魔法少女ユニオンシャイン
俺が元々いた世界で社会現象を巻き起こすほどの大人気作品だ。とある事件から魔法少女となってしまった少女、夢咲結が仲間の魔法少女とともに、各地に出現する怪獣を倒して世界の平和を守るという。いかにも女の子が好きそうな設定の作品だ。実際かなりの人気で、アニメも第5期までやり、そのうえで映画化、スピンオフ化もされた。
そんな魔法少女ユニオンシャインだったが、ここまでの人気になった理由はほかにもある。
それはものすごい鬱アニメだったからだ。
かわいい絵柄や魔法少女のキラキラとした活躍の裏でひっそりと語られる怪獣の被害。絶望的な展開。そしてテレビアニメ版でやってくる救いのない結末。表面上は日曜日の朝8時半からやってそうな王道魔法少女物語なのだが、その裏では、見るに堪えない地獄絵図が繰り広げられていた。そうした意味で、女の子にも大人にも人気なシリーズとして社会現象を引き起こしたのである。
そんな世界に俺は転生した。
大学内
もうすぐで大学の1限目が始まる。教室の中央あたりの席に座って、授業が始まるまで待っていた。
「おっいたいた。ひかるー!」
ふと後ろから自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「よう勇樹。起きれたんだな」
「さすがに初授業から遅刻はできないでしょ」
「この前の学科オリエンテーションは遅刻ぎりぎりだったけどな」
「過去は振り返るな!」
こいつの名前は今田勇樹、なんやかんやで10年以上の付き合いになる小学校からの友達だ。スポーツが得意で、入学早々サッカー部に行き、すでにサッカー部の練習にも参加している。
「そういえばまた出たらしいぜ。怪獣」
「ああ、ニュースでやってたな」
勇樹は昨日のニュースでやってた怪獣の出現について話題を出した。
「なんか俺らが高校生になってから露骨に増えたよな」
「この前の怪獣から2週間たってないしな」
「もしかしてあれじゃね?都市伝説になってる人工怪獣とか!」
「なわけあるか」
そんな話をしながら、俺と勇樹は大学に入って初めての授業を受けるのであった。
「…じゃあ光!また明日!」
「おう。部活頑張れよ。」
授業が終わり、教室を出た後、勇樹と別れた。そこから教育学部棟からかなり離れた理学部棟へ歩いていった。
(いやその前に何か食べ物と水を持っていこう。あの人絶対何にも食べてないし)
そんなことを心のうちで考えながら、ゆっくりと歩き出した。
「…歩美さん?入りますよ?」
一言断りを入れて俺は理学部棟の中にある研究室へ入った。
部屋の中は大量の本と実験の結果と思われる紙で若干窮屈に感じるような空間に真ん中に人一人横になれるソファが置いてあった。ふとソファから女性と思われるか細い声が聞こえた。
「…おなか減った、のど乾いた…。」
「なんでそんなになるまで研究しちゃうんですか…」
「サンプルがあるのに研究をしない理由があるのかい?」
「でも研究してばっかりじゃなくてちゃんとご飯も食べてくださいよ?歩美さ「人がいないときの呼び方は?」
「……お姉ちゃん」
…この人の名前は七瀬歩美。
この研究室の教授に当たる人物である。28歳という若さで教授という立場にまで登り詰めているので、怪獣研究においてこの世界でトップクラスに優秀な人物と言えるだろう。
しかし、ここまでの会話を聞いて分かる通り、なかなかに癖のある人物だ。
なんていうか「年下の子を可愛がりすぎる」性格の持ち主だ。原作でも年下の魔法少女たちに「お姉ちゃん」呼びを強要させていた人物ほどだ。またかなり生活破綻者であり、食事も睡眠も忘れて三日三晩研究に没頭し続けて、主人公である夢咲結達に死にかけのところを発見されて治療を受けるというギャグまでかました。
おかげで前世の世界では、魔法少女たちとは別枠で「ポンコツお姉さんキャラ」という独自のジャンルで人気のあるキャラとなっている。
