「まさかこんな形でお前ん家の車乗る日が来るとはな……」
「まあ事情が事情だからねぇ、電車とかで行くよりはツテがある私の家の交通手段で行った方がいいでしょ。あ、ジュースとチーズあるけどどう?」
「チーズあるならクラッカーも欲しかったな……」
大会終わって帰って寝て起きたらよりにもよって主催の大元会社からの呼び出し、ただの一般人だったら間違いなく心臓バクバク案件だがラッキー?な事に俺は相方が逸汎人なため然程取り乱さないでいる。
酷い友人ガチャもあったもんだ、リムジンとか前世含めて初めて乗ったぞ。
「俺ら何かしたか……?」
「優勝した」
「そりゃそうだが……うわドゥルガーとノルンがすげぇ値段跳ねてる」
「えぇ……確かにもう何年前とかのカードだけどさぁ」
そして我々は何をやらかしたかとんと見当がつかない。まあメールの文面は「話したいことがあるので来てほしい」くらいだったので悪い意味でのやらかしはしていない筈ではあるがにしたって地区予選勝ったくらいの学生をわざわざ呼び出すか?
スカウトなら本社じゃなくプロリーグの方から話来そうだしすげぇ重要な話なら絶対来てくれってなりそうだし……うーん。
「まあ私達でよかったって感じもするけどね。天城さんコワモテだけど結構良い人だし」
「そのツテはどこで手に入ったんだよ……」
「まあ家柄ね」
「人付き合いが大変そうで何より」
まあ呼ばれたものは仕方ない、現実逃避にチーズ食いながら今後に影響でねぇかなと考える。地区予選だってのに配信の人数凄まじかったし相当数に顔が売れてしまった、今までひっそり過ごしてたのに多分休み明けの学校とかすげぇ絡まれそうで嫌だなぁ……というか。
「琴音ぇ……」
「何トラ」
「俺さぁ……そこまで男に見えない……?」
「あぁ……まあぱっと見は」
「ふざけてやがる……!」
どいつもこいつも俺を「女だと思った」ってコメントばっかしやがって!声で分かれよ声で!いやまあ確かに一般男性と比べて少し高めだけどさ!?それでも女性のと区別つくだろ普通!なんでだよ!
「まあその、ドンマイ。悪い虫が寄りつかないって考えれば……」
「よくない、というか最後のあれで完全に俺たち付き合ってる認識されてんぞどうすんだ」
「海外じゃ友達同士でハグは普通だし」
「日本は普通じゃねえんだよ」
畜生公式大会に出たばかりにこんな事に……いやでも大会自体は楽しかったし出るんじゃなかったって程じゃないし……ああもう。
「いっそ女装すれば気付かれないか……?尊厳が吹き飛びそうだが目立たずにカードゲームするなら……」
「その目立ちたくないにかける執念はなんなのトラ……というかもう着くよ」
「チヤホヤされたくてカードゲームやってるわけじゃねえんだもん……分かった、準備するか。私服でよかったんだよな?」
「何をどうしたら学生にスーツで来いっていう話になるのさ、私達まだ高校生だよ?」
俺は楽しむためにカードゲームやってるんであってこれで生計立てようとか有名になろうとか全然思ってないし今回に関してはこいつの無茶振りだから仕方なくで応じただけで……いかん落ち着かないと呪詛が漏れ出る。
「着きましたよお嬢様、景虎様」
「よし行こっかトラ、天城さんと会うのも久しぶりだなぁ」
「大企業の社長に久しぶりとか言える学生を俺はお前以外に知らんぞ、ほら」
「エスコートどうも、まあそこまで大した話でもないでしょ」
「どうだか」
俺の胃のためにもさっさと終わらせて帰ろう、そう思いながらドライバーの人に一礼。
妙にあっけらかんとしてる琴音に少し呆れ、俺達は呼び出し元……グリモアの総本山であるラジエル社へ足を踏み込むのであった。
「久しぶり天城さん、元気?」
「大きくなったな琴音ちゃん、私はこの通り元気だとも」
「わざわざ社長室に呼ばれての第一声がそれでいいのお前?」
「そこそこ長い付き合いだし」
ラジエル社で受付を済ませたらあれよあれよとIDを渡され気づけば社長室まで直行、すげぇ豪華な内装の如何にもな部屋に入った瞬間相方の第一声がこれだ。
近所のおじさん感覚で大企業の社長に話しかける女子高生ってなんだよ。というかコワモテ通り越して顔がヤクザのドンだよこの社長、一見優しいけど圧がすごいよ。
「まさか初の試みであるタッグ大会で君達が、それもプロを下して優勝するとは思ってなかったよ……とりあえず座ってくれ、茶を用意させる」
「アールグレイでお願いね」
「図々しいな……どうも」
対面で座ると圧が一層増した気がして更に怖い、目が笑ってないよこの人。敵に回したくないよこの人。
「君は初めましてだね。
「須藤景虎です。琴音とは……まあその、古い付き合いで」
「私にグリモア教えてくれたのトラなんだよ」
「そうか、君が……良い友を持ったな」
「まあ半ば自分のためではありましたけどね……相手のいないカードゲーム程虚しいものはないんで」
小学生の頃に教えてよって頼まれたから教えたら周りが接待してくるから本気で戦ってだの要望通りボコしたら強くなる方法教えろだの向上心の塊だったからなぁ……
当時はあんなお偉いさんの娘だとは知らなかったから家に招待されるまで見所あるなくらいにしか思ってなかったのが懐かしい、というかなんで俺はこいつの家の人達に顔覚えられてるの?ただの友達だぞ?
