Bocchi of the dead 作:true RIZE
「皆、用意はいいか?」
毒島先輩が最後の確認をする。ここを出ればもう後戻りはできない。駐車場のバスまでひたすら駆け抜けてくだけだ。
「比企谷、駐車場は正面玄関から出るのが最短よ。ちゃんと着いてきなさい」
「分かった。高城は面倒見がいいな、母ちゃんみたいだ」
「誰がアンタの母親よ!冗談もほどほどにしなさいったら!」
高城のツンデレが発動した。てか今時ツンデレ属性持ってる奴いるんだな。
俺達は職員室から離れ、正面玄関へ直進する。平野が後方から釘打ち機で援護射撃を始めた。それに合わせ宮本がモップの柄でゾンビの頭を突き刺す。
「ほう、悪くない」
「これでも槍術部ですから」
「だが無理に戦う必要はない。避けられる時は避けるべきだ」
「確かに、こんなのいちいち相手にしてられないな」
屋上からここに来るまでも俺は回避できるなら、なるべくそれを選択していた。マトモに相手していれば時間と体力の無駄遣い、それに足元を掬われる可能性があるからだ。
「それと連中音にだけは敏感よ!腕力も普通のドアなら破るくらいよ!気をつけて!」
「ナイスアドバイス高城。愛してるぜ」
「は!?な、何言ってんのよ急に!気持ち悪いから!」
「悪い、ついノリで」
なんてふざけていたら、宮本が何故か鋭い目付きで睨んでいた。俺何か悪いことしたか?うんしましたね、高城にもろセクハラしてしまってるな。
キャアアアア!
卓三…
くそっ…下がってろ!
この先の階段から声がする。俺達以外の生存者がまだいたみたいだ。階段を降りすかさず頭をかち割る。毒島さんも木刀で倒していった。
「あ、ありが…」
「大きな声は出すな。噛まれた者はいるか?」
「え…いませんいません!」
「大丈夫みたい、本当に」
「私達は学校から脱出する。一緒に来るか?」
「え、ええ!」
5人組の生存者を見つけ、母数は更に増えた。このまま正面玄関へ向かうもゾンビの群れが蔓延っていた。20は優に超えていて、流石にこのまま直行するのは無謀すぎる。シューズロッカー越しに隠れながら作戦を考える。
「かなりいるな」
「見えてないから隠れる事なんてないのに」
「高城君、説が正しいとしてもこの人数では静かに進むことなどできん。校舎の中を進み続けても…襲われた時身動きがとれない」
「玄関を突き抜けるしかないのね」
「………」
「比企谷君!?」
静かに、音を立てず、忍び足で大群の間をするりと抜ける。ボッチの十八番、ステルスボッチ。他人に気付かれないあまり、『あ、いたんだ』とか『いたの!?』と驚かれることも少なくない。しかもパッシブスキルで勝手に発動する、どうしろってんだ。
ゾンビにも有効なのがなんとも悲しい。しかし高城の説通り奴らには俺が見えていなかった。そしてゆっくりと玄関扉を開けて、皆がいる方へサムズアップする。
全員俺に合わせ静かに進むと、突如宮本に掴まれ外に連れ出される。
「比企谷君何考えてるの!比企谷君に何か」
「宮本静かに。説教はあとでちゃんと聞く」
「っ……もういい」
諦めたのか先に進む宮本に、続け様に着いていこうとするが…。
ガシャアアン!
