緑谷出久は未来を予習しているだけなのに、周囲が勝手に深読みしてくる件 作:まだら模様
作者はにわかなので設定等に間違いがありましたら申し訳ございません。
基本その場のノリと勢いで考えてます。
突貫工事ですがどうぞ。
◇
雄英高校、校門前。
(あ、あぶない……ッ! 予習してなかったら、ここで盛大に躓いて全国に醜態を晒す未来だった……!)
緑谷出久は、自分の足元を盗み見ながら冷や汗を拭った。未来知識の断片にあった『門前で躓く』という不名誉な未来。それを回避して胸をなで下ろした、その時だった。
緊張で、右手と右足が同時に出た。
(あっ――)
「――大丈夫?」
ふわり、と身体が浮いた。
「ごめんね、勝手に個性使っちゃって! でも、転んだら縁起悪いもんね!」
丸顔の可愛らしい少女――麗日お茶子がニコッと笑う。
出久は目を見開いた。
(あ、無重力の個性……! 予習ノートにあった『助け合いの精神を持っている優しい受験生』の人だ……! 命拾いした……!)
「あ、ありがとう! た、助かりました……!」
「ううん! お互い頑張ろうね!」
手を振って去っていく麗日の背中を、出久は深く感謝しながら見送った。
その様子を、少し離れた場所から射殺さんばかりの視線で見つめる男がいた。
爆豪勝己である。
ヘドロ事件の日、出久が「そんな未来が見えたんだ!」と口走って以来、爆豪の長年の疑念は、確定的な警戒へと変わっていた。
爆豪は歯をギリッと噛み鳴らし、低く呟いた。
「……チッ。あの不気味野郎が……何か企んでやがる……!」
出久は背中に走る激しい寒気を感じ、引きつった笑みを浮かべた。
(うわぁぁあ! かっちゃんがめちゃくちゃ怖い顔で睨んでる……! 予習通り、試験中は絶対に関わらないでおこう……!)
◇
試験説明会。講堂にはプレゼンターであるプロヒーロー、プレゼントマイクのダミ声が響き渡っていた。
「ヘイ全員! 画面に注目! 実技試験のルールは至ってシンプル! 各演習場に配置された三種類のヴィランロボを撃破し、ポイントを稼ぐのだ!」
スクリーンに映し出されるシルエット。
その時、会場の隅で真面目そうなメガネの少年――飯田天哉がスッと背筋を伸ばし、手を挙げようとした。
(あ、あの人……ッ! プレゼンターの説明を途中で止めて、僕のブツブツ音読に説教してくる未来が見えた……!)
出久は冷や汗を流しながら、飯田が声を張り上げるよりコンマ一秒早く、隣の席の受験生に聞こえるくらいの絶妙な声量で呟いた。
「あ、そっか……! 配布資料の端にある『注釈』を読む限り、0ポイントの巨大ギミックは討伐対象じゃなくて『回避すべき障害物』って意味なんだな。さすが雄英、引っ掛け問題まで完璧だ……」
「……なにッ!?」
手を挙げかけていた飯田の動きが、ピタリと止まった。
飯田は眼前の資料の隅――豆粒のような注釈を凝視し、絶句した。
(ば、バカな……! 私はプレゼンターの言葉を遮ってまで詰問しようとしていたというのに、あの少年は既に資料の隅々まで解読し、試験の真意を見抜いているだと……!?)
飯田は震える手でメガネを掛け直し、出久の横顔を恐ろしいものを見る目で見つめた。
(なんて深い洞察力……! 己の集中を乱すことなく、静かに正解へ辿り着いていたというのか……!)
飯田は音もなく着席し、そのまま二度と口を開かなかった。
◇
そして、実技試験会場(模擬街)。
巨大なギロチンドアの前に立った出久は、自分の手元を見て青ざめていた。
(し、しまった……ッ!! 中学のヘドロ事件の時と違って、入試は手ぶら……! 道具の持ち込みが一切禁止だ……!!)
道具があれば、投げつけて隙を作ったり軌道を逸らしたりできる。だが今は身一つ。
100%を解禁すれば、一体で力を使い果たし、残りの試験を戦えなくなる。
(どうする……!? 身一つで、骨を折らずにロボットを倒す方法……! 十ヶ月の予習の中に、何かヒントはなかったのか……!?)
出久は固く目を閉じ、頭の中の予習ノートを高速でめくった。
十ヶ月の海浜公園清掃の最中、ふいに降りてきた抽象的な断片知識――。
『全身のパーツに意識を散らし、全体のバランスで受ける』
(あのヒントは、これのことか……!? 一点に100%を集中させるから身体が壊れるんだ。全身に意識を散らして、均等に力を巡らせれば……!)
