いつも見ていただきありがとうございます。
Side 白井蓮
薄れかかった意識の中、私は狐の仮面を着けた男を見た。和服のため細かい体格までは分からないが、刀を握っている腕の太さ、肩幅の大きさ。そして怪獣の腕を斬った様子から、只者ではないということは分かった。
本部からの応援か?それならば魔法少女が来るはずだし、本部とも通信が遮断されていて連絡が取れていないのだから、援軍が来るはずがない。
一般人?森の中で刀を持った一般人なんているのだろうか。
そもそも彼は人間なのだろうか?
…だめだ。痛みと疲労で頭が回らない。
「……あなた、何もっゴホッ!」
「喋らない方がいい。そのケガだと呼吸をするのにも精一杯だろう」
その男は真っ白な狐の顔をこちらに向けながら、話しかけてきた。低くて落ち着いた声が私の耳に届く。
「安心しろ。奴はこの場で俺が倒す。……ここまでよく持ちこたえた。ホワイトリリィ。」
そんな安心できるわけない。怪獣を倒すのは魔法少女の使命で、魔法少女の攻撃以外で怪獣は倒せない。それに目の前にいるのは正体不明の謎の男。それなのに彼の声には有無を言わせない絶対的な自信と安心感があった。
私はその安心感とこれまで受けた傷の影響で、意識を手放してしまった。
Side 光
(……あっっっぶねーー!!間に合った!全然場所違うじゃんかよ!)
そう思いながら俺は彼女が戦闘に巻き込まれないようにするために、怪獣を思いっきり蹴り飛ばす。体はでかいが中身がほとんど骨らしく、今の俺の蹴りでも結構遠くまで吹っ飛んだ。間合いが離れたことを確認した俺はホワイトリリィ…白井蓮の容体を確認した
(大ケガだが、まだ息がある。すぐに片付けて救援を!)
そう考えながら先ほど飛ばした怪獣へと刀を向けた。あちらも戦う覚悟を決めたようで手のひらに魔力を集め、攻撃の準備を始めた。
霧の怪獣。「魔法少女ユニオンシャイン外伝 白百合の舞」のラスボスにして、「劇場版魔法少女ユニオンシャイン 霧の迷宮」に登場した怪獣だ。最初は霧による視界不良への恐怖が形となった魔法少女一人で片付く程度の怪獣だった。
しかし、霧として各地を遊動しているうちに、日本各地に残る神隠しの伝承のイメージが集まったことで、全国で被害が出るほどの怪獣に成長した。
「いくぞっ!!」
俺はもう一度奴を斬るために前に踏み込んだ。奴も手のひらにためた魔力を弾丸のように放出し応戦する。
俺の身体強化は魔法少女たちが無意識に扱っているのと比べたら圧倒的に貧弱だ。半分の出力もないだろう。ゆえにまともに攻撃を食らったらそれで終わりのハードモード。
「っ!当たるかよ!」
打ち出された弾を体を反らしてよける。反射神経も強化されているおかげで、弾丸のような攻撃にも対処できる。
奴の攻撃で最も注意するべきは、霧に紛れて放たれる巨大な鎌からの切断だ。しかし、鎌は奴の右手とともに切り捨てた。
しかも
「っ!…っ!………っ!」
動きが鈍い。おそらく、ホワイトリリィが最後に放ったアイスバインドがまだ体の動きを縛っている。俺は隙をついて徐々に間合いを狭めていく。
(もう少し!…もう少しで刃が届く!)
次々に放たれる即死攻撃の中、俺は土を蹴って間合いを詰める
放たれた魔力の弾丸が俺のすぐ横を通り過ぎる。そばにあった樹に当たり巨大な破裂音とともに粉々に粉砕される。飛び散った破片が露出している肌に刺さる。
奴のこぶしが俺の顔面めがけて迫る。それを間一髪でかがんでよける。頭上で風を切る高音が聞こえる。
だがそんな戦いもついに終わりがくる。
突き出したこぶしの勢いで奴の体が前へ傾いた。俺の前には無防備な横腹が目前に迫っていた。俺は右の横腹へ刀を振った。よく研がれた刃がローブに当たった瞬間きれいに切れ、その下にある背骨へ一直線に進む。
奴も俺の狙いに気付いたようだ。さっきまで肢体に行き渡らせていた大量の魔力を一点に全力で集める。
その瞬間
魔力を極限まで集中させていた背骨が何の抵抗もなく絶たれた。
触れた瞬間、集中させた魔力も、骨の堅さもすべて無視し、刃は、空を斬るのと寸分違わぬ軽さで通り抜けた。
先ほどまでつながっていた骨同士が離れ、怪獣は前に勢いのまま頭から地面に落ちた。聞こえたのは奴の上半身と下半身が芝の上に落ちる静かな2音だけだった。
本来なら、すぐに再生が始まるはずだ。だが、切断面から漏れ出す魔力が戻ることはなかった。骨が崩れ、身体を覆っていたローブが地面へ落ちる。
「ふう…」
俺はひと息つきながらゆっくり刀を鞘に納める。
(…休んでいる場合じゃない。彼女は?)
