空想令嬢ガールはえちえちホームズを夢見るか? 作:何処にでもある
起きてる間の牢屋敷(ヒロによるお礼参り編)
「あの時はありがとう、シェリー、ハンナ。二人が最初に動かなければ私は死んでいただろう」
「いえいえ〜! あ、反撃来そうだなーって庇いに行こうとして間に合わなかっただけですから!」
「こちらこそ麻酔もなく縫いましたし……かなり痛かったでしょう? わたくしも、まさかお裁縫の要領で人を縫う事になるとは思いませんでしたもの。上手くいって良かったですわ」
「そう言ってくれると助かる。不甲斐ない姿を見せてしまったが、何かあれば頼ってくれ。出来る限り力になろう。ココも、あの時救急車を呼ぼうとしてくれたな。感謝する。ありがとう」
「…うぇ!? 見てたのかよ!」
「メルル、治してくれてありがとう。あれが無ければ間違いなく私は死んでいた」
「い、いぃいえ…! き、傷跡も残っちゃいましたし……か、髪も戻せませんでしたから……」
「そんなことは命を助けてくれた事を前にすれば些事だ。誇れメルル、キミはすごい子だ」
「あ…あうあうあう…ぅぅ…」
「ヒロちゃん! ボクを無視するのは正しくないよ!」
「黙れ桜羽エマ」
「レイア、アリサ。あの時看守から守ってくれて感謝している。ありがとう」
「はっはっは! 構わないともヒロくん! その調子で私を褒め讃えてくれたまえ!」
「気にすんな、ウチが勝手にやったことだからな」
「ああ、ここからは出遅れた分まで巻き返させて貰おう。どんなことでも頼りにしてくれ」
「マーゴ、ミリア、アンアン、少しいいか?」
「あらぁ? 私達は別にあの時何もしてないわよ?」
「そうだね…おじさん達は何も力になれなかったし…」
[くるしゅうない]
「だが、その後二人は私の様子を見に来ては色々世話を焼いてくれた。簡易ベッドや水に包帯…規則がある中、わざわざ侵入してまで診てくれた。ありがとう、本当に助かった」
「まぁ♡」
「あはは…そう言われると照れくさいな…」
[わがはいは?]
「ああ、ありがとう。恐らく魔法を使ったのだろう? おかげで意識を繋ぎ止められた。とても感謝している」
「むふー」
「確かノアと言ったか。隣は良いだろうか」
「いいよー」
「ひとりで食べているようだが……なにか有ったのか?」
「……のあはね、一回魔女になったんだ」
ーヒロによるノアのメンタルケア編ー
「──…なるほど。身に覚えはないが、本当に自分がやってないとも言い切れない。魔法が暴走して出来たとすれば、次を求められた時に同じ物を作れる気がしない。それで追い詰められたと」
「うん。段々逃げ道がなくなってる気がしてね? のあもどうすればいいかなって悩んで……魔法に全てを任せれば出来るのかなって思っちゃったんだ」
「不可能だ。偶然の産物をまた作るには、当然同じ状況を再現する必要がある。魔女化すればなんとかなると考えるのは正しくない」
「うん……」
「だが……ノアはずっとムリだと言い続けたのだろう? ノアが作ろうとして作った訳じゃない、どんなに褒めても同じ物は出せないと。それは正しい。事態は最悪な方に進んでしまったが、ノアは十分責任を果たしている。魔女化は言外の期待を乗せ続けた皆の責任だ」
「ヒロちゃん…」
「今回の件は皆が少しずつ悪く、正しくなかった。ならば、正す為には全員が少しずつ変わらなければならない。どちらか一方が全てを背負うのはなくだ」
「そうだよね……うん、ありがとうヒロちゃん。のあ、みんなに謝ってくる!」
「ああ。謝ったら相手に代表を立てさせず、皆からの謝罪を受け取るといい。代表なんて立てられても、ノアがスッキリできないだろうからな。それで漸く正しさに向けて一歩を踏める」
ーその後ノアはみんなと仲直りしたー
「結局言えず仕舞いでしたわー…」
「今日は遅かったですねハンナさん。もうあの事件解決しちゃいましたよ?」
「え?……あぁ、そうなんですのね」
のんべんだらりとハンナが物が積まれた机の上に頭を置く。随分と気怠げだ。
昨日は随分揉めていたが……時間が怒りを押し流したのだろう。ハンナはそりゃそうなるかと考えてそうな顔でシェリーをぼーっと見ていると、それを話の続きの催促と勘違いしたのか、シェリーはその後の深掘りをし始めた。
「先ず、ノアさんは自分を犯人だと認めました」
