういうゲームでしょ?」
「では、さっそく始めましょう!」
アリスがコントローラーを構えた。
「操作はアリスにお任せください! 攻略開始です!」
「おー!」
かぐやが手を上げ、ヤチヨもそれに続く。
彩葉だけは、少しだけ嫌そうな顔をしていた。
「……本当に大丈夫かな、これ」
---
1.いつもの帰り道
ゲームが始まる。
画面に映し出されたのは、夕暮れの住宅街だった。
赤く染まった空。電線の影。道路脇に並ぶ古い家々。遠くから聞こえるカラスの鳴き声。
どこにでもありそうな、ありふれた日本の街並み。
操作キャラクターは、ランドセルを背負った小学生くらいの少女だった。
画面下には、短いメッセージが表示される。
『今日は遅くなっちゃった』
『早く帰らないと』
「おお、雰囲気あるねえ」
かぐやが感心したように声を上げる。
「夕暮れの住宅街って、なんだか懐かしい感じがするよね」
「分かります! 夕方の景色は綺麗です!」
「まあ、最初は普通の帰り道みたいですね」
彩葉も画面を見ながら言った。
「これなら、そこまで怖くなさそうだけど……」
「ふふふ。イロPさん、油断は禁物だよ~~?」
ヤチヨが意味ありげに笑う。
「その呼び方、配信中だからってわざとらしくない?」
「いいではないか! せっかくのコラボですぞ!」
コメント欄にも反応が流れる。
《イロP呼び定着してるw》
《AL1CEちゃんがんばれ!》
《かぐやちゃん余裕そう》
《ヤチヨさん、もう怖がってそう》
「おや? ヤッチョへの信頼が足りないようですな?」
ヤチヨがコメントを読み上げている間にも、少女は住宅街を歩いていく。
最初の交差点を右に曲がる。
そこには、自動販売機が一台置かれていた。
「自販機だ!」
かぐやが反応する。
「何か買えるのかな?」
「このゲーム、アイテムを使うタイプではなさそうですね」
アリスが操作画面を確認する。
少女が自動販売機の前を通り過ぎようとした、その時。
――カタン。
小さな音がした。
「ん?」
彩葉が画面を見る。
自動販売機の取り出し口から、何かが落ちたような音だった。
しかし、取り出し口には何もない。
「今の音、何?」
「自販機の音でしょうか?」
アリスが首を傾げる。
「いや、何か落ちた音に聞こえたけど……」
彩葉がそう言った直後。
自動販売機の横にある暗い隙間から、白い指が一本、ゆっくりと伸びた。
「……え?」
誰もが一瞬、言葉を失った。
指は地面に触れ、まるで何かを探すように動く。
一本。
二本。
三本。
やがて、隙間から手首が現れた。
手のひらは異様に白く、皮膚は水にふやけたように皺だらけだった。
その手が、道路の上を這い始める。
ずる……。
ずる……。
指先がアスファルトを擦る音が、妙に生々しく響いた。
「……あれ、手ですよね?」
アリスが確認する。
「うん。手だね」
かぐやが頷く。
「なんで自販機から手が出てくるの?」
「いや、そんな冷静に分析しないでよ!」
彩葉が声を上げた。
画面の中の手は、少女の足元へ向かってゆっくりと伸びてくる。
少女は何も気づいていない。
手が靴のすぐ横まで来た、その瞬間――
ガッ!
