Bocchi of the dead 作:true RIZE
どれくらい時間が経っただろうか。
宮本に散々叩かれた頬をさすりながら、傷をつけた張本人を見つめる。落ち着きは取り戻したものの、すっかり塞ぎ込んでしまい、微動だにしない。
井豪の遺体は天文台の中に寝袋にがあり、その中に棺代わりに納棺した。それからはお互いに距離を取るような感じで座っていた。
「……ごめんなさい」
「……」
「あんなに顔叩いちゃって…完全に取り乱してた…」
ここで気前良い奴は気にすんなの一言でも言えたのだろう。しかし俺も宮本と同じくどこか無気力になりつつあった。ガシャガシャとバリケードが今にも崩れそうな音がする。遅かれ早かれ壊され、ここに来るのも時間の問題だろう。
でもだからと言ってどうしようと行動する気も起きなかった。たった半日で、これほどまでに沢山の死を目の当たりにして、正常でいられる方がおかしい。
絶望的な状況下、俺はただ死を待つのみの脱け殻と化していた。
…何時かとスマホ着けてみる。時刻は既に4時を過ぎていた。壁紙には愛しのマイリトルシスターこと小町の最高の笑顔でVサインをする写真だ。
そうだ、俺にはまだ死ねない理由がある。学校からどうにかして脱出して、親父と母ちゃん…そして小町と会わなくては。生きて会わなくちゃならない。
「比企谷君?」
「……小町、今行く」
バリケードを登る。ゾンビは4体ほど、1人で突破するにはかなり厳しいが勢い良く飛び越えれば、なんとかイけるか?
「ひ、比企谷君。何してるの?」
「…家族が待ってる。行かないと」
「行くって、何言ってるのよ…1人でどうにかできる訳ないでしょ!」
宮本は動揺するが、そんなの知ったことじゃない。ここでノコノコ時間を無駄にしていたら次第に夜になる。
夜間はこちらの視界からして行動が狭まり、ゾンビに襲われやすくなってかなり不利になる。
そうなる前に、一刻も早くここから離れ学校から脱出して家に辿り着かなければならない。
「宮本、俺は家に行きたいんだ。電話が繋がらない今、確かめる方法は家に行ってみるしかない。そこで家族が待ってるかも知れないんだ」
「かもって…それで死んだらどうするのよ!アナタまで!比企谷君までいなくなったら…私…」
俺の脚にすがり付いて、必死に止めようとする。事情は知らないが恐らく宮本は、誰かに寄り添えないと生きていけないのだろう。井豪が代わりに支えてあげて欲しいと言ってたのはそういうことなのだろう。
「なあ、宮本はどうする?」
「どうするって?」
「俺に着いてくるか。それとも1人でここに残って救助を待つか」
だがこの状況で、甘やかすつもりなど毛頭なかった。酷だが宮本自身で選らばせなくてはならない。この先、自分の選択でどう生きていくのかを。
「わ…私は…」
「どうすんだ宮本。悪いが俺には悠長に待ってる時間はない。考えるならあと1分だけだ。それ以上はダメだ、俺1人で」
「私も行く!行く、から…1人にしないで…!」
「…分かった」
半ば強制的にだが、宮本も同行することになった。そうと決まれば、意を決してバリケードから高らかに飛び出し、ゾンビを惹き付ける。
「おらここだクソゾンビ共っ!」
あ゛あ゛あ゛
う゛う゛
がああ
「比企谷君何してんのよ!?」
「俺が囮になるからその隙に行け!職員室を目指せ!そこで合流だ!」
「でも!」
「いいから早くしろ!こいつらが俺に夢中になってる内に行けぇ!」
「絶対…絶対だから!必ず生きてもう一度会いに来て!」
宮本もバリケードを飛び降り、颯爽と屋上から立ち去る。
はあ、ここは俺にまかせて先に行け…明らか死亡フラグだろこの台詞は。
さて、4体ほどかと思ったが、思いのほか隠れてやがったな…7体に増えてやがる。
「マトモに全部相手してらんないな」
まずは手前の1体の脛をバットで狙い、振り払う。勢い良く転んだ隙に2体は距離に余裕があるからスルー。
問題は次、3体が固まってこっちに向かって来る。右に避ければもう1体待ち構えてる。左は安全だが屋上の出入口からは遠回りになる。その隙に襲われる可能性だってある。
