「お疲れトラ、感想は?」
「視野は広がってるが自分のデッキを把握しきれていない。次の課題は攻守の切り替えだな」
「相変わらず手厳しいぜ景虎さんは……」
危なげなく燈真を叩きのめし一息。プロキシで何度も調整してきたがやっぱり歌唱台とラクシュミのカードパワーが高すぎる、特に歌唱台これ制限にぶち込まれるんじゃねえか?
「燈真に展開させる隙を全く与えてなかった……」
「……琴音さんが貴方の方が強いと言った理由、よく分かりました」
「そこまで?」
まあプレイングで追い込んだ面もあるが今回の勝因は歌唱台を序盤に2枚貼れたことの方が大きい、結構運だぞこれ。
「琴音、お前から見て燈真はどうだった?」
「んー、大体トラと同じ。前みたいな無鉄砲は鳴りを顰めたけど代わりに攻めていい局面で守りに徹しちゃってた所もある」
「だよな」
「えっ、何処で!?」
「ラクシュミを出す前のターンだ。あそこで両方殴ってきていたらおれのライフはあの時点で3、ドゥルガーが走り切る前にバルカンとマグラドで仕留めきれてた……かもしれない」
実際はそうならないように【対抗】とアシュヴィンのサーチ見せて誘導した訳だけど……まあ此処らへんは結果論だな。
「勝てたじゃないのかよ!?」
「そうならないようにプレイングしてたからな。今回俺は終始お前に【強襲】を使わせない事を徹底してただろ?」
「確かにそうだけど……」
「仮にお前が俺のライフを0にする可能性があったなら俺はドゥルガーを攻めではなく守りに回してた。あいつが立ってるだけでお前はバルカンかマグラドのどっちかを消費しないとライフを通せなくなるからな」
「地味にドゥルガーのパワー上昇は相手ターンにも適用されるからバルカンが【覚醒】まで行っても手札の質次第で勝てるしね」
「どっちにしろ無理だったってことじゃねえかよぉ……」
琴音と二人で感想戦してたら燈真が頭を抱えて悶え始めてしまった。まあ無理もない、意気揚々と挑んできたらあっさりと返り討ちにされたんだし。
「まーそうだな……それでも今までの無鉄砲な戦い方からは数段良くなってる。今回は次の課題が見えたってだけだ」
「でもその課題直したって景虎さんに勝てんのかよぉ……」
「さあな、俺はバトルする以上は負けたくない頑固者だし」
「手加減という言葉を知らないんだよねぇ」
そりゃまあ他人に勧めるのはいいとしてさ?基本的なプレイング教えるまではいいけど実戦で接待なんてしようもんならその子のためにならないしさ?
だったら全力で叩きのめしてこうやって感想戦で改善点を洗い出すのがいいと思うのよ、少なくとも俺は。
「トラはどっちかと言えば自分の勝ち方を押し通す、じゃなくて相手の戦術を徹底的に潰してから自分の必勝パターンで捻じ伏せる戦い方だからねぇ。今の燈真君には劇薬」
「隙あらば小型を除去し大型ユニットの着地を遅らせ自分は着実に準備を整える。そして整い次第一気に仕掛けて反撃する暇を与えず仕留め切る……理想の戦い方です、それが難しいということを加味しても」
「いっつも勢いよくアタックしてる燈真がここまで守りに徹してるの初めて見た」
「まあ初手が良かったってのもあるけどな。どれだけプレイングが良かろうがデッキの機嫌が悪けりゃ何もできずに負けもザラ、カードゲームってのはそういう世界さ」
実際琴音と調整してるときは10回に1回くらい事故ってたし……というのは言わずにマナを戻してデッキを片付ける。
スリーブをエンボスにしてるとこういう時手触りが良くて楽しい、このザラザラ感はマットスリーブでは味わえん至福……まああっちはあっちで好きだけどさ。
「お前も今のデッキをどうすればいいかは見えてきたんじゃないか?」
「つってもよぉ……前はガルドとかヴァルケンとかの中型が多かったのは景虎さんも知ってるだろ?小型を増やして足場を整えようとしたらあの通り」
「それは悪くない、だったら次の課題はその小型をどう維持していくかだな。それこそ最後の方に出した「吹き上がる大火山」とかな」
「あー……やっぱ3枚積むべき?」
「個人的には、と言いたいがデッキの中身による、ちょっと見せろ」