白い手が少女の足首を掴んだ。
「「「「うわあああああっ!!!」」」」
四人の声がほぼ同時に重なった。
アリスは椅子の上でびくっと跳ね、かぐやは思わず身体を後ろに反らす。彩葉は反射的にアリスの腕を掴み、ヤチヨは両手で顔を覆った。
「び、びっくりしました! 今のは予測できません!」
「うわっ!? なに今の! 手、めっちゃ近かったんだけど!」
「だから嫌だって言ったじゃん!!」
「ちょっと待って! ヤッチョ、こういうの聞いてないーー!!」
ゲーム画面では、少女が足を振りほどくと、白い手は何事もなかったかのように自動販売機の隙間へ戻っていった。
その後には、何も残らない。
ただ、画面の端に小さく文字が表示されていた。
『見つけた』
「…………」
四人の間に、短い沈黙が流れた。
「……今の、何ですか?」
アリスが恐る恐る画面を見つめる。
「手が出てきて、足を掴んで、戻っていったね」
かぐやが指を折りながら整理する。
「いや、そういうことじゃなくて!」
彩葉が即座に突っ込んだ。
「ヤッチョは今のを見ていません。見ていませんよ!」
「見てたでしょ!」
「見ていません!」
「じゃあ、なんで顔隠してるんですか?」
アリスに指摘され、ヤチヨはゆっくりと手を下ろした。
「……演出に合わせたリアクションです」
「絶対違う」
彩葉の冷静な一言が刺さる。
コメント欄は大盛り上がりだった。
《四人とも反応よすぎw》
《AL1CEちゃん飛んだw》
《かぐやちゃんの冷静さ好き》
《ヤチヨさん顔隠してるw》
《イロPの悲鳴が一番リアル》
「……もう一回、あの手を見たいな」
かぐやがぽつりと呟いた。
「えっ?」
「今の、どうやって出てきたのか気になる。もう一回見られないかな?」
「見なくていいから!!」
彩葉が即座に拒否した。
---
2.誰もいないはずの通学路
ゲームを再開する。
少女は自動販売機のある道を抜け、住宅街の奥へ進んでいく。
道の両側には、古い家が並んでいた。
庭先には洗濯物が干され、玄関先には植木鉢が置かれている。
しかし、妙なことに気づく。
どの家にも、人の姿がない。
窓の向こうは暗く、玄関の扉はすべて閉ざされている。
先ほどまで聞こえていたカラスの鳴き声も、いつの間にか消えていた。
「……静かになりましたね」
アリスが呟く。
「うん。さっきまで生活音があったのにね」
かぐやも画面を見つめる。
「こういうの、嫌だなあ」
彩葉が小さく息を吐いた。
その時、画面の奥に人影が見えた。
道路の向こう側。
電柱のすぐ横に、誰かが立っている。
黒い髪。
白い服。
小柄な女の子のようだった。
「……あれ?」
彩葉が画面を指差す。
「人がいますね」
アリスが操作を止める。
人影は、こちらに背を向けて立っていた。
少女が一歩進む。
人影は動かない。
もう一歩。
人影の姿が、少しだけ大きくなった。
「……近づいてません?」
「いや、歩いてないよね?」
彩葉が確認する。
「うん。ずっと同じ場所に立ってる」
かぐやが答えた。
少女がさらに進む。
そのたびに、人影は少しずつ大きくなる。
まるで、距離だけが勝手に縮まっているようだった。
「これ、進んでいいんですか?」
アリスが尋ねる。
「進まないとゲームが進まないんじゃない?」
かぐやはむしろ楽しそうだった。
「じゃあ、行ってみよう!」
アリスが少しずつ操作を進める。
「ちょっと待ってアリス!こういう時は慎重に――」
人影との距離が縮まる。
あと少し。
あと少し。
そして、画面が一瞬だけ暗転した。
再び明るくなった時。
人影は、画面のすぐ目の前に立っていた。
顔は長い黒髪に覆われている。
首が、不自然な角度で傾いていた。
「…………」
誰も声を出せない。
次の瞬間。
女の首が、ぎぎぎぎ、と音を立ててこちらを向いた。
髪の隙間から見えた顔には、目がなかった。
「うわああっ!? なに今の! 顔が近いって!」
かぐやが大きく後ろへ跳ねた。
「ひゃあっ!? か、顔が! 画面いっぱいです!」
アリスも両手を胸元に引き寄せる。
「きゃああああっ!! もう無理! 無理なのです!!」
ヤチヨは悲鳴を上げながら、椅子の背もたれに隠れるように身を縮めた。
「いやあああっ! もう無理! だから絶対何か出ると思ったんだってば!!」
彩葉は思わず目を閉じてしまった。
ゲーム画面には、女の顔がしばらく映り続ける。
その口が、ゆっくりと開いた。
『おかえり』