「迷ってる暇はねえな」
空かさず右を選び、3体のゾンビを回避しながら更に向かってくる1体を剣を振り下ろすかのように頭のてっぺんを叩きつける。
この感触にはまだ慣れそうにない。ようやっと突破口を開き、屋上から抜け出す。階段には…取りあえず他にはいないみたいだ。宮本は上手く職員室に向かってるかも知れない。
「…にしても、ボロボロになってきたな」
何体もボコってきたからか、金属製のバットとは言え消耗が激しく凹みが目立ってきた。どこかで新しいバット、もしくは他の武器を手に入れなければ。
屋上から下って4階、3階と降り2階のフロアへと辿り着く。どこかに武器はないかと彷徨いていると、木工室を見つけた。
そして、ここで朽ち果ててしまった生徒なのだろうか。木製のバットを握り締めたままの遺体が目に入る。
「…すまん、借りるぞ」
バットを手に取り木工室に入る。何体かのゾンビが倒れていて既に殺られたあとだった。頭には釘が奥深く突き刺さっていた。傷口から見て血の流れがまだ新しかった。
「俺の他にもまだ生き残ってる奴が戦ってるみたいだな」
何かないか見て回る。棚を観察していると玄翁…金槌と50mmの釘を見つけた。おいおい、あからさまにアレを作れと言わんばかりに揃ってやがる。
机にバットを置き、釘を打ち付ける。なるべく不規則に、あまり間隔を空けすぎないように。
「ふう、できた」
完成したのは、名状しがたい悪徳的なまでのフォルム。数多の不良作品で見かけるこの武器の名は【釘バット】だ。まあ、わざわざ改まって紹介するほどでもないが。
「よし、行くか」
釘バットを持って、ベルトにさっき見つけた玄翁、そしてバールも携えこのまま職員室方向へ直進する。
パァン!
「銃声か?」
何故学校で銃声?警察でも駆けつけて来てくれたのか?いやそれはない。自衛隊も見捨てる程の事態に警察が一学校にわざわざ駆けつける暇はないはずだ。ならこの音の主は…。
「なるほどな」
職員室室前に辿り着くと、銃声の正体は材、材木座?に似ているのが、釘打ち機で正確に1体ずつ仕留めていた。
「高城さんも戦ってください!」
「なんでアタシがそんなことしなきゃなんないのよ!」
「もうすぐマガジンが空になるんです!」
「だからなんなのよ!すぐに詰め替えたらいいでしょ!」
「でもいますよ…後ろに」
「え…きゃあああ!!!」
確かあいつらは、同じクラスの平野と高城だったか?仕方ない、目的地の職員室は目の前だ。一息つくため、安全確保のためにも奴らをぶっ飛ばす。
ぐおおぉ
「寄らないで…寄らないで…」
「おおらあぁ!」
ズグシャア!
今までの叩き潰すだけとは違い、突き刺し、裂くような感覚も伝わる。殺傷能力が高まってよりゾンビの倒しやすくなってる。デメリットがあるなら、抜くとき大変だな。
「……え?」
「立てるか?」
手を高城に差し伸べる。らしくないが、さっさと動いてくれないとこっちも困る。職員室に避難するなり好きにしてくれ。
「あ、あんた。転校生…」
「1ヶ月経つのにまだ転校生なのかよ。比企谷だ、立てるんならさっさとして欲しいんだが」
「はっ!よ、余計なお世話よ!あんたの助けなんていらないから!」
ペチっと手を払いのけ、生まれたての子鹿のようによたよたと立ち上がる。ピンク髪染みた茶髪にツインテールとこれでもかと目立つのに、スタイルも抜群でツンとした態度と目付きが特徴的な属性特盛の高城なんとかさん。漫画とかだったすげぇ需要ありそう。
「それと平野、だったか。2人は宮本のこと見てないか」
「宮本…麗のこと?アタシは見てないわ」
「ぼ、僕も見てないかな~」
挙動不審ながら答える平野、ますますそこがあいつっぽいな。しかし2人が宮本を見てなかったとするとどこに。考える間もなく新手のゾンビがまた現れる。
「4、5…8か。多いな」
「平野、あんた予備は?」
「詰め替えました!」
「高城は下がってろ」
俺が先陣を切るように、ゾンビをまず1人片付ける。続いて平野が後ろから釘打ち機で援護する。
一瞬振り返って見たが、なんか平野さん顔つき変わりすぎじゃないですかい?トリガーハッピー起こしてないか?