まあ人気の理由はまた別のところにもあるんだが…。
「なんなら人前でもお姉ちゃんって呼んでもいいんだけどね」
「やめてくださいよ。大学生になってまで恥ずかしい」
「あーあ。ついこの前まで「歩美おねーちゃーん!」っていって引っ付いてたのに」
「存在しない記憶を捏造しないでください!」
そういって俺が持ってきた食べ物に向かって手を伸ばしながら、ゆっくりと上体を起こした。本当にビジュアルはいいんだよなこの人は。ぼさっとしている髪と服装をちゃんとしたら、引く手あまたなんじゃないかと思うほどに
「何さ私をじっと見て」
「いややっぱお姉ちゃんって美人だなって」
「ふふん。もっと褒めてくれていいんだよ」
「この部屋の様子と今の姿がもう少しましになってくれたらいいんですがね」
そんな話をしながら彼女がご飯を食べ終わるまでゆっくりと会話した。
怪獣とは
「魔法少女ユニオンシャイン」における敵側の総称である。感情を持つ生物から発せられる怒り、悲しみなどの「負の感情」が集まることで生まれる化け物のことである。
通常の生物とは異なり、怪獣はこれまでの人類が使用していた銃火器の効果が薄い。仮に銃弾や大砲を撃ち込んだところで、すぐに破壊した箇所が再生してしまう。
そのため、負の感情から生まれた怪獣に対する現在の有効打として、反対の喜びや希望を宿した「正の感情」をもって戦う魔法少女達の存在だ。
もちろん怪獣に対して向き合っているのは魔法少女だけではない。怪獣というものが頻繁に出現するようになってから研究や対抗策を模索する分野が増え、対怪獣専門の研究機関、魔法少女の支援機関など、前世の日本にはなかった分野での発展が進んでいる。
「…さて本題といこうか」
そういうと彼女はさっきまでとは雰囲気を替え、自身のパソコンを机に持ってきた。画面には近年で出てきた怪獣に関するデータが大量に並んでいる。
「これは先日倒された怪獣なのだが、少しおかしい点がある。」
「おかしい点…ですか?」
「本来怪獣とは出現した地域で起こった恐怖が表面化した状態で集まる。例えば大規模な火災が発生した地域では、その恐怖に引っ張られて火を扱う怪獣が現れたり、水害が多い地域では水に対する恐怖が表面化した怪獣が現れる。というのが現在の学説だ。」
「今回はそれが違うと?」
「ああ。あの沿岸部ででてきた怪獣は火にまつわる怪獣だった。しかしあの地域では火災での事件、事故なんて10年は起きていない。今回だけじゃない。ここ近年の怪獣は地域に根付いた負の感情に関係のないものが大量に出現している」
そういうと彼女は自身の髪の毛を指先でいじり始める。調査で行き詰まった時にする彼女の癖だ。
「それってつまり、怪獣の出現する条件は、それ以外にあると」
「その可能性があるということだ。まだ確証に至る根拠がないんだがね」
おれは画面に映し出されている怪獣とそれに果敢に立ち向かう白い魔法少女の画像を見ながら言った。
「彼女が今回の怪獣を倒したんですね。」
「ああ。魔法少女ホワイトリリィだったかな。確か魔法協会が発表している魔法少女ランキング1位の子だね。」
そう言うと、パソコンの画面が切り替わり、魔法少女ホワイトリリィのプロフィールや戦闘時の様子が映し出された。
「彼女もよく戦ったよ。ただ、途中で怪獣から攻撃を食らって腕を負傷したらしいね。」
「そうだったんですか」
魔法少女として訓練されている人間でも怪獣からの攻撃をすべて無効化できるわけではない。常に死が隣り合わせの戦いだ。気を抜いたら自分が殺される。そんな世界で彼女たちは戦っている。俺はそれがどうしても許せなかった。
「歩美さん。俺の装備って届いてますか?」
「…届いているよ。けど、私は反対だよ。」
そう言うと彼女は少し難しい顔をしながら隣の部屋のドアを開けた。そこには俺が愛用している和服と仮面。そして武骨な日本刀がきれいにおいてあった。基本物を丁寧に扱わない彼女にしては珍しく、これらは机の上にきれいに置かれてあった。
