第四話です。
評価、感想お待ちしております。
Side 結
「バレー部の先輩たちかっこよかったね!」
「ねー!あたし、バレー部に入部しようかな!」
朝の部活動の見学が終わった8時ごろ。私は友達二人と一緒に教室に向かっていた。朝来たときは人もまばらで静かだった廊下は、今では部活動を終えた人たちと登校してきた生徒たちで賑やかになっていた。
朝の会まで時間はまだ十分にある。私たちは仲良く部活動見学の感想を話しながら、ゆっくりと教室へ向かう。
「朝の会までまだ時間あるから、ゆっくりできるね!」
「えっ?確か今日から朝読書の予定があったような…」
「…あっ。やばい!朝読書の本借りるの忘れてた!」
「…やっぱ結って、ちょっとドジよね…。」
「ごめん2人とも!私、図書室行って本借りてくるから、二人は先に戻ってて!」
私は二人と離れて、急いで2階にある図書室へと進んだ。
「うわあっ、どれも難しそう!何を読めばいいんだろう!」
私は頭を抱えながら、大量の本が並べられている本棚をみた。私の目の前に国語辞典みたいな厚さの本と難しい漢字で書かれたタイトルがずらりと並んでいた。
「早くしないと、朝読書の時間になっちゃうよ~!」
「…何か困りごと?」
突然後ろから声をかけられ、私は慌てて振り返った。そこに立っていたのは、私より少し背の高い女子生徒だった。
長い髪を後ろで一つに結び、すっと背筋を伸ばしている。整った顔立ちもそうだけど、何よりその落ち着いた雰囲気が印象的だった。
(きれいな人…。)
「はっはい!実は朝読書の本を探していて…。でも私あんまり本とか読まなくて…」
「…なるほど。じゃあこんな本はどうかしら?」
そう言うと女の人は抱えていた本から、一冊をこちらに差し出してきた。
表紙には、赤い髪の毛を三つ編みにした女の子が小さな花をもって笑っている様子が描かれていた。
「赤毛のアンっていう本で、私たちと同じぐらいの女の子が主役の物語だから、共感できる部分も多くて面白いと思うわ。」
「わあ、かわいい絵ですね。」
「内容も面白いから、きっと楽しく読めるはずよ。」
「私、この本借りていきます!」
そういって勧めてもらった本を女の子と一緒に図書室のカウンターに持って行った。カウンターの上にある名簿をその子は手に取って私に話しかけた。
「じゃあお名前と、学年、クラスを聞いてもいいかしら?」
「はい!1年A組 夢咲結です!」
「ふふっ元気ね。…はい貸し出し完了です。返却は一週間後だから、ちゃんと期限を守って持ってきてね。」
「はい!そういえばあなたのお名前は…?」
「そうだ。ご挨拶が遅れました。図書委員3年生の日向葵です。よろしくね?」
「3年生だったんだ。道理で大人びてると思った…」
「よく言われるわ。」
そんな話をしていたら、スピーカーの方からチャイムの音が鳴った。朝の支度の時間が終わって、朝読書開始の合図だった。
「ああっ!朝読書の時間だ!早く教室行かないと…!すいません。ありがとうございました!」
「はーい。気を付けてね。」
私は図書室から急いで教室へ向かった。
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それから数日間、私はいつもどおり学校に通っていた。授業を受けて、友達とおしゃべりして、放課後にはお兄ちゃんと一緒に勉強した。
もちろん、葵先輩に借りた本も忘れていない。
そして、約束の返却日が近づいたある日の放課後、私は図書室へ向かった。
「…あっ!葵せんぱーい!」
「…あら、その声は夢咲さん。こんにちは。」
図書室に向かう途中、職員室から重たそうな段ボールを抱えた葵先輩が出てきた。先輩の顔は段ボールでよく見えず、茶色い髪と前髪を留めているひまわりのヘアピンから先輩だと分かった。
「…申し訳ないのだけど、私の代わりに職員室の扉を閉めてもらえないかしら…」
「あっ、分かりました。」
職員室の扉を閉めた後、先輩を見た。先輩の細い腕が小刻みに震えており、相当重そうだった。
「先輩、それ全部一人で運ぶんですか?」
「ええ。図書委員の仕事だから」
「でも、二人で運んだ方が早いですよね!」
「それはそうだけど……」
「じゃあ、半分持ちます!」
「……あなた、人の話を聞かないって言われない?」
私は先輩が持っていた段ボールの一段目を持った。予想以上に重たく、腕にずっしりとした重さを感じた。
「結構重い…これ図書室に持っていけばいいですか?」