そうこうしてるうちに残り半分の4体まで切った。倒そうとした矢先、ゾンビ達が向かってきた方向から凛とした佇まいの女子が木刀で次々と的確に頭を狙い倒していった。
「比企谷君!」
「宮も、とぉぉぉ!?」
「良かった…比企谷君が無事で…ぐすっ」
いやあの、再会できて嬉しいのは、いややっぱ理解できない。さっきまであんなに嫌われて、もっと好感度が下がりまくってもおかしくないのに何故ここまで感極まって抱きしめられるんだ?
「取り込み中かね」
「い、いえ…ほら宮本離れろ」
「あ…ご、ごめんなさい」
何故そんな名残惜しそうな顔をするんだ。
「はぁはぁ…毒島さん宮本さん待って~、てあら?比企谷ちゃん!」
「ま、鞠川先生」
鞠川先生はこの学校の校医で、俺がよく1人になるため保健室を利用するため顔見知りになってしまった。
鞠川先生はその、大変ご立派なモノをお持ちで高身長かつグラマラスな体型という殆どの男子生徒が目を惹いてしまうほどだ。そしてなんかのほほんとしていて天然気味な性格みたいだ。
「比企谷ちゃんも生きてたんだね!先生嬉しい!」
「いやその再会出来て嬉しいのは分かりましたから、頭撫でないで下さい」
やいのやいのと騒がしくなり、ようやく職員室で一息つけることになる。宮本から事情を聞くと、どうやら階段を降りた先でゾンビに出くわして、逃げているうちに毒島先輩と鞠川先生と出会ったそうだ。そこから3人で職員室を目指してた感じか。
「比企谷君もやはり車を目的としていたみたいか」
「そうっす。てか平野と高木もそうだったのか」
「そう、平野が思い付いてそれで職員室目指してってワケ」
「奇しくもここを目指してた俺達は同じ目的、大同団結ってとこか」
ポットからお茶を汲んでちびちびと飲み干す。いかにして俺達はこの場に集ったのだろう。神の意思、運命、それまた偶然?いずれにしたても、これなら学校を脱出できる確率は高まる。
はぁ、やれやれだな。ボッチの俺が他人を当てにして計算してしまうとか、エリートボッチ失格だな。
「この中で車を運転できそうなのは」
「あ、私かな。一応車でここに通って来てるから。えーと、キーはっと」
「全員を乗せれる車なのか?」
「う゛っ。コペンです…」
ダメそうだな。最悪無免許でもオートマならなんとか運転できるかと思い来てみたは良いものの。他に鍵はないか辺りを探すと、部室や特別教室に使われるカギ掛けを見つけた。
「毒島先輩、こっちにカギ掛けがあります。んっと…よし。マイクロバスのカギだ」
「比企谷、駐車場の方にバスまだあるよ」
平野がそう伝えて、これで方向性は固まった。カギは入手した、あとは駐車場まで走り抜けて、マイクロバスに乗り込んで脱出するだけだ。
「ねえ、バスはいいけどどこへ?」
「取りあえず俺は家族の安否を確認したいです。家に寄って貰えれば後は下ろしてくれて構わないです」
小町と親父達の無事さえ確認できればそれで。言った矢先高城からデコピンを食らう。
「いてっ…何すんだ」
「はぁ、あんたバカ?それで家族が死んでたらどうすんの?そこから1人で行動してくの?」
「お前こそ何言ってんだよ。俺の我が儘で家族の安否を確認しに行くんだから、そこまでで充分だろ」
「そこからどう1人で生きてくって言うのよ。こんな状況下で耄碌してるほど比企谷はバカじゃないでしょ」
「水臭いな比企谷君。せっかくこうして出会えたのだ、それに君が言ったのだろう?大同団結と」
