今回の話ではブルアカの設定の一部に少し独自解釈が発生しています。
また、結構ご都合主義な展開になってしまいました。
このことが、許せる方のみ拝見ください。
ヤチヨの初ライブが終わった、その夜。
ライブを終えたヤチヨは、充電とシステムのアップデート、そして長い間蓄積されてきた記憶の整理を行うため、スリープ状態へと移行していた。
人間で言えば、眠っているようなものらしいです。
私はヤチヨが無事にスリープへ入ったことを確認すると、ゆっくりと立ち上がった。
そして、部屋の中央に置かれた水槽へと目を向ける。
その中にあるのは、タケノコより少し大きい程度の小さな宇宙船。
『もと光る竹』。
かつて、まだヤチヨがかぐやと名乗っていた頃。私が初めて出会った少女と共に、この地球へやってきた宇宙船。
そして、これは私が自分で受注した、初めてのクエストでもあります。
――『もと光る竹』を修理する。
あの日、私はそう約束しました。
もちろん、簡単なことではありません。
そもそも『もと光る竹』は、月の超技術によって作られたもの。
縄文時代の技術では手も足も出ず、八千年もの時を経て科学技術が発展した現代でさえ、修理することは不可能なアイテム。
けれど、私はこの約束を一度だって忘れたことはありませんでした。
ヤチヨ自身でさえ、長い年月の中で記憶の底へと沈めてしまったような、小さな約束。
それでも私は覚えていました。
集落で暮らしていた頃も、時代が移り変わっていく中でも、そして今、ツクヨミの開発を手伝っていた時でさえ、ずっと解析を続けてきました。
その結果が、ようやく実を結んでくれたんです。
視界の隅に、半透明のウィンドウが浮かび上がる。
そこには、長い間見慣れた情報が表示されていた。
≪対象:もと光る竹≫
≪情報収集を完了≫
≪解析進行度:100%≫
……ついに、ここまで来ました。
けれど、ここで一つ問題があります。
解析が完了したからといって、すぐに修理できるわけじゃないです。
必要な部品も、専用の工具も、そして製造するための設備もない。いくら構造を理解できたところで、それを再現する手段がなければ意味がありません。
普通なら、ここでクエストは行き詰まりになっていたでしょう。
けれど、私には最後の切り札がありました。
「……プロトコルATLAHASIS」
それは、私に、天童アリスに備わっていた機能。
別名――アトラ・ハシースの箱舟。
かつて自分の身体について調べていた頃、断片的に存在を確認していた機能の一つ。
その正体は、周囲のデータを収集し、分解、再構築することで、任意の物体を作り出す物質変換機構。
名前こそ箱舟だが、決まった形を持つわけではない。
必要に応じて姿を変え、あらゆる物体を生み出すことができる。
つまり、物質の構造さえ理解していれば、本来この地球上には存在しないものですら作り出せるということです。
そしてそれは、月の技術で作られた『もと光る竹』であっても例外ではありません。
修理するのではなく、新しく作る。
それが、私の出した結論です。
ただし、この機能には大きなデメリットがあります。
私は視界の隅に表示されたウィンドウを見つめた。
そこには、かつて自分の身体を調べていた頃に表示された情報がある。
≪個体情報≫
名称:AL-1S
識別名:天童アリス
個体状態:正常
身体機能:正常
エネルギー残量:98.7%
外部損傷:なし
環境適応:完了
言語情報:未登録
この中で、ずっと気になっていた項目がありました。
エネルギー残量。
最初の頃は、車のガソリンのように、身体を動かすための燃料なのだと思っていました。
けれど、長い間観察していても、普段の生活でほとんど減少する様子がありません。8000年という長い旅路を終えた今でも、せいぜい1、2%くらいしか減っていないみたいです。
そして、八千年という時間をかけて、ようやくその正体にたどり着きました。
これは、単なる活動エネルギーではありません。
――神秘の総量です。
神秘。
それは、この体の天童アリスがいた世界に存在していた、特別な力。
神秘の総量が多ければ多いほど、身体能力などにも大きな影響を及ぼす。そして、それが完全に失われた時、頭上のヘイローは砕け消滅する。
つまり、死ぬということです。
このエネルギー残量は、文字通り私自身の命の残量を示していたようです。
もちろん、普通に生活している分には、神秘が大きく消費されることはほとんどありません。
しかし、今から実行しようとしている『プロトコルATLAHASIS』は違います。