音声は、ひどく小さかった。
まるで耳元で囁かれたように聞こえる。
そして、女は画面の外へ消えていった。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……今の、怖かったね」
かぐやがようやく口を開いた。
「今のはちょっと怖かった」
「ちょっとどころじゃないです!」
彩葉が即座に返す。
「でも、もう一回見たい!」
「なんで!?」
「だって、どうやって近づいてきたのか気になるじゃん!」
「かぐや、好奇心が勝ちすぎ!」
アリスは画面を見つめながら、少しだけ考え込む。
「今の演出は、プレイヤーが進むことで怪異との距離が変化する仕組みだったようです。姿が大きくなるのではなく、実際に距離が詰まっているように見せていました」
「つまり、近づいてきてたってこと?」
彩葉が尋ねる。
「おそらくそうです!」
「……説明されると余計に嫌なんだけど」
「ヤッチョはもう、帰り道を変えたいです」
「ゲームの中の話ですよ?」
「分かっておりますとも! でも、怖いものは怖いのです!」
コメント欄は、さらに加速していた。
《ヤチヨさんwww》
《かぐやちゃんもう一回見たいの草》
《イロPの悲鳴がガチ》
《AL1CEちゃん解説助かる》
《おかえり、って言った?》
「……あれ?」
彩葉がコメントを見て、ふと画面に目を戻した。
「今の女の人、最後に『おかえり』って言いってなかった?」
「言いましたね」
アリスが頷く。
「でも、あの子は初めて会った相手のはずだよね?」
かぐやが首を傾げる。
「……帰り道、だからじゃない?」
彩葉が呟いた。
その言葉に、誰もすぐには返事をしなかった。
---
3.後ろから聞こえる足音
少女はさらに先へ進む。
住宅街を抜けると、小さな公園があった。
ブランコが二つ。
滑り台が一つ。
砂場には、誰かが作ったらしい小さな山が残っている。
夕焼けはいつの間にか薄暗くなり、空の色は紫がかっていた。
「公園だ!」
かぐやが声を上げる。
「ちょっと遊んでいこうよ!」
「いま家に帰っている途中ですよ?」
アリスが冷静に指摘する。
「ゲームなんだから、寄り道くらいできるでしょ!」
かぐやが操作を促すようにアリスを見る。
しかし、少女は公園の入り口を通り過ぎるだけだった。
「入れないみたいですね」
「えーー、残念」
かぐやは少しだけ不満そうに頬を膨らませた。
その直後。
――キィ……。
ブランコが揺れた。
風は吹いていない。
それなのに、片方のブランコだけがゆっくりと前後に揺れている。
「……風、吹いてないよね?」
彩葉が確認する。
「そうですね。木の葉も動いていません」
アリスが答えた。
ブランコの揺れは、少しずつ大きくなっていく。
キィ……。
キィ……。
キィ……。
そして、画面の奥にある砂場に、小さな赤い靴が置かれていることに気づいた。
片方だけ。
子供用の靴だった。
「……あれ、さっきからありました?」
「最初はなかったと思う」
かぐやが答える。
少女が公園を通り過ぎようとすると、画面に文字が浮かんだ。
『いっしょにあそぼう』
「うわ……」
彩葉の声が小さくなる。
『いっしょにあそぼう』
同じ文字が、もう一度表示された。
そして、ブランコの揺れが止まる。
完全に。
不自然なほど、ぴたりと。
その直後、少女の背後から。
ぺた。
ぺた。
ぺた。
裸足で歩くような音が聞こえ始めた。
「……え?」
アリスが操作を止める。
ぺた。
ぺた。
ぺた。
足音は、少女の後ろから聞こえてくる。
画面上には何も映っていない。
「後ろに誰かいるんじゃない?」
かぐやが楽しそうに言う。
「楽しそうに言わないで!」
彩葉が声を荒げた。
足音が止まった。
そして。
少女が歩くのを止めても、足音だけが一歩、近づいた。
ぺた。
「…………」
もう一歩。
ぺた。
「ちょっと待ってください」
アリスの声が低くなる。
「今、少女は動いていません。それなのに足音が近づいています」
「うん。分かってる。分かってるから、言わないで」
彩葉が画面を凝視する。
足音が、すぐ後ろまで迫っていた。
そして、画面の右端。
ほんの一瞬だけ、白い足が映った。
「ひっ……!」
彩葉が息を呑む。
「見えた?」
かぐやが身を乗り出す。
「見えました。右端に……足が」
アリスが画面を拡大しようとした、その瞬間。
画面全体が激しく乱れた。
ザザザザザッ!!