そしてもう一つ。
オールマイトから個性を受け継いだ直後、短い断片が頭に流れ込んできていた。
『ロボットを倒すだけが、ヒーローにあらず』
(……これは、倒さなくていい敵もいる、0Pは無視しろって意味だよな……)
出久はそう解釈して、ノートの余白に小さく書き込んだ。
キーーーンッ! とギロチンドアが開く。
「スタートォォォッ!! 実戦にカウントダウンなんざねえぞッ!!」
マイクの叫び声と同時に、出久は脚の筋肉に意識を集中させた。
(まだ完璧じゃない……! 全身に力を維持できるのは打撃の一瞬だけ……! でも、3%の出力なら巡らせられる……ッ!)
(……三パーセントに絞ってきたのは、力を出し惜しみするためじゃない。)
(壊さずに制御する技術を身につける。そして、その負荷で身体そのものを鍛え上げる。この十ヶ月は、そのためにあった。)
――バチッ!!
出久の身体に、かすかな緑色の放電が走る。
(ワン・フォー・オール、フルカウル3%――!)
出久は爆発的な初速で地面を蹴った。
他の受験生が呆然とする中、一番乗りで街へ飛び込む!
「ガァァァッ!」
目の前に現れた2ポイントヴィラン。
出久は滑り込むように足元へ潜り込み、関節の隙間へ向けて拳を放った。インパクトの瞬間だけ全身に意識を散らし、3%の力を収束させる!
――ゴパァンッ!!
「よし……! 骨は折れてない……!」
道具がないなら、己の身体を最小限の精密機械にすればいい。
(右のビルの裏……三秒後に2ポイント! で、その背後の路地から1ポイントが回り込んでくる!)
出久はビルの角へ滑り込み、壁を一度だけ蹴った。
(正面から行ったら挟まれる! でも、あそこなら――)
2ポイントヴィランが現れる。
ほぼ同時に、路地の出口から1ポイントが飛び出してきた。
二体の進路が、一瞬だけ重なる。
「今だっ……!」
出久は二体の隙間へ滑り込み、2ポイントの関節へ向かって3%の拳を叩き込んだ。
――ゴパァンッ!
(決まった……! でも、まだだ! 背後の1ポイントが――!)
着地と同時に反転。バランスを崩した1ポイントの首元へ、踵を落とす。
――ガキィンッ!
二体が、ほぼ同時に倒れた。
「はぁ……はぁ……っ」
出久は膝に手をつき、荒い息を吐いた。
(未来の断片は、答えそのものじゃない……。でも、答えにたどり着くための出題範囲にはなる……!)
(だったら、次も……解くだけだ……!)
出久は再び街を疾走した。
3%の一瞬発動を繰り返しながら、ロボットの継ぎ目、関節、重心を狙って、的確に倒していく。
(右腕は使わない! 腰から回して、脚で受けて……! あ、次は頭上から来る……!)
ヴィランポイントが、10、20、30と積み上がっていく。
◇
試験終了直前。
突如として地面が激しく揺れ、悲鳴が街を包んだ。
「キャァァァァッ!?」
ビル群を押し潰しながら姿を現したのは、山のように巨大な0ポイントヴィラン。
受験生たちが一斉に蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
(ひえぇぇぇっ! でかい! 予習ノート通り、0Pは無視して逃げるのが大正解だ……!)
出久も背を向けて逃げ出そうとした、その時。
「――痛い」
小さな声が聞こえた。
振り返ると、瓦礫の山の下。
朝、自分を助けてくれた丸顔の少女――麗日お茶子が、足を挟まれて動けなくなっていた。
巨大な鉄の足が、容赦なく彼女の上へと振り下ろされようとしている。
(ダメだ! 逃げなきゃ! 0Pを倒してもポイントにならない! それに今の不完全な3%じゃ、あんな巨大なやつは絶対に砕けない……!)
頭の中の予習ノートが、論理が、保身が、「逃げろ」と叫んでいた。
だが。
恐怖で顔を引きつらせ、涙を浮かべながら自分を見つめる少女の瞳と視線が交差した瞬間。
出久の頭の中から、予習も、計算も、チェックリストも――すべての雑念が綺麗に吹き飛んだ。
その空白に、たった一つだけ、言葉が残っていた。
『ロボットを倒すだけが、ヒーローにあらず』
(……違う。あれは、0Pから逃げろって意味じゃなかった)
(倒すんじゃない。助けるんだ……!)