物質を分解し、再構築する。
本来なら存在しないはずの物質を、私自身の力で生み出す。
そのためには、膨大な神秘を必要とする。
私はそのことに、とっくに気づいていました。
だからこそ、何度も計算を繰り返しました。
解析が不完全な状態では、解析にも神秘を消費してしまい、必要な神秘の量が多すぎる。けれど、解析率が100%に達した今なら、ぎりぎりエネルギーを残したまま生成できるはずです。
もちろん、確実ではありません。
計算が間違っていれば、途中で神秘を使い切ってしまうかもしれません。
そうなれば、私は死ぬ。
それでも、私にはやらなければならない理由があります。
私は知っています。
八千年の旅路の中で、かぐやがどれほど自分の身体に苦悩してきたのかを。
誰かを抱きしめるための腕もない。
大切な人のもとへ駆け寄るための足もない。
食事を楽しむための味覚も、悲しい時に涙を流すことさえできない。
そんな身体で、かぐやは何千年もの間、出会いと別れを繰り返してきた。
私はずっと、その隣にいた。
だからこそ、かぐやには笑顔でいて欲しい。
今度こそ、誰かを自分の腕で抱きしめられるように。
嬉しい時には思い切り笑って、悲しい時には涙を流せるように。
そして何より、これから先の未来を、私と一緒に歩いてほしかった。
困っている人を助けるのは、勇者の役目です。
ましてや、それが大切な友達なら、なおさらです。
それに、お姫様を助けるのも勇者の役目とゲームでは決まっています。お決まりってやつです。
だから、アリスは迷いません。
「よし……頑張りましょう!」
私は水槽の中の『もと光る竹』を見つめ、静かに息を整えた。
その隣には、もう一つの水槽がある。
そこにいるのは、かつてかぐやの身体だった白いウミウシ。
今は『FUSHI』という名前で呼んでいる、小さな友人です。
まるで見守ってくれているかのように、こちらを向いています。
私はその姿に小さく頷くと、両手を前へと掲げた。
「プロトコルATLAHASIS、起動開始。名もなき神々の王女、AL-1Sが承認します
――ここに、新たな聖域(サンクトゥム)が舞い降りん!」
その瞬間、周囲の空気が震えた。
頭上のヘイローが、ゆっくりと輝きを増していく。
青い瞳の輪郭には、淡い紫色の光が灯った。
私の中に蓄積されてきた八千年分の解析データ。そして、私自身の神秘。
それらを媒介として、手元に光が集まり始める。
最初は小さな光の粒だった。
けれど、それは次第に形を持ち、少しずつ『もと光る竹』の姿へと変わっていく。
その様子を見つめながら、私は歯を食いしばった。
――痛い。
自分の内側から、何か大切なものが急速に失われていく。
まるで魂そのものを削り取られているような感覚。
それでも、私は決して手を止めなかった。
まだ足りません。
もう少し。
あと少しだけ。
ここまで来たのです。
八千年もかけて、ようやくここまでたどり着いたんです。
今さら、諦めるわけにはいきません。
本来なら決して直るはずのないもの。
初めから決められていたかのような、不可能という運命。
それに抗う、一人の勇者の意地。
その二つが今交差した、そして。
────勝ったのは、勇者の意地だった。
「……っ、はぁ……!」
私は『プロトコルATLAHASIS』を終了させた。
手の中には、確かな重みがある。
完成したんですね。
目の前には、見慣れたタケノコのような形をした物体がありました。
ただし、その表面には私のヘイローと同じ、青い幾何学模様が刻まれている。
『もと光る竹AS』。
それが、私の作り出した新しい宇宙船の名前だった。
私はその場にへたり込む。
身体は重く、呼吸も乱れていた。額からは汗が流れ、指先に力を入れることさえ難しい。
ふと、視界の隅にウィンドウが浮かび上がった。
≪エネルギー残量:5.8%≫
……本当に、ぎりぎりでした。
あと少しでも時間がかかっていたら、私は神秘を使い切っていたかもしれません。
けれど、そんなことはもうどうでも良いです。
私は手の中にある『もと光る竹AS』を見つめる。
これこそが、八千年という長い、長いクエストをクリアするためのキーアイテム。
私が積み重ねてきたものの証明でした。
「……やりましたよ、かぐや」
思わず、そんな言葉が口からこぼれた。
その時だった。
部屋に設置されているモニターに、変化があった。
ヤチヨのスリープが終了したのだ。
『……ん。あれ?』
モニターと同じ位置に設置されたカメラを通じて、ヤチヨがこちらの様子を確認している。