「ええお願い。」
「任せてください!」
そうして先輩と私は図書室へゆっくりと荷物を運んだ。
「ふいー到着!」
図書室の机にさっきまで持っていた段ボールを置いた。ずっしりとしていた腕がスッと軽くなった気がした。軽くなった腕をさすりながら、袖で額の汗を拭った。
「手伝ってくれてありがとう。夢咲さんのおかげですぐに持って行けたわ。」
「いえいえ!力になれてうれしいです!」
先輩も段ボールを置いた後、額を黄色いかわいい柄のハンカチで拭っていた。図書室には誰もおらず、いるのは私と先輩の二人だけだった。
「そういえばこの前貸した「赤毛のアン」はどうだったかしら?」
「そうだ!実はこの一週間で読み終わって、先輩に感想を話したくて!」
そういって私は先輩に「赤毛のアン」の感想を伝えた。
アンと親友ダイアナの友情や、ギルバートとのやり取り。そして、さまざまな失敗を経験しながら成長していくアンの姿について話すと、先輩はニコニコしながらうなずいてくれた。
「アンって失敗ばっかりするのに、全然めげないんですよね! 私だったら途中で落ち込んじゃうかも」
「ふふっ。でも、夢咲さんもちょっと似ていると思うわ」
「ええっ!? 私、そんなに失敗ばっかりしてます!?」
そんな軽口をたたき合いながら、会話は弾んだ。
「先輩は何か一押しの本ってありますか?私、本ってこんな面白いんだって初めて気づきました!もっといろんな本を読んでみたいです!」
「一押しの本?そうねぇ…」
そういって先輩は立ち上がり、本棚に向かっていった。
白くて傷が一つもないきれいな指で本棚に並んだ本の背表紙を指先でなぞりながらゆっくりと歩く。
「本にもいろんな種類があってね。実用書とかノンフィクションとか漫画とか。けど私が一番好きなのは、やっぱり物語ね。」
そういって歩くのを止めた先輩がかがんで一冊の本を取り出した。緑を基調とした本と先輩の白くてきれいな手がカーテンの隙間から差し込まれる太陽の光にあたり、薄暗い図書室の中ではっきりと輝く。
「この「秘密の花園」って物語がおすすめかしら。メアリーという女の子が、秘密の庭や周りの人たちとの出会いを通して成長していく物語なの。」
先輩は持っていた本をこちらに差し出した。
「「赤毛のアン」を楽しく読んでくれた夢咲さんなら、きっとこの本も楽しく読んでくれるわ。」
「先輩…。私その本借ります!」
私は先輩が差し出してくれた本を受け取った。春の温かい日差しが、先輩を明るく照らす。
「…先輩って、やっぱりきれいですよね!」
「きっ綺麗!?急にどうしたの!」
「だって手だって白くて傷一つないし、背だってシュッとして姿勢がいいし、しかも顔だって…」
「まっ待って!そんなに私の顔見ないで…。はっ恥ずかしいから。」
そういって顔を赤くして先輩は、そっぽを向いてしまった。
「えーー。かわいくてきれいなのに!私が男の子だったら、先輩にゾッコンだろうなー。」
「だって…そんなふうに褒められること、あんまりないから…。」
「こんな美人を放っておくなんて!なんてもったいない!」
「もうほめないで~っ!」
なんだか先輩とまた少し仲良くなれた気がした。
「はい。前回借りた本の返却と今回の貸し出しを記入できたわ。この前も話したけど、期限になったら、図書室に返しに来てね。」
「分かりました!…ところで先輩はこの後用事ありますか?」
「えっと、今日は何もないけど…。」
「本当ですか!実は学校の近くに美味しい…。」
その時、先輩のポケットから聞いたことのない通知音が鳴り響いた。スマホを取り出して慣れた手つきでスマホを操作した。
さっきまで柔らかく微笑んでいた先輩の顔が、真剣な表情へと変わっていく。
「…ごめんなさい夢咲さん。急な用事ができてしまったので、先に失礼するわ。」
「えっ、先輩?」
「申し訳ないのだけれど、職員室の先生に私が急用で出たことを伝えてもらえるかしら。先生に図書室の戸締まりもお願いしてもらえるかしら。」
「あっ、はい!分かりました!」
そういうと先輩は図書室を出て、全力疾走で学校玄関へ向かっていった。私は何が起こったのかいまいち理解できないまま、先輩から借りた本をバッグに入れて、職員室に向かった。
(一人だと家までが遠く感じるなあ)
私は学校から家へ向かって、住宅街の中を20分ほど歩いていた。いつもはあんなに楽しい通学路も、友達もお兄ちゃんもいないとどこか長く感じる。
(まあ、また誘えばいいか!)