「ありがとうございます。」
「…本当は君には戦ってほしくない。怪獣退治なら魔法少女がいる。なんでわざわざ君が戦う必要がある?」
そういうと真剣な眼差しで彼女はこちらを向く。
「俺は魔法少女だけが戦うこの世界を認めることができない。戦う力が俺にもあるから戦うだけです。」
「…そうやって人の気も知らないで」
怒ったような、悲しんでるような小さな声が聞こえた。
「分かった。けど無理はしないように!少しでも危険だと感じたらすぐに逃げるように!」
「分かったよ、お姉ちゃん。」
「こんな時ばっかりお姉ちゃん呼びして…」
そんな会話をして、俺は彼女から装備を受け取った
夜
「よしそれじゃあ行くか」
俺は受け取った装備を身に付けて、人のいない郊外へ繰り出していった。和服の装いで狐の仮面をしている俺は端から見れば少し本格的なコスプレイヤーのような印象を受ける
「すっげえ。まじで体が軽い。」
俺は新しい装備に少しはしゃぎながら街から校外の森へ進んでいった。
俺の身に付けている装備は見た目は和服だが中身は現在の人類の英知の結晶でできている。魔法少女や怪獣は戦う時、感情から出たエネルギーを魔力という未知のエネルギーにして戦う。それによって、空を飛んだり、炎を出したりと、現実離れした行動が可能になる。今俺が身に付けている装備は魔法少女たちが当たり前に身に付けている「身体能力強化」を服に宿した状態にある。魔法少女たちのように、どんな高さから落ちても傷一つつかない体になったりとか、こぶしでビルを粉砕するようなトンでもパワーが出るわけではない。しかし、通常の人間と比べると雲泥の差である。
そんなことを思いながら進んでいると、だんだんと霧が出てきた。しかも、進むにつれだんだんと霧が濃くなる。俺はそれでも郊外にある森へ進んでいった。
しばらく進み俺は止まった。ここまで来たのには理由がある。「魔法少女ユニオンシャイン」はその人気から原作ほかにも、スピンオフ作品、外伝小説などアニメ版のほかにも多くの作品が生まれた。その作品の一つに「魔法少女ユニオンシャイン外伝 白百合の舞」というものである。そのストーリーに少し介入しようと思い、ここまでやってきた。
「確かこのあたりで事件が起こるはずだが…」
そう思いながら俺は周辺に異変がないか、深い霧の中探すことにした
side 魔法少女ホワイトリリィ
「…ぐっ!もう魔力がっ!」
私、白井蓮は目の前の巨大な鎌を持った死神の姿をした怪獣と対峙していた。昨日の炎の怪獣とのケガ、そして先日の戦闘での魔力が回復していない状況下での戦闘によって苦戦を強いられている。本部にも支援要請を送ったがおそらく届いていないだろう。この怪獣の霧によって電波が妨害されており、携帯の通信ができていない。応援は期待できない。私一人の力で何とかするしかない
そんなこちらの事情なんかお構いなしに、怪獣は持っている鎌でこちらを引き裂こうとしてくる。そんな攻撃を間一髪でかわす。
「あれを直で当たったらやばそうね。どうにかして打開策を探さないと。しかしどうやって…っ!」
私は怪獣に対する有効打を考えながら、相手の攻撃をかわす。時間が経てばたつほど有利になるのは怪獣側だ。こちらの魔力はただでさえ少ないうえ、変身を維持している以上勝手に消耗されていく。一方怪獣側の魔力は少しも減っていない。さっきから攻撃をしているが、大したダメージを与えられていない。
「っ痛!」
一方でこちら側はゆっくりと傷が増えていっている。よけきれなかった相手からの攻撃や、攻撃の際に飛んでくる道路の破片や地面に転がり込んだ時にできる傷である。いつもならこんなもの気にもしなかった。しかし今は魔力の消費を抑えるために防御力を抑えて、反射神経と運動能力強化に魔力を注いでいる。
だがこんな状況も相手の一撃ですべて消し飛んでしまった
「しまった!っが…」
鎌の攻撃をよけたところに怪獣の蹴りがみぞおちに深く刺さった。私は勢いを殺せずに道路から外れた森の中へと吹っ飛ばされた。
