ZEXAL世界にメルフィー使い復讐者ショタを投下する 〜ナンバーズハントでお兄ちゃんぶっ殺した天城カイト許せねえ!〜 作:同じ顔の別人
⭐️遊馬視点
バリアン七皇ミザエルの決闘庵襲撃から一週間。崖から足を滑らせ負傷し、退屈な病院生活をようやく終わらせ、シャークより一足先に退院した遊馬を待ち受けていたのは信じられない知らせだった。
「──カイトが刺されたぁ!?」
《ようやく捕まえられそうだったのに、また逃げられたでアリマス! このトンマのせいで〜!》
オービタルがロボットアームを伸ばし、全身で怒りと不満を表現する。刺された、あのカイトが──ほんの少し前、遊馬にも襲いかかった犯人の姿が脳裏に蘇った。
病院のエントランスを出てすぐのことだった。ピンクのウサギのぬいぐるみを抱えた子供が、保護者も連れずぽつんと立っている。それがこちらの顔を見るなり一直線に駆け寄ってきたのだ。WDCでできたファンかもしれねえなんて呑気に考えていたオレと違って、アストラルはぬいぐるみの陰に隠れた鈍い輝きを見逃さなかった。
『いけない、避けろ遊馬!』
「えっ、う、うわあああ!?」
「う、わぁ!? くそぉっ……」
振り上げられた何かを間一髪で回避し、目標を失った子供がつんのめってぶつかり、一緒に床にもつれ込む。床に落ちた何かを返してやるために拾い、少年に向き合った。
「痛た……おい、大丈夫か? ……は、へぇ!? これってナイフ!?」
「返せ!」
「うおおお、返さねえって!?」
慌てて手を高く上げ、凶器返さないように注意した。輝きの正体は小ぶりな果物ナイフだった。アストラルに警告されなければ自分は再度入院する羽目になっていただろう。
慌てて立ち上がり、目の前の子供を観察する。
性別は男のようだ。遊馬よりも一回り幼く華奢で、ハルトと同じくらいの年齢に見えた。学生服っぽいシャツに半ズボン。腕に抱えたぬいぐるみはいかにも小鳥好みのふわふわで、わたあめみたいで、味気ない病院食に辟易する日々の反動もあり、見ているとどうにも腹が空いてくるのだった。
「って、そんなこと考えてる場合じゃねえ! な、なんだよ、またバリアンか?! デュエルなら受けて立ってやるぜ!」
「ごまかすな! いいか、ナンバーズハンターはぼくが殺した! 九十九遊馬……次はあんただぁ!」
「はぁ!? って、え、ナンバーズハンターって……」
言葉の意味は理解できたはずなのに、遊馬には事態が全く把握できなかった。
少年は遊馬のデッキホルダーには目もくれず、必死にナイフを取り戻そうと飛びかかってくる。挙げた右手に力が入った。命の危機には何度も遭遇してきたが、即物的な凶器には別種の恐ろしさがある。殺した。誰を? 何で? ナンバーズハンターって……
幼い体躯から放たれる不釣り合いな殺意は間違いなく本物だ。まさか今自分が持っているコレは。いくつものヒントが頭の中で結びつき、悪寒がはしった。
「返せよ! っ、よくも、兄さんを……!」
《見つけたゾこの下手人めがーー!》
「!?」
ちょうどその時だった。大きな声がオレと少年の争いを遮った。
思わず手を下げてしまい、すぐさまナイフを奪い返される。あ、これまずいかも。再度遊馬を狙った刃を、すんでのところで大声の主が弾き返した。
「オービタル!」
《む、貴様は九十九遊馬! こんなところで何を……》
「こっちのセリフだよ! 何があったんだよ! カイト大丈夫なのか!? オレわけわかんなくて!」
《あああ! また逃げられたであります! なんたる逃げ足!》
少し目を離した隙に少年は駆け出し、人混みに紛れあっという間に見えなくなってしまった。すぐさま追いかけようとするオービタルを慌てて呼び止める。このまま放置されても困る。協力するから何があったのか教えてくれと頼み込んだ。アストラルの説得もあり、オービタルは渋々と経緯を説明した。
