ライフは1だけあればいい 作:不足コストはハーメルンユーザーから確保。
「来たね、トラの十八番!」
「なるほど、ライフをわざわざ減らしたのはそのアーツのためか。だが幾らユニットを並べたとてこのターンで削り切らなければ返す刃で貴様はその最後のライフを失う、悪あがきも程々にしておくんだな!」
「悪あがきぃ?バーカ俺にとっちゃライフは6も1も変わんねぇよ。だってまだバトルに負けてねぇんだからな!そっちこそ悪あがきの準備をしておけ一般不審者!」
「星に願いを」は本来起死回生を狙う一発逆転のカードだ。その名の通り追い詰められたバトラーが最後の希望を託して使う1枚……って想定なんだろう。文脈と効果が噛み合った美味しいアーツである。
が、それは真面目にライフを守って健全なバトルをしている奴らの話。俺はライフなんざ使えるようになるのが遅いリソース程度の認識しかない。
熱い逆転劇なんて物はまるでなく、実行するのはただただ計算された蹂躙。観客が大勢居たら大半がドン引き間違いなしの狂気。
「そんじゃあまずは切り札からお披露目してやるよ、軽減3、星に願いをの軽減も合わせてノーコスト!」
その蹂躙劇の開幕を飾るのが長年使い続けた相棒にしてこのデッキの切り札。
「喰らい尽くせ!冥王竜ミクトラン!」
魔法陣から飛び出てくるのではなく、魔法陣ごと大地を砕いて顕現する竜の王。ウツロのように爛れた翼と正気のない目、おまけに牙の間から垂れる毒液。子供が間近で見ようものならギャン泣き間違いなしのホラーフェイス。
冥王竜ミクトラン
(影竜)
【共鳴:黒4】(このユニットを召喚する時、自分フィールドの対象カード1枚につきコストを1つ下げることができる)
【召喚時】このユニットを手札から召喚した時、自分のライフを相手と同じ数になるように回復する。
【増幅4】+4000(指定されたコストを支払うことでこのユニットのパワーを+し、追加で以下の効果を得る)
【アタック時】自分の墓地からコスト6以下の黒のユニット1体をコストを支払わずに召喚できる。
【衝動】(このターン中自分のライフが減っている時、以下の効果を追加で適用する)
この効果で召喚するユニットを1体から2体にする。
【覚醒5】+5000(指定されたコストを支払う事で増幅したこのユニットのパワーを+し、追加で以下の効果を得る)
【対抗】自分のライフを1つストックに置く。その後、相手は自分フィールドのユニット1体を破壊しなければならない。
影竜を統べる冥府の王、ミクトランだ。
「それが貴様の切り札か、だが1体出したところで……」
「まーだ始まったばかりだっての。ミクトランの効果発動、手札から召喚された時俺のライフをお前と同じ数になるように……つまり全回復する!」
「何ぃ!?」
「新鮮なリアクションどうも、あー回復美味しっ」
こいつがコンボパーツその2。無論これで終わる筈もない、このままじゃせっかく1に減らしたコストが6に戻っちまうからな。ん、じゃあ回復美味しいって?そりゃあリソースの話だよ。
「続けて軽減2で3コスト!キャスト「ソウルサクリファイス」!」
そしてこれがコンボパーツ3、明らかに生まれる時代を間違えたとしか思えないぶっ壊れアーツ「ソウルサクリファイス」。
ソウルサクリファイス
【共鳴:黒2】(このカードを召喚する時、自分フィールドの対象カード1枚につきコストを1つ下げることができる)
自分のライフを1つになるようにストックに置く。この効果でストックに置いたライフの数と同じ枚数自分はデッキからドローする。
「俺のライフを1になるように破壊し、破壊した数と同じだけドローする!今回は5つ破壊し5枚ドロー!ってあだぁ!?」
「自分から増やしたライフを……また、削る……!?」
「まあそういう反応になるよねー。私もそうだったし」
1つづつ砕けるのでもちょっと痛かったんだから5つ一緒となるとそれはもう痛い。肩が脱臼したのかってくらい、でもコンボが気持ちよくてやめられない、これがカードゲーマーの性。