「そうだな、相手あってこそのカードゲームだ……さて、前置きはここまでにして本題に入ろう。君達は最近噂になってる「カード狩り」は知ってるかね?」
「あー……知ってるというか……」
「逆にカード狩りを狩ってるみたいな所が……」
「それは言い過ぎだ、見かけたらボコしてるだけで」
「それを狩ってるって言うんじゃない?」
こんな所で踏み込んだ話をされて嘘をつく理由もないので大人しく白状する。何それ知らんで通そうとしても
「まあ君達の強さなら不思議ではないな、寧ろ納得したよ。今回呼び出した理由というのがまさにそのカード狩り達についてだ」
「あいつら同じ不審者装束だしやっぱりなんらかの犯罪組織だったり?」
「そうらしい、うちの専属プロ達も何度か遭遇して撃退したのだがそのうちの1人が尋問に成功してね」
「……自分達でどうにかできてるなら俺たちを呼ぶ理由あります?」
「プロじゃない学生だからこそ君達を呼んだのさ。んで聞き出した情報だが奴らは「ゲーティア」なる組織だという事が分かった、詳細は不明だがカード狩りは奴らのビジネスの一環だろう」
「まあ一々そんなみみっちい事ばかりしてても大した儲けにはならないだろうしね」
1枚20万とか30万するカードを奪えば1月くらいは余裕で生活できそうなもんだが……いやまあ確かにそればっかやってたらいつか破綻するか。後どうしても出来高制になるだろうし本来の稼ぎは別にあるんだろう。
「で、我々ラジエル社もこいつらを追い始めたのだが……最近になって新たな問題が出てきた」
「というと?」
「言うより見てもらった方が早いだろう……このカードを見てくれ」
「カード……?」
天城さんから手渡されたアクリルケース入りのカードを受け取り確認。えーっと……ああうん、紅刃竜バルカンか。僕の考えたオリジナルぶっ壊れカードでも出てきたらどうしようと思っていたが……
「あれ」
「トラ?」
「このカード左下の数字入りホログラム変じゃないですか?確か1とOだった筈だけどこれ1と0だ」
「説明するまでもなく気づいてくれたか。そうとも……どうもあいつら、偽造カードを流通させているらしい」
「うわぁ……」
「無論これは公式大会のスキャンに弾かれて使えない。だがこれは使うためではなく売るために作られた物なのだろう、人の土俵で阿漕な商売をしてくれるものだ」
合点が行った。正規品を自分達の元に集め偽造カードを放流、正規品の希少価値を高めた所で高額転売……やり方が陰湿すぎるな、悪の組織というかマフィアだこれ。
「……ほんとだ。ホログラム以外は変わりないけどホログラムだけ微妙に違う」
「偽造防止用のホログラムは各国のラジエル社にしか設備がなくてね、今までのコピーカードはそれを再現できなかったからすぐわかるものだった。だがこれは完全なコピーではないとはいえ注意深く観察しないと間違えてしまうほどの再現性がある」
「ええっとつまり……」
「ラジエル社の中にそのゲーティアって奴らと内通してるかどっぷり浸かってる奴らが居るかもしれないって事でしょ?それも上の方に」
「少なくとも私はそう考えている、だから君達を呼んだのだ。身内の誰がそうなのかまるで分からないからね」
それを言ってしまったら俺たちもゲーティアの一員だったりするかもしれ……いやそうか、だから琴音と俺を呼んだのか。社長と琴音は勝手知ったる仲だし社外の人間だから信用できる、と。後ついでにその友達の俺も。
「じゃあわざわざ俺たちを呼んだ理由ってのは……」
「これを」
「アタッシュケース……?」
天城さんがわざわざ机の上に取り出したのは分厚いアタッシュケース……なんだろう、凄い嫌な予感がしてきた。
「この中に入っているのは各国の大規模大会で1位景品にする予定だった特別なカード。平たく言えば世界に1枚しか存在しないカード達、の日本にある物だ」
「そういうことかぁ……」
つまり大会の景品がしょぼかったのは本来これで考えた所を内通者の可能性が浮上してゴタゴタした結果、と。中止にもできないし妥協して……って所か。にしても1カートンくらいは欲しかった。
