今日のセミナーは珍しく、本当に珍しく何もトラブルが起きずに全員早く帰る事が出来た。
既に時刻は夜8時。家に帰っていたデイビットは空腹を感じていたものの、今日は父親と夕飯をとる予定だったので律儀に待っていた。
クロノススクールの割とどうでもいいニュースを流し見て時間を潰していると、玄関のドアの鍵が開く音がした。テレビを消したデイビットは、ようやく帰宅した父親を迎え入れる。
「おかえり、父さん」
「……ああ」
元から愛想は良くなかったが、今夜は輪をかけて不機嫌になっている。
恰幅の良い体格に合わせて仕立てられた高価なスーツは、砂や火薬で汚れ、見るも無惨な有様になっていた。家具や床が汚れるのも構わずに、どっかりとソファーに身を委ねて脱力した。
そんな父親の姿を見ても、デイビットは特に何も思わない。彼にしてみれば予想していた末路に過ぎない。勝負に負けて死んだのならば、楽園であるミクトランパに送られるだろう。だが、生きてここにいるのならば、それはただの敗北者だ。
「夕飯は出前でも取ろう。――カツ丼でいいか?」
「嫌味かキサマッ!?」
怒鳴る元気があるのなら、少なくとも心が折れてはいないのだろう。父親が次に勝てるように願い、抗議を無視してカツ丼を頼んだ。
「その様子だと、
ちなみに彼の父親は、アビドス高等学校を長年苦しめた黒幕、カイザーPMC理事であるのを記しておこう。
――――――――
「クソクソクソォォォォォ!!借金だらけの学校なんかにこだわる対策委員会!外様のくせにデカい顔してアビドスに付いたシャーレの先生!!不気味で役立たずの黒服!!裏切りやがった便利屋68!!なんかやってきたゲヘナとトリニティ!!頼りにならん無能な部下!!奴らのせいで、今までの苦労が全て水の泡だ!!!!」
「カツ丼3杯食べ終えた途端に元気になったな」
「じゃあかあしいわ!!!!」
腹が膨れてエネルギーが戻ったのか、萎れた姿から一気に不満を叫び出す情けない大人になったカイザーPMC理事。もっとも、この肩書も既に無くなっているのだが。
「デイビットォォォ……お前、アビドスにいたって言ってたよな……?まさかと思うが、その時に連中に要らん知恵を吹き込んだか……!?」
「求められたから言ったぞ。念のために言っておくが、カイザーの名前は出していない」
「余計な事をしおってからに!なんか妙に動きに迷いが無いと思ったら、お前の口添えがあったからか!!」
「対策委員会だけじゃなく、父さんにもアドバイスは伝えただろう。貴方は耳を貸さなかった。彼女達は素直に聞いた。その結果がこれだ」
「……ぐぅ……!!」
「テスカトリポカが言っていた。戦いは片方に入れ込みすぎず、バランスが大事なのだと。銃を持って敵に向けて引き金を引いた以上、戦いに子供も大人も無い。だから贔屓はしなかった」
「誰だよテスカトリポカ!?私の息子にいらん事を教えやがって!!」
「父さんがこの戦いで死んでいれば、もしかしたら会えたかもしれないな」
「そいつ死神なの!?こえーよ!!」
特殊な事情で身寄りのないデイビットを引き取った元カイザーPMC理事だが、極悪暗黒メガコーポのカイザーコーポレーションで働く彼が、慈愛の心で養子にするわけがない。優秀なデイビットの能力に目を付けて、キヴォトス三大学園のどこかに入学させて、デイビットを企業の犬にする気マンマンだった。
そんな野望など今や見る影もない。
洗脳教育?1日の記憶から5分だけを選んで記録するデイビットが、そんな記憶を残す訳がない。
重ねて言うが優秀なので、口喧嘩をしても大抵言いくるめられてしまう悲しい大人がいるだけだ。
今の生活を盾にしても、同級生や後輩に頼れば問題ないと返される始末。
暴力?なんか自分と同じような影に殴り返されましたが何か?
