北斗神拳伝承者ジャギ   作:シベリアピーナッツ

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第二話 長兄の怒り

 

その夜、ラオウは一人で拳を振るっていた。

 

拳が風を裂く。

 

岩が砕ける。

 

地面が震える。

 

それでも、怒りは収まらなかった。

 

「なぜだ……!」

 

北斗神拳の修練に、誰よりも打ち込んできた。

 

己の力を鍛え上げ、技を磨き、誰にも負けぬ強さを追い求めてきた。

 

それなのに。

 

伝承者に選ばれたのは、ジャギだった。

 

力では自分に及ばない。

 

技の理解ではトキに劣る。

 

天賦の才ではケンシロウに及ばない。

 

そんな男が、北斗神拳の頂点に立つという。

 

「認められるものか……!」

 

ラオウは拳を握りしめた。

 

だが、彼はすぐにはジャギを倒しに行かなかった。

 

北斗神拳の伝承者は、師父によって選ばれた者。

 

その決定を覆すには、相応の理由がいる。

 

そして何より。

 

ラオウは、ジャギの実力を完全に侮っていたわけではなかった。

 

ジャギは確かに弱点の多い男だった。

 

感情に流されやすく、虚栄心が強い。

 

相手を見下し、余計な挑発を繰り返す。

 

だが、その一方で、異様なほど勝ち方に執着していた。

 

相手が何を得意とし、どこに隙を作るのか。

 

自分より強い相手を前にしたとき、どうすれば一瞬でも優位に立てるのか。

 

ジャギは、そうしたことばかり考えていた。

 

そして、その執念が、時として才能の差を埋める。

 

それがラオウには気に入らなかった。

 

「小細工で、この俺を超えられると思うなよ……ジャギ」

 

ラオウは夜空を見上げた。

 

「お前が伝承者にふさわしいかどうか。この拳で、いずれ証明させてやる」

 

その頃。

 

ジャギは自分の部屋で、酒を飲んでいた。

 

もちろん、修行中に許されることではない。

 

だが、今夜くらいはいいだろう。

 

「へへっ……伝承者か」

 

杯を傾ける。

 

「悪くねえ響きじゃねえか」

 

思い描くのは、長兄ラオウの悔しそうな顔。

 

次兄トキの複雑そうな表情。

 

そして、愚弟ケンシロウのあの落ち着き払った顔。

 

「……あの野郎」

 

ケンシロウの顔を思い出した瞬間、ジャギの笑みが消えた。

 

なぜ、あいつは何も言わなかったのだろう。

 

伝承者に選ばれたのは自分ではない。

 

それなのに、ケンシロウは怒りも、悔しさも、表に出さなかった。

 

まるで、誰が選ばれようと関係ないとでも言うように。

 

「気に入らねえ……」

 

ジャギは杯を置いた。

 

伝承者になった。

 

これで、自分は兄弟たちの頂点に立ったはずだ。

 

なのに。

 

ケンシロウのことが、頭から離れなかった。

 

「……まあいい」

 

ジャギは立ち上がった。

 

「そのうち、思い知らせてやる」

 

誰に?

 

何を?

 

自分でも、よくわかっていなかった。

 

ただ、これだけは確かだった。

 

伝承者に選ばれたからといって、ジャギの劣等感が消えたわけではない。

 

むしろ、今まで以上に、他人からの評価を気にするようになっていた。

 

自分が本当に強いのか。

 

自分が本当にふさわしいのか。

 

そんな疑問を、誰にも悟らせないために。

 

ジャギは、今まで以上に強くなる必要があった。

 

そして、そのためなら。

 

彼は、どんな手段でも使うつもりだった。

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