「これは極秘裏に製造したため存在する事は私と数人しか知らない、つまりこいつらが偽造、紛失されれば内通者はその中に居ることになる。その状況を維持するためにはこのカード達を我が社から手の届かない場所に移すしかない」
「だから俺たちに託す、と」
「その通りだ。だが使うな、とは言わない。カードは誰かに使われてこそ真に価値あるもの、ただただ値段を釣り上げるためのコレクションでは断じてないのだから」
「じゃあ大会でつかっていいの!?」
「勿論。寧ろ使ってくれることで「世界で君達しか持ち得ない唯一のカード」というアピールができる。それが他の場所にあるのはおかしいからな」
「……そういう話なら、ありがたく」
荒唐無稽な話に見えてかなり合理的だ。結構なやり手だぞこの社長、多分詰将棋が得意なタイプ。まあ問題はその唯一のカード達が俺らで使えるやつかどうかだが……
「日本で製造されたのは4枚、それらを君達に託そう。君達のデッキに入るか、というのは別問題になるが……ひとまず見てくれ」
周囲に俺たち以外誰もいないのを確認し、念のため窓のシャッターを下ろして天城社長がケースを開ける。厳重な包装の中にあったのはさっきのバルカンと同じようにアクリルケースに入った4枚のカード。
「「雷魔大帝ハール」「時壊聖カーリー」「深淵竜テクトリカ」「獄炎竜レムノス」……前者2枚は間違いなく君達のデッキに入るだろう」
「……「影竜」は俺の本来のデッキです、これも間違いなく入る」
「後はこのレムノスだけど……トラ、抜けたバルカンの代わりに入れる?」
「いや、そもそも赤を公の場で使う事がなさそうだ……こいつは落ち着くまで鑑賞品かな。ひとまずこの4枚を預かればいいんですね?」
「いつか返せとは言っていないよ、そのカードは君達と共にあって欲しい。もし誰かにまた託すのであっても君たちのようなバトラーなら真っ当な人物を選んでくれると信じる」
……こいつを託せる人物、というなら心あたりはあるにはある。だがあいつはこれを扱うにはまだ未熟がすぎるし天城社長はできるだけ俺たちの元に置いておきたい筈だ、おいそれと渡すわけにはいかない。
「期待が重いなぁ……確かに受け取りました。琴音、ハールとレムノスはお前が持っていてくれ」
「りょーかい、じゃあカーリーとテクトリカよろしく」
「頼んだよ、2人とも」
何があってもいいよう分担を2-2にしてカードを受け取りバッグへ。さらっと見た感じ新能力だし強いことしか書いてないし早くお披露目すればするほど狙う奴が現れるだろう、出す場所を考えねばいかん。
「私からの話は以上だ。無責任な話だが、頼んだよ」
「こっちもこっちでゲーティアを色々探ってみますよ。社長もお気をつけて」
「私達に任せといてよ、そっちより先に元締めとっちめてあげるから」
「それは助かるなぁ。その意気でよろしくな琴音ちゃん、景虎君も」
「あっ……はい」
ともかくこれで話は終わりらしい。さらっと俺も巻き込んでゲーティアぶっ潰す気らしい琴音には敢えて突っ込まん、これ以上胃を痛めてたまるか。
「送迎は必要ないね?」
「うちの車で来てるから大丈夫。またね天城さん!」
「またいつか……が来るとは思えませんが」
「琴音ちゃんと一緒にいるなら機会はあるだろうさ、またな」
願わくばこれ以上こういう事には関わりたくねぇと思いつつ琴音と2人でラジエル社を後に。俺のぼやきを聞いてたのか帰りはしっかりとクラッカーが用意されてた、やっぱプロの使用人ってすげぇわ。
まあそういうわけで暫くは学校やらショップで絡まれそうとかゲーティアの奴らと戦うの面倒だとかあの3Dフィールドの詳細聞き忘れたなとか色々考えながら帰路についたのであるが……
「ごめんトラっ、その、本当に申し訳ないんだけど……」
「……琴音、俺何か悪い事した?」
「してないから!してないけどどうしても必要な事で……」
ラジエル社訪問から2日後。
「こっちでも最大限サポートはするから……1日だけ、1日だけでいいから」
「今度の社交会の間だけ
「……終わったら我儘1個通していいか」
「……ごめん、本当に」
こういう世界特有のトンチキ回に巻き込まれる事になった俺の目は死んでいた。