「お、俺も比企谷がいたら心強いかなって。安心して前任せられるし」
「私は…比企谷君がどこに行っても着いてくから」
「ん~私も比企谷君にはいて欲しいかな~!だって私のナイトだから!」
「いや鞠川先生のはなんすかソレ」
意外にも、ここにいる連中からは頼れてるみたいだ。いや、頼られてると言うよりかは、ここに居てもいいと促されてるような。
「で、比企谷。異存ある?」
「……取りあえずは家族の安否確認できるまで。続きはそれからだ」
「はぁ…あんたと話してると頭痛くなるわ」
高城が頭を押さえながらテレビをつける。スマホもSNSが軒並みパンク状態だから、こうして全国から情報収集できるのもいつまで持つことやら。
『各地で頻発するこの暴動に対し政府は緊急対策の検討に入りました。しかし自衛隊の治安出動にについては与野党を問わず慎重…』
「暴動って…もうそんなレベルじゃないのに…」
続けて毒島先輩がリモコンを取りチャンネルを変えて音量を上げた。そして各地で起きている混乱を目の当たりにする。
『既に地域住民の被害は1000名を超えたとの報告が入りました。知事により非常事態宣言と……発砲です!ついに警察が、え?後ろ?ウソ…なんで、死体が起き上がっ…きゃああああ!!!』
その後、様々なチャンネルを切り替えるもどこも似た内容になっていて、強いて目新しい情報があるなら、この事態は世界レベルで拡大しているみたいだ。
「全国どころか世界規模でこれか。これはもしかしなくても…」
「そう、パンデミック!感染爆発が起きてる」
ほんの朝までは普通だったのが、何が原因でここまで爆発的に広がったのか見当すらつかない。ん~、と鞠川先生が思案するかのように唸り続けていた。
「鞠川先生、どうしたんすか」
「あ、比企谷ちゃん。実はね、なんか既視感があって」
「既視感?」
「うん、私大学病院から派遣されてね、そこの講義でなんかこういう事例見たことあったようなないような…」
うーんと再び考える人になってしまう。事例って、こんな人の死体が動くような出来事が過去にあったのか?
「あ!そうだ思い出した!確かアメリカのある街で起きた事件とそっくりなの!」
「「「事件?」」」
それに俺、毒島先輩、宮本が反応する。ウイルスを使った事件が過去にアメリカで起きて、それが今日の今日までニュースで取り上げられた記憶があまりなかった。
「ああ、確か【ラクーン事件】でしょ?でもあんなのオカルト染みた話じゃない」
「ラクーン事件?」
「あんた知らないの?一時世間を騒がせた陰謀論よ。製薬会社の実験だかでウイルスが街中に広がって、その証拠隠滅の為にミサイルが落とされたって噂話よ。当時のワイドショーなんかは殆どそれで持ちきり。でもミサイルが街に落とされた実態なんて誰も分かってない。政府とその製薬会社による隠蔽だなんて噂もあるくらい。それが一人歩きして尾鰭が付きまくって今に至るってワケ」
「俺も親からそんか話聞きました。高城さんと殆ど同じ感じです」
「む~ウソじゃないもん!ホントにそんな話があって、ある講義で外部講師の人が言ってたんだから!」
「外部講師なら余計怪しいじゃない!てかよく大学病院にそんな怪しい奴招き入れたわね!」
「………」
「気になるかい、比企谷君」
「はい、なんか胸に小骨が刺さるような感じで…」
なんとも言えない謎の違和感が、俺の胸中を加速させていく。【感染爆発】【ラクーン事件】2つのワードに俺は、何故か無関係には到底思えなかった。