ノイズの中に、子供の笑い声が混じる。
『ねえ』
『どうして』
『おいていくの』
「きゃあああああっ!!」
ヤチヨの悲鳴が配信ルームに響き渡った。
「ヤッチョ、もう後ろを見られない! 誰か確認してくだされー!」
「ヤチヨ、これはゲームの話です! こっちで後ろを見ても何もいませんよ!」
アリスが答える。
「そういう問題ではないのですぞ!!」
「うわっ、ちょっと待って! 画面が!」
かぐやが声を上げる。
ノイズが収まると、画面には少女の背中が映っていた。
その背後には、いつの間にか小さな女の子が立っていた。
白いワンピース。
濡れた黒髪。
顔は見えない。
女の子は少女の背中にぴったりとくっついていた。
そして、ゆっくりと顔を上げる。
画面の中で、口元だけが笑った。
『いっしょに、かえろう?』
「いやあああああっ!!」
彩葉が叫ぶ。
「近い近い近い! 近すぎるって!!」
かぐやも思わず椅子の背もたれにしがみついた。
「ひゃあっ!? い、今のは完全に不意打ちです!」
アリスは一度操作から手を離し、胸元を押さえていた。
「精神HPが大きく減少しました……!」
「アリスの精神HPって何!?」
彩葉が叫びながらも突っ込む。
「ヤッチョはもうHPがゼロです! ゲームオーバーです!」
「まだゲームは終わってないよ!」
「かぐやは、どうしてそんなに元気なの!?」
「怖いけど、面白いから!」
「その感覚が分からない!」
---
4.帰り道の終わり
ゲームは、いよいよ終盤に差しかかっていた。
少女は公園を抜け、最後の一本道へ入る。
そこには古い団地が並んでいた。
街灯は点滅し、窓の向こうは真っ暗。
道の先には、小さな踏切が見える。
「……あれ、家に帰るんじゃないの?」
彩葉が画面を見つめる。
「踏切を渡った先に家があるのかもしれませんね」
アリスが答える。
「でも、こんな時間に踏切を渡るのは危ないよね」
かぐやが言った。
画面の少女は、踏切の前で立ち止まる。
警報機は鳴っていない。
遮断機も上がったまま。
線路の向こうには、誰もいない。
ただ、遠くから電車の走行音が聞こえてくる。
ゴトン。
ゴトン。
ゴトン。
「電車が来るんでしょうか?」
アリスが呟く。
音は少しずつ大きくなる。
しかし、線路の向こうには何も見えない。
「……これ、電車の音だけじゃない?」
彩葉が眉を寄せる。
「そうですね。音が近づいているのに、車両が見えません」
「じゃあ、何が来てるの?」
かぐやが画面に顔を近づける。
その時、画面の左側にある団地の窓が、一斉に明るくなった。
一つ。
二つ。
三つ。
四つ。
窓の向こうに、人影が立っている。
どの窓にも。
同じように。
同じ姿で。
長い髪の女が、こちらを見ていた。
「……うそでしょ」
彩葉の声が震える。
人影は動かない。
ただ、少女が踏切に近づくにつれて、窓の中の女たちが少しずつ顔を傾けていく。
右へ。
左へ。
右へ。
左へ。
「うわぁ……気持ち悪い……」
かぐやが珍しく顔をしかめた。
「これは、少し嫌な感じがしますね」
アリスも慎重に操作する。
その時、画面の少女が踏切の前で振り返った。
「えっ?」
彩葉が声を上げる。
「今、振り返りましたよね?」
「はい。操作していないのに……」
アリスが答えた。
少女の後ろには、誰もいない。
しかし、画面の奥から、何かが近づいてくる音がした。
ずる。
ずる。
ずる。
足音ではない。
何か重いものを、地面に引きずっているような音。
そして、画面の端に白い手が映った。
自動販売機の時と同じ手だった。
