【かぐや視点】
旅を続ける中で、私たちは本当にたくさんの人々と出会った。
私に恋をしてくれた歌人。
空襲で焼け跡になった街で、それでも花を売り続けた少女。
二人三脚+一人で太夫を目指した花魁。
そして、命を賭して今を生きる人々。
彼らと一緒に笑い、泣き、時には同じ景色を眺めながら、私たちは長い時間を過ごしてきた。
彼らの人生は、どれも違っていた。
生まれた場所も、時代も、夢も、幸せの形も。
それでも、いつか必ず別れの日が訪れることだけは、誰も変わらなかった。
人間は、長くてもせいぜい五十年かそこらで、その生涯を終えてしまう。
病に倒れる者もいれば、戦に巻き込まれる者もいた。誰かの悪意によって命を奪われることもあれば、ただ静かに老いて、眠るように旅立つ者もいた。
昨日まで隣で笑っていた人が、ある日突然いなくなる。
一緒に過ごした時間も、交わした約束も、もう二度と確かめることはできない。
まるで、画面の中から少しずつ遠ざかり、最後には何事もなかったかのように消えてしまうように。
彼らと共に、私たちはたくさんの美しいものを見た。
山頂から眺める景色。季節ごとに移り変わる町並み。そして、今を必死に生きる人々の営み。
けれど、それと同じくらい、目を逸らしたくなるような惨状や、不幸を呪う悲痛な叫びも見てきた。
それは、私の故郷である月の世界とはあまりにも対照的だった。
月では誰も歳を取らない。
誰も本気で争うようなことはしない。
そして、誰も命を失ったりはしない。
そんな世界から来た私にとって、地球での出会いと別れは、あまりにも鮮烈だった。
何度も悲しんで、何度も寂しくなって、それでもまた誰かを好きになった。
────好きになれた。
『一緒に過ごした時間があったから、別れが悲しいんだよね。だったら、その時間まで悲しいものにしちゃいけないんだ』
昔、アリスに教えてもらったこと。このおかげで私は別れを怖がることはなかった。
そして隣には、いつもアリスがいてくれた。
変わらない姿で、変わらない声で、私の隣にいてくれた。
その変わらない笑顔に何度も救われてきた。
……本当に、長い旅だったと思う。
やがて時代は移り変わり、人々の暮らしも大きく変わっていった。
電話が生まれ、遠く離れた人と声を交わせるようになった。
ラジオやテレビが普及し、見知らぬ誰かの声や姿が、家の中にまで届くようになった。
そして、コンピューターが発達し、世界中の人々を繋ぐインターネットが生まれた。
私にとって、それは大きな転機だった。
これまでの私は、誰かと話をするためには、その人のいる場所まで行かなければならなかった。
けれど、インターネットなら違う。
遠く離れた場所にいる人とも、同じ時間に言葉を交わせる。
顔も知らない相手と友達になり、趣味の話で盛り上がり、時には悩みを相談することだってできる。
最初は、ただそれが嬉しかった。
掲示板に書き込んでみたり、チャットに参加してみたり、誰かの作ったホームページを覗いてみたり。
気づけば、私はすっかりネットの世界に夢中になっていた。
『いやー、インターネットってすごいね! まさか家にいながら世界中の人とお話できるなんて!』
『かぐや、最近はずいぶん楽しそうですね』
『そりゃあそうだよ! 見てよアリス、この人たち! 昨日も話したんだけど、すっごく面白いんだ!』
そう言って、私は画面の中のやり取りをアリスに見せた。
もちろん、そこには楽しいことばかりがあったわけではない。
意見がぶつかることもあれば、心ない言葉を投げかけられることもある。
それでも、私は世界が広がっていくのを感じていた。
地球のどこかにいる誰かが、今この瞬間にも私と同じ画面を見ている。
その人にも生活があって、好きなものがあって、誰かと話したいという気持ちがある。
そう考えるだけで、なんだか嬉しくなった。
そして、ある日。
私はふと思った。
――もし、この繋がりをもっと広げることができたなら。
もし、画面越しに言葉を交わすだけではなく、同じ場所に集まって、同じ景色を見て、同じ時間を過ごせる世界があったなら。
そこでは、誰もが好きな姿でいられる。
住んでいる場所も、身体の違いも、年齢も関係ない。
誰かと話したいと思った時に、誰かが応えてくれる。
寂しい時には隣に座ってくれる人がいて、嬉しい時には一緒に笑ってくれる人がいる。
