「……あいつおせぇな」
新弾発売後の最終調整を終えいよいよタッグ大会地区予選当日である。
俺にしては珍しく早起きし準備を整えていざ行かんと集合予定時刻の少し前に駅に着いたのだが……肝心の琴音の奴が来ない。
まだ電車には間に合うが滑り込みセーフなんてされたら溜まったもんじゃない、いやまあそんな事はないと思うしあいつが大会すっぽかすなんて微塵も思ってないがうーん、うーん……
「お待たせー!」
「おせぇぞ、随分と珍しい事も……待て、その手に持ってる
「行きがけにカード泥棒してた奴とっちめて押収した」
「遅れた理由はそれか……」
なんて思ってたら
「……盗んでないよな?」
「失礼な、全部持ってるカードだったしいらないって」
「ならいいが……で、俺たちの
「誰かに一冊あげれちゃうね」
「あげるな馬鹿もん」
こいつは真のバトルを何か勘違いしているのではなかろうか?ライフへのダメージが実際に肉体ダメージになるバトルとか普通は他人に勧めないぞ間違っても。
「まあ間に合ったしこれ以上とやかくは言わん……勝って帰るぞ」
「そうだね、多分トラと私なら余裕じゃない?」
「自惚れんなっつってんだ、実績が伴ってるお前はともかく俺を過信しすぎ」
「えー」
お前は一体俺のことを何だと思ってるんだ……こちとら悲しきグリモアマシーンでもなきゃカードゲームに命を懸けてる奴でもねぇんだぞ?予選と本戦を走り切る体力はあっても勝てるかは別問題だっての。
「まあでもトーナメントは出れるって。本戦からは観戦者も来るから負けられないね?」
「そうだな、あいつらが来るなら変な負け方はできん。居なくてもできないが」
「その意気やよーし……優勝獲りに行くよ」
「おう」
決意表明代わりに拳を軽く合わせ2人並んで駅へと向かう。こっから勝っていった場合全国大会へ続くが……俺の実力が何処まで通用するかの指標にもなる。
巻き込まれとはいえいい機会だ、自分の程度を測らせてもらおう。
「流石に人多いねぇ、この規模の大会は初めてだよ」
「だろうな……というか多くね?」
「参加者9600人居るから当然」
「……まー、タッグ大会なんだしそれくらいの人数にはなるか」
予選会場に着いて早々あまりにもな人の多さに圧倒されかけるが予選とはいえ全国規模の大会なんだから当然であった。一番数が多かった大会の経験は4800人とかだったしそれの実に倍だ。
タッグであることを考えれば参加組数と予選スイスドローの試合数は変わらんだろうけど……ちょっと尻込みするな、これ。
「参加賞のプロモもう開けた?」
「噴き上がる大火山だった、そっちは?」
「朝露満ちる樹海、6種って書いてたし各色のテリトリー収録なんじゃない?」
「だとしたら他の候補は絞れるが全部持ってるしいいな、ルール確認と最終調整するぞ」
「はいはーい」
プロモを転売する趣味もないのでとっとと開封して席に座り色々と再確認。タッグ戦のルールが公式にあるって中々珍しいなグリモア。
「まず先行側の確認だ、これはお前が行くでよかったな?」
「トラから動くと聖歌台の効果にラグができるからね。5ターン目に起動するのは遅すぎるし私が貼れたらトラが歌聖だして動くの方がいいでしょ」
「そりゃあそうだ」
タッグはライフ、フィールド、マナ、トラッシュを共有しターンプレイヤーが毎ターン入れ替わる。
つまり琴音が最初のターンプレイヤーになる今回は仮に先行だとすると琴音→相手A→俺→相手Bとなる。ターンプレイヤー交代は自手番の始めなのでせっかく整えた盤面が自分で動く前に壊滅……なんて事もある訳だ、そうならないようデッキは慎重に合わせよう。
「んでもって私が盤面荒らして」
「俺がドゥルガー走らせて仕留める」
「完璧」
「問題はドゥルガー3点にしても2パンで削りきれない事だがな」
