空想令嬢ガールはえちえちホームズを夢見るか? 作:何処にでもある
寝起きの牢屋敷
「んぅ……シェリーさん、いったい何を見ていますの」
「あ、起きましたかハンナさん! 今ですね、エマさんが昨日から森で迷子になったから助けて欲しいと、グループチャットに出してた動画をチェックしてたんですよ!」
「……はい? 途中から見かけないと思ったらそんな事になってたんですの?」
「今はここが島に建てられた屋敷で、塀は超えられないよう魔法が掛けられているのを調べ終わり、ゴクチョーが来たから何を質問したらいい? と聞かれたので屋敷がいつから建てられたのか質問して下さいと返答しました!」
「一人でよくもまぁそこまでやれますわね…」
「あ、昨日の途中からナノカさんとアリサさんと合流してますので、そのおかげでやっていけたみたいです! さすがエマさんですね!」
「ちょっとみせやがれですわ。……うっっわ、昨日と今日合わせて6体もなれはてに遭遇してる……よくもまぁ生きてますわね」
「全部綺麗な写真を撮れてる辺り、戦場カメラマンでもやっていけそうですね、スゴイです!」
「ええと…?」
傘のなれはて…手を出さなければ無害。反撃はする。触腕で殺しに来る。多分心を読んでる。
短剣のなれはて…赤色を追う。動くものを刺す。見つかると高速道路のバイクより速い。
銃のなれはて…森が縄張り。ナノカちゃんの銃を作った魔法少女のなれはて? 望んだ兵器を創り熱源で人を見つけ出す。一旦看守が撃退してくれたけど、森に入ったらその時点でコチラを殺しに向かってきてると考えていいかも。森には彼女が撒いた罠でいっぱいだった。
糸のなれはて…本体の動きは遅い。糸で関節を縛られると操られる。ボクは自殺させかけられた。多分人間の頃は料理好きだったんじゃないかな。そういうコックな服だし。糸…料理…蜘蛛?
包帯のなれはて…包帯がぐるぐるで顔辺りにおっきな眼のマークがあるね。遠くから見かけただけだからそれ以外分からない。
ランタンのなれはて…多分その場を動けない? でもここに居るってことは脱走してるし…ランタンみたいにガラスで自分を囲って木に吊られてた。灯りが点いてないから無害だったのかな。夜だとなにか変わってそう。
「……どれもこれも近付きたくねーですわね。というか森に近付きたくねーですわ。銃のなれはてこっっわ」
「そうですか? 私は一回戦ってみたい気もしますが」
「やらせねーですわよ。ぜってー挑むんじゃねーですわよ!」
「でも、そうなるとこうして花畑に居るのもなんだか危ない気がしてきましたね! ここまで色々な魔女が脱走してる訳ですし、花畑を縄張りにする魔女も何処かに居そうですよね」
「……今すぐ帰りますわよー!!」
「はーい! 楽しいピクニックでしたね、ハンナさん!」
「ええ! 全く!」
「この屋敷に休まる時間はありませんの…?」
「おはようございます! ハンナさん!」
お昼寝でノアの話を聞き、その後起きてる間も怒涛の新情報の山に溺れていたハンナだったが、シェリーの顔とシェリーハウスのいつもの部屋を見て安心感を抱いた。
あーこれこれ、このモダンな雰囲気が令嬢っぽくていいですわーと言わんばかりのほっこり顔である。
「ごきげんようシェリーさん。わたくしもここ最近は此処を我が家に感じてきましたわ」
「気のせいですね! では、お互いの報告会と行きましょう!」
という訳で華麗なボケをぶった斬られつつ、ハンナは自分が見聞きした事実をなるべく客観的に伝えた。出来ているかは兎も角、そうする努力はした事をここに記しておく。
「私の方ですが、コチラはかなり重要な情報を得ることがが出来ました!」
「ふーん、豪語するからにはそれだけちゃんと集められたんでしょうね?」
「これでも6年選手ですからね! ハンナさんも、このシェリーちゃんの働きっぷりを見れば見直すこと間違いなしです!」
「調べた結果、二人とも無実だとわかりました! 如何でしたか?」
情報量のないネット記事のような発言にハンナがハリセンでもないかと事務所を探し、無駄に痛くしたくないなと思い直し、最終的に手元の
「それじゃ犯人がいねーじゃねーですの。今更ぽっと出の犯行とか1番盛り上がりませんわ」
「ですが劇団長は脅しこそしましたが、動機も合わせてこの犯行をやれるような魔法の道具があれば自分でやってたでしょうし、レイアさんはノアさんが受けた本当の依頼を教えたら全力で首を振りました。「それじゃあ私が目立てないじゃないか! もしやるなら全ての絵を自画像にするさ!」…と言ってましたので、こちらも動機がありません」
