転生牟田口は無能なりや?   作:5の名のつくもの

5 / 6
第5話 応急なれど機甲部隊を整備する

「兵站を整えたら今度は戦車ひいては機甲部隊全体だ…」

 

 

 

 満州の立地から戦車と装甲車の機甲部隊は充実した。しかし、欧州を窺うと決して十分と言えない。ドイツやソ連、イギリスの戦車隊は洗練されていた。自軍の戦車は中戦車と軽戦車を主力とするが貧弱が否めない。対歩兵の中戦車と対戦車の軽戦車だが、機関砲にも貫徹される装甲はいただけず、主砲も短砲身57mmや37mm砲が精一杯だ。長砲身47mm戦車砲を開発中だが将来性に乏しい。したがって、思い切った刷新を図るが、あと数年と時間が少ないため、中継ぎを投じて応急処置とした。満蒙国境紛争は耐えきることができるように。

 

 

 

「チハじゃだめだ。ハ号も貧弱すぎる。これでソ連軍と戦えるわけがない」

 

 

 

「歯に衣着せぬ物言いだな。どうする」

 

 

 

「ハ号は二線級に下げますが有効活用します。チハは武装を強化すれば戦えないこともありません」

 

 

 

「本気か? あれもこれもとやっては中途半端だぞ」

 

 

 

「今ある物で戦うしかございません」

 

 

 

 チハとハ号が悪いとは言わない。時代遅れが否定できない以上は大幅に刷新した。資材と資金の兼ね合いから一気に新型を投じることは難しい。今の手持ちでどうにかするのだ。手持ちの武器で戦うことは仲良しのドイツが得意とするところ。大いに参考にさせてもらった。

 

 

 

 牟田口は満州の工場をフル稼働させて独自の改造ないし改良を開始する。通常は天皇陛下より賜りし兵器に勝手な真似は許されないと怒られた。しかし、中華民国で生まれた兵器であれば通用しない。ちょうど日本製の火器を中国で生産させていた。旧型から新型まで火砲の数だけは揃っている。倉庫にしまうことなく前線に引っ張り出した。

 

 

 

 そして、まずはと言わんばかり、チハのテコ入れである。対ソを睨んで一定程度が配備されているが未だ少数だった。今のうちに手を加えて本腰を入れた製造に捻じ込む。

 

 

 

「チハは新型砲塔の計画があったはず。これを変更します」

 

 

 

「変更するって…強引すぎやしないか」

 

 

 

「強引ぐらいがちょうどいいでしょう。あくまでも、現場の声を聞いてのことです」

 

 

 

「そうか。わかった。とりあえず、やってみよう」

 

 

 

「チハの主砲は75mm野砲に変更します。高射砲に変更できる余裕が欲しいです。装甲はもう10mmぐらいは追加するとよろしいかと。余裕がない内はリベット打ちです。それと別個に車体だけそのままに105mm榴弾砲を装備した。簡易的な自走砲を製造します」

 

 

 

「本気でやるつもりだな」

 

 

 

 牟田口が言うにチハは全体的に不足気味だった。主に攻守の抜本的な見直しを提案する。主砲は新型砲塔計画を引き出した上で75mm野砲を採用するが、将来的に長砲身の75mm高射砲に換装できる余裕を残しておき、余裕ある設計で柔軟に対応できるように工夫した。装甲に関しては今から厚くすることは難しいかもしれず、最も熱い部分で50mmは欲しいが、八九式中戦車のようなリベット打ちである。

 

 

 

 この改革と別個に車体を流用した自走砲を前倒しだ。車体に九一式榴弾砲や後継を積んだオープントップ式でシンプルな設計である。砲兵の機械化は進んでいた。牽引車を必要としない自走砲は一撃離脱のヒット&アウェイ戦法が強力だろう。北方の大陸はもちろん、南方の熱帯雨林でも火力の投射に活躍できた。直接照準から対戦車も担当する。

 

 

 

「エンジンも統制型ディーゼルか統制型ガソリンに統一したい…」

 

 

 

「お~い。聞いているかぁ」

 

 

 

「失礼しました。つい考えすぎてしまい」

 

 

 

「お前が在庫処分を進めたいなら、明治時代からの榴弾砲がざっと100はある」

 

 

 

「なるほど、それはハ号の車体に乗せましょう。射程距離が短いならばゲリラ的な砲撃を仕掛ける。貧乏国家なのです。貧乏らしく戦いましょう」

 

 

 