そしてタッグ戦はライフが9もある、両方活躍しないうちに終わるなんて事がないように……って配慮のつもりなんだろうがこれのせいでキル計算がクッソ面倒くさい。
いつもならドゥルガー2回走れば相手は死ぬってのにこれじゃ3回も殴らなきゃいけない、打点が少ないデッキはもっとロングゲームだ。いつも以上に先の盤面を見る必要がある。
「そういうわけで盤面荒らしは任せた」
「任された、使ってみたかったんだよねー福唱」
「歌聖を俺に使わせた理由はそれか……」
「それもあるけど可愛いじゃん歌聖。動くの楽しみ」
「ま、そうだな」
当然の如くトーナメントまで行くことを確信してる琴音を適当にあしらい本番前にデッキと睨めっこ、あの後回しに回した結果「こいつ居ればいるほど強い」という結論に至りラクシュミは3投になった。
シクをもう一枚確保するのは(在庫的な意味で)苦労したらしい、無理をさせておいてなんだがこいつ金銭面はほぼ無敵なんだよな……カードゲームが世界的人気になってるせいか親がスポーツ用品買うノリで金出してくれるって凄いよほんと。
まあそれはそれ、使えるもんはありがたく使わせてもらおう……にしても。
「琴音」
「なにトラ」
「……周りの視線が俺たちに集中してないか?」
「あはは、そりゃあねえ」
ある程度想定はしていたことだが……
「暴君だ……」
「あの大会荒らしの?」
「あれとタッグを組める相手が……?」
「流石に暴君でもタッグなら……」
「言われてんぞ「魔導暴君」」
「だからそれ嫌いだって言ってるでしょ。トラも変な異名で呼ばれたい?」
「そりゃ勘弁」
「分かってるならやめてよね、どっちかといえばトラの方が暴君なんだし」
「んだとコラ」
どうにも「魔導暴君」……琴音は結構有名になってしまっているらしい。いつも使ってるカドショがひっそりとした所だから俺が噂になってなかっただけか……このまま本拠地ってバレなきゃいいが。
「そういや琴音の友達とかは出てんのか?」
「そこそこ、まあトーナメントまで上がってくるような子は稀だと思うけど」
「まあ当たったら叩きのめすだけだ。
「だね」
ちょっとくらい手加減してあげよう、なんて言わないあたり実にこいつらしい。ここまで育ててしまった責任としてしっかり勝っていかねばいかんな……
「そろそろ開会式始まるよ」
「そんな時間か……どうなることやら」
そういうわけで満を持しての大会、もとい予選スイスドローの開始だ。此処は危なげなく勝たなきゃいけない……頑張ろう。
「「戦神聖ドゥルガー」でアタック。このアタックステップ中に使用したアーツは合計5枚だからパワーは30000、追加で2点のライフを頂く」
「何も、できなかった……ライフ……!」
1戦目、危なげなくドゥルガー走らせて勝利。
「「光雷魔導士ノルン」でアタック!【迅雷】でキャスト「運命の選択」、デッキの上から8枚見て任意の枚数デッキの下へ。残りを好きな順番で山札の上に、コスト5の運命の選択をキャストしたのでノルンはターン終了時まで【覚醒】状態に。これはライフで受けるしかないよね?」
「ライフ……だがこれでアタックは……」
「ライフを減らしたのでノルンの効果発動!トラッシュの「運命の選択」を回収しその後デッキから5枚オープン、その中の黄のアーツ……「召雷の波動」「雷律の封詔」「光翼の加護」「光天の雷」を手札に。そしてこの効果で5枚以上手札に加えたので……私の黄のユニットは全て回復する!」
「な……!?」
「新弾の暴力をくらえー!ドゥルガーでアタック!」
2戦目、琴音が新カードで大暴れ。明らかにノルンと合わせること前提のアーツだったがマジでえげつねぇなおい。
