『ファイナルターン、ですか』
『大きく出たわねぇ、まあこのターンで決めないと次で私が確実に仕留めちゃうもの。貴方達にできるかしら?』
「できる確信がなきゃ言いませんよ……さて」
「その割に手の甲鼻に当ててるじゃん」
「最後のピースを考えてるだけだ」
どうも俺は深く思考する時自然と手の甲を鼻に当てる癖があるらしい。琴音と対戦してる時くらいしか出なかったこれだがこの大会中数回ほど発生している、自惚れではないが俺と琴音は相対的にかなり強い方だったらしい……まあ、此処で勝たなきゃ何の意味もないが。
「……あ」
「あってなんだトラ……あ」
改めて手札と睨めっこしているとふと1枚のアーツに目が向いた。琴音もそれを見て気づいたらしく全く同じリアクション。
長期戦だし本当に追い詰められた時用にと入れた1枚だ、まさかここで使い時がくるとは。
「よし琴音、運ゲーやるわ」
「おっけー、決めてよね」
「勿論」
手の甲を外し一度深呼吸……よし、いける。
『ルートは決まったかしら?』
「お陰様で……行きますよ、まずは4コストでキャスト「星に願いを」、種族は「歌聖」を宣言!」
『それは……!』
そう、皆さんご存知星に願いをだ。こいつはどの色にも属さない白のカード、その汎用性の高さからあらゆるデッキに入る逆転札。
「このターン俺の手札の「歌聖」ユニットのコストはライフの数と同じ……つまり2になる。どんどん行きますよ。軽減も合わせノーコストで「暁光聖ウシャス」召喚、効果でトラッシュの「運命の選択」を回収しそのまま軽減2の3コストでキャスト。デッキの上から8枚を確認し……あった、4枚下に戻して4枚上に。歌唱台3枚の効果で3マナブーストし続けて2コストでキャスト「召雷の波動」、2枚ドローする」
『あのアーツそんな使い方が……』
『デッキトップを操作した擬似サーチですか……あれを即興で思い付く辺り恐ろしいですね』
ある意味運命の選択は俺にとっても念願のカードだ、このゲームドロー手段が豊富な代わりにサーチはマジでなかったからこれで擬似サーチができる。
だからといってポンポン使えるコストじゃないのはご愛嬌、そしてキーカードはこれで全て揃った。後は詰めろに入るだけ。
「続いて軽減合わせノーコスト。その歌声は戦歌、その舞踊は剣舞。あまねく星で最も輝く真の歌姫!「戦神聖ドゥルガー」召喚っ!」
「決まったねぇトラ」
「お前がやれって言ったから……」
空から如何にもな光と共に降り注ぎ……というか急降下しマイクと合体した長剣を振り回すアイドル、ドゥルガー。実際に見るとかなり物騒な武装だこれ。
「更にドゥルガーをもう一体召喚、16コスト使い2体のドゥルガー【覚醒】!」
『ドゥルガーが……2体』
『なるほど、狙いはワンショットキルね……でも45000まで届くかしら?』
「届かせるんですよ……行くぞ琴音」
「うん、決めちゃえトラ!」
「おう、アタックステップ。ドゥルガーでアタック、まずは【迅雷】でキャスト「光翼の翼」。【福唱】込みでドゥルガー2体はこのターンコスト7以下からブロックされない。迅雷は使わずラクシュミの効果でセイバを-2000、そのマナは「終戦の鐘」に取っておきたいんでしょう?」
『なるほど、見透かされてましたか……ですが45000に届かなければライフで受けるだけ。どうします学生諸君!』
「だから言ってるでしょう届かせるんです、続けて歌唱台の3軽減と共鳴の2軽減合わせてノーコストでキャスト「響き渡る聖唱」!」
続けて放つは此処まで使うことのなかった「歌聖」専用サポートアーツ。
響き渡る聖唱
【共鳴:黄2】(このアーツを使用する時、自分フィールドの対象カード1枚につきコストを1つ下げることができる)
【対抗】自分フィールドの「歌聖」ユニットの数までデッキからカードをオープンし、その中の黄のアーツ1枚をコストを支払わずに使用する。残ったカードは好きな順番でデッキの下に戻す。