今度は一本ではない。
何本もの手が、地面を這っている。
「……あ」
かぐやが小さく声を漏らす。
手は、画面の奥から次々と伸びてくる。
団地の窓から。
道路の側溝から。
踏切の向こうから。
そして、少女の足元へ。
「ちょ、ちょっと待ってください! 多すぎませんか!?」
アリスが声を上げる。
「いやいやいや、何あれなにあれ!? 増えてる増えてるって!!」
かぐやが慌てて椅子から離れる。
「ヤッチョ、こういう数で押してくるタイプは聞いてないーー!!」
ヤチヨはコントローラーを握ったまま、身を縮めていた。
「もう無理! 戻ろう!! 戻れないの!?」
彩葉が叫ぶ。
その瞬間、ゲーム画面が暗転した。
数秒間、何も映らない。
音も消える。
配信ルームに、奇妙な静けさが訪れた。
「……終わった?」
彩葉が小声で尋ねる。
「まだ分かりません」
アリスが答える。
「画面が暗いだけです。演出の可能性があります」
「そういう冷静な分析、今はやめてほしいな……」
かぐやが苦笑する。
その時。
暗闇の中から、声が聞こえた。
『ねえ』
少女の声だった。
『どうして、帰らないの?』
『ここが、おうちなのに』
「…………」
『ずっと、待ってたよ』
声が近づいてくる。
『ねえ』
『こっちを見て』
そして、画面が再び明るくなった。
そこには、少女の顔が大きく映っていた。
目は真っ黒で、口元は不自然に横へ広がっている。
その顔が、画面いっぱいに迫ってくる。
「ひゃあああああっ!?」
アリスが大きく跳ねた。
「うわああっ!? ちょっと待って! 顔! 顔が近いってば!」
かぐやが叫び、今度こそ椅子の背もたれに隠れた。
「きゃああああああ!! ヤッチョ、もう帰る!お家帰るからーー!!」
ヤチヨはコントローラーを放り出し、両手で顔を覆った。
「いやあああああっ!! もう本当に無理!! だから嫌だって言ったじゃん!!」
彩葉も悲鳴を上げ、思わず机に突っ伏した。
しかし――。
ゲーム画面は暗転しなかった。
少女の顔が、もう一度ゆっくりと動く。
そして、突然。
『――みぃつけた』
耳元で囁かれたような声とともに、顔が画面いっぱいに飛び出してきた。
「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」」」」
四人の絶叫が、見事なまでに重なった。
アリスはコントローラーを握ったまま椅子から飛び上がり、かぐやは両手で顔を覆いながら後ろへ飛び退く。
ヤチヨは椅子の背もたれに隠れるどころか、ほとんど床にしゃがみ込んでしまった。
彩葉はアリスの腕を掴んだまま、机に突っ伏している。
「「「「いやああああああああああっ!!!!」」」」
さらにもう一度、四人の悲鳴が重なった。
数秒後。
画面には、何事もなかったかのようにタイトルロゴが表示されていた。
『つ○のひ ―帰り道―』
その下に、小さく文字が浮かぶ。
『おかえりなさい』
そして、ゲームは終了した。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
誰も動かなかった。
配信ルームには、四人の荒い呼吸だけが残っている。
やがて、かぐやがゆっくりと顔を上げた。
「…………っぷ」
そして。
「――あはははははっ!! ちょっと、今の見た!? 四人とも同じタイミングで飛び上がったんだけど!!」
「笑い事じゃない!!」
彩葉が顔を上げる。
「い、今のは反則です!! あんなの心臓に悪すぎるでしょ!!」
アリスも胸元を押さえながら抗議した。
