緑谷出久は未来を予習しているだけなのに、全員に策士だと思われている 作:まだら模様
評価が良ければ続きます(多分)
作者はにわかなので設定等に間違いがありましたら申し訳ございません。
そして改めまして、事前に説明させていただきたいことがあります。
勘違い要素や設定が増えるにつれ、私の管理能力が追いつかなくなる可能性は十分にあります。
そのため、設定ミスや矛盾、勘違いなどにお気づきの際は、ぜひ指摘をいただけますと幸いです。
予防線を張らせていただきます(切実)
すいません……
ですが、そんな私が書いた第2話は……
ぜひ、ご覧ください。
ビルの屋上。風が吹き抜ける中、緑谷出久は憧れの『平和の象徴』の背中に向かって、絞り出すように声を張った。
「個性がなくても……あなたみたいなヒーローになれますか!?」
少年の震える声を背に、オールマイトはビルの屋上を後にした。
「……すまない、少年」
プロとして、無責任な希望を与えることはできなかった。
だが、あの少年のことが頭から離れない。
医学的には無個性。未来の知識が流れ込み、それを説明しようとすれば激痛が走る。そして、その知識をもとに、ヴィランの動きすら先読みしてみせた。
(彼はいったい、何を背負っているんだ……?)
オールマイトはビルの縁に立ち、街を見下ろした。
そして、次の瞬間。
「さて……!」
その巨体が、空へと飛び立った。
風圧が街路を駆け抜け、平和の象徴はビルの谷間へと消えていく。
その少し後。
街の一角で、ひとつの事件が起きていた。
◇
「――っ、クソが……!!」
息ができない。
視界が粘液で覆われ、身体が思うように動かない。
爆豪勝己は、ヘドロヴィランに全身を呑み込まれていた。
(ふざけんな……! こんなところで……!)
個性を使おうにも、狙いを定められない。抵抗すればするほど、粘液が顔にまとわりついてくる。
周囲では人々が悲鳴を上げ、ヒーローたちも迂闊に手を出せずにいた。
そのときだった。
人垣の向こうに、見覚えのある緑色の頭が見えた。
「……は?」
爆豪の目が見開かれる。
あの丸っこい背格好。あの顔。あの、見慣れたはずの幼馴染。
緑谷出久。
(なんで……てめえが、ここに……?)
無個性のはずだ。
何の取り柄もない。自分の後ろをついてくるだけだった、あのデクのはずだ。
なのに。
緑谷は人垣の向こうから、こちらを見ていた。
怯えている。顔色も悪い。足だって震えている。
それなのに、その目だけは――まるで、ここで何が起きるのか、最初から知っていたかのようだった。
(お前は……無個性のはずだろ……?)
爆豪の脳裏に、これまでの違和感がよみがえる。
(いつもいつも……なんでっ……!)
◇
中学に入ってから、緑谷出久は少しずつ変わった。
いや、正確には、変わったように見える瞬間が増えた。
授業中、教師が黒板に問題を書き始めるより前から、出久がノートの該当箇所を開いている。
テストでは、出題範囲を絞り込んだかのように、重要な部分を徹底的に勉強している。
体育の授業では、爆豪が動き出す寸前、すでにそこから逃げるような位置に立っていることがあった。
まるで、答えを先に知っているかのように。
偶然だ。
最初はそう思っていた。
何度も何度も、そう自分に言い聞かせた。
デクは無個性だ。
自分とは違う。
自分のほうが優れている。
なのに、時折見せるあの動きだけは、どうにも説明がつかなかった。
まるで、こちらが何をするのか知っていたかのような動き。
まるで、起こることを先に理解していたかのような判断。
そして何より、出久本人は、それを特別なことだと思っていないようだった。
「え? ああ、たまたまだよ」
「昨日、ちょっと予習してただけだから」
「なんとなく、そうなるかなって……」
いつも、そんな調子だった。
ふざけるな。
予習?
たまたま?
そんなもので、あんな動きができるわけがない。
(てめえ……何を隠してやがる……?)