「っ!?」
「あ、ち、違…」
最悪だ。最後の奴が武器で持っていた刺股を扉にぶつけやがった。盛大な音に流石に奴らは反応を示す。わらわらとこちらに向かって大量のゾンビが集まってくる。
「走れ!」
俺の一言に全員がバスに向かって走り出す。周りのことは気にする余裕がなさすぎる。ただひたすらに、ゾンビに掴まれないようかわしながら走るのみだった。
「ぎゃあああ!!!」
「卓三!」
「っ…クソが!」
卓三なる者が噛まれ一斉に貪られる。助けようにも数が多すぎて捌ききれない。1体、また1体と頭を潰すも、それに負けないくらい次々と現れ襲いかかる。
「もう、充分です…卓三のこと、助けようとしてくれて…ありがとうございます…今行くね」
「ぁ…おい、待てっ!」
俺の静止も虚しく、恐らく卓三の恋人と思われる女子は群れの中へ消えていった。ぐちゃぐちゃと不快な音を立てながら、あの2人は食べられてしまったのだと分からせられる。
「なんでよ!なんでよ!?」
「高城…」
「私はちゃんと教えてあげたのに!どうして戻るのよ!信じらんない!」
「私分かるわ。もし世界中がこんなになってしまったのなら…死んでしまった方が楽だもの」
「……」
何も言えなかった。事実、俺も小町の写真を見なかったら、あのままむざむざゾンビになんの抵抗もせず、流れに任せ受け入れてただろう。それほどまでに、現状には何も希望を見出だせていないのだ。
「アンタそれでも医者」
「高城行くぞ」
「比企谷っ!離しなさいよ!離せって言ってんの!なんの権利があって私の話の邪魔するのよっ!」
「俺も一回受け入れそうになったから」
「え?」
「もう、全部どうでも良くなりかけた。でも、まだ家族と会ってない。それが俺の今の原動力だから」
「比企谷…」
「ほら先に乗れ、レディファーストだ」
バカじゃないの、ボソっと捨て台詞を残しながら車内に上がって行った。高城は頭が良いのかも知れない、だから合理的な思考に雁字搦めになって感情を優先する奴のことをまだ理解できない。
恐らく、これから嫌でも残酷な選択肢を突き付けられるだろう。その時高城は、合理的にかそれとも感情を選ぶのか。
やめだ、高城が自身で選ぶことだ。俺には関係がない、バスに乗ろうとステップに足をかける。
「これで全員か」
「毒島先輩、全員…先輩っ!」
「っ!」
咄嗟に毒島先輩を抱えながら飛び出し、回避する。突然の事だったから互いに転ぶも毒島先輩が大事なくて良かった。
それより、なんなんだアイツは?
グルルルル…
「全身が血まみれになったように赤いな…」
「助かった比企谷君…なるほど、まるで悪鬼だ」
肌が充血してるかのように赤く染まり、異様に発達した爪と歯、そして今にも飛び出しそうなほど生前と変わらぬ膂力。こいつはもしかすると…。
「【変異体】ってやつか」
「知ってるのかい?」
「ゲームの受け売りで良ければ。ウイルスが活性化してより強靭で凶暴な化け物が出来上がるって相場があるんですよ」
「なるほど、それは…些か手厳しいな」
ゾクっ!不敵な笑みを浮かべる毒島さん、もしかしてアンタ戦闘狂だったりする?なんて考える暇もなく、変異体はすぐさま襲いかかる。走り幅跳びの選手が喜んでスカウトしたくなるようなジャンプをして、毒島先輩に掴みかかる。
ヴアアアアアァ!
「くっ!なんと言う腕力!今までの奴とは格が違う!」
毒島先輩は噛まれぬよう木刀を盾におさえるも、変異体は難なく押し返し噛みつこうと首を近づける。
「させっか!」
夢中になっていた変異体にドロップキックをかまして後退させる。しかし全く効いてないのか今度は俺にターゲットを変え襲いかかる。
ア゛ア゛ア゛ア゛!