「ライフ減少時にウツロの【逆襲】、テスカの効果、そしてウツロの【増幅】効果発揮!」
「ライフ減少をトリガーとして次々と……正気か貴様!?」
「正気でカードゲームなんざやってらんねぇよ!ウツロ第二の効果で俺のライフを1つ回復!テスカの効果で減少分5枚ドロー!最後に逆襲でレグナを破壊する!」
砕いたばかりのライフがおまけ感覚で回復し、手札が一気に10枚も増え、おまけに盤面処理もこなす。これをたった1枚で起爆できるってんだから恐ろしい、しかもコストは実質-2。なんで皆使わないのか不思議でならないレベルだ。
「今引いた2枚目のウツロを召喚!そして今出したウツロとミクトランを【増幅】!」
忘れぬうちにしっかりと増幅してパワーアップも忘れない。前にこれ忘れた結果コンボ途切れて狩られた事もあったしな……おお怖い怖い。
「残りマナは3……なんだやはりハッタリではないか。確かにその大型モンスターは脅威だがそれだけであれば」
「だーれが此処で終わりとか言ったんだよ。星に願いをの効果で2コスト、来い「女王竜シワトル」!」
当然大爆発はこの程度じゃ終わらない、次のコンボパーツとして現れるのはミクトランが開けた大穴から這い出るようにして姿を現す大蛇。
女王竜シワトル
(影竜)
【召喚時】このユニットを手札から召喚した時、自分のライフを1つストックに置く事で自分のトラッシュのマナを全てストックに戻す。
【増幅3】+3000(指定されたコストを支払うことでこのユニットのパワーを+し、追加で以下の効果を得る)
自分が手札から「影竜」を召喚する時、そのコストを2下げてもよい。
【衝動】(このターン中自分のライフが減っている時、以下の効果を追加で適用する)
この効果で下げるコストを2から3にする。
「シワトルの召喚時効果!俺のライフ1つを砕く事でトラッシュのマナを全てリザーブに!」
「マナ全回復だと!?」
「インチキ効果も大概にしろー」
「星に願いをなしじゃクソ重いんだから許せよ!ついでにテスカの効果で1枚ドローだ!」
これで今増えた分も合わせて使えるマナは18、当然もっともっと飛ばしていく。
「まずはシワトルを【増幅】!そしてミクトランを【覚醒】!」
シワトルがミクトランに巻き付くように登っていき2匹揃って咆哮。どっかで見た本だとコイツら夫婦らしい、随分仲睦まじいな。
「パワー……19000!?」
「驚くのはまだ早いぜ、続いて2枚目のミクトランをノーコスト召喚!」
「2枚目!?」
「あきらめなー、トラはミクトランとシワトル3積みしてるから」
シワトルが巻き付いたミクトランが一瞬ぼやけ、まるで分身したかのように半透明の虚像が生成される。レグナみたいな小型は数体居るのにこういう超大型がこうなるのは世界観の都合とかもあるんだろうか?
「召喚時効果でライフ全回復!そして2軽減3コスト「ソウルサクリファイス」っ、あっだぁぁぁぁぁ!?」
「また自分のライフを1に……狂っている……」
「だーかーらー、狂ってなきゃカードゲーマーなんかやってられねぇっての!5枚ドローして2枚目のウツロとテスカの効果発揮!更に5枚ドローしライフ1回復……やっべ残りデッキ4枚しかねぇ」
「グリモアは1ターンで20枚ドローとか想定してないから」
「そりゃそうだが」
今度は股間にクリティカルヒットしたような痛みが襲う中どうにか意識を保ってソリティアを続ける。
「3枚目のウツロと2枚目、3枚目のテスカをノーコスト召喚!そしてミクトラン2枚目も含め出したやつを全員【増幅】!」
「なんだ、これは……お前は一体何を目指しているのだ……!?」
「無論
当然此処までドローすれば2枚目、3枚目のシワトルは引き込んでいる。というか最初にデッキボトムを操作してたんだから残りの山札が何かなんて分かりきっている。
そして状況は分身もまた増えて夫婦が一組増える中肝心の所有者は痛みに悶えるというすごく情けない絵面だ、一体どうしてこうなった。
「これで俺のマナは24!2枚目のシワトルとミクトランをそれぞれ【増幅】と【覚醒】!んで持って3枚目のミクトランをノーコスト召喚、ライフ回復!」