もちろん、現実のすべてを変えられるわけではない。
それでも、少なくともそこにいる間くらいは、誰もが自由に、安心して過ごせる場所にできるかもしれない。
『……ねえ、アリス』
『はい、なんでしょう?』
『私、作ってみたいものがあるんだ』
『作ってみたいもの、ですか?』
『うん。誰もが自由に集まれて、好きなことをして、誰かと繋がれる世界』
私は画面の向こうに広がる、まだ見ぬ景色を思い浮かべた。
『そこなら、きっと誰も一人ぼっちにならない。遠くにいる人とも、もう会えなくなってしまった人とも……少しでも近くにいられるような、そんな場所を作りたいんだ』
言葉にしてみると、それは思っていた以上に大きな夢だった。
でも、不思議と無謀だとは思わなかった。
『いいですね! それはとても楽しそうです!』
アリスは、いつものように迷いなく頷いてくれた。
『ですが、どのように作るのでしょうか?』
『それはこれから考える! まずは、どんな世界にしたいのか、ちゃんと決めないとね』
そうして、私たちの新しい冒険が始まった。
□□□
最初に取り掛かったのは、世界の土台となる環境を整えることだった。
私は電子生命体だ。
情報を扱い、プログラムを書き、ネットワークを介して世界と繋がることはできる。けれど、現実世界にあるウミウシの体じゃ、機材を直接運んだり、配線を繋いだりすることはできない。
そこで頼りになるのが、アリスだった。
まずは、長い間一緒に旅をしてきた宇宙船『もと光る竹』を、開発の中核として使えるように整備することになった。
船そのものは小さいけれど、内部には私が扱うための機能が残っている。これをコンピューターや外部のストレージ、ネットワーク機器と接続し、ツクヨミの基盤として利用するのだ。
アリスは機材の調達から設置、配線、接続の確認まで、物理的な作業を一手に引き受けてくれた。
もちろん、最初から何もかも順調だったわけではない。
必要な部品が手に入らなかったり、規格が合わなかったり、そもそも私の要求する性能を満たす機材が存在しなかったり。
そんな時は、アリスが調べて、試して、時には部品を組み合わせて代用品を作ってくれた。
『かぐや、この接続方式では通信速度が不足しています。別の機器を用意する必要があります』
『うーん、やっぱりそうかぁ。じゃあ、こっちの構成ならどうかな?』
『確認します。……はい、こちらなら要求を満たせそうです』
『よし! じゃあそれでいこう!』
そんなやり取りを、何度繰り返したことだろう。
私がプログラムを書き、アリスがそれを動かすための環境を整える。
不具合が起きれば一緒に原因を探し、必要なら構成そのものを見直す。
膨大な量のプログラミングは、基本的に私が担当した。
仮想空間の構造、アバターの仕組み、通信処理、ユーザー同士の接続、世界の管理システム。
考えなければならないことは山ほどあったし、実際に書いたコードの量も途方もないものになった。
アリスには、その補助をお願いした。
私が作ったプログラムの動作確認をしたり、問題が起きた時にログを確認したり、必要な情報を整理してくれたり。
アリスがいなければ、もっとずっと時間がかかっていたと思う。
それから、もう一つ大きな課題があった。
ツクヨミに入るためのデバイスだ。
誰もが気軽に使えるものにしたい。
大きな機械を部屋に設置する必要があったり、複雑な装置を身に着けなければならなかったりするのでは、せっかくの世界に参加できる人が限られてしまう。
そこで考えたのが、コンタクト型のVRデバイスだった。
名前は『スマコン』。
目に装着するだけで仮想世界へ接続できる、コンパクトなデバイスだ。
もっとも、最初から理想の形が完成していたわけではない。
映像をどう表示するか。視線や身体の動きをどう読み取るか。長時間装着しても問題がないか。通信や電力をどう確保するか。
課題は山積みだった。
その初期プロトタイプの設計にも、アリスが大きく関わってくれた。
私が電子的な構造や必要な機能を考え、アリスがそれを現実の部品として形にしていく。
小さな部品を並べ、何度も設計を修正し、試作品を組み立てては動作を確かめる。
『かぐや、装着時の負荷を減らすなら、こちらの構造の方が適切だと思います』
『なるほど! 確かにその方がいいね。じゃあ、制御部分はこっちに変更してみよう』
『了解しました』
『それにしても、目に入れるものを作るって大変だね……』