『アリス? ちょっと、どうしたの!大丈夫!?』
モニターに映し出されたヤチヨの表情が、みるみるうちに驚きへと変わっていく。
『顔色悪いよ!? 何かあったの!?』
「えへへ……少し、頑張りすぎてしまいました」
『少しって……!』
ヤチヨの声が大きくなる。
『いったい何をしたの!?』
私はいつものように笑顔を浮かべ、手に持っていたものをカメラへと見せた。
「実はですね。アリス、ようやく『もと光る竹』の解析を終えたんです!」
『……え?』
「そして、解析したデータをもとに、新しい『もと光る竹』を作りました!」
『……は?』
「名前は『もと光る竹AS』です! どうですか? アリスの自信作です!」
『ちょ、ちょっと待って! 何を言ってるのか全然分からないんだけど!?』
私は少しだけ得意げに胸を張る。
「もちろん、そのために少し無茶をしてしまいましたけど……。でも、ちゃんと成功しました!」
『無茶って……』
ヤチヨの声が、少しずつ小さくなる。
私はそんな彼女に構わず、完成した『もと光る竹AS』を接続する作業に移ります。
けれど、先ほどの負荷がまだ身体に残っているようです。身体のあちこちが軋み、手足も小刻みに震えているため、思うように動かせません。
おかげで、接続作業はなかなか進まず、ずいぶんと手間取ってしまいました。
そんな私を見かねてか、ヤチヨが何度も声をかけてきます。
私は作業を続けながら、その間に自分がこれまで何をしてきたのか、そして、どうやって『もと光る竹AS』を作り出したのかを説明することにしました。
ようやく念願だったクエストの達成が目前に迫り、すっかり浮かれていた私は、特に隠したり誤魔化したりすることもなく、これまでの経緯を包み隠さず話してしまいました。
……さて、これで準備は整いました。
あとは、ヤチヨが自分の身体を取り戻すだけ。
そうすれば、クエストクリアです。
きっとヤチヨも喜んでくれるでしょう。
そう思っていました。
『もと光る竹AS』のシステムが起動する。
長い間失われていた擬態機能が、再び息を吹き返した。
光がヤチヨを包み込む。
電子の世界に存在していた、0と1の羅列で構成された身体。
それが、少しずつ形を変えていく。
そして――。
一人の少女が、そこに立っていました。
自分の足で、しっかりと床を踏みしめて。
自分の腕で、そっと自分の身体に触れて。
確かな重みを持った身体を、取り戻した少女。
「……あ」
思わず声が漏れました。
けれど、私が予想していた反応とは違っていました。
ヤチヨは泣いていたのです。
両目から、ぽろぽろと涙をこぼしている。
そして、その顔は……怒っていました。
まるで私を睨みつけるように、真っ直ぐこちらを見つめています。
「え……? ヤチヨ?」
どうして?
どうして怒っているのでしょうか。
もしかして、何か失敗してしまったのでしょうか?
私は完成した『もと光る竹AS』を見つめ、それからヤチヨへと視線を戻します。
けれど、彼女は何も言いません。
ただ、涙を流しながら私を見つめていました。
やがて、ゆっくりと口を開きます。
「……八千年」
「はい?」
「八千年も前の約束を……ずっと覚えていてくれたんだね」
その声は震えていました。
「私、忘れてたよ。あんなに大切な約束だったのに……。でも、アリスはずっと覚えていてくれたんだね」
ヤチヨは自分の手を見つめました。
指を動かし、手のひらを開いて、閉じる。
まるで、今ここにある身体を確かめるように。
「……すごいね。本当に、すごいよ。こうして、また自分の身体で立てるなんて……。ちゃんと腕もあるし、足もある。こうして触れることもできるんだね」
その頬を、また一筋の涙が伝いました。
「ありがとう、アリス。本当に……ありがとう」
私は嬉しくなって、笑顔を浮かべました。
けれど。
「……でも!」
突然、ヤチヨの声が強くなりました。
「どうして、そんな無茶をしたの!?」
「えっ?」
「死んじゃったらどうするの!? もし失敗していたら、アリスはどうなっていたの!?」
ヤチヨは涙を拭おうともしません。
「私のために、そこまでする必要なんてなかった! 私は、アリスにそんなことをしてほしかったわけじゃない!」
「で、でも……」
「でもじゃない!」
初めて聞くような、強い声でした。
ヤチヨは一歩、こちらへ近づきます。
「私はね、アリスと一緒にいたかったんだよ。これからも、ずっと一緒にいたかったの!」
その声が、少しずつ小さくなっていきます。
「……なのに、どうして私だけ置いていこうとするの」