「おら来いよ、俺の方が美味いぞ。なんたって目が腐ってるらな!カルシウム豊富だぜ!」
必死に走り抜ける。他のゾンビもかわしながら、走ったり飛んだり縦横無尽に追い付こうとする奴を惹き付ける。
「比企谷いつまで待たせ…何よソイツは!?」
「高城窓から顔を出すな!悪いが俺はストーカーの相手で手一杯だ!」
「はあ!?待ってなさい!今平野を降ろして援」
「いい!俺に構うな!」
「だから何言ってんのよ!1人どうこう出来る相手じゃないのは見れば丸分かりでしょうが!」
確かに正直、いやかなり厳しい。なんとか毒島先輩と合流して2人で畳かけたいが、騒ぎを聞きつけたゾンビ共の相手で毒島先輩も手一杯だ。
それに、相手は死体…体力なんて物は存在せず肉体が朽ちない限り永遠に追い詰める。対して俺はヘトヘトでコンディションはbad。限りなく最悪の状況なのは間違い無し。
そしてこれ以上バスを待たせるワケにもいかなかった。前にうろうろと別の群れが集まってきてバスを塞ごうとしてしまってる。いずれ固まって動けなくなってしまう。そうなれば折角の脱出もおじゃんだ。
「…平野!宮本!毒島先輩を援護しろ!それでさっさと離脱してバスを走らせるんだ!」
「あ、アンタ何言っ「比企谷君何言ってんのよ!」」
「宮本…」
「私を連れ出したのは比企谷君でしょ!?生きさせたのも比企谷君でしょ!なら…毒島先輩と一緒に戻って来てよ!私を生かした責任をちゃんと取ってよ!」
「宮本君…ふふ、存外罪な
無双ゲーよろしく、ゾンビが雑魚戦みたいに瞬殺されてる。もうあの人1人でも大丈夫じゃないか?にしても宮本、責任って…あんた重たすぎない?
「はぁはぁ…しゃーない、なんとかして切り抜けるか」
だが正直体力持たないし、足ももつれてきてる。あと数秒のうちに何かしらの打開策を考えないといけない。周りを見渡す、ゾンビゾンビゾンビゾンビゾンビ…うん、ゾンビだらけ。
釘バットは持ってるがあの俊敏さとパワー、接近戦はなるべく避けたい。遠距離、平野の釘打ち機をバスから投げて貰うか…いや、銃を全く撃ったことないズブの素人に、いきなり当てろと言われても無理がありすぎる。
「詰んでねえか?」
考えるにしてもここまでなんもない…いやある。最後に出て来た奴の武器、刺股が落ちてた。あれなら距離を取れて戦えるが、問題はどうやって槍代わりに突けるようにするか…これも解決した。
ぐるっと回って毒島先輩の近くに行く。
「毒島先輩!少しだけ奴を」
「了解した!」
「即決かよ、頼もしすぎて惚れるわ」
毒島先輩が前に出て対峙する。木刀を振るもまるでひるまず、奴も鋭い爪を持つ右腕を振りおろした。が、逆袈裟切りで跳ね返し応戦する。毒島先輩はよくやってる、だが木刀では肝心の決め手に欠ける。ならフィニッシャーは、俺が殺る。
「そこの血まみれ野郎。お前だよ、お前に言ってんだぞ!」
グルルルルゥ…
「来いよ、ケリつけようぜ」
ガァァァァ!
こっちの挑発に乗ったのか走り出す。俺はただ、静かに構えて待つだけだ。段々と距離が縮んでくる…5m、4m、3、2、1…。
ウア゛ア゛ァ!
「あばよ」
グシャア!
飛びかかってきた変異体は、頭をバールの先端が突き刺さっていた。そう、俺はただ刺股を構え、待っていただけだ。あとは奴の勢いで刺さるだけの自滅って魂胆だ。刺股の柄に、バールをテープで繋ぎ合わせた即席の槍だ。
「…井豪、巻いたテープの強度ホント凄いな。正直ずれて刺さんないかと思った」
木工室からは、バールと玄翁だけでなく、何かに使うと思いセロハンテープも所持していた。まさかそのおかげで項を制すとは…人生何があるか分からない。
「見事だ比企谷君」
「…あざす」
毒島先輩の手を取り立ち上がり、急いでバスへと向かった。バスに乗り込みいよいよ発進となった。
「全員乗ったわね!行くわよ!」
バスが動き出し、学校を離れていく。たった1ヶ月、それしか通わなかったのに、まさかその最後の1日が一番密度がある思い出となった。
「もう人間じゃない…人間じゃない!」
自己暗示をかけるかのように、鞠川先生はゾンビをひきながらバスを走らせる。学校が少しずつ遠のいてく、恐らくまだ助けてきれてない生存者もいたハズだ。それを追いて行って、俺達は先に進んだ。
「比企谷君…」
「なんだ宮」
パチン!