すぐさま俺は彼女のもとへ駆け寄った。
「…ひどいな」
意識はないが呼吸はある。しかし、その息は浅く、足は不自然な方向に曲がっていた。すぐにでも運び出し、病院で治療するべきだ。
(背負っていくべきか?だがしかし…)
これだけの重傷だ。下手に動かせばかえって悪化させかねない。どうすればいいか決めかけていたその時、
遠くから何人かの声が聞こえてきた。
「……救助隊か?」
どうやら、彼女の救援要請は本部に届いていたらしい。俺はもう一度、倒れている少女の呼吸を確かめた。
「よかった。これなら……」
近づいてくる足音と懐中電灯の光を確認する。救助隊が彼女を発見したことを見届けてから、俺は静かにその場を離れた。
次の日
「ふぁあ。眠っ。」
俺は眠い目をこすりながら1限目の授業に間に合うように玄関を出た。特別朝に弱いわけではない。というよりも昨日の件で夜遅くまで起きていたせいである。あの戦いの後、しっかり救急隊に運ばれる様子を遠目で確認したところで誰にもばれないように帰宅した。
今後の目標のためにあまり一般人や魔法少女に正体をばらしたくない。
「あっお兄ちゃんおはよー!」
「おはよう結。今日も元気だね。」
「えへへ!実は仲良くなった先輩から朝の部活動の見学しないかって誘われちゃって…」
登校中の結と出会ってから途中まで一緒に登校する。
中学校でできた友達のこと、最近楽しかったこと、かっこいい先輩のこと。学校がまだ始まって2週間も経っていない4月の中旬、彼女の口からは、学校の楽しい様子が次々と語られている。
「それでね。そこで先輩がぁ…あれお兄ちゃん?」
「ん?」
「その手のケガ、どうしたの?」
楽しく話しかけていた彼女の口が止まり、彼女の視線がこちらの手の甲についていた傷に向いた。
昨日の怪獣の戦いでついた擦り傷だ。いくら身体能力が上がったところで、飛び散った破片や地面との接触でついた傷までは防ぐことはできない。こういう傷がたびたび出るのは仕方がないことだった。
「ああこれ?実は昨日道でつまずいちゃってね。その時すりむいちゃったんだよ。」
そう彼女に話す。嘘をついたことに心の奥が少しチクリと痛む。
「うわあ。ちょっと痛そう…。あっそうだ!ちょっとお兄ちゃん止まって!」
そう言うと彼女は持っていたバッグを地面に下ろし、中を漁る。
「あった!お兄ちゃんケガしてる手出して!」
彼女は俺の傷に絆創膏を貼り付けた。かわいいもの好きな彼女らしい、小さいクマが描かれている絆創膏だった。きれいに貼り付いたらしく、傷口が守られるような安心感があった。
「ありがとう。結が絆創膏を持ってるなんて意外だったよ」
「意外って何さ!」
そう言って頬を膨らませて不満をあらわにした。
彼女が生まれてから、いや原作から彼女のことを見ているが、なんていうか…その…結構ポンコツで大雑把な性格だ、まさか絆創膏を持ってるなんてと思ってしまった。
「…小さいころ、私が公園でケガしちゃったことあったの覚えている。ほらお母さんもお水を買いに近くのスーパーに行っちゃって私とお兄ちゃんで二人きりだった時」
「ああ覚えてるよ。」
「あの時お兄ちゃんにしてもらった絆創膏がうれしくて。いつかケガして泣いている子がいたら、あの時のお兄ちゃんみたいに助けてあげたいなと思って、ずっと持ってるの。」
張り付けた絆創膏を優しくなでる彼女の姿を見る。その姿を俺は、古い記憶の中にある大事な人と重ねてしまう。
「お兄ちゃん大丈夫?もしかして絆創膏嫌だった?」
不安そうな顔をしてこちらを見上げてくる彼女の頭を、俺は優しくなでた。考えていたことが顔に出ていたかもしれない。
「…ほんと結は優しいな。公園から帰りたくなくて泣きじゃくってお母さんを困らせてた頃とは大違いだ」
「なっ!まだそんな昔のこと!?もういい加減忘れてよ~!」
そんな楽しい話をつづけながら、お互いの学校に向かって歩く。
side 結
久しぶりのお兄ちゃんとの登校でいつもよりもテンションが上がっているのが分かる。去年までお兄ちゃんは少し遠い高校に行っていた。だから登校どころか、顔を合わせる時間も少なかった。でも今年からは違う。お兄ちゃんは大学に通ってて、私はその附属中学校に通ってる。だから、時間が合えば一緒に登校できる。この事実がただうれしかった。
でも最近のお兄ちゃんを見ていると、なんか時々怖い?難しい?顔をしてる時がある。大学の勉強って難しいのかな?それとも手のケガのことかな?いつもあんなに優しそうにしてるお兄ちゃんがあんな顔をするなんて…。
その顔を見ているとなぜか私の心もキュっと締め付けられる感覚がする。
「…よし、俺はこっちの方だから、結とはここでお別れだね。」
「あっ…うん…。」
何で楽しい時間はこんなに早く過ぎちゃうんだろう。学校までの道を歩いてきた私たちはとうとうその近くまでやってきてしまった。別に学校が嫌いなわけじゃない。友達がいないわけじゃない。
けど、なんていうか…。その。
「…結。この前の数学から勉強は進んでるかい?」
「えっ?…まあかなりてこずってるかも…。」
「もしよかったら、明日の夕方から、一緒に勉強しないか?俺も大学からの課題をやらないといけなくてさ。」
それを聞いて私の心がパァっと明るくなったのを感じた。自分でも単純だと思う。こんな一言でさっきの暗い気持ちが嘘のように明るくなるんだから。
「うん!一緒に勉強したい!約束だよ!」
そういって私は中学校への道を駆け足で進んでいった。
明日の夕方が今から楽しみだった。
戦闘描写が難しい…。
感想、評価よろしくお願いします。