「「絶唱聖ラクシュミ」でアタック。「神聖なる歌唱台」3枚の効果で3軽減ノーコストでキャスト「光天の雷」、アイギオンのパワーを-2000。「福唱」と3体のラクシュミの効果がそれぞれ起動し合計パワー-10000。追加で1コスト、キャスト「光翼の翼」。ドゥルガーを対象にこのターンコスト7以下からブロックされなくする。追加でラクシュミ3体の効果が起動しアイギオンを-2000、破壊だ。残りの1000はアダマントに回す」
「アイギオンがっ!?なら「金剛城機アダマント」でブロック、効果によりバトルでは破壊されない……!」
「バトル終了時ラクシュミの効果で「光天の雷」を回収、そのまま2枚目のラクシュミでアタック、キャスト「光天の雷」、「福唱」込みでアダマントを合計-10000、破壊する」
「これまでか……!」
3戦目、散々対策した「砦機」対面。アイギオンを早期着地されて少し焦ったがラクシュミの暴力で処理してクリア。ラクシュミもラクシュミで単体性能イカれてる気がすんなぁ……
「「雷炎術師フレイヤ」でアタック。【迅雷】発揮、キャスト「光翼の加護」、フレイヤはこのターン6コスト以下のユニットにブロックされない。更に【増幅】時効果で自身のアタック時に使用したアーツと同じコストの相手ユニットを全て手札に戻す、これでそっちのブロッカーは全滅だな」
「くそっ……ライフだ!」
「ドゥルガーでアタック、【迅雷】でキャスト「召雷の波動」。2枚ドローし「福唱」で再度使用しもう2枚ドロー。これでアーツ使用が5回、ドゥルガーは追加で2点のライフを砕く、終戦の鐘は間に合わん」
「これが暴君の相方……!」
「誰が暴君だ!」
4戦目、フレイヤの指定コストバウンスがぶっ刺さってそのままキルまで。こいつの追加効果2体処理できたら上振れくらいの感覚なんだけどたまにこうやってガンメタになる時があるんだよな、不思議。
「「暁光聖ウシャス」を召喚、効果でトラッシュの運命の選択を回収しそのままキャスト……ふんふん、これでいいか。ドゥルガーでアタックし【迅雷】、「召雷の波動」、「福唱」も使い4枚ドロー。何もなければこのまま「神聖なる歌唱台」4枚で4コスト下がった【対抗】アーツを全て撃って3点持っていくが」
「手札事故だバカヤローっ!」
「稀によくある、涙拭けよ」
5戦目、相手が両方手札事故という災難に見舞われた一方此方は回りに回って歌唱台置きまくってリソース差で圧勝。稀によくあるといえばそれまでだが此処まで進んでのこれは同情する、本当に。
「3体目の「戦神聖ドゥルガー」召喚、そのまま【覚醒】まで……さっき回収した「光天の雷」2枚と「光翼の加護」が手札にあるが」
「うーん、無理だなぁ……投了です。琴音ちゃんも強いけど貴方も相当強いんだね」
「だって私の師匠だし」
「自慢じゃないがな」
6戦目でなんと琴音のクラスメイトチームと遭遇、此処まで勝ち残ってるとはかなりの実力者。とはいえこっちほどガチガチにデッキを固めてはないので快勝……多分この子達本気で勝ちに来たら相当強いな。
「「光雷魔導士ノルン」でアタック、【迅雷】でキャスト「運命の選択」、8枚確認して任意のカードをデッキ下に。3体のラクシュミの効果で「蒼海皇リヴァルディア」のパワーを-3000、何もなければ追加でキャスト「光翼の翼」。ノルンは7以下からブロックされない、ラクシュミ2体の効果で更に-3000、何もなさそうなので追加でキャスト「光天の雷」、リヴァルディアのパワーをラクシュミの効果込みで-5000して破壊」
「ライフ……!」
「ライフを削ったのでノルンの効果、運命の選択を回収してデッキの上から5枚オープン。「召雷の波動」「光天の雷」「響き渡る聖唱」「輝ける終幕」を手札に、5枚回収したので俺の黄のユニットを全て回復」
「なんだよその自作自演!?」
「そういうもんだから諦めてくれ。回復したドゥルガーでアタック。【迅雷】でキャスト「召雷の波動」……これでこのターン黄のアーツを10回使ったのでドゥルガーのパワーは45000、一度の攻撃でライフを4点砕く」