「……二人とも嘘は付いてねーんですのよね」
「無いですね! 断言出来るだけの事はやりましたので!」
シェリーは相変わらずニコニコとしながらそう言う。
具体的に何をやったのかは教えてくれそうにない。
【怪力】の魔法の事を考えると怖いような、聞きたくないような気もする話だ。
「しかし困りましたわね…そうなるとこの事件は誰の仕業ですの?」
容疑者は全員白だった。改めて再調査かと意識を遠のけるハンナだったが、シェリーはその様子を見てキョトンとした顔でこう言った。
「ハンナさん。"ここまで調べたんですし、事件はもう解決ですよね?"」
「……はぁ?」
牢屋敷でシェリーとの付き合いが短いハンナですら、誰だコイツと思う言葉を。
「この事件は根本的に劇団長が魔法ではない、ノアさんの描いた絵を使い脅し、この仕事をさせたのが発端です。ですが昨夜、私はその絵を証拠品として押収しました。これが現物です」
提示されたのは一枚の絵。何処かの花畑と虹が掛かった絵の中で二人の少女が背を向けて座っているものだ。
バルーンらしくはないが、ハンナからすれば十分上手いと感じる絵だ。
……おや? ノアがイヤだと言ったのは過去の人の絵をバルーンの絵にしたくないこと。
その結論を言うまでの過去語りからすると……"別に、自分の絵を広められるのは問題ないのでは?"
「なのでノアさんがもうこの仕事を受ける理由はないんですよね。後はこの絵をノアさんに返して、オペラ座からノアさんを解放すれば私達は依頼料も貰えるでしょうし、この仕事も終わります」
そうだこれはおかしい。
本人の過去の経歴からして、あのノアの禁忌は【自分の全てを魔法に置き換えられる事】だ。
決して【芸術活動の本体が魔法だと知られたくない】…ではない。
同じノアの姿と名前をしているが、中身はそれこそ別物だ。真反対とすら言っていい。そうだ、そこが事態をややこしくしたポイントだろう。
「ですので、ここが引き際ですね。これなら交渉次第で依頼料も上乗せされるでしょうし、しばらくの生活費を心配することもありません! ノアさんはこの仕事を辞められてハッピー、私もお金を貰えてハッピー! win-winです!」
肝心のハンナがたった今眼の前で到底面白さと浪漫を追い求める名探偵シェリーとは思えない発言に意識を持って行かれてしまっているが、そこは一旦置いておこう。
たかか他人に理想であれと押し付ける未熟な乙女心と、この世界の生活にすっかり染まった方のシェリーの変化のギャップが生んだ
「シェリーさんはそんなこと言いませんわ」
「…それはどうでしょうか」
さて、そうなると途端に怪しいのがノアだ。というより、もう論理的には確定していい。
状況証拠と証言が合わず、物的証拠が全て彼女の仕業だと指し示している。本人が認めてないだけで事実は寧ろ補強され続けてるのが現状だ。
シェリーに依頼したのだって今の流れを見れば理解出来るだろう。最近の探偵事務所の懐事情を調べていたとすれば、こうなる事を見越して依頼した事になって辻褄も合う。
「ハンナさんにとって夢の世界でも、私は実際にここで6年間探偵として過ごした経験も記憶もあります。最初は経営が苦しかった時も、バイトで糊口をしのいだ事も、最近軌道が乗った事も、全て実体験として身に染みてるんです。ハンナさんはそれを否定するつもりですか?」
「だとしたら、ハンナさんの癖に随分と現実に妥協しやがりましたわね。何もかも胡乱な世界な癖に、辛い事を並べればそれが現実だと言い張れるとでも? わたくしからすれば、あなたの姿は悪夢のそれですわ!」
一回今並んだ事実も含めて整理してみよう。
1、ノアは自分の絵を広める事を脅しにされてオペラ座の仕事を受けた。
2、仕事の内容は魔法を使うことだった。
3、ノアはそれに従わず、周りにも周知させず、魔法を使わずになんらかの作業をしていた。
4、ある日ノアの魔法を使った絵が現場に有った。
5、ノアは探偵に今回の事件の解決を依頼した。
おっと、事実を並べたら1と3の行動が矛盾しているように見えるな。
3はシェリーが最初に言った様に補填・リタッチの作業と考えて良いだろう。情報収集の際に周囲の証言もそれを共通認識にしていたのだから、ノアの行動に矛盾はない。
しっかりと情報を集めて整理する者が居なければの話だが。