「クソッ……教えてくれデイビット……私は……なぜ負けたんだ……」
「むしろオレが聞きたい。どうやってあの絶対的に有利な状況で負けたんだ?」
「グフッ!!!」
立派な巨体で床に沈んだ元理事。デイビットの目から見ていても、あの状況からカイザーが逆転負けしたのは、奇跡に等しい結果だったという。
「……条件は、全てクリアしていたはずだった」
「……ふむ」
「それが狂ったのは、小鳥遊ホシノ……あの生徒が提出した退学届けが原因だ……。
唯一の生徒会メンバーが退学になれば、残りのアビドス生徒だけでは公的な活動が不可能だと判断し、この私が代わりに学校を運営するはずだった……。
だが、シャーレの先生がこれに異を唱えた。小鳥遊ホシノが提出した退学届に不備があったため、退学は認められないとな……!」
「なるほど。それでカイザーの強引な進攻に正当性が無くなったのか」
「忌々しいが、そうだ……。それだけなら、どうとでもなったが……便利屋68が現れたのを皮切りに、他所の生徒がアビドスの加勢に次々と……!」
「そうか」
ソファに座るデイビットは腕を組み、冷徹な瞳で倒れている元理事を見下ろした。
「小鳥遊ホシノをさらったのは、父さんの策か?」
「……いや、違う。我が社とは関係ない、協力者の要望だ」
「なるほど。それなら、敗因は父さんの判断ミスになるか」
「…………は?」
「アビドスの生徒会が残っているなら、勝てると踏んだ前提条件が無くなる。書類の不備は黒服という協力者の不手際であって、カイザーとは関係ないのだろう?既に崩壊したプランにこだわるべきではなかったな。
負けたと言うからには、総力戦で兵力を根こそぎ叩き潰されたのか。大方、戦力を集結させて抵抗を試みたのだろうが、迎撃ではなく逃走を選ぶ場面だった」
「何だと……!あと一歩のところで、大人しく尻尾を巻いて逃げろというのか!?」
「尻尾切りはカイザーのお家芸だろう。自分の尻尾を切るのがこんなに下手だとは思わなかった。
廃校寸前のアビドスに、企業の進攻を食い止めるような戦力が貸し出されたのは、確かに予想外だったと言える。だが、冷静に考えれば何度も使える手ではないのは分かるだろう」
「…………それは」
熱くなっていた元理事の頭が冷める。アビドス以外に確認された戦力は便利屋68、風紀委員会、トリニティの砲兵隊の三つだ。
便利屋は金さえ払えば味方になってくれるだろうが、借金苦のアビドスが何度も依頼料を払える懐具合ではないのは彼女達も知っている。奇妙な縁があった今回の襲撃はともかく、今後もアビドスに残り続ける可能性は低いだろう。
風紀委員会は委員長まで出張ってきた気合の入れようだったが、あのような全力遠征など、そう何回も他所の学区に派遣できないだろう。そもそも、風紀委員会はゲヘナの生徒会である万魔殿の議長に睨まれている。これをカイザーが知ったならば、風紀委員会を牽制する方法など簡単に実行できる。
トリニティは前線に出てこずに、榴弾砲による援護射撃に徹していた所を見るに、大っぴらに手を貸すのは好ましくないのだろう。アビドスで騒ぎを起こしたゲヘナと違い、トリニティとの繋がりが見えてこないのが気がかりではあるが。
「カイザーコーポレーションが学園より優れているのは資本力だ。強みを生かすなら持久戦や消耗戦を選ぶべきで、実際、それによってアビドスを手に入れかけていた。
方針は間違っていないのだから、降ってわいたチャンスに溺れて欲を出すべきではなかったな。
彼女達の影響圏から早く遠ざかっていれば、戦力の消耗も最小限で済んだだろう。勝利は無理でも引き分けにはできた」
「ぐっ……」
「失敗を切り捨てるのに慣れすぎた弊害かな。カイザーコーポレーションはここぞという時の駆け引きが粗末だ。影響力は持っていても勝者にはなれない」