此処まで来ると最早オーバーキルまであるかもしれないが久々に握ったからなのかコイツらがヒャッハーしたがっている。
既に顔がひきつりはじめている対面の不審者には悪いが都合の良いサンドバッグになってもらおう……最もこいつらに意思があるかどうかはわからないけど。
「3枚目のミクトランを【増幅】と【覚醒】!3枚目のテスカも出してこいつも【増幅】!最後に3枚目のシワトルを召喚して効果、ライフを減らしてマナ全回復っ……これで、マナ合計、25!最後のシワトルも【増幅】して残りは22!」
どうせなら3枚目のソウルサクリファイスを使ってマナ30を目指してみるのもありだったかもだけどそれやると確実にデッキアウトするので断念。せっかく
「ユ、ユニットが……一気に、じゅう、さんたい?」
「本当は今手札に抱えてる奴ら全員出すのもアリかと思ったんだが……ま、こんだけあれば充分だろ、アタックステップ!」
「充分どころかオーバーキルでしょ」
最初の威勢はどこへ消えたのか、今はただただ恐怖に怯える不審者君を早く楽にしてあげるべくとっととアタックに入る。とはいえこのままだと微妙に粘られそうだし……
「ミクトランでアタック……する時に【対抗】効果発動!俺のライフを1つ砕くっ、おわぁぁぁ!?」
「な、また……!?」
今回砕いたライフの合計はこれで実に18、そりゃあ思わず崩れ落ちそうになるくらいの疲労にもなる。高校生の頑丈ボディだから良かったがこれが社会人だったらと思うと……考えたくないな。
「勿論ただの自傷じゃねえ、俺がライフを砕いたことにより……お前は自身のユニットを選んで破壊しなきゃならない!」
「なんだと!?」
「さ、選びな……まああんたの場にはヴァルキュリアしかいねぇけど」
「ぐ……すまない、ヴァルキュリア……!」
意気揚々とブロックするつもりだったのだろうヴァルキュリアが突進してきたミクトランの腕に掴まれそのまま地面に激突、断末魔を上げることなく消滅してしまった。やっぱウツロはだいぶ紳士だったんだなぁ……
「さあこのアタックはどうする!」
「ライフ……ぐっ!?」
巨体の一撃はやはり重いのかライフを砕く巨大な爪の衝撃で不審者が大きく吹っ飛ぶ。あと2回これがあるんだが大丈夫だろうか?
「続けて3体のシワトルでアタック!」
「クソっ、全てライフだっ、があぁぁぁぁぁ!?」
お次は夫に巻き付いていた身体をくねらせて飛び出したシワトルが突進で不審者のライフを砕く。これで残りライフ2、あと2回殴れば終わるのだが……使えるマナも4溜まっている。そうなるとちょっと警戒する必要があるアーツがあって……
「どうせ持ってんだろ!2体目のミクトランでアタック!」
「これ以上は……4コストでキャスト、「終戦の鐘」っ!」
「やっぱり握ってたな!」
巨体の2撃目が迫る中不審者が【対抗】でキャストしたのは汎用防御札「終戦の鐘」。
終戦の鐘
【共鳴:橙1】(このカードを召喚する時、自分フィールドの対象カード1枚につきコストを1つ下げることができる)
【対抗】このバトルの終了後、このアタックステップを終了する。
キャストと同時に戦場に鐘の音が響き渡り、このアタックステップの終わりを告げる……
「悪いがその鐘はキャンセルだ!軽減4コス、キャスト「黒曜の返礼」!」
「なあっ!?」
黒曜の返礼
【共鳴:黒2】(このカードを召喚する時、自分フィールドの対象カード1枚につきコストを1つ下げることができる)
【対抗】自分のコスト6以上の「影竜」のアタック中に相手がアーツを使用した時使用できる。そのアーツの効果を無効にする。
……事はなく、鳴り渡る鐘をミクトランが爪で掴んでぶっ壊す。嫌な予感がしてさっきシワトルでマナを回復しといて助かった、変なワンチャンとか作られたら困るからな、ほんと。
「なんだかんだ序盤に引き込んでおいてよかったね」
「2積みだからな、運が良かった……さあどうする!」
「ライフしか、ないっ!」