一つだけ知っている者にはノアが正しいように見えるが、そうでなければノアの行動はチグハグだ。劇団長がいつまで経っても頼んだ仕事をしないノアに文句を言ってないのが不思議なくらい変だ。ノアが劇団長に何かしら言いくるめてたとしか思えない。
「ではハンナさんは私に何をして欲しいんですか? ハンナさんは私を協力させる一環で助手になってるだけなのに、その熱意は何処から来るのでしょう」
「そんなの──! シェリーさん、あなた…そんな事も分からねーですの?」
さて、推理は終わった。問題はどうやってシェリーかハンナが気付き、それを本人に認めさせるかだが……。
ハンナの心情、シェリーの懐事情、周囲がノアに好意的である事、ノアが依頼しているという事……。
全ての事情が解決には向いていない以上、この魔女は裁かれることはないだろう。
それこそ……。
「──友達が信条を曲げている。友人なら、それを正そうとするのは当然の心構えだ」
「……! あんたは…!」
「おお、あなたは…!」
正しさの為に動く者が協力を申し出ない限りは、あり得なかっただろう。
「この間は世話になったな、シェリー。あれからコチラもごたついたが、お陰で私自身の過ちを正すことができた。今日来たのはそのお礼参りだと思ってくれ」
「わたくしを追いかけ回したヤベー奴!」
「二階堂ヒロさんじゃないですか!」
「「…ん?」」
「助手のハンナ。この前は追いかけ回してすまなかった。殺し掛けたお詫びにこの夢の中にいる間は手を貸す事にしたから、これで責任を取らせてくれ」
「へ? あ…はぁ…構いません…わ?」
無事に私の謝意を受け入れてくれたようでありがたい話だ。
シェリーの発言にハンナが違和感を感じてたが……先に断っておくが、別に私は牢屋敷の方の二階堂ヒロではない。
この魔女の夢を作ったなれはてでも、去年に牢屋敷からなれはてを脱走させた元凶でもない。ハンナが死んだりしたら魔法でやり直してたりも別にやっていない。正真正銘、この夢の世界でしか存在できない儚い模造品だ。安心して信用してくれて構わない。私は正しさを求めてるだけだ。
「……今までみたいに苗字が変わってねーんですのね」
「変える意味が無いからな。私は別に二階堂家に生まれても育っても無いが、正しく生きるその在り方を変えようとは思わなかった。だったら私は二階堂ヒロで良いだろう。他と比べて本質的な違いはないのだからな」
「……最初に見たっきりだから何が違うのかも分かんねーですわね……」
「本人とは立ち位置が違う。なにせ歯車仕掛けだからな。なので、私を参考に二階堂ヒロを知った気にならないようにしてくれ」
「……待ちなさい、明らかに色々知っていますわよね!? 情報を寄越しやがれですわー!」
「この世界について知りたいならココに魔法で見て貰えば済む話だろう? 今度彼女の写真を一つ持って来るといい。
そんな事よりノアの件が先だ。はい、二人とも席に着け。今から私の推理を傾聴するように」
二人の肩を押し強引に席に座らせる。二人だけだといつまで経っても進まないので、このくらいの扱いで良いだろう。ハンナもここに来れる制限時間があるのだから、もっと効率的に動くべきだ。
「うぐぅ…わたくしの苦手なタイプですわね…」
では、自己紹介も終わったことだし本題に戻ろうか。
「──…という訳だ。反論か質問があれば聞こう」
当たり前だが、結論を提示したような物なのですぐには反論は返ってこない。
ハンナは心情的に納得できないという顔をしていたが、言い返せないのか悔しそうにしているばかりだった。
「はいはーい! ヒロさんはどうやってその情報を知ったんですか?」
「アトラクションの仕組みを知らないままキャストをするのは正しくないから調べた。以上だ」
「どうやって調べたんですの!」
「君達の持つ招待券からだ。それが私達の眼と耳になっている」
「はぁ!?」
慌ててハンナが全身をまさぐるが出てこない。
それはそうだろう。招待券は遊園地の入り口で使う物。探すなら中ではなく外だ。
「ちょっと、ありませんわよ!」
「起きてから調べろ」
そう言った辺りで、感触と脳を直接触れられた様な悪寒が通り過ぎた。
……どうやら支配人は我慢の限界であるようだ。
「……っと、私の役ももう終わりか。では失礼する」
「ちょっと!? まだ話は」
「そうだ、コレだけでも忠告しておこう──あまり一つのアトラクションに留まり過ぎるな。じっくり楽しんでくれるのはいいが、他のお客様の迷惑になる。アトラクションを楽しむなら短くテキパキと、入退場は足を止めないことだ」