身体が、勝手に跳躍していた。
(予習とか……ポイントとか……そんなの……関係ない!!)
地面が爆発したような風圧とともに、出久は空へと舞い上がっていた。
空中、巨大ロボの顔面が目の前に迫る。
(ここで動かなきゃ――|ヒーローじゃない!!)
右腕に、蓄えられた十ヶ月の血と汗の全てを注ぎ込む。
(本来の僕なら、100%でも腕は砕けていた。)
(でも、今の身体は違う。積み重ねた鍛錬が、100%を受け止める土台になっている。)
(だったら――その先へ!)
オールマイトの言葉が、頭の隅でよぎる。
『ケツの穴グッと引き締めて、心の中でこう叫べ!』
――そして緑谷は、こう咆哮した!
(スマーーーーーッシュ!!!!)
――ズドォォォォォォォンッ!!!!
その一撃の出力は、ゆうに120%を超えていた。
天を突くような凄まじい衝撃波。
0ポイントヴィランの頭部が内部から弾け飛び、巨大な鉄の塊は見るも無惨な残骸へと変わった。
「が、はっ……!?」
100%を受け止める土台でも、その先までは耐えきれない。反動で右腕と両脚の骨がバキバキに砕ける。
だが、出久の心には爽快感しかなかった。
(よかった……間に合わない未来を……変えられた……!)
無傷の左腕で空中を制御し、衝撃を殺しながら着地。直後、リカバリーガールの治療を受け、出久は安堵の溜息とともに意識を失った。
◇
数日後。雄英高校・モニター室。
暗がりの中、合格者たちの実技映像がスロー再生されていた。
「いやあ、今年のトップは凄まじいねえ! ヴィランポイント60点、救助ポイント60点! 合計120点の大台突破だ!」
プレゼントマイクが感嘆の声を上げる。
教師陣が盛り上がる中、一人だけ腕を組み、冷ややかな視線でモニターを見つめる男がいた。
1年A組担任――相澤消太である。
「……おい、この緑谷出久の映像を、もう一度最初から流せ」
相澤の言葉に、画面が巻き戻される。
「見ろ。こいつは試験開始直後から、不完全ながら『全身に力を均等に分散させる高度な身体制御(3%)』を使い、最小限の疲労で効率よくポイントを荒稼ぎしていた」
「ふむ……確かに、身一つでありながら無駄のない立ち回りだね」
「だが、問題は最後だ」
相澤は、0ポイントヴィランを粉砕した瞬間の出久の顔をストップモーションで止めた。
「説明会の映像を見る限り、こいつは資料の注釈まで読み込み、『0Pヴィランは倒す必要がない』ことを事前に完璧に理解していた。……にもかかわらず、最後の最後で己の右腕と両脚を犠牲にして、『100%を超える一撃』を出した。」
相澤の目が、爛々と怪しく光る。
「つまり……こいつは『救助ポイントの存在』と『己の骨折リスク』を天秤にかけ、わざと最後まで力を温存し、土壇場で確信犯的に100%を超えてみせた。」
「な……ッ!?」
教師たちが息をのむ。
「自身の肉体すら計算のパーツとして捨て駒にし、100点越えのダントツ1位を確定させるためのパフォーマンス……。冷徹なまでの計算高さと、狂気的な犠牲精神……」
相澤は深々と溜息を吐き、頭を抱えた。
「とんでもない怪物を……入学させてしまったな」
誰も、何も言い返せなかった。
モニター室を、重苦しい戦慄と静寂が支配していた。
一方その頃。
アパートの自室で合格通知のホログラムを見た出久は、ボロボロの腕をさすりながらピュアに涙を流していた。
「うぅ……よかったぁ……! ちゃんと予習して、麗日さん(未来知識)も助けられて……一番良い形で合格できたよ……!」
己の捨て身の救出劇が、担任教師の脳内で「1位を獲るための冷徹な確信犯的パフォーマンス」として恐ろしい神格化を果たしているとは、出久は知る由もなかった。
お楽しみいただけたでしょうか?
いかに原作を壊さず、違和感なく物語に落とし込み、今までに見たことのないものを提供するか……。
なんだこれは(白目)
脳汁と疲労で頭がシェイクされてます……。
――作者は現在、予習不足の未来を迎えている模様。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
楽しんでいただけたら、今の時点での率直な評価をいただけると嬉しいです。続きを書く大きな励みになります。
その幻想を、ぶち壊す! 〜レベル0と無個性 二人の英雄(ヒーローも)試験的に連載中です。是非ご拝読ください。