『はい。安全性の確認も必要です。焦らず進めましょう』
『うん。ここは慎重にいこう!』
アリスは、いつだって真剣だった。
私の夢を、ただ面白そうだからという理由だけで手伝ってくれているわけではない。
私が本気で作りたいと思っていることを理解して、同じように本気で取り組んでくれていた。
それが、どれほど嬉しかったことか。
それから、アリスにはもう一つ、大切な役割があった。
人の世との橋渡しだ。
私はネットを通じて多くの人と交流していたけれど、現実世界で人と会い、必要な機材を調達し、協力者を探すとなれば話は別だった。
その点、アリスは人間社会の中で自然に行動できる。
必要な機材を探し、取引先と連絡を取り、協力してくれる人たちと話をする。時には私の代わりに説明をして、時には私の考えを分かりやすく伝えてくれた。
もちろん、私自身もネットを通じてやり取りをした。
そうして少しずつ、私たちの計画に興味を持ってくれる人たちが増えていった。
資金を援助してくれる人。技術面で協力してくれる人。試作品を使って意見をくれる人。
私たち二人だけでは到底できなかったことが、少しずつ形になっていった。
気づけば、部屋の中はコンピューターや機材でいっぱいになっていた。
『もと光る竹』は水槽の中に収められ、周囲の機器と接続されている。
その傍らには、何台ものコンピューターとストレージ、通信機器が並び、試作段階のスマコンもいくつか置かれていた。
決して広いとは言えない部屋だったけれど、私たちにとっては世界を作るための大切な場所だった。
そして、長い開発の末。
ついに、ツクヨミのプロトタイプが形になった。
まだまだ未完成な部分は多い。
それでも、誰かがログインして、アバターを作り、仮想世界の中を歩き回ることができる。
そこには、私たちが思い描いていた世界の始まりがあった。
『……できた』
思わず、そんな言葉がこぼれた。
画面の中には、何もない広場が広がっていた。
まだ建物も少なく、景色も簡素なものだ。
けれど、そこには確かに誰かが集まるための場所があった。
『かぐや! 成功です!』
『うん……うん! 成功だよ、アリス!』
私は嬉しくて、何度も画面を確認した。
自分が作った世界に、誰かが来てくれる。
それだけのことが、こんなにも嬉しいなんて思わなかった。
けれど、私はまだ満足していなかった。
この世界をもっと大きくしたい。
もっと多くの人に来てほしい。
ここで誰かと出会い、友達になり、笑い合ってほしい。
そうして、誰もが自由に過ごせる場所にしたい。
それが、私の願いだった。
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開発を続ける中で、私はあることに気づき始めていた。
ずっと昔から、心のどこかに残っていた感覚。
まだ言葉にもできず、形にもできなかったもの。
けれど、ツクヨミを作ろうとする今になって、それが少しずつはっきりしてきた。
私が作ろうとしている世界。
誰もが集まり、歌い、笑い、好きな姿で自由に過ごせる場所。
その景色を、私は知っている。
初めて見るはずなのに、懐かしい。
ずっと昔から、そこに帰りたいと思っていたような気がする。
そして、ある日。
私は一つの名前に辿り着いた。
月見ヤチヨ。
それは、これから私が名乗ることになる名前だった。
最初は不思議だった。
どうして、その名前がこんなにも自然に思い浮かぶのだろう。
どうして、まだ会ったこともない誰かのように感じるのだろう。
けれど、考えれば考えるほど、答えは一つに繋がっていった。
……なんて、バカだったんだろう。
どうしていままで気づかなかったんだろうか、思わず自嘲してしまう。
私が、月見ヤチヨになる。
そして、ツクヨミを作る。
それは、ただの夢や思いつきではなかった。
ずっと昔から決まっていたことのように、私には思えた。
そして、その先にもう一つ。
私がずっと会いたいと願っていた人がいた。
彩葉。
長い旅路の中で、何度も思い出してきた大切な人。ずっとずっと大好きな人。
もう一度会いたいと願いながら、それでも何度も届かないじゃないかともう会えないんじゃないかと不安に思っていた。
けれど、今なら分かる。
この世界の流れは、一度きりではない。
生まれて、出会って、別れて、そしてまた巡っていく。
