Bocchi of the dead 作:true RIZE
『ほら八幡、この子がアナタの妹小町よ。今日から八幡はお兄ちゃんだからね』
『おれの、いもうと!』
『あう、ばあ』
***
『おにいちゃんのバカ…ぐす』
『ここにいたのか小町』
『お、おにいちゃん!?ど、どうして』
『どうしてって、俺は小町のお兄ちゃんだからな。妹の居場所なんてすぐ分かんだよ。ほい』
『あ、パピコ!』
『仲直りの半分こだ』
***
『お兄ちゃんのバカ!犬助けるために飛び出すなんて!一歩間違えば死んだかもしんないんだよ!』
『いや…体が勝手に…』
『言い訳しない!全く、これだからゴミぃちゃんは』
『一応入院してるんだから少し労ってください…』
***
『小町、引っ越しの荷物はこれで全部か』
『あ、うん』
『不安か?』
『まあ、不安じゃないって言ったら嘘になるかな~。お父さんが転勤するから一家総出でお引っ越し。おかげで中学までの付き合いがパーになっちゃうよ』
『ふ、その点俺は高校では全く友達ができなかったからこれといった心配事は特にない』
『それ誇れるとこじゃないよゴミぃちゃん』
『く…だがな、俺は俺で』
『はいはいお兄ちゃんの言い訳はまた今度~。ほら行くよ』
***
『これは…夢か?』
そうだ、そうだそうだ。今までのはタチの悪い夢だったんだ。なんか急にゾンビが出てきてパンデミックが始まるとか、厨二病でもほどがあるぞ。
今日から新学期、親父の転勤で引っ越したここ床主市の高校美濃学園に転入するんじゃないか。こうしちゃいれない、早く学校に行く準備をしなくては。歯磨きして寝癖を直す、それから学ランを羽織る。美濃学園は男子は学ランと校則で決められてるため、着用することになったが、いかんせんブレザーより堅苦しくて凝りそうだ。
それはそうと小町はどうだろうか。俺が準備してる間も部屋から出てこなかった。いかん、愛しのマイリトルエンジェルが初日から遅刻して舐められたとあっては沽券に関わる。ここは俺が起こさなくては。だがそれは杞憂であり、階段の先にあるリビングに小町の制服姿が見える。なんだ、先に起きてたのか。
『小町、起きてたんな』
グチャ
『あ?』
リビングの先には、両親のおびただしい程の血と臓物が散りばめられてた。そしてそれをやったのは、手に血痕を残した紛れもなく小町であった。
『こ、小町?何して』
お兄ちゃん、どうして…
『え?』
どうしてもっと早く助けに来てくれなかったの?
『ち、違う!俺は…俺はっ!』
もう遅いよ。だって、小町はもう、人間じゃないんだから。
『小町…止め…』
お兄ちゃんのこと、だべさせでぇ!
***
「うああぁ!!!はぁ…はぁ…」
目が覚めるとそこは、知らない部屋だった。俺はベッドの上で眠ってたみたいだ。
そうか、やっぱりアレは夢じゃなかったんだな…クソっ。
「んー!あ、比企谷起きた?起きたんならコレ、開けるの手伝ってよ」
「平野?」
平野がバールで施錠されてるロッカーを開けようとしていた。いや、いつの間に見知らぬ他人の家で泥棒するよつになったんだよお前。
「はあ」
倦怠感で重苦しい体を起こし、平野と一緒にバールを持つ。テコの原理でロッカーの扉を開けようと目一杯力を振り絞る。
「ぐうぅ!固った!」
「比企谷もうちょい!せーの!」
ガン!と大きめの金属音が鳴って扉が外れる。するとそこには3丁の銃とクロスボウが入っていた。
「なんだこりゃ」
「やっぱりあった…スプリングフィールドM1A1スーパーマッチか。セミオートだけど、ま、M14シリーズのフルオートなんぞ弾の無駄遣いにしかならないし。それにマガジンは20発入る!日本じゃ違法だよ違法…うふ」
気持ち悪い悪人染みた笑みを浮かべ銃をガチャガチャと弄って確かめる平野。まるで新しくおもちゃを買い与えられた子供のようだった。
銃に関してはからっきしなため平野に任せて浴室を探す。平野がいるってことは宮本達もいるのか。ならここは今だけは安全だと思う。今日1日動きまわって汗だくなのと、ゾンビの返り血まみれだから無性に体を洗いたくて仕方なかった。
「ここか」
洗面所の扉を開け、早くシャワー浴びてえなと呑気に考えてた俺は目の前状況を失念してしまう。
「お風呂お風、呂?」
「おや、起きたかね比企谷君」
そこにはバスタオルを巻いて半裸姿の毒島先輩がドライヤーで髪を乾かしてたのだった。
「………」
「その、あまりジロジロ見ないで貰えないだろうか。私も女だ、恥ずかしいモノは恥ずかしい」