「…あれ? 談合したんじゃねーんですの?」
「それはやめました! あの後ハンナさんとヒロさんの言う事にも一理あると思いまして。生活もまだ余裕がありますし、面白い方を優先することにしたんです!」
「ふーん……」
急に意見を撤回したシェリーに怪訝な顔をする。一体どういう風の吹き回しだと。
「認めさせるのに苦労はしましたが、おかげで彼女が魔法の絵に加え、自分の絵として売っていた方も魔法で描いていたこと、劇団長には本当の本当に自力で描いた絵を取られていた事が分かりました! いやー、あのバルーンが実はそんな事をしてたなんて、驚きじゃないですか?」
「えっメチャクチャ嘘つきじゃねーですの!?」
「なんでも上手く描くほど魔法が勝手に発動しちゃってたそうで。わざと絵にならない範囲でしか自分の絵を残せなかったみたいですよ? だから、ノアさんは「自分の絵」がバレるのが怖かったみたいですね」
はえーとハンナが驚愕のあまり開いた口が閉じなくなる。
決してあのノアは牢屋敷のノアと同じではないが、ここまで謎を多重構造にしているとは驚きだ。
同時にハンナに禁忌を告白した時も嘘は言ってない辺り、かなり食わせ者である。
「しかしなんでまた…全部バルーン名義で出せばいーんじゃねーですの?」
「どうしても見たいと不良仲間に言われた時、うっかり下手に描くのを躊躇ったせいで魔法が発動し、それが広まったものだから言うに言えなくなっちゃったそうです」
「あー…」
「なまじ錠剤の飲む量で魔法の強弱を付けられたものだから、バレることも無かったのが嘘が長引く原因だったみたいですね」
一回吐いた嘘を嘘と言えずにズルズル引き伸ばす。
ハンナもそんな経験が無いわけではないのだろう。自分にも心当たりがあると気まずいため息を吐くと、シェリーに話を促した。
「それで、その後どうなったのよ」
「バレて踏ん切りがついたのか、ちゃんと正直に言う事にしたみたいです。イタズラしちゃってごめんなさいって、次の作品で示すそうで」
「はー……最後までアーティストですわ〜…」
ともあれ、二転三転しつつもノアの依頼は無事に完了した。何気にシェリーも無事に依頼料が振り込まれてホクホク顔だったので、まるっと全てがあるべき場所に収まって万々歳といった所だろう。
「という訳で、次はハンナさんの謎を解決しちゃいたいと思います!」
「なにか分かったんですの?」
「いえ! ヒロさんが言ってた事からここが造られた世界っぽいなーとか、世界と言いつつハンナさんが居る牢屋敷のお隣にありそうだなーとか、見えてる景色も幻影の類いなんじゃないかなーなんて予想しか立てられてませんね!」
「それ、わたくしと大差ないってことじゃねーですの」
もっと言うなら、ここが物理的にあるとすれば森の中と考えるのが自然な発想になる。
ゴクチョーへの隠し場所、道端で出逢った他のなれはてが本物であるリスク、幾ら空間が狂おうと一つの島の敷地を考えればそこ以外に考えられない。
牢屋敷は看守が目を光らせているし、花畑は視界が良すぎる。小湖の中なら或いは…だが、小湖自体森の中にあるものだから答えは変わらない。
地下なんて考えもあるが、それを言ったらキリがない。一先ず森の中とするのが収まりがいいだろう。
「なーのーでー…今回はお買い物に行きたいと思います!」
「わたくしの謎の解明がどーのって話じゃなくて?」
「はい! 考えるだけじゃ分からないという結論になったので、一回あちこち見て回らせる事になりました!」
「それは…ちょうど良いですわね」
先日私が言った事を参考にしたのだろう。ハンナもスマホにあるココの写真に視線を移してる辺りかなり乗り気だ。
この状況を牢屋敷のココがどう見えてるか分からないが、一応私が常にハンナの持つ写真を視界に収めている為、視点に困ることはないだろう。追跡行為に対しキモがられるかも知れないが、現状を正す一環として背に腹は変えられない。
「ではではー! シェリー探偵事務所、しゅっぱーつ!」
♧ ♠︎
「ここがベーカー百貨店ですね!」
「いやイ○ン! 思いっきしイオ○じゃねーですの!」
「今日も人で賑わってますね!」
「居ないから! 誰も居なくて不審極まってますわよ!」
「そうですか? 確かに霧は濃いですが、かなりの喧騒ですよ?」