世界は何度も何度も繰り返されている。
私が今ここにいることも、ツクヨミを作ろうとしていることも、その繰り返しの中にある。
そして、その先には彩葉がいる。
必ず、また会えることが確信した。ほんのあと数十年の間に。
それが分かった瞬間、胸の奥にあった長い間の寂しさが、和らぎ、無いはずの心臓が高鳴ったように感じた。
『……かぐや?』
アリスの声で、私は我に返った。
『どうしたんですか? 急に黙ってしまって』
『ううん。なんでもないよ』
『そうですか?』
『うん。ただね、私……これからは、ヤチヨって呼んでほしいんだ』
『ヤチヨ、ですか?』
『そう。月見ヤチヨ。これからの私の名前』
アリスは少しだけ首を傾げたあと、すぐに頷いた。
『分かりました。これからはヤチヨですね!』
『うん! よろしくね、アリス!』
『はい!』
アリスはいつもと変わらない笑顔を見せてくれた。
きっと、私が何に気づいたのかは分かっていないのだろう。
輪廻のことも、世界が繰り返されていることも、彩葉との再会が約束されていることも。
今のアリスには、まだ分からない。
でも、それでいいと思った。
いつか、きっと分かる日が来る。
その時に、また話せばいい。
今はただ、この子と一緒にいられることが嬉しかった。
『ねえ、アリス』
『はい?』
『ツクヨミを、もっと素敵な場所にしよう』
『もちろんです! まだまだやることはたくさんありますからね!』
『ふふっ、そうだね!』
私はもう一度、画面の中に広がる広場を見つめた。
ここから始まる。
誰かと誰かが出会い、繋がり、笑い合う世界。
いつか、彩葉にも届く世界。
そして、いつか誰かがこの場所で歌ってくれるなら。
その歌声が、世界のどこかにいる誰かの心に届くなら。
きっと、それは素敵なことだと思う。
□□□
ツクヨミのプロトタイプが完成してから、私たちは次の段階へ進んだ。
まずは実際に人に使ってもらい、問題がないか確かめる必要がある。
アリスが用意してくれたスマコンの試作品を使い、少人数でのテストを繰り返した。
仮想空間の中で歩く。
アバターを動かす。
他の人と会話をする。
簡単なゲームを遊んでみる。
一つずつ機能を確かめ、問題があれば修正する。
そのたびに、私たちは少しずつ世界を広げていった。
『ヤチヨ、こちらのアバターの動作に遅延が発生しています』
『あー、やっぱりそこかぁ。通信処理を見直してみるね』
『お願いします。こちらでも再現条件を確認しておきます』
『ありがと、アリス!』
そんな日々が続いた。
うまくいくこともあれば、失敗することもあった。
何度も何度も修正して、ようやく動いたと思ったら別の問題が見つかる。
それでも、私は楽しかった。
少しずつ、私の夢が形になっていく。
そして、いよいよ。
ツクヨミを多くの人に知ってもらうための、最初の大きな催しを開くことになった。
初めてのライブだ。
もちろん、まだ本格的なものではない。
会場となる広場も、観客の人数も限られている。
それでも、私にとっては大切な一歩だった。
私は歌を届けたい。
誰かに聴いてもらいたい。
そして、その歌を通じて、誰かと繋がりたい。
それは、ずっと昔から抱いていた願いだったのかもしれない。
ライブ当日。
私はステージの上に立っていた。
視界の先には、アバターの姿をした人たちが集まっている。
その数は、決して多くない。
広場の一角に設けられた小さなステージ。その前に、十数人ほどの人たちが集まってくれているだけだった。
記憶の中にある、あの大きなライブとは比べものにならない。
けれど、それでも。
私にとっては、待ちに待った瞬間だった。
『ヤチヨ、準備はできています』
舞台袖から、アリスの声が聞こえた。
『うん。ありがとう、アリス』
『音響、映像、通信、すべて正常です。いつでも始められます』
『ふふっ、頼もしいね』
『当然です! アリスはこのライブの成功を全力でサポートします!』
その言葉に、私は笑った。
大丈夫。
きっとできる。
私はステージの中央へ進み、集まってくれた人たちを見渡した。
『みんなー! 今日は来てくれてありがとう!』
私の声に、何人かが手を振ってくれた。
『私は月見ヤチヨ! 今日は、みんなと一緒に楽しい時間を過ごせたらいいなって思ってるんだ!』
少し緊張していたけれど、それ以上に胸が弾んでいた。
『それじゃあ、聴いてください!』
