「おっいたいた。景虎さーん!」
「一般入場開始してから真っ先に来やがったなお前。暇人か?」
「今日は学校休みですしイベントブースもありますから……どうでした?」
「当然全勝のトーナメント確定!いやぁカードパワーの暴力っていいよねぇ」
「お前が誇るな。まあ確かにラクシュミと歌唱台の暴れっぷりを振り返ると樹界じゃなくて歌聖で正解だったとは思うが……あれ優吾君は?」
「家の用事で来れないってさ。せっかくライブじゃなくて生で見れるってのに」
トーナメントが始まるまでの休憩時間に2人でピザ食いながら談笑してたら当然の如く燈真と実里が襲来。デートにしては物騒すぎるぞ少年少女よ、カードゲーマーの性というなら止めはしないが。
「そういや決勝トーナメントは配信卓があるんだったな……」
「なんなら決勝戦は例の3Dフィールド初お披露目らしいよ?こりゃあ勝たなきゃね、トラもこれで全国デビューだ」
「だから俺は極力目立ちたくねぇっての……にしてもこんだけ気合い入ってるのに優勝賞品ボックス4箱はしょぼくないか?」
「ねー、何かあったりして、あ、そっち2切れちょうだい」
「あってたまるか。おう、そっちも寄越せよ」
ピザを取っ替え引っ替え食べながら規模にしてはしょぼすぎる優勝賞品に裏がないかと2人で思案。この規模なら特別なカードとかが景品でもおかしくないのにボックスのみ?否定したいが何かありますと言ってるようなもんだクソが。
「3Dフィールド……ユニットが駆け巡る戦場、か……」
「偶然なんだろうけど……」
「なんだ、お前こういうの飛んで喜ぶタイプじゃなかったか?」
「いやぁその……」
そして決勝のフィールドを話題にしたら燈真と実里が露骨に何か言い淀んだ顔になった。多分「真のバトル」を思い返してるんだろう、分かりやすい奴らめ。
あれが大会でもって顔じゃなくて若干苦い顔な辺りまだいい思い出がないんだろう、まあ当然か。あれができると聞いて喜ぶ方が少数だ、
「ま、そう言うわけで世界初を味わってくるよ2人とも。そこでの勝利もね」
「さらっと優勝前提にする所が本当にお前らしいな……ま、負ける気で行けば勝てる試合も勝てないが」
「負けに不思議の負けなし、勝ちに不思議の勝ちあり、でしたっけ?」
「そうだな、弱気になれば普段間違えない所でもミスして窮地に陥る事もあれば逆に相手が弱気になった所を突いて勝ってしまえることもある。精神を平常に保つのが勝利への第一歩、ってな」
バトルにおいて最大の敵は相手ではなく事故と焦り。盤面を見極める力が失われれば一気に敗北が近づく……あ、手札事故はどうしようもない時本当にどうにもならないので割り切り。あればっかりは運だ。
「本戦頑張ってください2人とも……後さっきから視線が集まってる気がするんですけど……」
「あー……うん」
「景虎さん何かしたのか?」
「琴音の日頃の行いだ」
「言い方」
どうも「暴君」の名は俺が想定してた以上に有名らしい。開会式の時も予選中も明らかに俺達を見てる奴らの多いこと多いこと、客寄せパンダじゃねえんだぞと何回思ったことか。
「こいつは唯我独尊を地で行く性格してるからな、目立つし噂になりやすい。ついでに言えば敵も作りやすい」
「一言余計だっての」
「だったらこの状況はどう説明する気だ?」
「いやぁははは……」
「お茶を濁すな馬鹿もん」
今もひそひそ「暴君が予選全勝」だの「あれが相方?」だのめちゃくちゃ言われてる。こんな世界なんだからまともに話しかけてくる奴が少しでも居るかと思ったが……望み薄らしい、悲しい。
「よしごちそうさん……今更調整はいらないよねトラ」
「ああ、後は勝つだけだ。ボックス貰ってさっさと帰るぞ」
「頑張ってください2人とも、応援してます!」
「まあ2人なら俺らの応援なくても勝ってそうだけど」
「気持ちは受け取っておく……あれ琴音、ゴミ箱どこだっけ」
「あっち」
「オッケー、捨てに行ってくるわ」
ちょっと2人の相手を琴音に押し付けゴミ捨てに。敗退勢がイベントブースに大移動してるっぽいので空いてきたのがありがたい、開会式は人混み凄かったし決勝前にそのストレスがないってだけでだいぶ違う。
こういうのは運営で結構変わるけど今回は公式大会ということもありかなり手際の良い業者みたいだ。さてゴミ箱にシュートし終えた事だし戻……
「あの……」
「ん?」
……ろうとしたタイミングで誰かに声をかけられた。わざわざ俺に?誰が?