「勝手なことを言いおって。いいだろう。お前の言うことだ。なんでも聞いてやる」

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 105mm榴弾砲は未だ現役の有力な火砲だ。これを自走砲ばかりに持っていかれては堪らない。従来の牽引式を運用する砲兵隊に行き渡らなかった。牟田口からムチャぶりを受ける。馴染みの上官は苦笑いが止まらなかった。可愛い部下の頼みを無碍に断るわけにはいかない。折衷案として陳腐化した旧型榴弾砲を提示した。明治期に製造された短砲身の15cmと12cmの榴弾砲が100門以上は残っている。小型軽量で簡便だが射程距離が短く山砲に括る方が適切だ。倉庫で眠っている物を再び前線に送り込む。

 

 

 

「チハ改は費用が嵩みますので突撃砲を作りたくあります」

 

 

 

「突撃砲? 自走砲とはまた違うのか?」

 

 

 

「砲兵隊に属する点は同じですが、固定戦闘室の鉄の塊です。大口径砲を抱えながら低姿勢で突撃する。全周旋回式砲塔を有する戦車よりも安価に収まります。ただ側面攻撃に弱いため協同は必須です。航空機も同様です」

 

 

 

「あれか近接航空支援か。直協と襲撃機は足りんか」

 

 

 

「まったく足りておりません。一層の火力と一層の装甲を両立した空飛ぶ戦車が必要です」

 

 

 

「わかった。かけ合ってみる」

 

 

 

 チハの根本のテコ入れは相応の価格が見積もられた。大量に用意することは叶わないかもしれない。中戦車を完全に代替するわけでないが、戦車と比べ簡便な設計から安価に収まり、大口径砲を無理なく搭載できる突撃砲を提示した。ドイツ軍の三号突撃砲を倣った格好である。これは四号戦車の半分の価格で製造できた。75mm戦車砲は歩兵支援はもちろん、対戦車戦闘にも活躍しており、終戦の最後まで恐れられている。

 

 

 

 九七式中戦車の車体を流用したいが主力戦車用に製造する以上は割けなかった。したがって、九五式軽戦車ないし九八式軽戦車の車体を流用し、軽量級の突撃砲と運用したい。突撃砲は弱点として側面からの攻撃に弱かった。中戦車隊と連携するか航空隊の支援を前提と定める。なお、攻撃を受け止める側の防御では専任者と活躍を予想できた。

 

 

 

「それと海軍と連絡はできますか」

 

 

 

「海軍か。できなくはない。上海に支部があるからな。ただ、知っての通りだ」

 

 

 

「はい。我が国に限りません。海軍と陸軍は犬猿の仲です。そう簡単に仲良くはできない」

 

 

 

「何を言い出すつもりだ。滅茶苦茶なことは簡便してくれ」

 

 

 

「真っ当なことです。戦時規格の標準船舶を作ります。陸軍と海軍が別個にしては効率が著しく悪化しました。両軍共通の戦時標準船舶を建造しますが、揚陸能力を向上していただきたく、新たに揚陸艦を提案いたします」

 

 

 

「お前は何でもやるつもりか」

 

 

 

「内地からここに飛ばされてわかりました。私は現場を見ているのです」

 

 

 

 どの兵器でも共通することであるが、前線まで届かなければ、到底戦えるわけがない。大陸であれば鉄道による大量輸送と車両の自走がきいた。しかし、戦場が島嶼部となれば海上輸送が当たり前である。輸送船で「どんぶらこ、どんぶらこ」と移動するが揚陸に時間を割いては無駄が多かった。それ以前に揚陸能力の限界から運べない。国土の都合は我慢できるとして「運べない」は論外だ。ここで陸軍と海軍が別個に各々の好きなように動いては一層も無駄を呈する。ただでさえ、貧乏な国なのだから貧乏らしく工夫を凝らした。

 

 

 

 とはいえ、陸軍と海軍が手を取り合うことは世界的に見ても困難を超えて不可能に近い。予算を取り合って反対の応酬は日常茶飯事だった。現場単位でもいがみ合うことが頻発して足を引っ張る。海軍は陸軍にやる物はないと海上輸送の管理を杜撰にしたり、陸軍は海軍のお守りができるかと一緒に戦うことを嫌がったり、などお互い様であるが勝利を共に目指す以上は融和が欠かせなかった。

 

 

 

「現場の将兵が犬死にすることは嫌なのです。仮に負けるにしても、良い負け方が好ましい」

 

 

 

続く

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。