(…ああもうだめかな。精一杯やったんだけどな)
…詰みだった。吹っ飛ばされた衝撃で骨が何本か折れたのかもしれない。全身に力を入れて立ち上がろうとしても激痛が全身を走って動かない。呼吸をしようにもかえってくるのは血が混じった咳だけだった。もう私には戦える力がない
(結局こんな終わり方なのか。私の人生って何だったんだろうか)
頭の中ではこれまでの人生が走馬灯のように駆け巡った。小さいころ、魔法少女の適性があるからと親が高値で私を売り飛ばした時の顔。仲良くなった魔法少女たちが次の日には怪獣によって殺されたときの葬式の様子。命がけで怪獣から街を守っても、壊れた建物や被害をこちらの責任にしてくる一般人たち。
「…思い返すと…ゴホっ!……本当にろくでもないな…。」
本当に嫌になる。なんで私はここまで生きているんだろう。もしあの子達と一緒に死ねていたらどんなに良かったことか…。そう回想にふけっていると私を蹴り飛ばした死神が私の首をつかんで持ち上げた。骨同士がぶつかったような音でカラカラと笑いながらゆっくりと首をつかむ力を強めていった。
(ああ、ここで死ぬんだな。私)
それもいいかもしれない。ここで死ななくても…魔法少女として戦っていたら…いつか死ぬ。それもどんな…死に方をするか…分からない…今…ここで…首を絞め…楽に殺し……もう……これ以上……つらい……。
『…蓮ちゃん。生きて、私たちの分まで、幸せに…』
…なんで最後に…それを…思い…出すんだろう。そんなことを思い出したら…私…
「……ゃだ、いやだイヤだ嫌だ!まだ死ねない!まだ死にたくない!」
涙が出てきた。さっきまで動かなかった腕が動いた。首をつかんでいる腕を何とか振りほどこうと全身で抵抗する。
「約束したんだ!死なないって!幸せになるんだって!こんなっ!こんなところで死んでっ!」
首がみしみしとなる。奴の手が私を殺さんと圧を高めていく。
それでも私はもがいた。指から爪がはがれて血が出る。体からはもう動くなと危険信号が出ている。それでもあがき続けた。
「…っ……っが!………っ…………っう!………………っ」
全身の魔力を腕に集中させて力を入れる。一瞬奴の手の力が怯んだ。その一瞬で強引に手から逃れることができた。
「ッごほっ!ごほっ!っぉごおれ!ア“イスッバインド!!」
魔力の込めた手から巨大な氷の波が現れ、奴の体を飲み込むように周囲を凍らせていった。それと同時に魔力を出し切ったのか、魔法少女の姿からもともと来ていた学生服に戻ってしまった。ここからは魔法少女ホワイトリリィではなく、ただの女子高校生、白井蓮として怪獣から逃げないといけない。
「っっつ!!」
しかし、それを今まで受けてきたケガが許さなかった。足は変な方向に曲がってるし、うまく呼吸もできない。それでも私は地面を這ってでも怪獣と距離を取った。
(っ逃げないと!少しでも遠くに)
突然、後ろから氷の割れる音が聞こえた。奴が氷の拘束を振りほどいたのだろう。芝をゆっくりと踏む重い音と鋭利な刃物が空気を斬る音がこちらに近づいてくる。もう対抗できる魔力も体力もない。
カラカラと奴の笑い声が聞こえる。勝利を確信して笑っている。ゆっくりと鎌を持ち上げた影が私の体を覆う。
(ごめん…みんな……わたし………やっぱり…)
その時だった。
這いつくばっていた私の視界の前に、いきなり大きなものが落ちてきた。それが切られた死神の腕と鎌だと気づくのに時間が掛かった。
「UGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
怪獣が初めて悲鳴と思われる叫び声をあげながら、斬られた方向へと視線を向けた。
私も薄れゆく意識の中で体をひねり、怪獣と同じ方向を向いた。
そこには
狐の仮面をつけた和服と、1mはある大きな刀を抜いた一人の男の人が立っていた。
高評価。コメントよろしくお願いします。