そうしてミクトランは鐘をぶっ壊した勢いのまま不審者に一閃、5つ目のライフを砕く。
「さあこれでラスト……な、ハッタリじゃなかったろ?」
「貴様は……貴様は、何者だ!?お前のような実力者が何故無名で……」
「んー……今まで目立たないようにコソコソしてたから、かな。以上、やれ、ミクトラン」
せっかくなのでみっともない命乞いを聞くつもりだったがどうやらこいつは思ったよりバトラーだったらしい。強いって言われて少し照れるが……まあ勝負は勝負だ。
「ライフで……受ける……!」
「ま、それなりには強かったよあんた……今度は真っ当なバトルしようぜ」
最後は思いっきり勢いを付けた尻尾の一撃で、不審者のライフは消し飛んだ。
「んー、ダメだ完全に伸びてる。これじゃどれが盗んだカードなのかわからん」
「えぇ……やっぱやりすぎちゃったんじゃないのトラ?なにもミクトランで3回殴らなくても」
「ああいうのは圧が大事だと思ってさ……ん、これか?」
「おー露骨にポケットの中……ってヴァルキュリアじゃん。めっちゃ選り好みしてたなこいつ」
バトル終了後路地裏に戻った俺たちが最初にやったのは気絶して伸びてしまった不審者からパクったカードを取り返す事。
取ってすぐのバトルだったからデッキに混ざってはないだろうと思ったらビンゴ、なんと盗まれたのは奴のデッキの切り札ことヴァルキュリアだった。もしかして使用デッキの個人情報とか漏れてたりするのこの世界?そうだったら怖いな。
「とりあえずこれをこの人に返してあげて……でもこのままじゃまた再犯するよねぇ」
「カード泥棒の現行犯にしても証拠がねぇもんな……どうしたもんか」
「……あ、思いついた」
「なんだ琴音、言ってみろ」
カードは無事返し終えたのであとはこいつをどうするか。当然異空間でのバトルとか非現実的な要素は信じてもらえないし放っておけば確実にまたやらかす、じゃあどうすんだよって所で琴音がどうやら閃いたらしい。
大抵こういう時こいつは閃くのは碌でもない事だがそれは承知の上、一体どんな力技が……
「この不審者の
「……アリだな」
「でしょ?」
てっきりふん縛るとか言うと思ってたけど今日のこいつは随分と理性的だったらしい、大人しく不審者の道具を奪うだけに留めた。
ただ問題は
こいつはとにかく衝動に任せて生きているから気まぐれで休日を潰されたり気まぐれで休み時間を潰される可能性が大いにある、全く面倒な……
「あ、デッキ入ったままだ」
「まあそういう機能がある訳ではなさそうだしな、お前がこれ使った時も終わったらデッキ取り出してたろ」
「あー……これヴァルキュリア抜いちゃだめ?」
「俺らがカード泥棒になってどうする。それはやめとけ」
「冗談ですー」
冗談なんて軽口叩いているが魔本に収まったデッキを見ていたあの目はガチだった、毎度毎度危なっかしくてシャレにならん。一体誰がこんな風に育て……半分くらい俺だな、とんだ戦闘狂を作り上げてしまった。
「終わったんなら帰るぞ、親に怪しまれる」
「えーでもトラは気にならないの?こいつらの大元とかさ」
「めんどい、突き止めるにしたってお前が勝手に登録した大会の調整でそれどころじゃない。首突っ込むより回れ右して見ないことにする方が楽」
「トラらしいなぁ……まあいいや、帰ろっ」
こういう手合いは大体熱血漢の主人公が裏でコソコソどうにかしてくれるもんだ、日陰者の俺が手を出す領域じゃない。襲ってきたら自衛する、それくらいでいいだろ。
「そういや晩飯よってく?」
「なんでお前の所で俺が食う前提なんだよ、普通に自宅で食うわ」
「調整ついでにさ」
「やるにしても飯食ってからいく」
「じゃあ今度予定詰めちゃお」
「どっちのだよ」
こうして友人と他愛無い話をして帰って、学業の傍らカードゲームにうつつを抜かす。そういうのが俺の理想。
……まあこいつのせいでちょっと無理な気がしてきたけどもうしばらくはこの生活を維持させてくれ、本当に、頼むから。
「……ん?なんかメモ用紙入ってる」
「今すぐ燃やしてチリにしろ!」
……うん、多分ダメそうだなこれ!