「お、おま、仮にも父親の企業の事を……」
「事実だろう。失敗を人に押し付けるような真似ばかりするから学べない。他人事のように振る舞うから身に付かず、危機感が無いから勝負勘が鈍るんだ。だから勝つために勝負をかけるタイミングを見誤る。
その点で言えば、先生の立ち回りは見事だった。カイザーが攻め込むに足る理由を潰し、正当性を消し去った。他の学園の助力を頼む際の、相手側の心理的ハードルも下げている。
指揮官が有能であれば、絶望的な状況でも条件次第でひっくり返る。逆も然り。残念だが、貴方は指揮官としては無能と言われても否定のしようがない」
「……ワァ……ァ……」
元理事は泣いた。義理の息子の情け容赦ない評価に心が耐えられなかった。ただでさえバッキバキに負けた後にこれだ。もしヘイローがあったら割れていたかもしれない。
「正直、カイザーなど辞めて独立した方が、よっぽど上手くいくと思うのだが。オレの個人的な感情としても、そうしてくれれば大手を振って支援できる」
「……そう簡単にゆくものか。大人には大人のしがらみというものがあるのだ」
「そうか、残念だ。オレはもう寝る」
「フン、そうしろ。私は自分の身の振り方を考えねばいかんからな……」
「うん。おやすみ父さん」
「……ああ」
「落ち目になっても、まだ私を父さんと呼び続けるか……チッ、やり辛くてかなわんな……」
――――――――
「デイビット先輩。この前提出した部活動の存続条件の規定変更について、目を通してもらえましたか?」
「ああ、あの内容で問題ない。少数の部活動乱立による部費の浪費と、部活動の停滞で起こりうる形骸化を防ぐ良いアイデアだと思う」
「ッし!ちゃんと意図が通じてる!見なさいよノア!分かる人には分かるのよ!」
「もう、ユウカちゃんたら……私だって気付いてましたよ。ただ、急なルールの締め付けは少なからず反感を買いそうって言っただけなのに……」
「会心の出来の草案を友人に認められたかったのだろう。意見が否定から始まったから意固地になった。所感だが、合っているか?」
「そっ……う、で、すけどぉ!?普通、本人に面と向かって言いますかねぇ!?先輩のそういう所、慣れたけど慣れてないんですよ!」
「ふふ、デイビット先輩は私達が仲違いしないか、心配してくださっているんですよね?そういう優しい所、好きですよ♪」
「そうだな。後輩達がいがみ合う姿は、オレはあまり見たくない」
「むう……そういう所がずるいんだからもう………」
部活動の規則の引き締めが無事決まり、その関連でそういえば、とユウカが話題を振った。
「ゲーム開発部の活動はどうなってますか?もう廃部は決まったようなものですけど、それでヤケになって暴走したりは……」
「前とは打って変わって、大人しくしているみたいですよ。もう諦めてしまったのでしょうか……」
「そうでもない。どうやらシャーレを巻き込んで動き出しそうだ」
「シャーレ……ですか?デイビット先輩やユウカちゃんが私に内緒で入部したっていう、あの?」
「ち、ちょっとノア……言い方に棘があるわよ……」
「すまない、君に疎外感を植え付ける意図は無かった」
「……ふふ、良いんですよ。ちょっとした冗談ですから」
「な、なんだ……ノアったらもう……それで先輩、ゲーム開発部がシャーレに依頼を出したってことでいいんですね?」
「そのようだ。彼女達は行動力はあったが結果が伴っていなかった。あのまま腐らせておくのは惜しいと思っていた所だ。シャーレの介入で事態が好転すればいいが」
「どうでしょうね。部員が一人足りていなくて、活動実績もクソゲーランキング1位のゲームだけ。いくらなんでも、ここから挽回するのは無理じゃないですか?
