ライフは1だけあればいい   作:不足コストはハーメルンユーザーから確保。

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ゲーム開始の合図は勢い良く。

 

「ライフは1残っていれば負けない」

 

 いつ何処の誰が言い出したかは知らないが、カードゲーマーの格言みたいな扱いになっている言葉である。

 

 どれだけ劣勢だろうがどれだけ優勢だろうが両方のライフが残っている限りゲームは終わらない、極限状況から逆転する事もあれば逆転される事だってある、という意味もあるのだが……

 

 こと高速化して3ターンとかでゲームが終わる奴らは「ライフ消費は実質ノーコスト」「ライフは手札より軽い」とか極論に走る。実際盤面構えて相手の手数捌き切れば勝てるんだから間違いではないんだが。

 

 というかライフが減るって事はマイナス要素しかないって訳でもない。手札が増えたりリソースが増えたり……ん、こう考えるとライフ減少にメリットがない畑の奴らが「死ななきゃ安い」言ってるの狂ってるのか?いやまあ大して変わらんか、死な安死な安。

 

 ともかく、ライフっていう要素は分かりやすく戦況を示すものではあるがそれはそれとして0にならなきゃ負けない、実質0か1かの概念って事だ。

 

 

 

 

 

 ただし、これは一般的な現代社会における話である。

 

「焔槍騎士ヴァルケンでアタック!【強襲】の効果でお前は必ずブロックしなきゃいけない!」

「じ、樹海の調律師でブロック……パワーは3000、ヴァルケンが5000だから破壊されて……」

「ヴァルケンの効果で相手ユニットを破壊した時こいつ以外の赤のユニット1体を回復する、溶岩竜マグラドを回復して再攻撃!【砕撃】があるからブロックされても相手ユニットを破壊すればライフを一点砕ける!」

「私のライフもう1しかないのに!?うぅ……ライフで受ける……」

「よっし俺の勝ちぃ!」

 

 現在カードショップで調整真っ最中の俺の横では随分とまあ個性的な髪色をした少年少女らがバトルに興じている。子供らしいと思ったが2人のうち片方、赤髪の少年は年齢に似合わないエグい戦法を披露していた。

 ブロッカー潰してから貫通札飛ばしてくるってお前……初心者の女性にやっていい戦法じゃねえぞ。

 

「また負けたぁ……もう少し手加減してよ燈真(とうま)ぁ」

「でも手加減したら手加減したでまた文句言うだろ実里(みのり)は。景虎(かげとら)さんもそう思うよな?」

「んー……」

 

 なんて傍観者面してたらいきなり同調を求められた。そういう感情論苦手なんだよ俺は……だって君達ライフは極力守ろうとか相手のライフはできれば狙いに行こうとかそういう基準で動くじゃん。

 

「最初のマグラドのアタックはライフで受けておくべきだったな。マグラドを受けるのに使った古樹の守護者はパワー5000でヴァルケンと相打ちになれた。ヴァルケンの回復効果は相打ちじゃ発動しないからそれで耐えれる計算だ」

「そんな手が……!」

「だよな!景虎さんもそう言ってることだし手加減してちゃやっぱ強くなれない!」

 

 そうだそうだと囃し立てるでもなく冷静に状況を分析してやれば赤髪の方、燈真の奴はそれ見たことかと言わんばかりに調子に乗り始めた。こいつすぐ調子に乗るから先行きが心配で仕方ない。

 

「まあお前もお前で毎ターンフルアタの癖は直せよ。殴れるから殴るでブロッカー枯らして負けたバトル今まで何回あった?」

「うぐっ、そ、それは……」

 

 しかもこいつ速攻デッキでもないのにフルアタックしまくる悪癖がある。このゲームはアタッカーとブロッカーのバランスが大事だと再三言ってるのに真面目に受け取る気がない、俺の言葉を何か勘違いしてるなこいつ。

 

「まあまあ景虎さん、燈真の突進癖は今に始まった事じゃないから」

「実里ぃ!?」

「事実じゃん、グリモア以外のあれこれでも後先考えずに行動してる」

 

 グリモアってのはさっきこいつらがプレイしてたカードゲームの略称。

 正式名称は「グリモアーツ」、ルールは単純明快で6あるライフを先に0にしたほうが勝ち。ライフが減ると減った数だけマナ(リソース)が増えるのでそれをうまいこと計算して立ち回ろうって感じのゲームだ。