聞いても、出久は困ったように笑うだけだった。
その笑顔を見るたび、爆豪の胸の奥で、言葉にできない苛立ちが膨らんでいった。
そして今。
目の前で、自分がヘドロに呑まれている。
その出久が、こちらを見ている。
逃げることもできるはずなのに。
怖くて仕方がないはずなのに。
それでも、こちらへ向かってこようとしている。
(なんで……)
爆豪の思考が、粘液に押しつぶされるように途切れた。
(なんで、そこまで……)
◇
「かっちゃん!!」
聞き慣れた声が、街の喧騒を切り裂いた。
爆豪が顔を上げる。
緑谷出久が、人垣を押し分けて飛び出してきた。
「おい、デク……! 来るんじゃねえ……!」
叫んだつもりだった。
だが、粘液に阻まれた声は、まともに届かない。
出久は足を止めなかった。
恐怖で顔を引きつらせながらも、ヴィランの動きを見ている。
粘液の伸びる方向。
爆豪の身体が引きずられる角度。
周囲の人々の位置。
そして、自分が飛び込むべきタイミング。
そのすべてを、出久は必死に見極めていた。
昨夜、頭の中に流れ込んできた断片。
爆豪が危機に陥るという未来。
それを受け取ってから、出久は何度も何度も対策を考えた。
どうすれば近づけるのか。
何を投げれば一瞬でも隙を作れるのか。
自分にできることは何なのか。
答えが分かっていたわけではない。
ただ、考えるしかなかった。
そして今、目の前で爆豪が苦しんでいる。
(助けなきゃ……!)
出久はリュックを握りしめた。
投げる角度は、計算してある。
ヴィランの視界を一瞬だけ奪い、粘液の動きを鈍らせる。
その隙に爆豪へ近づき、手を伸ばす。
昨夜から何度も考えた、自分にできる唯一の対策。
「うおおおおおっ!!」
リュックが宙を舞った。
予想外の方向から飛んできたそれが、ヘドロヴィランの顔面にぶつかる。
「ぐおっ!?」
一瞬、粘液の動きが鈍った。
――今だ。
そう思った、その瞬間。
出久は、爆豪の顔を見た。
粘液に覆われ、呼吸もままならない。
それでも、自分の方へ向けている目。
恐怖している。
苦しい。
助けてほしい。
――そう、訴えている。
用意していた道具も、考えていた作戦も、すべて頭から消えた。
ただ、目の前で苦しむ幼馴染の姿だけが、焼きついていた。
体が、先に動いていた。
「かっちゃん!!」
教科書を握りしめ、ヴィランの注意を引くように飛び込む。
無謀だった。
勝算など、決して高くはない。
それでも、出久は止まらなかった。
「なんで……お前が……っ!」
粘液の隙間から、爆豪の声が漏れる。
出久は爆豪へ手を伸ばした。
そして、必死の形相で叫んだ。
「君が……助けを求めてる顔をしてたからっ!!」
一瞬、爆豪の思考が止まる。
出久は続けた。
「……そんな未来が見えたんだ!!」
◇
――未来が、見えた。
その言葉が、爆豪の頭の中で何度も反響した。
(……は?)
未来。
見えた。
その二つの言葉が、これまでの違和感を一本の線でつないでいく。
テストの出題範囲を絞り込むような勉強。
こちらの動きを先回りするような回避。
何が起きるか知っているかのような判断。
そして、今日。
自分が襲われることを知っていたかのように、恐怖を押し殺して飛び込んできた幼馴染。
(てめえ……)
爆豪の目が、怒りと困惑に見開かれる。
(やっぱり……何か持ってやがったのか……!?)
無個性のはずだった。
何も持っていないはずだった。
それなのに、ずっと自分に隠していた。
ずっと、自分だけが知らない何かを抱えていた。
しかも、それを今まで黙っていた。
(俺を……騙してやがったのか……!?)