ま、なんにせよ先生がいらっしゃるなら、あの子達が迷惑をかけないように言い含めておかないと。ちょっと席を外しますね」
あからさまに大きな溜息を吐きながら、ユウカがゲーム開発部の部室へ行くのを見送るノアとデイビット。
廃部予定の部活に何かと理由を付けて足を運ぶのは、面倒見のいい彼女なりに気を遣っているのだろう。
同じセミナーの仲間からすれば、彼女の内心を察するのに1秒とかからない。部屋に残った二人は無言で視線を交わしたのちに、自分の仕事へと取り掛かるのであった。
――――――――
エンジニア部を訪れたデイビットは、銃の試作品が山のように置いてある区画に足を運んでいた。
何も言わずに部室に入り、製作品を物色しているセミナーの副会長の姿に戦々恐々している生徒が多い中、物怖じせずに話しかける度胸の持ち主もいた。
「おや、副会長殿がここに来るのは珍しい。何かお探しかな?」
エンジニア部の部長、白石ウタハ。片手にレンチを持ったまま話しかけに行ったのを見るに、滅多に来ない来訪者に興味をそそられたようだ。
「何か心境の変化でもあったのか、ウタハ。君にそんな堅苦しい呼ばれ方をされた記憶はないのだが」
「それを聞きたいのは私のほうさ。銃を持たない君がエンジニア部で銃を見ているなんて……まさか、抜き打ちで視察に来たのではあるまいね?」
「何か不都合があるのか?確かにそこのアサルトライフルは、ミレニアムで禁止された違法弾薬を使う想定がされているようだが」
「……見ただけでそこまで言い当てられるとはね。まったく、エンジニアも形無しの洞察力だ」
そう会話を続けながら、ウタハは指摘された銃を掴んで背中に隠す。彼女なりの精いっぱいの抵抗だ。
「どうにか見逃してやってくれないか。ここにあるものはみんなが丹精込めて作り上げた一品なんだ」
「エンジニア部の予算で作った物だ。問題を起こさなければ、君達の好きにすればいい」
「……あ、ああ。視察ではなかったのかい。心臓に悪い真似はよしてくれ、デイビット」
「肩書に怯えるような隠し事は程々にしておけ。セミナーは比較的寛容だが、我慢の限界は存在するぞ」
「肝に銘じておくよ。……ん?じゃあ、君は何しに来たんだい?」
「エンジニア部の予算の七割を消費させた代物を見たくてな」
「ああ、あのレールガンの事か」
ウタハが指さした先には、銃と呼ぶには大きすぎるモノが鎮座していた。
「宇宙戦艦搭載用レールガン。見ての通り完成はしたのだが、肝心の宇宙戦艦が予算の都合で作れなくなってしまってね……」
「破綻した計画の妥当な末路だ。……だが、情熱は評価できる。ビーム砲は、かっこいいからね」
「――!君もロマンを理解できるクチだったとは!ど、どうかな、君の口添えで予算の増額をお願いできたりはしないかい……?」
「…………残念だが、ユウカを説き伏せられる気がしない。戦艦というなら仮想敵が必要になるが、その説明を求められた時点で詰む」
「くっ、無難に宇宙船として申請するべきだったか……!だが、それではロマンが無い……!」
「それと、エネルギーは抜いておけ。この規模の兵器だと、誤射の被害が恐ろしい」
「普通の人間が扱える武器ではないが、他ならぬ君の忠告だ。素直に受け取っておくよ。……下半期のエンジニア部の懐は寂しいからね……」
少し寂しげな雰囲気でレールガンに手を付け始めるウタハの背に、彼女を慕う後輩から声がかけられた。
「部長、ちょっといい?ゲーム開発部が、新入部員に持たせる武器が欲しいって……」
「ほう、それでうちの部に来たのは素晴らしい選択だね。試作品ならどれを持って行っても構わないから、案内してあげてくれ、ヒビキ」
「わかった」
ヒビキと呼ばれた部員は、離れた場所にいたゲーム開発部を手招きして連れてきた。
「お許しが出たよ。良ければ私が、何か良いものを見繕ってあげる……」
「やったー!これでアリスの武器が……うえぇぇ!?セミナーの副会長がいるぅ!?」
「えっ!?ど、どうして……!?」
「副会長……つまり、ミレニアムサイエンススクールのナンバー2。大魔王の前座に控える魔王……ヤツを倒さなければ、人類に明日は無い!」
「アリスやめて!?この場で喧嘩を売らないで!?」
デイビットの記憶によれば、ゲーム開発部に所属しているのは3人。目の前で騒いでいる才羽モモイと才羽ミドリ、そして部長の花岡ユズ。才羽姉妹と一緒にいる、髪の長い生徒は
普通に考えれば、廃部を回避するために新しく連れてきた新入部員なのだろう。
パニックを起こした二人と違い、アリスと呼ばれた少女はデイビットの目の前に歩み寄った。