「俺の場に「歌聖」は2体のウシャス、ラクシュミ、2体のドゥルガー。よって計5枚オープン……まあ、仕込んでますけどね。キャスト「輝ける終幕」!」
『それは……!』
「正真正銘、最後の切り札ですよ」
悠長に10回アーツを撃ってる暇は当然ない、となれば行き着くのは踏み倒しと超パワー。決勝トーナメントで猛威を振るったこいつが最後のキーカード。
輝ける終幕
【共鳴:黄3】(このアーツを使用する時、自分フィールドの対象カード1枚につきコストを1つ下げることができる)
【対抗】このターン中自分の「歌聖」ユニット全てのパワーを自分のトラッシュの黄のカードの数×1000する。
「今俺たちのトラッシュにカードは11枚、よってパワーは+11000。そして……3コスト支払いもう1枚キャスト「輝ける終幕」!」
『2枚目!?』
「運命の選択で手札とデッキトップに1枚づつ残るよう仕込んでおいたんですよ、これで追加+12000……自身の効果と合わせ2体のドゥルガーのパワーは+38000の53000。「光翼の加護」の効果でセイバにはブロックされない……王手、通り越して詰みです」
『……並のバトラーなら中途半端に削ってくれたのですが、完敗ですね』
最初から終幕を【福唱】2連打する案もあったがそれだとトラッシュの黄色が微妙に足りなかったのでこんな回りくどい手段を使っている。
タッグとかいう長期環境じゃなきゃこんなクソ重カード2枚も積まないし琴音が残してくれた運命の選択がなかったら仕込めてもいない……タッグならではの構築と戦法が勝利を呼び込んだ、何が起きるかわからないもんだ、ほんと。
『しかしただ負けを認めて散るならいざしらず、こちらにもプロの意地があります、そのアタックはイグドラシルでブロック!』
マイクを携えたアイドル衣装のユニットが突撃しイグドラシルと交戦……というか巧みにイグドラシルを登っていって登頂したところで絶叫して振動で破壊。剣じゃねえのか逆に物騒だなオイ。
「ラストアタックです、ドゥルガーでアタック。【迅雷】でキャスト「光天の雷」、【福唱】込みでセイバを-4000。ラクシュミの効果で更に-2000し破壊!」
『文字通りの焼け野原……見事です、子供だからと侮っていたらしい』
「最高の褒め言葉として受け取りますよ……ドゥルガーのパワーは59000、ライフを1度に4つ砕く!」
イグドラシルを破壊した1体目に続くように2体目のドゥルガーが突貫し跳躍、意気揚々とマイクを振り回し。
『ライフで受けましょう!』
長剣で1つ、声の振動で1つ、最後に決めポーズをして2つ。プロ達のライフを0にした……いや最後のなんだよ。
『決まったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!まさかまさかのジャイアントキリング!須藤景虎、山吹琴音の高校生タッグがプロの2人を下し、優勝の栄冠を手に入れましたっ!』
「やったねトラ!優勝だよっ!」
「おい待て抱きつくな抱きつくなこれ配信中……あーもう」
勝負が終わったらきっちり元の場所に戻るのはこのシステムも同じらしい。ステージに戻った俺たちを迎えたのはナレーターの絶叫と会場の大歓声だった。歓声と共に飛びついてきた琴音をちょっとそのままにしておき、落ち着いたところで離して深呼吸。距離感近すぎだっての。
「対戦ありがとうございました……運命の選択で終幕が2枚捲れてなかったら多分負けてました」
「1枚だと……そうか、最初のアタックで45000に届かない可能性が」
「ええ、それに光翼の加護を福唱してないとセイバにブロックされてノルンで更に運ゲーしなきゃいけなかったんで」