「アリスの予測処理が間に合いませんでした! あんなに突然出てくるなんて聞いていません!」
「ヤッチョも聞いていません! こんなの聞いていませんぞ!!」
ヤチヨはまだ顔を半分隠している。
「いや、今のは四人とも同じ声出してたね」
かぐやが笑いながら言った。
「そりゃ出るでしょ!!」
彩葉が即座に返す。
コメント欄も爆発していた。
《wwwwwwwww》
《四人の悲鳴が完全一致したwww》
《今の音量やばいwww》
《全員同時に飛び上がってて草》
《仲良しすぎるだろww》
《今日一番の絶叫いただきました》
《ヤチヨさんの悲鳴がすごいw》
《AL1CEちゃんもめっちゃ驚いてるw》
《かぐやちゃんまでガチ悲鳴ww》
《これは神回》
「…………皆の者」
ヤチヨがゆっくりと顔を上げる。
「今のは聞かなかったことに」
「無理です。アーカイブに残りますから」
アリスの冷静な一言に、ヤチヨは静かにうなだれた。
---
5.エンディングのあと
「…………」
誰も、すぐには喋らなかった。
配信ルームには、ゲーム終了後の静かなBGMだけが流れている。
最初に口を開いたのは、かぐやだった。
「……いやー、面白かった!」
「面白かったじゃない!」
彩葉が顔を上げる。
「最後の何!? あれ絶対、画面の外まで出てきてたでしょ!」
「でも、よくできてたよね。最初の手が最後にも出てくるところとか!」
「そういう感想は、怖くなかった人が言うやつです!」
「かぐやも怖かったよ?」
「本当に?」
「うん。最後の顔は、ちょっとびっくりした!」
「あれで、ちょっと!?」
彩葉が呆れた声を上げる。
その隣では、アリスがまだ画面を見つめていた。
「……今回のゲームは、怪異の出現タイミングがとても巧妙でした。最初に自動販売機の手を見せて、プレイヤーに画面の隅を警戒させてから、正面に大きな怪異を出す。最後には、警戒している方向とは違う場所から驚かせる構成です」
「流石。アリス、もう攻略分析に入ってる」
ヤチヨが感心したように言った。
「はい! 次にプレイする時は、もう少し冷静に対処できると思います!」
「次があるの!?」
彩葉がすぐさま反応する。
「もちろんです! 今回のクエストで得た経験値を活かして、次こそはノーダメージクリアを目指します!」
「アリス、最後にめちゃくちゃ驚いてたじゃん!」
かぐやが笑う。
「そ、それは不意打ちだったからです!」
「でも、アリスの悲鳴かわいかったよ」
「か、かぐや!」
アリスが少しだけ頬を膨らませる。
その様子を見て、ヤチヨもようやく笑顔を取り戻した。
「いやあ、皆さん素晴らしいリアクションでしたな! 特にヤッチョは、視聴者の皆様に恐怖を伝えるという重大な役割を――」
「顔隠してたじゃん」
彩葉が淡々と言った。
「……演出です」
「コントローラーも投げてたよね?」
かぐやが追撃する。
「……あれは、手が滑っただけですぞ」
「ヤチヨ、椅子の後ろに隠れていました!」
アリスが無邪気に指摘した。
「アリス! そこは言わなくていいところ!」
コメント欄は、最後まで大盛り上がりだった。
《最高のコラボだったw》
《四人の悲鳴が違ってて面白い》
《AL1CEちゃんの精神HPw》
《かぐやちゃんだけもう一回やりたがってる》
《ヤチヨさん、ホラー苦手説》
《イロPのツッコミが冴えてた》
《次回も待ってます!》
「ふふっ。皆さん、楽しんでいただけたようで何よりですな!」
ヤチヨはコメントを眺めながら、満足げに頷いた。