曲が始まる。
それは、この長い旅の中でずっと大切にしてきた曲。
彩葉が作って、私に届けてくれた曲。
彩葉たちと一緒に戦った、あの時の曲だった。
私は歌い始めた。
『──この一瞬を最高の──パーティーにしよ───』
歌声が広場に響き、音楽に合わせてステージの光が揺れる。
目の前には、こちらを見つめる人たちがいる。
手を振ってくれる人もいれば、じっと聴き入っている人もいる。
小さな会場だからこそ、一人ひとりの反応がよく分かった。
歌っているうちに、最初に感じていた緊張はどこかへ消えていた。
楽しい。
ただただ、楽しかった。
思い切り声を出して、好きな歌を歌って、それを誰かに聴いてもらえる。
こんなにも楽しいことだったんだ。
歌い終わる頃には、私はすっかり夢中になっていた。
そして、最後の音が消える。
一瞬の静寂のあと、控えめながらも温かな拍手が広がった。
『すごくよかった!』
『素敵な歌だったよ!』
『また聴きたいな』
『ありがとう、ヤチヨ!』
画面にも、いくつかのコメントが流れていく。
私は、しばらくその光景を眺めていた。
たくさんの人がいるわけではない。
記憶の中にあるライブのような、会場を埋め尽くす観客も、響き渡る大歓声もない。
それでも、目の前にいる人たちは、確かに私の歌を聴いてくれた。
そして、楽しんでくれた。
それが、どうしようもなく嬉しかった。
『……えへへ』
自然と頬が緩む。
『みんな、ありがとう! 本当にありがとう!』
今度は、さっきより少し大きな拍手が返ってきた。
舞台袖では、アリスも嬉しそうにこちらを見ていた。
ライブは成功した。
規模は小さくても、来てくれた人たちに楽しんでもらえた。
そして何より、私は久しぶりに思い切り人前で歌うことができた。
その喜びは、言葉にするのが難しいほどだった。
この世界を作ってよかった。
まだ始まったばかりだ。
これからもっと多くの人が集まるかもしれないし、もっと大きなステージで歌える日も来るかもしれない。
でも、今はこれで十分だった。
今日ここに来てくれた人たちが、少しでも楽しい時間を過ごせたのなら。
また聴きたいと思ってくれたのなら。
それだけで、今日のライブには十分な意味があった。
『ヤチヨ!』
ライブを終えた私に、アリスが声をかけてくれた。
『大成功でしたね!』
『うん! 大成功!』
『次はもっと大きな会場を用意しましょう!』
『あはは! そうだね! でも、今日みたいなライブも私は好きだよ』
『そうなのですか?』
『うん。だって、みんなの顔がよく見えたしね。それに……久しぶりに、思いっきり歌えたから!』
そう言って、私は笑った。
私たちは、まだ誰もいないステージを見つめた。
ここから始まる。
私たちの作った世界で、これからどんな出会いが生まれるのだろう。
どんな歌が響き、どんな笑顔が生まれるのだろう。
考えるだけで、胸が弾んだ。
私は、もう一度ステージを振り返った。
ここは、誰かと繋がるための場所。
そして、いつか必ず、彩葉に出会える場所。
『ねえ、アリス』
『はい!』
『これからも、よろしくね』
『はい! こちらこそ、よろしくお願いします!』
その返事を聞いて、私は笑った。
長い長い旅路の先に、ようやく見つけた夢。
その第一歩は、小さくても確かな成功だった。
□□□
ライブが終わり、観客たちが口々にヤチヨへと賞賛の言葉を送っていた。
舞台袖からその光景を眺めていたアリスは、静かに口を開いた。
「……ヤチヨ。いえ、かぐや。本当によく頑張りました。アリス、とっても尊敬します」
そう呟くと、アリスはゆっくりと目を開いた。
そして、ツクヨミから現実世界へと意識を戻し、目の前にあるものをじっと見つめる。
「アリスも負けていられませんね! 今度はアリスが頑張る番です!」
視界の隅には、半透明のウィンドウが静かに表示されていた。
≪対象:もと光る竹≫
≪情報収集を完了≫
≪解析進行度:100%≫
補足として、8000年の旅路の中で、大体の不幸、特に人が死んだりするようなものはアリスが防いでいます。
まあ、アリスの身体能力をフルで使えば余程のことが無い限り問題ではなかったでしょうからね。
(空襲とかは防ぐのは無理なので、全力で助けられるだけ助けた後、避難してます。)
そのせいか、なーんか、ヤッチョさんが前向きなような気が……。
あとアリスちゃん……一体何する気ですか