ひとまず対戦終了の握手を交わすついでに進行が進むまで感想戦。やっぱカードゲームは感想戦まで含めてだよなぁ……プレイングの拙さが分かって恥ずかしい時もあるけど。
『この後は表彰式となります。準備が終わるまで少々お待ちください……』
ちょっとした感想戦が終わったら係の人たちに促されるように控え室へ。表彰式といっても大層なものじゃなくステージに立ってトロフィーと商品をもらうだけの物だ、正直それより感想戦してたいって思うのは俺だけだろうか。
「いやーしてやられちゃった。タッグが初めてだから……って言い訳は通じないね。史上初めてのタッグ大会、全員が初見だもの」
「私達も調整してただけでほぼほぼ初心者でしたから……」
「それにしては随分とシナジーまで考えたデッキを組んでいましたね、おまけにカードの質もいい」
「あー……ちょっとこいつがコレクターで」
というわけで控え室で表彰式が始まるまで感想戦再開。まあ学生の身でドゥルガー2枚だのノルンだのポンポン使ってたら突っ込まれるわな、
「でもそっちもいいタッグだったじゃないですか。樹界でマナと防御を担当して嵐竜が整えた手札で走り切る、役割分担しっかりできてる」
「自信はあったんだけどね……君たちと戦って分かったよ。タッグは40枚のデッキ2つじゃダメなんだ、2人で80枚のデッキを作るのが大事」
「……一理ありますね」
実践してみて分かったのがこのルールはプレイヤーごとに色が分かれてるとタッグがそれぞれ個別に展開してしまう、それもターンが順繰りで回ってくるから必然キルラインまでの到達も遅くなる。
かと言って2人とも同じ構築にすると対応力に幅が出ない。2つのデッキでシナジーを作り1つのデッキであるかのようにプレイする……多分それがこのルールの最適解。言うが易しではあるが。
「タッグのセンス、構築の仕上がり、先を読むプレイング……プロでも充分通用しますよ、貴方達」
「現役に褒められちゃった……ねえトラ、やっぱ2人でプロ行こうよプロ」
「行くなら1人で行ってろ。それとお前は家の都合をどうにかしなきゃだろ」
「それは……そうだけどさぁ、あはは」
気軽にプロになろうよとか言ってくるがプロリーグは単純な実力だけでやっていける場所じゃない。連戦と転戦を耐える体力、観客を沸かせるパフォーマンス、環境を読み切る判断力。全て揃ってなきゃとてもじゃないがスタートラインにすら立てない、そして俺はそんな場所に立っていられる自信はない。
「ま、ともかく優勝おめでとう。次は全国でね」
「はい!……あれ、全国の時期ってプロリーグ大丈夫なんです?」
「ギリギリオフシーズンだ、大丈夫」
「ならいいんですけど……」
まあ仮にも公式大会なんだから興行的にプロリーグと被せてくることはないだろう。確かこれで毎月何かしらの大会が行われている状態になった筈だし。
『只今表彰式の準備が終わりました、選手達は……』
「終わったみたいですね、行きましょう」
「ほら、先にいきな学生達。主役は君ら2人だよ」
「はいっ!ほら行くよトラ!」
「急かすな押すなくそっこの……」
テンションがバカ高い琴音に押されるような感じで控え室からステージへ。この規模の大会での優勝は多分初めてだろうしそれもあって興奮状態なんだろう、無理もない。
「これでトラも全国デビューだね!」
「やめろ」
間違っても有名にはなりたくないんだ勘弁してくれ。
……まあ、こいつが此処まではしゃいでるなら少しくらいは……いややっぱダメだわ。
そうして琴音がハイテンションな事を除けば表彰式、並びにタッグ大会は何事もなく終わり。
「トラ、メール来た?」
「ああ、って事はお前もか」
「うん、まあ知り合いからだったからあんまり緊張はしてないけど」
「お前のツテはどうなってんだ一体……」
翌日、休日だったのもあり俺と琴音は大会主催……つまり公式お膝元に呼ばれる事になった。
……そういうこったろうと思ってたよ畜生!