そういうだけ言って、私は退席した。
「っ!……消えやがりましたわね」
ハンナが慌てて探偵事務所から飛び出て見渡すが、其処には既に誰も居ない。一体なんだったんだと困惑するも……生憎と答えよりも時間の方が先に来たらしい。
ハンナは透明になっていく身体を見てから、キッと深い霧に向かって睨んだ。
「こんな悪趣味な夢…全部ぶっ壊してやるから覚悟しとけー! ですわー!」
そう叫び、現実へと消えた。
勇ましいが、この調子だといつになるか分からない志だ。長い目で見守るのが吉だろう。
「……ふーむ。なんとなーく見えて来ましたね、この世界の構造が」
一連の流れを見ていたシェリーがそう言って今回の依頼の現場に向かう。
今回の謎を談合で済ませに行くかと思ったが……その眼には、諦めず真実に向かおうとする意志が宿っていた。
よし、探偵らしい正しさを取り戻したな。ヒント役ついでに正しに行った甲斐があった。
起きてる間の牢屋敷
「──ココさん!」
「んを!? ちょ、寝起きに叫ちかいちかいって!…どしたんお嬢、そんな慌てちゃってさぁ」
「今夜寝てる間にココさんの魔法で見て欲しいものがありますの! なのでどうか、わたくしが寝てる間は起きててくれませんこと?」
「はっ? キモ、ガチイミフなんですケド。なに、実はお嬢って寝顔見られるのが趣味だったりすんの?」
「ちげ〜ですわ! 魔女に寝てる間どっかに連れてかれてるんですのー! ココさんには何処に連れ去られてる見てもらいたいのですわ!」
「あ…あーナルホドね?……待って? あてぃしお嬢に魔法のコト教えたっけ?」
「その夢の中で教えてもらったの! 写真を貰えって!」
「あーあー待って理解追いついてないから………うん、うん。分かった、とりま信じる。あてぃしの魔法の条件も知ってるみたいだし、ウチらまとめてその魔女に夢の中でなんか起きてんのね? で、お嬢だけそれを覚えてると……よし、一旦最初から全部話してよ。あてぃしも死にたくないし、協力するからさ」
「……分かりましたわ」
ーそれから朝食にてー
「………」
(どうしよう…昨日聞いたノアちゃんが魔女化した経緯が経緯だから、みんな気まずそう。あの薬もノアちゃんが持って来たものじゃないみたいだし……だとしたら、アレはどこから来たんだろう)
「………」
「その…ノアくん、再三になるが昨日はすまなかった。私達ももっと、君の言葉に耳を傾けるべきだった。簡単に許される事ではないだろうが、あの場に居た全員を代表して謝らせてほしい」
「…別にのあは気にしてないよ? あやまらなくても大丈夫。のあこそ、みんなに迷惑かけちゃってごめんね」
「ああ……」
「………」
(ボクも気まずくなってきちゃった…! うぅ、助けてヒロちゃん…! やっぱりヒロちゃんの代わりはムリだよ…!)
コツ、コツ、コツ……。
「全員黙食なのは正しい光景だ」
(ヒロちゃん! 懲罰房から戻って来たんだ! 首を切られた時はどうなることかと思ったけど、良かった〜!)
「ヒロちゃん! やっと出れたんだね!」
「話しかけるな、死ね、桜羽エマ。私はスタンスを変えたつもりはない。死ね」
「首はもう大丈夫? たくさん血が出る前にメルルちゃんに治して貰ってたけど、違和感はない? ハンナちゃんに縫って貰った所は痒くないかな? そうだ、髪も近いうちに整えないとだよね? 同室だし、ボクにやらせて貰ってもいいかな!」
「黙れストレス源、死ね。見てただけのやつが偉そうに話しかけるな」
「キュゥン…」
(見てただけ…それは、実際そうだ。あの時直ぐに駆け寄って血が溢れる前にくっ付けたのはシェリーちゃんだし、その後縫ってくれたのがハンナちゃん。気を持ち直して治癒の魔法を使ったメルルちゃんに、「生きろ」と命令したアンアンちゃん、看守の追撃を防いだレイアちゃんにアリサちゃん……みんなが動いた中でボクはただ見ているだけだった。それは、紛れもない事実だ)
「でもヒロちゃん! ボクは…ヒロちゃんと仲直りしたくて……ダメ…なのかな」
「ダメだ。いいか? 私はこれから助けてくれた人達にお礼参りをする。それを邪魔するなら、私は決して容赦しない」
(……とても夢の件を切り出せる空気じゃなくなりましたわー! どーすんですのこの修羅場!?)
(お昼、お昼にやればいいから! 夜まで時間はあるんだし、あせんなってお嬢!)