 詳しく説明すると世界観やらの話でかなりややこしくなるので割愛するが、まあこの世界ではこれが大流行りというか日常の一部になってるくらいに思ってくれればいい。

 

「トラ、相変わらず子守?」

「誰がベビーシッターだ。俺がデッキ組んでる横でいつもの如くフリー対戦始めただけ」

「毎度毎度子供扱いはやめてくれよ琴音(ことね)さん。俺たち中2だぜ中2」

「だって君達いっつもトラの後ろをヒナかってくらいついてくるじゃん。そりゃベビーシッター扱いもしたくなるって」

 

 ぬるっと現れて俺の前の椅子に座ってきた焦茶髪の女子も当然グリモアプレイヤーだ、名前は山吹琴音(やまぶきことね)。

 なんだかんだ小学校からの腐れ縁で今に至るまでズルズルと関係が続いている、奇妙な事に男女の友情が成立する類稀な存在なのかもしれない。

 

「俺は好きでやってる訳じゃねえぞ。んで今日は何の用だ?」

「お誘い、今度のタッグ大会組まない?」

「毎度思うがお前は俺しか組む相手が居ないのか琴音?」

「仕方ないじゃん私が知ってる中で1番強いのがトラなんだもん。下心が透けて見える奴らにペア組まないかって言われた事も何度かあったけど皆私に勝てなかったし」

「だろうな、誰がグリモア教えたと思ってる」

 

 んでこいつが頼りにするのが俺こと須藤景虎(すどうかげとら)、この世界に転生して17年の男子高校生。目の前のこいつとはクラスメイトにあたる。

 カードゲームがきっかけでこんな縁ができるとか前世ではまずあり得なかったのでそういう意味では転生に感謝だ。

 

「んで日程は?」

「再来週、優勝景品は新弾3ボックス。参加費1600円」

「まあそれならいいか。今出てる情報だと新規特に欲しいのないから全部お前に譲っていい」

「そう言って前に汎用カード発表されてから土下座して撤回したの忘れてないぞー」

「あの時はラスト1枠だったから判断が遅れに遅れただけだっての……大人しくシングルで買っときゃよかった」

 

 まあ流石に此処までどっぷりハマるとは思っていなかったのだが。この世界が半ばカードゲーム中心の世界とはいえ女性が此処まで熱中するのも珍しいもんである、なんであっちの方から大会やら新弾開封に誘ってくるんだ?

 

「ねえ琴音さん、その大会ってもしかして」

「あー分かっちゃう実里ちゃん?今度初開催のタッグ全国大会予選」

「おい待てなんてものにエントリーさせようとしてる」

「地区予選と全国大会の日程は休みだから大丈夫でしょ」

「いやそういう問題じゃねえって俺はあんま目立ちたくないの!プロになる気とか全然ないし!」

「えー」

 

 当然こんな世界だから職業カードバトラーってのが存在する。専門の養成校があったり強いバトラーがスカウトされたりとかで世界各地を飛び回ってひたすらバトル。実家の布団がベストスポットな俺には眩しすぎる世界だ、絶対行きたくない。

 

「いつも思うけど景虎さんはなんでそんな目立ちたくないんだ?滅茶苦茶強いのに」

「最近噂のカード狩りだって余裕で倒せちゃいそうなくらいなのに勿体無いです」

「カード狩り?」

「ああ、なんか最近裏路地とか朝の公園で倒れてる人いるだろ?」

「その人達のデッキからは決まってカードが抜かれてるんです、だからカード狩り」

 

 あーそういや最近あったなそういうニュース。倒れてる場所もまちまちで詳細不明、分かってるのは人気がない場所で起きてるってだけ……うーんすっげぇ露骨。

 

「……トラ、カード狩り狩りとかやる気は」

「ないに決まってんだろ捕まえてサツに突き出したらそれこそニュースになって目立つ」

「だよねー、あ、大会の申請はもう出しといたから」

「おまっ!?」

 

 話を振りに来たかと思えば何をしてくれやがったんだ目の前のこいつは。ねえ了承は?俺の了承は?俺だからって雑に扱っていい訳じゃねえんだぞ。

 