「おう」
ケースに「歌聖」デッキを戻してから燈真のデッキを借りスッキリしたテーブルに再度広げる。確かにマグラドやマグヌスといった小型は増えてるしユニットの配分は改善されてる。
此処に関しては特に言うことなし。バルカンを3欲しいところだがこいつの懐事情じゃ厳しいのは分かってるしそれは言わないでおく、せっかく託したカードなんだから大切に使ってくれよ。
「んー……なあ燈真、これ「終戦の鐘」いるか?」
「えっ?」
となれば改善すべきはアーツとテリトリー。赤は速攻で相手を仕留めに行く色であることを念頭に置いて考える。
「確かに「終戦の鐘」は強い。が、このデッキに合っているかと言われればかなり微妙だ。これを撃ってる時点でお前はボードゲームに負けている、さっきみたいにな」
「でもそれじゃ防御が……」
「赤は【強襲】で相手の頭数を減らして突っ込むデッキだ。要求されるのは防御札より攻撃と防御にそれぞれ割くユニットのバランス、お前がこのデッキを使われると仮定したら何が嫌だ?」
「えーっと……【強襲】でユニットを減らしたくないから生かしたい奴で攻撃して……」
「それだ、つまりお前がやるべきは防御札で凌ぐんじゃなくて破壊されるのを嫌って攻撃してきたユニットを仕留める事。例えば「吹き上がる大火山」はお互いのアタックステップに赤のユニットを強化してくれるし、小型なら「爆砕火炎」で仕留められる」
結局頭数が揃わなければライフを0にできないのだから揃えさせなきゃいい、ボードアドバンテージの定石だ。
【強襲】は温存したいユニットを狩りにいけるしちらつかせるだけで殴りに来てくれる強効果、殴る時の補助輪は正直これだけで充分だし返しで殴ってくる相手に勝つ方法を考える方が早い。
「んじゃあ今回みたいにいきなり【覚醒】までいったユニットがアタックした時はどーすんだよ」
「それはリソース稼がれまくってるからほぼ手遅れ……ってのは置いておくとしよう。お前が大型を立てていないのなら素直に一回通して返しで仕留めにいく、立てているのならそいつのパワーで受けに行く。こういう時のための「吹き上がる大火山」だ、2000アップは地味だが堅実にサポートしてくれるし複数枚貼れば重複する」
「さっきみたいな【対抗】しまくって処理された時は?」
「諦めろ、そうされた時点で盤面もリソースもなにもかも負けてる」
「身も蓋もない!」
んなこと言われたってそんな状況で奇跡のドロー!なんてしても手札の数とマナの残数という限界がある。たった1枚のカードで無から逆転できるほど優しいゲームじゃないんだグリモアは。
「だから俺はそういう状況に陥らないようにしろって言ってんの。そのために今こうやって調整してんだろうが……あれ、お前「荒れ狂う火砕流」は?」
「あー……終戦の鐘あるしいらないかなって」
「馬鹿野郎あれがあるとないとで盤面処理能力がダンチなんだ入れろ」
合計7000までユニットを焼くか4000以下のユニットとテリトリー1個焼ける神のカードだぞ、なんで抜いたんだこいつ。
荒れ狂う火砕流
【共鳴:赤3】(このフィールドを配置する時、自分フィールドの対象カード1枚につきコストを1つ下げることができる)
【対抗】(このカードはお互いのアタックステップにも使用できる。)合計パワー7000まで相手のユニットを選択し破壊する。またはパワー4000以下の相手ユニット1体と相手のテリトリー1つを破壊する。
「とりあえず終戦の鐘と荒れ狂う火砕流を差し替え、大型を止めたいって話なら大火山も増やしてパワー増加のアーツも入れる」
「急に大改造がはじまった……」
「トラは妥協を知らないからねぇ……」
「誉め言葉と受け取っておくぞ」
中途半端に妥協して勝てません負けましたって言われるのは癪だからな、やるからには全てを注ぎ込む。それで負けたってなったらまた改良とプレイングの見直し、カードゲームはそれの繰り返しだ。
「まあこんなもんだろ、急に視野を広げてあれこれ入れ過ぎだ」
「すっげぇスッキリした……てかカードの選択速くないか?」