「くそっライフ……此処まで来たってのに……!」
「6-1ならまだオポ上がりの可能性もあるし諦めんな」
「ま、あんたら強いもんな……流石は暴君の相方だ」
「だから暴君言うなっ!!!!」
7戦目、不利対面の「嵐竜」と此処で遭遇。エースの「蒼海皇リヴァルディアを着地された時は死を覚悟したが琴音のカバーもありノルンの無法効果で勝ちを毟り取った。
今までおまけ程度だったノルンの全回復効果が此処まで実用的になるとは全く思わなんだ、露骨なテコ入れな気もするが使えるもんは使わせてもらおう。
「1体目のドゥルガーでアタックし【迅雷】、「光翼の加護」、【福唱】込みで2体のドゥルガーは7以下からブロックされない。ラクシュミ2体の効果でそっちのドゥルガーを-2000……さあどうする?」
「勿論ドゥルガーでブロック!」
「【対抗】でキャスト「雷律の封詔」、そっちのドゥルガーの効果を無効に。ラクシュミの効果はウシャスに回す」
「此処まで温存して!?……手札に光天の雷はあるけどこれじゃ撃ったところで、か。【対抗】なし、破壊されます」
「2体目のドゥルガーでアタック、【迅雷】でキャスト「召雷の波動」、「福唱」込みで4枚ドロー、ラクシュミの効果でウシャスを-4000で破壊。そして5枚のアーツを使用したのでパワーが30000に」
「ライフで……対戦ありがとうございました。今まで戦った「歌聖」使いの中で1番強かったです」
「そこまでか?」
「こーら自分を卑下しない、それは対戦相手への侮辱。私みたいに開き直った方がいいよ?」
「お前は開き直りすぎだ」
予選ラスト8戦目でまさかの「歌聖」ミラー勃発、違いは両方「歌聖」か「歌聖」と「光魔」の混合かってとこ。此処まで勝ち上がって来ただけあってかなりの練度だが相手のドゥルガー潰すために温存してた封詔が刺さって勝利。何はともあれこれで全勝、トナメ上がり確定だ。
「……お二人ってとんでもない富豪だったりします?ドゥルガー3枚にラクシュミ3枚、しかもシークレット……」
「まあツテはそこそこ……ラクシュミはやっぱ今後の事を考えると3欲しかったんで」
「いいなぁ……私達どっちも1枚しか手に入らなくて。ずるいって思っちゃったけどあの強さなら納得しちゃいます、やっぱカードは行くべき人の所に行くんだって」
「ちょっと違う気もするが……」
「トーナメント頑張ってください、私達も一応オポ次第では上がれますけど多分ダメですから」
「えっ私達でオポダメなら此処で負けた人達全員ダメだよ!?」
「そりゃオポは俺たちだけじゃねえからな」
全8回戦を終えて全勝のタッグは俺たちを含めて19人。予選突破が32組だから
特定一組だけじゃなく今まで戦ってきた相手を全員参照するからマジの運頼みだ、彼女達の相手が極力勝ち残っている事を祈ろう。
「ま、何はともあれトナメ進出だ。こっからも勝つぞ」
「当然!目指すは優勝、後全国大会の権利!」
「ベスト8に入れば取れるんだったか」
「そうそう、まあトラとなら優勝できる、絶対にね!」
「じゃ、お嬢様の無茶振りに応えるとしますか」
「うん、その調子でお願いね!」
此処までは勝てた、此処からも勝つ。あんま悪目立ちはしたくなかったがこいつの相方な時点でそれは無理な話だしいっそ開き直って容赦なく相手を追い詰めにでもかかるか。
「んじゃあいつら来るらしいし休憩すっか、昼何食う?」
「売店のピザ、気になるでしょあれ」
「売り切れてないといいがな」
「……あのー、もしかして2人ってそういう関係だったりします?」
「いや?」
「ただの腐れ縁かな」
……こんな歳でカードゲームにのめり込んでしまったこいつに春が来るのか、それは大きな疑問だ。