「嫌ならわざと負ければいいじゃん」

「それは嫌、やるなら勝ちに行く」

「そういうとこだぞトラ。んじゃそういう訳でデッキ調整に付き合ってもらいましょう」

「自然な流れだな……」

 

 多分今から取り消せとか言ってもこいつは絶対しないし噛み合わせの悪いことに俺はかなりの負けず嫌いだ、というかこいつはそれを知っててわざとやってる。今まで何回大会に巻き込まれたか……

 

「仮想対面は?」

「砦機、あんま出てこないけどアイギオン立ったら突破できないのなんとかしたい」

「分かった、正直そこまで警戒するもんでもない気がするけど」

「お、景虎さんがやるのか」

「プレイング参考にしてもいいです?」

「いいぞ、こういうのは見て学べがカードゲームだ」

 

 まあなってしまったものは仕方ないので自然な流れでデッキを用意しプレイマットに並べマナをライフに6つのストックに4つ。あとは先後決めて4枚ドローすれば準備完了だ。

 

「コイントス……げっ裏」

「先行貰うぞ」

「取られたくないデッキに取られちゃった……まあそれも含めて調整、行くよトラ!」

「おう」

 

 今回は俺の先行でスタート。砦機はあくまでこいつの調整用に用意してるデッキの一つであって練度はそこまで高くない、とはいえ……

 

 

「「開戦(マギアリリース)!」」

 

 やるからには負けてやる気はない、それがカードバトラーの性というものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前なぁ……アイギオンの対策したいってのに封詔ピンはねぇだろ」

「いやぁアイギオン以外止めたいカードがピンとこなくて……」

「絶対無理な対面があるならメタカードは最大枚数投入しとくもんだろうが」

「それはそうだけどさぁ」

 

 結局あれから4戦ほど付き合わされた。今回調整の焦点だったのは琴音が仮想対面に指定した「砦機」デッキの切り札「橙曜城王アイギオン」の対策。

 出されたら勝てないから勝てるようにしたいとのご要望だったがあいつ肝心のアイギオンを仕留めれる札を1枚しか入れてなかった、そりゃ無理だわ。

 ちょっとデッキ見せろってなるまでに2戦、対アイギオンの札を3積みにしてからまた2戦……テーブルでの調整だから1試合25分ちょいで済むとはいえ相談とかも合わせれば今のように日が完全に落ちてしまうぐらいの時間は経つ。カードゲームは金と時間のかかる趣味である事はこの世界でも相変わらずだ。

 

「まあデッキ構築変えたからどうにかなるだろ、お前なら余程のヘマしない限り勝てる」

「砦機以外にも?」

「大会荒らししまくってる奴が不安になるな馬鹿」

 

 その金と時間のかかる趣味にどっぷりと浸かってしまったこいつは最早手遅れ、時間を見つけては大会に参加し優勝賞品を掻っ攫っていくハイエナと化してしまった。一体誰がこんなバトルジャンキーを育て……俺か。

 

「そういやトラ」

「なんだ琴音」

「あの子達が言ってたカード狩りって十中八九あれだよね」

「だろうな、真実は表沙汰にはなってないらしい」

「まあ表沙汰になってもどれだけ信じるかって話だけど」

 

 まあそういう訳で現在俺は帰り道を琴音と2人で話しながら歩いている。リア充爆発しろとか刺されそうな絵面だがこいつとは別に付き合ってないしそういう感情もない、ただの男女の友情が成立する友人だ。決して刺される謂れはない、断じて。

 

「最近増えてるって言ってたし案外今日遭遇するかもねー」

「妙なフラグはやめろ馬鹿。お前の言ったことはなんでかよく当たるんだ」

「まさかー、トラが3回くらい大爆死したことくらいし……か……」

「……言わんこっちゃない」

 

 このまま普通に帰宅できればどれほどよかったか。バトルジャンキー兼一級フラグ建築士のこいつの発言は大体悪い方向で当たる。

 

「なに、が……」

「敗者には必要ない、これは……む」

 

 微妙に早く帰ろうとして裏路地に入ってみればなんということでしょう。そこにはぶっ倒れたおじさんからカードを窃盗する黒ずくめの不審者が居るではありませんか。

 

「おにーさん、こんな時間に追い剥ぎ?」

「神聖なる勝負の結果だ」

「ほんっとお前たち同じ言葉しか言わないな……」

 