そして、ヤチヨはその場に崩れ落ちました。
両手で顔を覆い、肩を震わせます。
「お願いだから……私を一人にしないでよ」
その言葉に、私は何も返せませんでした。
「アリスが死んじゃったら、私はどうすればいいの……?」
私はようやく理解しました。
ヤチヨは、私が身体を取り戻してくれたことを喜んでくれています。
それと同じくらい、私が命を懸けたことを怒っているのです。
そして、何よりも。
私を失うことを恐れているのでした。
しばらくして、ヤチヨはゆっくりと顔を上げました。
その瞳は涙で濡れています。
「……どうすればいいの?」
「ヤチヨ……?」
「ここまでしてくれたアリスに、私はどうやってお礼をすればいいの……?」
その問いに、私の答えは決まっていました。
ずっと昔から、決めていたことでした。
私がしたかったこと。
それは、かぐやの笑顔を正面から見ること。
そして、かぐやを未来へ連れていくこと。
それだけです。
だから、私は笑顔を浮かべて口を開きました。
「ヤチヨ。いえ、かぐや。笑ってください」
彼女が顔を上げます。
「アリス、今のかぐやとちゃんと自己紹介したいんです」
そう言って、私は彼女の前に立ちました。
八千年前と同じように。
初めて出会ったあの日と同じように。
互いに向かい合います。
最初に口を開いたのは、私でした。
とびっきりの笑顔を浮かべて。
「こんにちは! 私は天童アリスです!」
そして、ヤチヨも。
いや、かぐやも。
まだ涙の残る顔で、ゆっくりと微笑みました。
「……こんにちは。私は、月見ヤチヨ。……ううん、かぐやだよ」
その声は、少し震えていました。
けれど、確かに笑っていました。
こうして、私たちはもう一度出会いました。
八千年という長い旅路の果てに。
今度は、同じ世界で、同じ身体を持つ者同士として。
「~っ!!パンパカパーン!!アリス、クエスト達成です!!」
ラストシーンの二人(AI生成)
【挿絵表示】
ヤチヨが少し小さいと思われますが、擬態機能によって身体を取り戻したばかりなので、少し小柄な姿になっています。
※ここからは裏話
まず、ここまでこの物語を読んでくださって、本当にありがとうございます。
こんな妄想垂れ流しツッコミどころ満載なssを読んでくださって感謝しかありません。
さて、実はこの話、当初は今回のような展開にするつもりはありませんでした。
コメント欄でも不穏に感じていた方がいらっしゃいましたが、まさに今回登場した「エネルギー残量」に関する設定が、その理由です。
元々の設定では、エネルギー残量は文字通り、アリスの稼働可能年数のようなものにするつもりでした。
八千年という長い年月の中で、アリスは何とか誤魔化しながら稼働を続けていたものの、少しずつ限界が迫ってきていました。
それでも、何とか現代までは持ちこたえられるだろう。そう思っていた矢先、戦争が始まります。
アリスは、かぐやと、その時代に出会った一人の少女を戦火から逃がすため、自分に残されたエネルギーをすべて使い果たしてしまいます。
そして最後には、それまで蓄積してきたデータをかぐやに託し、機能を停止することになります。
アリスを失ったかぐやは、深い絶望に陥ります。
それでも、ここで立ち止まってしまえば、アリスが最後まで頑張ってくれた意味がなくなってしまう。そう考えたかぐやは、何とか再び前を向きます。
そして原作同様、彩葉と出会うことを目的に行動していくことになります。
この頃のヤチヨの自室には、アリスによく似たぬいぐるみが飾られていたり、衣装のあちこちにアリスのヘイローと同じ形をした装飾が施されていたりします。
そして最終的には、超人・彩葉の力によって、かぐやの記憶とアリスから託されたデータをもとに、アリスが復元されてハッピーエンド……という展開を考えていました。
しかも、かぐやに渡されたデータには、アリスの人格を構成するコアデータまで含まれていたのです。
つまり、復元されたアリスは、自分が機能停止した後に何が起きたのか、かぐやがどのように過ごし、ヤチヨになっていったのかも知っているということです。
つまり、アリスは機能を停止した後も、ずっとかぐやの傍に寄り添っていてくれたんだ。
……という流れにするつもりだったんですけどね。
あれ、これって本当にハッピーエンドなのか?と内なるかぐやが疑問符を浮かべてきたので、あーでもない、こーでもないって考えていたら……いつの間にか、こんな事になってました、はい。(見切り発車は良くないですね)
とりあえず私は……原作さんの息を吹き返しに行ってきます。