頬を赤く染めながら胸元を隠す毒島先輩。比企谷八幡ToLOVEるな事件と女子高生とは思えない艶やかさに、二重の衝撃が走って思わず思考が停止してまう。
「はっ!す、すみません!今出ま、うおおっ!」
慌てて洗面所から出ようとした拍子に、足ふきマットで足を滑らせそのままの勢いで浴室に入ってしまう。
ポヨン
「きゃん!て、あら?比企谷ちゃん?やだもう~比企谷ちゃんったらダ・イ・タ・ン♡」
転んでダイブした先は、鞠川先生のとてもソフトで豊満な双丘にだった。胸に埋もれながらこれはマズいと起き上がるも時既に遅し。宮本と高城が蔑んだ目でこちらを見てくる。
「ア、アンタ…」
「…比企谷君のスケベ!」
「Oh…こ、これには深いワケが」
「い・い・か・らぁ…アンタはさっさと出てけー!」
ゴン。桶を思いっきり顔面に食らい、(物理的に)泣く泣く浴室から出るハメになった。てかホントなんてToLOVEる?俺にラッキースケベの才能が今になって発芽したのか?やめてくれよ…こんな目が腐った野郎がラッキースケベなんて起こしたその日には、停学処分ものだ。
リビングのソファで大人しく横になり、ぶつけたとこを保冷剤を氷嚢代わりにしてアイシングする。
「はあ…何やってんだ俺は」
「ふ、比企谷君は存外巻き込まれ体質と言ったところか」
「そんな漫画みた、いな」
「ん?どうした?」
再び毒島先輩に強襲された。どうしてなのか裸エプロンという、だいたいの野郎がイチコロになる格好になっていた。正確には下は履いていたが、ポニーテールで髪を結っており背中は前よりも無防備に肌が晒されている。その下も紐でTバックのショーツというあまりにも扇情的すぎた。
「ああこれか。合うサイズのものがなくてな。洗濯が終わるまでごまかしているだけだが…はしたなさ過ぎたようだな、すまない」
「い、いや…その、流石に目のやり場に困るんでベッドに戻りますね」
「…比企谷君、先ほどはすまなかった」
唐突に毒島先輩が謝罪してくる。何事かと思ったが、そうだった。毒島先輩は小町の頭を…。
「いや、あれは明らかに俺が悪いです。みんなの前にゾンビ背負って現れて、しかも守るために危害を加えようとしてた…あの時の俺は、正気じゃなかった、かもしんないっす」
「しかし私は君のご家族を」
「毒島先輩、もう気にしないでください。あれは、俺がおかしくなったせいなんですから」
逃げるようにリビングから立ち去った。分かってる、本当はそんな簡単には割り切れない。毒島先輩が悪いのではない、何度も言ってる通りアレは俺が勝手にやって引き起こしたんだ。
けれど、毒島先輩の顔を見ると…あの光景がずっと脳裏にフラッシュバックする。幻影が俺の心と体を蝕んで苦しめてくる。
寝室に戻ると、宮本とタオル一枚の鞠川先生がお酒を飲んでいた。…え?なんで教員が未成年の生徒に酒ススメてんだよ。
「あ、比企谷ちゃーん!一緒に飲みましょ~!」
「あはは!お酒こんなに美味しいなんて!比企谷君も飲もうよー!」
「飲まねーよ」
酒池肉林が繰り広げられる中、ただ1人部屋の隅で銃を弄りながらちょこんと縮こまる平野。平野お前、こん中で1人いるの勇者すぎんだろ。
「おい、大丈夫か平野」
「ひ、比企谷…助け」
「コータちゃーん!んー♡」
「ぶはぁっ!」
平野、無事昇天。鞠川先生からのほっぺチューによるクリティカルをモロに食らってしまった。朧気な意識の中、ふらふら~と部屋を出て行った平野、まあラッキースケベが起こったってことで爆発してくれ。
「比企谷ちゃーん!んんー!」
「おやすみなさい」
「あらら~」
襲ってきた鞠川先生を華麗に躱し、鞠川先生をベッドに寝かす。今日1日の疲労とお酒の力でそのまま寝てしまう。さてあとは、もう1人の酔っぱらいをどうにかしなければ。
「比企谷くーん、ほら飲もうよー」
「飲まねーよ、つか飲みすぎだ」
「えーいいでしょ別にー。酔わないとやってられないわよ。永も…孝も…いなくなっちゃって…飲まないと気が狂いそう…ぐす」
「……」
涙を拭いながら酒をあおる。昔親父が言ってたな。酒は飲んでも呑まれるなは正しくなく、酒は人の本性を顕にするって。アルコールで極度に低下した理性が、より素をさらけ出すとか。だから飲みすぎには気をつけろ、それで会社の人達の前で恥かいたとか。
つまりなんだ、俺もこの場の空気にあてられたのか弱音をこぼしてしまったのだ。
「すまん宮本」
「え?どうしたの比企谷君?」