 言わずもがなさっきあいつらが話してたカード狩りの正体はこいつらだ。ご丁寧に黒いローブに身を包んだカルト宗教にでも入信したような格好で堂々とカードを追い剥ぎするその絵面はまごうことなき不審者、普通に考えて通報待ったなし、なのだが……

 

「じゃー俺ともその神聖な勝負ってのをしようぜ。本はあるんだろ?」

「ほう、貴様もか……よかろう」

 

 訳知り風に挑発してみれば不審者は懐から6色の宝石が輝く黒い本を取り出す。あいつが神聖な勝負とか格好つけてるのはあながち間違いではない、だってこれ明らかに「闇」が枕詩になる特殊なバトルだし。

 

「あ、今日はトラが行くの?」

「調整付き合わされてちょっと発散してぇんだよ。久々にあいつらも使ってやりたいし」

「理解、んじゃ任せた!」

 

 そして同じような黒い本を実は俺も持っている。すっと鞄から取り出して開けばそこにあるのはページではなく都合よくデッキが入りそうな窪み、用途はお察しの通り。

 

「魔本(グリモワール)を持つ者同士の戦いは真のバトル!覚悟はいいな小僧!」

「御託はいいんでさっさとやるぞ不審者。そのカードを持ち主に返さにゃいかん」

 

 調整用のデッキとは別の場所にしまってあるデッキケースからカードを取り出し本の窪みにイン。パタっと閉じればお互いの本が輝きだす。

 

「既に勝った気でいるとは愚かな、その鼻をへし折ってくれる!」

「それ言ってる側が勝った事例を見たことがねぇ、んじゃやるぞ……」

 

「「開戦(マギアリリース)!」」

 

 バトル開始の符号を唱えれば本から出た光が扉を作り出し入れと言わんばかりに随分と重厚な音を立てながら開いていく。

 

「本が2冊あればなぁ」

「文句言うな……んじゃ勝ってくる」

「うん、見てるからね」

 

 息を整え扉の中へとダッシュイン、入ると同時に浮遊感を感じたかと思えば白一色の謎空間を下へと落下していく。

 

「相変わらず慣れねぇなこれ……」

 

 そして落下していく途中で俺の衣服も学生服から変わっていく。目立たないジャケットは金の装飾が目立つローブに変わり、右手には人差し指と中指に同じような金の指輪が付く。

 後は唐突に現れたジェットスキーのようなマシンの上に立てば準備完了、ヒーロー物の変身みたいでかっこいいと思えるメンタルがあれば良かったのだが正直学生服のままにしてくれと思うのは野暮だろうか。

 

「頑張れトラー!ぶっ殺せー!」

「随分と物騒な応援だなおい」

 

 そうして謎空間を抜けた先は2つの超巨大な魔法陣が描かれた荒野、琴音の奴はスポーツの観客席のような場所から身を乗り出して応援してくれている。なんで空に浮いてんのかとかそういうのは考えない、そういうもんだと受け入れよう。

 

「貴様を倒せば次はその小娘だ!」

「言ってろ、俺に勝てたらの話だ」

 

 そして対面の不審者も俺と同じようにマシンに乗ってこの空間を浮遊している。如何にも絵面がファンタジーなのに足場代わりの奴は思いっきりSFなのなんかシュールだな。

 

「減らず口を、ではいくぞ、私のターン、ドロー!」

「あっ」

 

 なんて変なことを考えてたら言ったもん勝ちで先行取られた。これだからホビーアニメ世界って奴は……!

 

「「迅雷奏者レグナ」召喚!」

 

 そうして先行を取った不審者がノリノリで召喚したユニット、迅雷奏者レグナは……

 

「おー……やっぱこれだね。っていうかレグナって事は黄色じゃん!vs私って事!?」

「ま、同意だ。これはテーブルじゃ味わえん、後そこまで自惚れんな」

 

 荒野に刻まれた魔法陣から、飛び出るように実体化した。

 

迅雷奏者レグナ

コスト4 黄 P4000 

(魔光)

【迅雷3】【アタック時】手札からコスト3以下のアーツをコストを支払わずに使用してもよい。

【ターン1回】このユニットが【迅雷】を使用した時、デッキからカードを1枚ドローする。

【増幅3】+3000(指定されたコストを支払うことでこのユニットのパワーを+する)

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