屋上ぶりの平手を再度食らう。そこには、泣きながら怒りの顔つきになっていた宮本が立っていた。
「もう…二度とあんなことしないで!自分を犠牲にするようなことさないで…お願い、だからっ」
宮本が俺の存在を確かめて安心を得るかのように、きつく抱き締めてきた。
…まいった、ここまで宮本の中で俺の存在が大きくなっていたなんて、思いもしなかった。
しかしそれに同調するかのように、周りの空気が一体と化すように冷めきっていた。
俺は何か、間違ってしまったのだろうか。変異体を倒す為に、なるべく最低限の人数でと思った行動が、裏目に出てしまったのか?
別に自己犠牲なんていう綺麗事を抜かすつもりはない、あのまま離脱して1人で家に向かおうとしてたからだ。死ぬつもりなんて毛頭なかった。
それでも、俺がした行動は端から見れば自殺行為に変わりなく、周囲とのギャップに俺は、思わず茫然としてしまった。
脱出できたハズなのに、俺達はどこか暗雲立ち込めたまま街へと走り出した。
***
「はぁはぁ…し、紫藤先生!バス行っちまったぞ!どうすんだよ!」
八幡の読み通り、学校にはまだ取り残された生存者が何人かいた。複数の生徒に教員が1人、八幡達がバスへと向かったのを見かけ教室で立て籠ってた所を九死に一生を得る思いで外へ出るも、時既に遅かった。
「うーん、困りましたね」
「なに悠長なこと言ってんだよ!見ろゾンビがこっちに…」
「ひいいぃ!紫藤先生助けてっ!私死にたくない!食べられたくない!」
続々と不安と焦りが増していくも対してこの男、【紫藤浩一】は至って冷静そのものだ。
それもそのはず、彼には助かる手筈が取れてたのだ。
直後、別の門から2台の黒のトラックが入ってくる。ゾンビを容赦なく踏み潰し紫藤の元へと辿り着く。停車してから、一台のトラックから■■■が降りてくる。
『…【フェーズ1】は無事完了したみたいだな』
『はい、アナタ方から貰った例のアレで手筈通りに』
「し、紫藤先生?」
「英語か?何喋ってんのか分かんねー…」
『目撃者か、始末しなければ』
■■■は銃を構える。生徒達はひぃっと悲鳴を上げ怯えるが、割って入るように紫藤が前に出る。
『おっと、お待ちください。彼らは私の大事な【駒】です。むやみやたらに減らされては困ります』
『…なるほど、悪趣味だな。消されてた方が良かったと後悔するな』
『いやあ、いざという時にはしっかり役立ってくれますから』
生徒には見えないよう怪しい笑みを浮かべる紫藤は、さながら役者のように顔を使い分け、爽やかな笑みを浮かべながら告げる。
「皆さん!これでひとまずは安心です!実は私の父の働きで特殊部隊を学園に派遣して貰えるよう手筈を整ってくれてたのです。最初は渋々だったこの方々も、私が生徒だけでも助けて下さい!…と必死に懇願したことでついに実現しました!」
「ほ、ホントか紫藤先生!」
「私達助かるんだ!」
歓喜する生徒を他所に、紫藤の腹の内は黒い憎悪に包まれた。筋書きのためとは言え、憎き父親を出すことになってしまったことに。しかし焦ってはいけない。納得のいく筋書きでないと怪しまれてしまう。彼らには純粋に、無垢に、自分を信用して貰わないといけないから。
「では乗りましょう!皆さんは後ろのトラックへ乗ってください。私はこの方とお話があるので少しの間別行動になります。大丈夫!【避難所】でまたお会いできます!」
生徒が全員乗ったのを確認して、紫藤も乗る。車は走り出しとある場所へと向かう。
『さて、静かになったところで…【フェーズ2】だが』
『ええ、出して大丈夫でしょう』
『そうか。改めて聞くがいいのか?自分の生まれ育った街が滅茶苦茶になっても』
『ええ、構いませんとも。あの男が作りあげた物だと思うと、楽しくて仕方ない』
邪悪な笑みをする1人の男による復讐劇。それに呼応するように、床主市全体に謎のコンテナが置かれ始める。
「頑張って生き延びてくださいね皆さん。これでも期待してるんですよ」
自分が思わず神になったと錯覚してしまうほど、彼は狂喜に満ちていたのだった。