「満州だけでいいです。瓦斯電の半自動小銃をください」
牟田口の物言いは止まらなかった。今度は歩兵の携行火器まで口を出して来る。もはや上官は中継局に徹して何も言わなかった。今度は新式小銃に関してだが採用から漏れた物を引っ張り上げる。これぐらいは別に止めることでないと素直に認められた。
「これからは火力の集中です。いかにして火力を投射できるか。各自の小銃はもちろん、軽機関銃、重機関銃、重擲弾筒、迫撃砲、歩兵砲など全てに共通します。まずは実包を7.7mmに統一して三八式を除かねばなりません。中華民国の工場を7.92mmから7.7mmに変えさせます」
日本軍の宿命なのか実包の統一を訴え続ける。現在は小銃に6.5mm弾の三八式実包と機関銃に7.7mm弾の九二式実包(又は新式実包)で分かれていた。小銃と機関銃で実包の規格が異なっては無駄が顕著である。もっと言えば同じ機関銃でも変わって来るのだから驚きだった。日本の限界であるのだが来る決戦に備える点ではあまりにも粗末と言わざるを得ない。ここは牟田口の名において改革するのだ。
7.7mm弾への統一で決まりつつある。九二式実包を素体にした新式実包が新型の火器で採用予定だ。これからば一安心である。まだ足りないと主張し始めた。ゲリラとの戦いや国民党軍の共闘から火力不足を痛感している。国民党軍はドイツ製の7.92mm弾を使用しており、兵士の練度はさておき、普通に撃ち合えば火力不足は否めなかった。7.7mm弾に引き上げて互角かもしれないが、火器から火力の底上げを図るべく、一度は不採用の半自動小銃を拾い上げている。
「チェコのZH-29だ。チェコなら信頼できる」
「怒らんでくださいよ? 連隊長」
「あぁ。試射だから叱責は無しだ」
「それじゃ失礼して…」
「弾は残しておいてくれよ。私も撃つんだ」
本土にお願いすると輸送機で送り届けられた。小銃ぐらいは輸送機に便乗させて運んでいる。それは瓦斯電の試作した自動小銃乙型だった。前提として、チェコ製ZH-29という半自動小銃を鹵獲している。これはなかなかに優秀な性能を見せた。しかし、7.92mm弾を使用するため規格が異なる。瓦斯電が6.5mm弾と7.7mm弾に変えた上で試作品を開発した。次期主力小銃にどうかと提案する。ボルトアクション式が安価で数も多かった。無駄に弾を消費することを嫌がって不採用と見送られる。
しかし、牟田口は火力の集中を主張した。弾の節約は敗北主義者の思想と猛烈に批判する。弾を惜しんでいては勝てる戦にも勝てなかった。航空機や戦艦は造るのに弾が足りないは通用しない。精度に劣る弱点は目くじらを立てるに等しく、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるであり、どれだけ弾を吐き出していけるかに重点を置いた。そこで一度は消えかけた瓦斯電の半自動小銃を引き出してくる。
「どうだ!」
「ちょっと離れてますが、的には当たってます!」
「どうせだ。弾倉内部は全て吐き出してみろ」
「はい」
ズドンズドンと重い音が響き渡った。周囲に何もない開けた射撃場であるが故によく聞こえる。実際の交戦距離を想定した先の的に弾着が連続した。銃弾のため見えづらく安全を確保した上で観測員を配置している。連射時の精度低下や不具合の有無を確認した。
「そこまで熱くなってはいません。余程でなければ過熱は起きないかと」
「反動はどうだ」
「強いです。肩が外れるかと」
「弱装の必要ありか…」
「先と合わせた10発のうち中央部が3発、その他7発です! 大外れは無し!」
「十分だな」
「大隊で一番の名手ですから。どうぞ、お使いくださいませ」