出久が何を考えているのか、爆豪には分からない。
助けようとしていることも、そのために必死で考えてきたことも、分からない。
ただ、目の前の事実だけが、爆豪の胸に突き刺さっていた。
「デク……やっぱり……テメェ……ッ!!」
◇
その瞬間、空気が震えた。
「もう大丈夫だ!」
轟音とともに、圧倒的な存在感を放つ巨体が現れる。
「なぜなら――私が来た!!」
オールマイト。
平和の象徴が、ついに現場へ到着した。
彼は状況を一瞬で見極めると、爆豪を捕らえているヘドロヴィランへ向かって拳を振り抜いた。
「スマッシュ!!」
凄まじい風圧が街路を駆け抜ける。
ヘドロヴィランは吹き飛ばされ、周囲の人々から歓声が上がった。
粘液から解放された爆豪が、地面に膝をつく。
出久もまた、その場にへたり込んだ。
「はぁっ……はぁっ……」
助かった。
本当に、助かった。
出久は胸をなで下ろした。
(よかった……間に合った……)
自分の準備が完璧だったとは思わない。
怖かったし、失敗する可能性だってあった。
それでも、できることを考え、実行した。
今はそれだけで十分だった。
だが。
「デク……!」
背後から、爆豪の声が飛んできた。
出久が振り返る。
爆豪は、地面に手をつきながら、憎悪にも似た目でこちらを睨みつけていた。
「てめえ……何を隠してやがる……!」
「えっ……?」
「未来が見えるだと……!? ふざけんな……! 無個性のくせに……!」
爆豪の声は震えていた。
怒りだけではない。
理解できないものへの恐怖と、これまで信じていた関係が崩れていくような感覚が、そこにはあった。
出久は困惑した。
(えっ、どうして……?)
助けに来ただけなのに。
必死に考えて、できることをしただけなのに。
なぜ、かっちゃんはこんな顔をするのだろう。
出久には、分からなかった。
そして爆豪もまた、分からなかった。
目の前の幼馴染が、自分を助けるためにどれほど必死だったのか。
その行動が、どんな努力と不安の上に成り立っていたのか。
ただ一つ、爆豪の中に刻み込まれたものがあった。
緑谷出久は、何かを隠している。
そして、その何かは、自分が思っていたよりもずっと恐ろしいものなのかもしれない。
(デク……やっぱり、テメェ……!)
爆豪勝己の中で、長年の疑念は、消えるどころか決定的な確信へと変わり始めていた。
その声に、オールマイトは静かに振り返った。
粘液から解放された少年を見つめ、それから、へたり込んだ出久へ視線を移す。
恐怖に震えながら、それでも飛び出した少年を。
「……無責任なことは言えないが」
オールマイトは、ゆっくりと口を開いた。
「ヒーローとはな、少年。余計なおせっかいを、隠し事にしない者のことだ」
出久は、きょとんとした。
「え……?」
「考えるより先に、体が動いた。それは、君が本物の勇気を持っている証だ」
オールマイトの目は、真っ直ぐだった。
「……その勇気だけは、本物だ」
出久は、何を言われているのか分からず、ただ赤面した。
(えっ、あの、そういう話じゃなくて……!)
一方、爆豪は。
(は……?)
さっきまで「未来が見える」「何か隠してる」と怒鳴っていたはずの爆豪は、オールマイトの言葉を聞いて、さらに混乱していた。
(なんだよ……こいつ、ほんとに何なんだよ……!)
一方その頃。
出久はただ、助けられたことに安堵しながら、心の中でつぶやいていた。
(……よかった。予習しておいて、本当によかった)
その努力が、目の前の幼馴染にとって、どれほど厄介な誤解を生んでしまったのか。
緑谷出久は、まだ知らなかった。
2話、いかがでしたか。
個人的に、爆豪の「未来が見えたんだ!」に対する反応を書いている時が一番脳汁が出ました。
緑谷は本当に事実を言っているだけなのに、爆豪には「未来を予知して俺を騙していた」と聞こえる。この落差を書くのが楽しくて仕方なかったです。
次話は10ヶ月の特訓編です。緑谷の「予習」が、また周囲をどう誤解させるのか、お楽しみに。
もしよろしければ高評価、お気に入り登録をよろしくお願い致します。
励みになります。
感想・ご指摘お待ちしています。特に「どこが面白かったか」「誰の誤解が一番刺さったか」を教えてもらえると励みになります。
その幻想を、ぶち壊す! 〜レベル0と無個性 二人の英雄(ヒーローも)試験的に連載中です。是非ご拝読ください。