「手を繋がねーとお互いどこに居るかも分からねーのは霧じゃなくて煙って言うのよ! 誤魔化し下手か!」
「いやー、霧の店ですねー」
「こんな視界不良な店が有ってたまるかーーい!!」
道中誰とも会わない事にはギリギリ耐えられたハンナも、この雑な誤魔化しには耐えきれずツッコミを入れた。オペラ座の時はまだ人が居たのにどうしてこっちはこんな有様なのだと。流石に酷すぎやしないかと。
「あ、霧が晴れていきますね。ほら、ちゃんと人が居るじゃないですか」
「わたくしにはもうたった今生成したようにしか見えませんわ! というか、店の内装の方をどうにかした方が良いですわよこれ!」
「えー? 便利ならそれでよくありません?」
「雰囲気が台無しと言ってるのよ! せめて商店街になさい商店街に!」
確かに酷いものだが、それを言ったらベーカー街で日本語で「シェリーちゃんの探偵事務所!」の看板がある時点で今更と言うものだ。ここが日本中から集められた魔女見習いがなれはてと化して閉じ込められている以上、多少イギリスの見識が浅いのは割り切るしかないだろう。
昔の労働者っぽい服を着た男性やワンピースを着た奥様を用意出来ただけ頑張ってる。
「……はぁ、来たからには何か買いますわよ。シェリーさん、値引きのチラシとか持ってませんの? あ、カードはお持ちかしら?」
「チラシもカードもありませんよ? ですが現金ならたんまりあります。牢屋敷に居る子達の為にも沢山買いましょうね!」
「いや、流石にそれは悪いですわ…13人分の食費ってバカになりませんし、あっという間に枯渇しますわよ」
「大丈夫です! 経費で落としますから!」
「……わたくしはその辺よくわかんないですけど、経費ってそんな魔法の言葉なのかしら?」
ハンナはそれで良いのかと悩んだが、シェリーがそこまで言うならと納得した。
因みに今回の場合は経費として落とすことは可能だが、そもそも徴税されるまでこの世界が保つ保証もないので実質シェリーの自費だ。
「それなら卵にお肉に牛乳に…後は野菜ジュースもあれば一通り栄養は揃いますわね。コレで万全ですわ!」
「なんだか貧乏くさい買い方ですね。もっと生野菜とかパンとか買いません? それにお肉ならウィンナーや牛肉とか色々ありますし、98円の豚肉ばかり買うのは流石になくないですか?」
「……なら、冷凍パスタも買いますわよ。ナス入りのデミグラス味なら野菜も摂れますわ」
「女の子の買い方じゃなくないですか?」
「お黙れですわ! 人がせっかく財布に気を遣ってるんだから感謝してくださいまし!」
買い物には家柄が正直に出るとはいえ、どちらの意見も一理ある話だ。
牢屋敷の食事が悪いのは想像が付くとしても、流石に貧乏性が出過ぎているし、13人分の食費は重すぎる。どちらも真っ当なだけに中々答えの出せない話だろう。
二人はしばらく言い合った後、結局ハンナの意見が通ることになった。
「ふん! そんなにわたくしにいいものを買わせたいならもっとお仕事を入れてくださいまし! わたくしはシェリーさんに身持ちを崩させてまで世話になりたい訳じゃありませんわ!」
「はーい。では次は雑貨店に行きましょうか。牢屋敷に欲しい物は沢山あるでしょうし」
「……それなら歯ブラシと歯磨き粉とジャンプー&リンスと爪切りと保湿クリームと耳かきと部屋着とゴミ箱とコロコロとバスタオルと洗剤と虫除けスプレーと除湿とカーテンとガムテープと」
「わー、すごい不満の山。ちゃんと持てる量を考えてくださいね、ハンナさん」
代わりに生活品はかなりの要望がされた。これまでの生活で地味にコレが欲しいアレがないとなる状況が有ったのだろう。寝具も硬いのが不満だったのか、生活品を買った後は13組の枕と布団を買いに4階へと直行した。お陰で大きなショッピングカートが上下共に4つも埋まる事態である。
全体を見て回ったせいかハンナの身体も薄くなっているし、これで持っていけなかったらシェリーがかなり苦労する事になるだろう。
「それ持てるんですか? 事務所を倉庫にするのはイヤですよ?」
「うおー! 何がなんでも持ってってやりますわー! ハンナ流! 禁断の横たわり手足引っ掛け持ち!」
「うわぁ…女の子がしちゃいけないポーズですね! 人の欲、人の業って感じです!」