「ではでは、本日のコラボはここまで――」
「待って」
かぐやが口を挟む。
「もう一回だけ、最後のところ見ない?」
「えっ」
ヤチヨの笑顔が固まった。
「最後の顔、もう一度ちゃんと見たいんだよね。今度は驚かないと思うし」
「かぐや、正気!?」
「えー、だって気になるじゃん」
「アリスは、もう一度挑戦するのもありだと思います!」
「アリスまで!?」
「いや、私は絶対やらないからね!?」
彩葉が即座に宣言した。
「イロP~~、そんなこと言わずに~~」
「言うよ! 私はもう十分楽しんだ!」
「ヤッチョは……」
ヤチヨは、少しだけ間を置いた。
「……ヤッチョは、皆がやるなら付き合いますぞよ」
「えっ! 本当?」
かぐやが笑う。
「ただし、次は明るいゲームにしましょう。かわいい動物を育てるゲームとか!」
「それ、ホラーの後にやるゲームじゃないよ?」
「いいではないか! 心のHPを回復するのです!」
「賛成です!」
アリスが元気よく手を上げた。
「アリスも、かわいい動物のゲームをやってみたいです!」
「じゃあ決まりだね!」
かぐやが笑顔で頷く。
「……最初からそれにしておけばよかった」
彩葉は深くため息をついた。
その時、配信画面に最後のコメントが流れる。
《みんな、後ろに誰かいるよ》
「…………え?」
彩葉が固まる。
「……今、何か言いました?」
「えっ、どれどれ?」
かぐやがコメントを覗き込む。
《画面の後ろ》
《ずっと立ってる》
《振り返らないで》
《おかえり》
「…………」
四人の視線が、ゆっくりと配信画面へ集まった。
そこには、四人のアバターが並んでいる。
そして、その一番後ろ。
暗い背景の中に、長い黒髪の女が立っていた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……え?」
アリスが小さく声を漏らす。
次の瞬間。
女の顔が、画面いっぱいに迫った。
『おかえり』
「「「「ギャアアアアアアアアアアアアッ!!!!」」」」
またしても四人の絶叫が完全に重なった。
「ひゃああっ!? まだ終わってなかったんですか!?」
アリスは椅子から飛び上がった。
「うわああっ!! なにこれ!? 配信画面にまで出てきた!?」
かぐやは大笑いしながらも、しっかり後ろに飛び退いていた。
「きゃあああああっ!! もうやだ! 絶対やだ!!」
ヤチヨは今度こそ椅子の後ろに隠れた。
「いやあああああっ!! もう本当に無理!!」
彩葉は頭を抱えた。
そして、画面が真っ暗になる。
配信終了の表示が出た。
---
「…………」
しばらくして。
ヤチヨが、震える声で呟いた。
「……今の、ゲームの演出ですかな?」
「配信画面にゲーム画面は映していましたけど、ゲーム自体は終了していました」
アリスが答える。
「つまり……?」
かぐやが首を傾げる。
「……分かりません」
「分からないの!?」
彩葉が叫ぶ。
その後、四人は念のため配信アーカイブを確認することにした。
だが、最後の数秒間だけ、映像が乱れていた。
コメント欄には、見覚えのないコメントが一つだけ残っていた。
《またあそぼうね》
「…………」
「……次のコラボは、絶対ホラー以外ね」
彩葉が静かに言った。
「賛成です!」
アリスが勢いよく頷く。
「ヤッチョも賛成ですぞよ……」
ヤチヨはまだ少し震えていた。
「えー、もう一回くらいならいいのに」
かぐやだけが、どこか楽しそうに笑っていた。
「かぐやは一人でやってて!!」
「えーっ!」
その日の四人の配信は、こうして幕を閉じた。