「俺は馬鹿だった。宮本に強さを押し付けて、依存なんかしなくても前に進めとか無責任なこと言って出てった大馬鹿野郎だ。いざ同じ場面に出くわしてみれば、俺の方がよっぽど酷かった」
「…比企谷君」
「宮本、俺はもう…1人だ。家族を見つけて無事に生き残ることだけが、俺の目的で原動力だった。でも、みんな死んで…俺は…この先、生きる必要なんかあるのか」
心底腐りきった目で、宮本につられて涙を流す。もう家族はいない。ボッチを謳っいた俺が、本当の意味で1人に…天涯孤独になってしまった。今日1日で胸に空いた穴は、広がり底の見えないほどの深さへとなってしまう。
「比企谷君、こっち見て」
「…何、んくっ!?」
「ん──」
宮本に見ろと言われ顔を上げると、突然唇を重ねられる。しっとり、柔らかで、ほのかにアルコールとフルーティーな香りがして、一瞬呆けてしまうも、すぐに宮本から離れる。
「ふあ、はぁ…はぁ…。み、宮本、何して…」
「比企谷君の言う通りだよ」
「はぁ、はぁ、は?」
「私は強くなんかない。誰かがいないと、私は耐えられない。そんな、人間だから」
「宮本…」
「それにね、比企谷君が思ってるより…私って凄く俗っぽいの」
「は、何言っ──んん!」
宮本に腕を引かれ、そのまま押したおされ続け様に再び唇を重ねられる。それだけでなく、口内に宮本の舌が侵入して絡ませてくる。絶対に逃げられないよう顔を掴まれ、淫靡な水音を立てながら俺の思考を蕩けさせる。
なんとか抵抗しようと腕を伸ばし宮本を押し返そうとするも、頭を掴んでた手を離し腕を俺の体に回して抱擁してくる。ホントに女の力なのかと疑うほどに強く、強く抱きしめて離そうとしなかった。
永遠にも思えた肉欲まみれの口付けはやっと終わり、ぷはっと宮本の口が離れる。俺と宮本の口先からは、お互いの繋がった銀糸が月明かりに照らせ、ひどく淫らに見えた。
「み、宮本…なんでこんな…俺はお前に、嫌われて当然のことした、のに…」
「…言ったよね、私は思ってたより俗物なの。たった1日で、比企谷八幡君って人のことを、もう1人の男として意識してる」
「そ、それは…誤解だろ。弱りきった心境で、都合良く支えてくれそうな奴がいたから…」
「もうそれでいいよ…。比企谷君がどんなに理路整然と言い訳を重ねても、私もう…比企谷八幡って男の虜になってるから」
もう何を言っても無駄な宮本に、俺はどうしようもなくこの空気を受け入れそうになっていた。衰弱しきった理性に、この姦淫はまさしく毒に等しかった。俺の心に付け入り、じわじわと染み込んで蝕んでいった。
宮本はそのまま俺の下腹部へと手を這わして、この先どうなるのかを嫌でも分からせてくる。
「…なんだ。比企谷君もそのつもりになってるよ」
「っ!!!」
「きゃあ!」
宮本を突き放し、部屋を出る。僅かに残った一握りの理性でなんとか間違いを犯さずに済んだ。今の俺には、宮本の誘惑に耐えきれるほど余裕もなかった。あとほんの少し遅かったら俺は、彼女の泥沼にはまり溺れていた。頭を冷やそう、俺も素を出しすぎたと少し後悔した。
「…あーあ、もう少しだったのに…比企谷君、かわいかったな」
「……(きゃ~!ダメよ静香!生徒の情事を見ちゃ!でも、でも気になっちゃうの~!)」
***
「はぁ…疲れた」
「何よ、休んでたワリには随分疲れてるじゃない」
「た、高城」
く、なんでここにいる女性連中はこうも薄着なんだ。高城も高城で寝巻きとは言ええらく露出が激しい。もっと服はなかったのかと突っ込みたくなるほど、今の俺には目の毒すぎる。
「?アンタどうしたのよ、えらく挙動不審なんだけど」
「い、いや…なんでもない。それより寒くないのか?夏前とは言え、その…随分薄着なんじゃないか」
「アンタあたしのお父さんか何かなの…これしかなかったのよ。なに?あたしが魅力的すぎて襲うつもり?」
「高城、安心しろ。俺は絶対に襲わない」
「それはそれで癪に触んのよ!」
ゲシっと脛を蹴られ不機嫌になって立ち去る高城。うう、と脛の痛みに悶える。
「大丈夫かい比企谷君」
「毒島先輩、今近づかれるとその…」
「ん?どうしたのかね?」
ほぼ裸エプロンの毒島先輩が至近距離に、先ほどから昂ったままの情にスパイスを添えてくる。
「い、いえ…ちょっとトイレ行ってきます。いざとなったら行けないと困るから」
「そうか、引き留めてすまなかった」
俺はトイレに籠り、このどうしようもなく限界まで滾りきった情欲を致し方なく発散することにした。でないと俺は、この家で正気を保っていられる自信がなかったのだ。