「魔法全ッ開ですわー!!」
ノア戦でも見せなかった野太い雄叫びが店内に響き渡る。マナー違反が著しいが、気持ちは分からないでもないのが微妙な所だ。半透明になっている辺りもうじき消えるだろうし言うか判断に迷うが、ここは注意した方が良いだろう。次が無いとも限らないのだから。
「お客様、店内では他のお客様の迷惑にならないようお静かにお願いします」
「ああすみませ…ヒロさん! その格好はどうしたんですか?」
「清掃スタッフとしての業務をしている。ハンナ、力むのはいいが店内では静かにしてくれないか」
「それは失礼しましたわぁ…!…わぁ…わぁ」
「おー、全部持っていけましたね。魔法で全部持とうとしたのが良かったのでしょうか」
そう言って感心するシェリーの肩をポンと掴む。
不思議そうにキョトンとした顔をしているが、それなので誤魔化せないからな。
「お客様、カートの持ち出しは窃盗だ。正しくない。近い内に返しに来ないなら訴えるので忘れないように」
「あっすみませんでした!」
「それはそれとしてシェリー、君には説教しなければならないことがある。しばらく付き合って貰おうか」
「……てへ?」
抵抗するシェリーをバックヤードに引っ張っていく。色々言っているが、不法侵入も脅迫も正しくないからな。ハンナの方はノアが構わなそうにしてるので不問とするが、いい機会だ。言っておきたかったことを言うことにしよう。
「いいじゃないですか〜! それで謎を解決出来たんですからー!」
「あのくらいなら昼の間に出来た。シェリー、安易に魔法に頼らずもっと言葉を尽くせ。そういう手段は本当にそれしかない最終手段として扱うべきだ」
「うわーん!」
その後、シェリーは1時間こってりとお叱りを受け反省をする事になったのだった。
起きてる間の牢屋敷(ココがお昼寝中の出来事)
「あ…あのあのあの…! ハンナさん、これは一体…!?」
「おーほっほっほ! 夢から持ってきたのですわ! 皆、好きなものをお取りなさい! わたくし、とってもお大尽ですわー!」
「わぁ、すごいすごいすごーい! ハンナさんって夢から物を取ってこれたんですね!」
「いーえ? わたくしの魔法はあくまで浮遊だけですわ。これは謎の夢の世界から持って来ましたの。毎晩毎晩寝た気がしなくてウザったかったけれど、今なら許せそうですわ!」
「はわわ…!」
「夢の世界…? ゴクチョーは何か分かる?」
「うーん……【消えない魔法】かなれはての仕業なのは間違いなさそうですね。それも複合……夢を操るは確定として…めんどーですね〜、この世にない物を持って来られるとなると」
「持って来れるのがなんでマズイのかな?」
「これ、先日のノアさんが持ってた錠剤もこれ案件でしょうし……創造なら良いんですケド、何処かから取り寄せたり押し付けたりしてたら相当マズいですね。最悪【遊園地】の……」
「ゴクチョーが解決したり出来ないの?」
「……ま、気にしても仕方ないか。業務範囲外ですし。報告だけして知らんぷりしときましょう」
「行っちゃった……最後まで独り言多かったな…」
「エマさーん! エマさんはどの柄のパジャマを選びますか? 私はこの薄緑のものにします!」
「それなんだけどさ、コレって使ってて魔女化が進み易くなったりとかしないよね? これが魔女こ産物ならそれくらい有ってもおかしくないと思うんだ」
「……心配しなくていーんじゃねーですの? もしそうだとすれば、ここに来てからずっと夢の世界に拉致られてるわたくしが先ず魔女になってなきゃおかしーですわ。物を使うどころか囲まれてますわよ」
「そうですよ! そんなに心配しなくてもいいと思います! なにか有ったら焼却炉に捨てれば良いですし、そもそも周りに沢山なれはてが居る現状以上に魔女化が進み易くなる理由なんてありません!」
「そうかな? そうかも…?」
(確かに…昨日だけでマーゴちゃんとミリアちゃんが退治した鏡のなれはてに、レイアちゃんとノアちゃんとみんなは対峙している。ボクだって森の中で沢山会った。みんな危うく死ぬところだったし、そのストレスは無視できない。それなら、ちょっとしたリスクは承知でやる方が──)
やっぱりダメだよ。焼却炉で処分しよう。(死)
→説明すればみんなに渡せる…よね?
「──分かった、みんなも呼んでくるね!」