「俺は仮想対面になりうるデッキは可能な限り組んでるからな、カードの知識もそれだけある。さっき「荒れ狂う火砕流」がねぇってすぐ言ったのもそういうこと」
「なる、ほど?」
「要するに自分のカードたちだけじゃなくて相手のカードもよく見ろって言ってるんですよ景虎さんは」
まあ大体優吾君の言う通りだ、カードゲームで大事なのは何よりも情報。
カードテキストを制する者が全てを制する、何が起こるかを理解していれば見えにくい勝ち目も見つかる。だから実際に使って確かめる……ま、これはカードを用意してくれる琴音頼りなところもあるけど。
立派なバトルジャンキーになってしまったとはいえ最近はほんっとこいつに頭が上がらない、「私も一緒に強くなれるから」って高額カードをアクセサリー買うが如く仕入れてくれるの正直申し訳ないとすら思ってる。
「そのデッキは現状俺が考える「溶厳」デッキとしての最適解だ、まずはそれを使ってしばらく戦ってみろ。戦って戦って……負けたら何が敗因になったかを振り返る、それを改善して次の勝負に臨む。んでカードの使い方じゃない負け方をしたらデッキを弄ってみる。その繰り返しで強くなれ」
「話がなげぇって……まあでも、ありがとう。これでやってみるよ」
「その意気だ」
「やっぱりベビーシッターじゃん」
「だ、か、ら、ち、げ、ぇ!」
パトロンとして色々提供してくれている身からするとこの弄りも受け入れ……るべきではないな、それとこれとは別問題だ。俺は決してベビーシッターではない、断じて違う。
どっちかというと新規を沼に沈めるために頭を漬け込んでいるというかなんというか……ともかく、面倒は確かに見ているが甘やかしてる訳じゃないぞ、ほんと。
「ひとまずは実里ちゃんや優吾君とやってみろ。俺は大会の調整があるからな」
「あそっか、もうすぐでしたね大会」
「そーそー、新弾発売から数日でデッキ組み直してペア組めって中々に凄いよねぇ今回の大会」
「全くだ。プロキシがないと調整もままならん」
「まあ正直そこまで調整しなくてもトラと私なら全国行けるんじゃないかな?」
「自惚れんな足元掬われんぞ」
「いいじゃん事実だし」
そして琴音も琴音で何でそこまで俺を信頼する?確かにお前にグリモア教えたのは俺だし対面する度ボコしてきたのも俺、果ては毎日の調整相手まで俺だがそこまで強さが飛び抜けてる自負はねぇぞ。
平均よりは上かもしれんがプロとか人生賭けてる奴には及ばんだろ、幾らここがホビーアニメっぽい世界とはいえ。
「で、琴音。逆に俺のプレイ見てどうだった?主に新規の枚数」
「これ私も歌唱台3入れたら凄いことにならない?この大会ペアで合計3枚までとか規制ないし」
「なるだろうな、アーツ撃つ度6マナ追加だ。流石に机上論だが」
「……私のデッキももうちょっと弄るか」
「弄るったってお前は「光魔」だろ?これ以上何弄るんだっての」
「んー、ドゥルガー入れてみるとか」
「ノルンとフレイヤが居るんだから過剰だ。ドゥルガーはこっちで3あるんだし打点より制圧を優先してくれ」
「はいはい、まあでも歌唱台は流石に入れといた方がいいよね?」
「無理のない範囲でな」
まあ腕前は言い訳にならん、出るからには勝ちたいしそのための努力は惜しまない。
それは琴音も同じこと、俺たちは常に「勝つため」の準備をしている。楽しめればそれでいい、なんてのはノーサンキューだ。
とはいえ俺は前世からの性分なんだが琴音が此処まで勝利に飢えているのかは謎だ、いい所のお嬢様だし親譲りの独占欲でもあるんだろうか。
「……ところでさ」
「なんだ」
「タッグ戦の調整相手ってどうすりゃいいんだろうね」
「……タッグ版1人回しするか?」
「そうなるよねえ……」
何はともあれ俺にとってはこれが初めての公式大会出場、という事になる。目指すはでっかく優勝、ひっそり生きていたいという夢には反するが琴音の顔に泥を塗る羽目にはしたくない。どうにかこうにか二人三脚でやっていこう。
「……いっそ燈真君達に頼む?」
「いや無理だろ」
……お前俺以外の調整仲間マジでいないの?