「アリス、知っています。この後に世界の半分と引き換えに、勇者を勧誘する台詞が出てくるのでしょう。ですが、勇者アリスはその誘惑を断ち切っています。如何なる勧誘にも惑わされません。さあ、どうぞ」
「――――――――」
「……?……へんじがない。ただのしかばねのようだ」
「アリスちゃんやめて!?」
アリスの姿を目にしたデイビットは、たっぷり5秒も費やして彼女を観察した。険しさが増した表情に、終始怯えている才羽姉妹をよそに、アリスは不思議そうに彼の顔をのぞき込んでいる。
瞬きほどの時間だった。されど、その場にいた者たちには、その何十倍もの長さに感じられた。デイビットは目をきつく瞑り、思わず眉間を指で撫でた。
「…………そう、きたか……」
デイビットの口から漏れた、重い呟き。ゲーム開発部は元より、エンジニア部の者達にも何故か緊張が走った。
唯一、元凶であるアリスだけは変わらなかった。
「……君、自分の名前は言えるか?」
「アリスの、ですか?」
「え、ええっとね!この子はうちの新入部員で――」
「モモイ、君には聞いていない」
「あ、あう……」
「アリスは、アリスです」
「アリスか」
「はい、アリスです」
「銃を持っていないのか」
「はい。現在のアリスのアイテムボックスにあるのは、制服と学生証のみです」
「戦闘の経験はあるか」
「アリスはこれまでに人類を27回救い、魔王軍との46回にわたる戦闘を行い、三桁を超えるダンジョン探索を行ってきました」
「実銃を撃った経験は」
「ありません」
「何故、ゲーム開発部に入ろうと思った」
「……気が付いた時はすでにここに、ではなく、ええと……うぅ……」
「質問を変える。ゲーム開発部に入りたいか」
「――!はい。アリスはもっと色々なゲームのプレイを希望します」
「君が人に薦められる、面白いと思ったゲームは何だ」
「ゲーム開発部制作の、【テイルズ・サガ・クロニクル】です」
「……アレか。なるほど」
終わった。他でもない製作者本人たちがそう思った。自分達が作ったゲームを面白いと選んでくれたのは嬉しい。だが、人に紹介するようなゲームでない事は、作った本人たちが一番よく分かっている。
絶望に打ちひしがれる2人とは対照的に、答え終わったアリスは自分の答えに一片の迷いもない、澄み切った表情をしていた。
「オレもプレイユーザーの一人でね」
「――!デイビット……副会長も、ですか?」
「酷いものだった。誤用ばかりで意味が伝わらないテキストに、理不尽な嫌がらせとしか思えない歪なゲームバランス。まともに遊んでいれば、精神汚染もやむなしの内容だったと言えるだろう」
「はい、アリスもデイビット副会長の評価に同意します」
「二人して酷い!?」
「割と妥当な評価だと思うよ、お姉ちゃん……」
「ゲームクリアに15分もかかり、このゲームの記憶を残すかどうか、5分悩んだ」
「短っ!!」
「まあ……自己満足を形にして世に出したような、そんなつまらないゲームだったよ」
そう言ってデイビットは、アリスの頭に手を置いた。
「オレには理解できないだけで、そんなゲームにも人を惹きつける力があるのだろう。ゲーム開発部は一人から三人になり、今日で四人になった。
ミレニアムでは結果が全て。たとえ片手で足りる数であっても、結果は結果だ。
彼女がゲームの製作に必要だと言うのなら、不明な出自に対して、暫くは目を瞑っているとしよう」
「えっ……」
「それって……」
デイビットは耳に入った呟き声を拾うことなく、エンジニア部から立ち去った。
アリスが人類でない事は一目で分かった。そんな彼女を堂々と連れまわすゲーム開発部に抱いた感情は、驚愕と呆れ。行動力を評価していた自分の判断に間違いは無かったと、やや現実逃避気味に自分を褒めてあげた。
今のゲーム開発部には焚き付け役が必要だった。情熱は消えていないが、くすぶったままの火に、風を送って大きく燃やす何者かが必要だった。
人類ではないことなど、彼にとって些細な問題だった。
自身を人類だと思えなくとも、その法則――守るべき
人間の一日における『覚えておくべき事柄』は、たった五分で事足りる。
地球人でなくなってからも自身を人類だと考え、それを実践しているデイビットにとって、人類でないからとアリスを排斥する理由にはならなかった。
何よりも、人に薦めるゲームとして【テイルズ・サガ・クロニクル】を選んだ。
よりにもよって、無数のユーザーがクソゲーだと評価を下したゲームを選んだ。
大衆からの評価を理解していて尚、アリス自身の価値観で選んだ。
そんな彼女の人間臭さに免じて。そして、可愛い後輩達の成長に繋がると判断して。
デイビット・ゼム・ヴォイドは暫く目を瞑っていることにした。