「どちら様?」
「山吹琴音さんのタッグの方、ですよね」
「先にこっちの質問答えて欲しいんだが」
声の方向に振り向けばそこに居たのは如何にもな橙色の髪したミステリアスな少年、しかもハスキーボイス。燈真が会ったっていうすっげぇ強い奴もしかしてこの子か?
「この大会、どう思いますか」
「だから質問に……ったく、規模に対して景品がショボすぎる。それだけだ」
「そう思いますよね、初めてのタッグトーナメントだというのにあまりにもささやかだ」
「で、それが?」
「……怪しいとは思わないのですか?」
人の話を聞かないタイプと見た。ホビーアニメのライバルはミステリアスタイプが多いがもしかして本当に燈真の奴主人公ポジなのか?ったく変なのに目付けられやがってよぉ。
「まあきな臭いにも程があるな、何かあるとしか思えん」
「だったら……」
「
「はい?」
「景品がしょぼかろうが豪華だろうが裏があろうがなかろうが此処は大会、勝負の場だ。だから勝って帰る、それだけ」
「……意外と単純なんですね、貴方」
「単純で悪かったな」
どんな陰謀が渦巻いてようが八百長を要求されようが知ったことではない。俺は勝負に勝つために来たのだからそのために全力を尽くすだけ、無論琴音も同様だ。
「で、話は以上か?」
「……ええ」
「お前が何の目的で俺に接触したかは知らんが答えはあれで全部、参加者じゃないなら大人しく観戦してな」
「そうさせてもらいます。それと、最初の質問に答えましょう」
「今更すぎんだろ……」
一方的に話を捲し立てるタイプかと思ったら人の話をそこそこ聞いてるってのがタチ悪い。自分の話したいことだけ先に話すと嫌われるぞ君。
「貴方が此処で一番強いから」
「……はあ」
「立ち振る舞い、デッキの扱い方、タッグとの息の合わせ方。どれを取っても無駄がないお手本のようなプレイング、何故貴方ほどのバトラーが今まで埋もれていたのです?」
「目立ちたくなかったんだよ……というかお前どこで見てた」
「参加者として。諸事情で6戦目、7戦目にわざと負けましたが」
「とんでもねえ八百長もあったもんだ……」
というかどうやって俺のプレイング見たんだこいつ、試合中は観戦禁止だし……もしかしてすげぇ非合法な手でも使われた?あり得るな、真のバトルなんてある世界だす。
「ともかくお気を付けて。貴方とその相方をわざわざ放っておく奴らも居ないでしょうから」
「言われなくとも。俺はともかくあいつは財閥のご令嬢だからな」
カードゲームで知り合った縁とはいえとんでもないワイルドカードを引き当ててしまった気もするが今世での大事な友達だ、何かあったら自分でどうにかする胆力と実力はあるとはいえある程度こっちでも面倒見てやらないと。
「では、また会う時まで」
「確定事項かよ……まあ、いいか」
結局何がしたかったのかよく分からないがミステリアスライバル君はそのままどっかに行ってしまった。戻りが遅いこと言われそうだしそれとなく燈真に知り合い?って声かけてみるか。
『第一回グリモアーツタッグトーナメント関東エリア予選、いよいよ決勝トーナメントの開幕です!予選を勝ち抜いた32ペア、合計64人がエリア代表、そして優勝の座を争います!』
「なんかあの言い方だと優勝がおまけみたいな感覚でちょっとやだね」
「どういう感性だ……ま、トーナメント上がったからってやる事は変わらん。糖分は補給したか?」
「もちのろん、大会で要求されるのは何よりも思考力だからね」
「ならよし……獲りに行くぞ、優勝」
「うん、行くよ!」
昼休憩も終わりいよいよ始まる決勝トーナメント、どうにかこうにか決勝まで配信卓に映らない事をデッキにお祈り。
流石に勝ち上がり組が配信見るほど無粋ではないと思ってるが手の内が番外戦術でバレるのはあまり好かん、試合でバレるなら何の文句もないんだが。
「お、燈真君たちみっけ。手振っとく?」
「振っとくか……って、あ」
「どした?」
「ほら、例のあいつ」
「へー……澄ました顔してるね」
観客席……いや椅子ないから観戦ゾーンだな。最前列で観戦してる燈真と実里を見つけたので軽く手を振ってアピール、そのまま視線を戻そうとしたらさっきのミステリアスライバル君も無表情で此方を見ていたので琴音と情報共有。
一体何が目的かは分からないがわざと負けた、とも言ってたしどんどんきな臭くなってきてるなぁこの大会……そういうのに足突っ込むのは俺たちの役割じゃねえだろ。
「ちょっと指差しとくか」
「それで気付くかなぁ……」
「気づいたわ」
「気付くんだ……」
そっちで話をしとけと燈真に彼がいる方向を教えたら秒で気付いた、こういう頭の回転は妙に速いんだし素質はやっぱあるよなあいつ。
とりあえず任せられる面倒事はあいつらに任せて俺らは大会に集中、裏事情はともかくとして俺らは琴音のネームバリューという避けられない要素に対処しなきゃいけない。
「暴君やっぱ予選全勝か……」
「相方も物凄い強いって話らしいぞ」
「何であれとタッグ組める奴が今まで無名で?」
「馴染みの女友達とかじゃねえの?」
案の定耳を澄ませば聞こえてくる噂の山……おいちょっとまて最後はなんだ最後は、俺黒ジャケットにジーパンなんだけどそれでも女性に見えんの!?