突然、街中のスピーカーから、サイレンが鳴り響く。いつも夕方の蛍の光ぐらいしか流れないスピーカーから、不安をあおる音と、怪獣が出現したことを伝える女性の声が響く。
「近隣の皆様。こちらは防災、夢野町役場です。夢野町北区で怪獣が出現しました。」
(早く避難しないと!一番近い避難場所は…学校か!)
私は怪獣が出現した方向とは反対側を向いて、震える足で避難場所に向かおうとしたが…
「ふぇええん。怖いよう!お母さん!どうしたらいいの…。」
おそらく小学校上がりたてなのだろうか。ぬいぐるみを大事そうに抱えた女の子が泣きながら立ち尽くしていた。突然のサイレンにどうしていいかわからずに泣き出してしまったらしい。
私はそんな女の子を見捨てられずに声をかけた。
「大丈夫?一回深呼吸して?」
「ひっぐ…。おねえさんだれ?」
「私は夢咲結。さっきのサイレンびっくりしちゃったね。」
私は女の子の震えている手を、自分の手で優しく包み込んだ。いつもお兄ちゃんがしてくれることをまねして。
「…この近くで怪獣がでたから、安全な場所まで一緒に行こう?」
「…うん。」
そういって女の子は小さくうなずく。私はその子の手を少し引きながら、避難場所である学校へ向かうことにした。
(大丈夫…北区からここまで距離がある。それに魔法少女がきっと怪獣を倒してくれる!)
そう思っていた。だが…。
「なっ…なんで…。」
住宅街の家の陰から、巨大な怪獣が姿を現した。恐竜のような姿をしており、その背は一軒家よりも大きい。何かを探しているのか。きょろきょろとあたりを見回している。
「あっ…ぅあ…!」
(怖い!逃げないと!…どこへ?…学校への道は怪獣がいる!逃げれない!)
恐怖で体が震える。
視界がちかちかとおかしくなるのを感じる。
呼吸がうまくいかず、変な声が出ているのが聞こえる。
「お…おねえ…ちゃん…?」
ハッとして女の子を見る。女の子も怪獣を見て、体が震えている。涙が目尻にたまって今にもあふれてきそうだ。
(…そうだ、私は…っ!)
私は手を強く引いて怪獣と反対側へと走る。女の子も、私に引っ張られる形で怪獣から遠ざかる。しかし、女の子の足が中学生の私とおんなじ速さで走れるわけがなく、足がもつれる。
しかも、走る音でこちらを認識したのか、先ほどまで周囲を見渡していた怪獣がこっちをまっすぐとらえた。
そして私たちめがけて、巨大な振動と足音とともに、その巨体が追いかけてきた。
(…だめ!早すぎる!追いつかれる!)
振動と音がどんどんと近くなる。建物のがれきや、地面からはじけ飛んだ土砂が私たちのすぐそばに降ってくる。
「っきゃあ!」
怪獣の振動でバランスを崩し、その場で二人して倒れてしまった。それでも怪獣は止まらずに私たちめがけて、大きな手をこちらに伸ばしてきた。私たちの体を巨大な影が覆う。
(助けて…お兄ちゃん…。)
その瞬間。
私たちの頭上を黄色い光が走り、怪獣にぶつかった。その衝突で怪獣が後ろへ吹き飛ばされた。
手を伸ばしていた怪獣もたまらずに頭から地面のコンクリートへ思いっきり倒れた。
「うっ…何が起こったの?」
「あなたたち!大丈夫?」
そこに現れたのは
黄色を基調とした衣装に身を包み、大きな本を手にした魔法少女だった。
でも、その髪には見覚えのあるひまわりのヘアピンが留められていた。私はついさきほどまで一緒だった人の名前を思わず口にしてしまった。
「…えっ。あおい…せん…ぱい…?」
「っ夢咲さん!どうしてここに…。」
先輩は一瞬驚いた表情をしてこちらを見た。
「そんなことを気にしてる時じゃない…。あなたたちケガは!?」
「はいっ大丈夫です…っ擦り傷だけです。」
先輩は少し安心したように、胸をなで下ろした。しかし、吹き飛ばした怪獣ががれきを押しのけ立ち上がろうとする姿を見て、少し緩んだ顔を引き締めなおした。
先輩が持っている本が光り輝く。それと同時に先輩が何やら小声で何かを語る
「魔法障壁…展開っ!…今あなたたちの周りにバリアを張りました。怪獣が倒れるまで、その中から出ないでください。」
「っ!…先輩…。」
私の声に、葵先輩は振り返らなかった。先輩の前では、倒れた怪獣がゆっくりと起き上がっていた。葵先輩は大きな本を開き、その怪獣をまっすぐに見据える。
そして、私たちを守るように一歩前へ踏み出した。