試作品で頑丈に精密に製造されている上に射手も名手が担当する。その射撃精度は前評判の割に良好と評価できた。10発の箱型弾倉で9発を連射したが銃身の過熱は抑えられている。余程でなければ弾倉を切り替えて連射することはなかった。余談だが、弾倉は10発の箱型を用いるが新式軽機関銃の30発仕様も使える。物や地面に設置して即席の固定火器と変わった。
射撃の名手が使って良好と言うが総力戦は未熟な兵士が扱うこともあり得る。これを代表して牟田口が試す番となった。一応は連隊長時代に前線に立って指揮を執っている。小銃はしばらくぶりだ。自動拳銃で鼓舞することが直近の射撃である。それでも臆することなくドッシリと構えた。自身が提唱した以上は自身が試さなければ示しがつかない。
「よいか!」
「退避完了!」
「肩が外れないよう、お気を付けください」
「わかった。ありがとう」
今でこそ司令部の建物で生活しているが数千から数万の兵士を預かるのだ。自分が満足に使えずしてどうする。瓦斯電から届いた注意書きを参照し、かつ名手からの忠告を受け入れ、観測員が遮蔽物に退避したことを確認した。それから安全装置を解除して引き金に指をかける。思ったよりも引き金が重かった。暴発の事故防止と予想する。
「なるほど、確かに反動が強い」
「肩は無事ですか」
「今のところは無事だが痛むな。長時間にもなれば支障をきたしかねん」
「わかってくれて何よりです」
一発だけだが反動の強さは右肩が理解した。ジーンとしている。反動制御を怠ると銃口が跳ね上がって危険を招致しかねなかった。半自動小銃の火力は操作し切ることができてようやくかもしれない。かと言って、ボルトアクション式に拘り続けると火力で圧倒された。
「的には当たってます!」
「言い繕うな!」
「端っこです!」
「わかった! ありがとう! 今度は連射する!」
「はーい!」
観測員は最初こそ気を利かせたが無用と断じて正確性を求める。的には辛うじて命中していた。新兵よりはマシと信じたい。下手なプライドは持たなかった。今度は連射だと通達する。再び観測員が盛り土の遮蔽物に退避したことを確認次第に引き金に指をかけた。安全は確保されているが将校の威厳もあって全弾を的に収めるべく神経を研ぎ澄ます。
「今度はいかがかな」
「悪くなさそうですが…」
「中心部が1発! その他は端っこ!」
「こいつは厳しいが訓練を積めばどうにかなる。製造数もあるから一旦は精鋭部隊向けか」
「私には貰えないのですか」
「欲しけりゃくれてやるが、一般部隊には扱い切れない。お前たちには短小銃が支給される予定だ」
「なんだ。ちょっと残念」
牟田口が撃ってみて的の中心部に1発と他が端っこで終わった。反動の強さから疲労が蓄積し易い。長期戦では不利に陥る可能性を指摘できた。さらに、今から改良を始めて生産に移っても一般部隊に浸透させるには数年を要する。これらより一旦は精鋭部隊向けの支給を考えた。陸軍の空挺部隊や航空兵、戦車兵など限られた範囲である。一般部隊にはボルトアクション式の新式短小銃を予定した。弾薬の規格さえ合っていれば融通が利く。
「希望するならば機関短銃も用意できる。欲しいか?」
「是非とも」
「わかった。手配しておこう」
今日は半自動小銃の試験に限ったが8mm拳銃弾を用いた。機関短銃ことサブマシンガンも主張を止めない。満州は大陸側の大地であるが南方作戦を展開する場合は狭隘な地形で近接戦を強いられた。近距離における火力ではサブマシンガンを外せない。さらに、緊急の狩猟用と言い張って散弾銃も拡大を計画した。毒ガスと並ぶ非人道的な兵器であるが勝てば官軍負ければ賊軍と使用しようではないか。
「ノモンハンまでに間に合えば実戦で確かめることができる」
「何か仰いましたか?」
「うん。独り言だ。内地の連中に何と言おうかとね」
「あぁ…ご苦労様です」
牟田口の中でシナリオは着実に積み上げられた。
続く