「色々言われちゃってるなぁ……」
「俺は男だ……」
「気にするのそこ?」
「気にするだろ暗に女性にしか見えないって言われてんだぞ」
「いいじゃん」
「よくない」
何が良いのかよく分からないしそもそも髪もそこまで伸ばしてないのに女扱いされるのが謎だし……ああっくそ、暴君呼びで琴音が暴れ出す前に俺が荒れるぞ。
「ほらトラ、組み合わせ発表されたよ」
「分かってる……よし配信卓じゃない」
「気にするのそこ?」
ひとまず組み合わせが決まったのでまずは対戦だ。平常心で行かねば勝てる試合も勝てない、落ち着け、落ち着け俺……
「てーい」
「んひゅあっ!?な、何すんだ馬鹿!」
「渋い顔してたから緊張解そうと思って。結構いい声出すじゃん」
「だとしてもジェルべったりの手で顔にダイレクトアタックはねぇだろお前……!」
……女扱いで意識が乱れてた所に消毒用ジェルを思いっきり塗りたくった琴音の手が顔に直撃。触感でめちゃくちゃ変な声出たし周りの目線向くし何考えてんだこいつ。
「落ち着いた?」
「酷いショック療法もあったもんだ……大丈夫、行ける」
「ならよし、行こう」
「お前なぁ……」
まあおかげで落ち着いたのは確かだ。再発するかもしれないとはいえ初っ端躓いてちゃダメだもんな、俺たちは勝つために此処に来たんだから。
「お、ようやく……って「暴君」!?」
「いや組み合わせ表で分かってたでしょ……よろしくね」
「あの暴君が相手……何処までやれるかな」
「折角なら勝つ気で来いよ、格上扱いされてると白ける」
間も無くトーナメント開始という事で着席。此処までくると大半の相手は琴音の事を周知している、確かこいつ普段使いも光魔だった筈だから手は読まれてると思った方がいい……俺がカバーしなきゃな。
「あ、タッグの人ですか?」
「そうだが……何か?」
こういう試合前の軽いトークも大会の味だ、お互いの雰囲気、もっと踏み込んでプレイングスタイルまである程度は察せるからな。始まるまでどんな話題で時間潰そうか……
「男なんですね。てっきり見た目から女の人だと」
「……」
「あっ」
『それでは決勝トーナメント第一回戦、開始!』
「「戦神聖ドゥルガー」でアタック、【迅雷】でキャスト「光翼の翼」、【福唱】込みで【覚醒】状態のドゥルガー2体はこのターンコスト7以下にブロックされない、ラクシュミ3体の効果でマグラドを-6000、追加でキャスト【光天の雷】、ヴァルケンを-2000、ラクシュミの効果でマグラドを-1000とヴァルケン-2000してマグラド破壊。更にキャスト【輝ける終幕】、このターン中俺の場の「歌聖」ユニットのパワーは俺のトラッシュの黄のカードの数×1000上昇、トラッシュに行くこいつも含めて+12000、ラクシュミ効果はヴァルケン-3000で破壊!ドゥルガーのパワーは45000、1度の攻撃でライフを4つ砕く!」
「さ、殺意が凄い……それにライフしかぁ!?」
「……私だったから冗談で済んでたのかなぁこれ」
初対面の奴になんだ男かってやられたら絶対ぶっ飛ばす、それが俺なりのポリシーだ。