なんと、カイトは先ほどの少年に本当に刺されていた。現在はハートランド社内の集中治療室で眠っているのだという。
生きてはいる、命に別状はない——その事実にほっとする。
オービタル曰く、今朝はミザエルが襲撃に来た決闘庵近辺を再調査し、帰り道に、時空の歪みのデータをもとにピックアップした地点をいくつか確認していたそうだ。そのうちの一つで、工事現場の鉄骨の崩壊に巻き込まれた。砂煙が立ちこめる中、事故の衝撃で分断されたオービタルが飛行モードから滑走モードに切り替えカイトの下へ駆けつけたときにはもう、あの少年がカイトの腹部を深く刺していたのだという。
『あのカイトが……にわかに信じがたい。あの規格外のバリアン七皇すら退けた彼が……』
正直遊馬もアストラルと同意見だった。
あの子供の攻撃は素人目にも稚拙だった。アストラルの助けがあったとはいえ、遊馬でさえ回避できたのだ。例え不意をつかれようとあのカイトがやられるだなんて思えなかった。
「なんか……あいつ、バリアンとは関係ねえのかもな」
『なぜそう思う?』
「だって、デュエルしなきゃナンバーズは奪えないんだぜ? 今までだって、バリアン絡みで直接攻撃してきたやつなんてほとんどいなかった」
『では何が目的だと?』
「わかんねえよ。でも、あいつは本気だった。よっぽどの理由があるんだ。何か、バリアン以外の……」
《このトンマ! だーかーらー、その理由がわからないから困っているのでありましょうが!》
「痛え!」
オービタルのアームが遊馬の頭を素っ叩いた。痛い、痛すぎる、絶対後で腫れる。カイトがやられて気が立ってるのはわかるけどあんまりだ。オービタルに抗議をしていると、アストラルが人差し指をピンと指をまっすぐ立てた。
『ふむ、では遊馬の言う“よっぽどの理由”、もとい動機から彼の居場所を探るとしよう。観察結果29──犯人は必ず現場に舞い戻る、だ。オービタル7、カイトが襲われたと言う現場まで案内してくれ。私であれば新たな手がかりを見つけることができるかもしれない』
《ムムム……仕方ない。このトンマ! ついてくるならせいぜい足を引っ張らないように!》
「え、わ、うわあああ!?」
オービタルの行動は早かった。素早く変形し、遊馬の両腕を引っ掴んでそのまあ上へ飛び上がった。肩が痛むが、気にする余裕はなかった。みるみる地面が遠ざかる。
「と、飛んでる!?」
『なるほどコレが本当のかっとビング……』
「そんなわけねえだろぉ!」
《こっちであります!》
「お、おお……!」
オービタルはますます高度を上げていく。高所に忌避感はないが、落ちるのは嫌だ。せめて二の腕じゃなくて、WDCの時のように安定する体制にするとか、カイトがやってるみたく背中をしっかり固定してほしいと頼むも、我慢しろと跳ね除けられる。オレって立場弱い。
この異様な移動方法にも少しずつ慣れ、これはこれで楽しいかもと景色を楽しむ余裕が出来てきた頃、アストラルは改めて宣言した。
『さてこの事件、この名探偵アストラルが解決してみせるとしよう』
「……おまえお前ちょっと楽しくなってねえか?」
『君ほどではない』
図星を突かれ押し黙る。気まずい。妙に芝居がかった指差しポーズを決めるアストラルに、そういやこいつ最近推理ドラマにハマってたな、と思い出した。怪我人が出ているのに暢気なものだ。いや、あのカイトなら大丈夫だと、信頼してこその態度かも……いや、やっぱりテレビの影響な気がする。遊馬は自分を棚にあげてちょっぴりいじけた。
アストラルから注意されたこともあり、姿勢を正す。二の腕を固定されてるのでただの身じろぎしか出来ないが、気分の問題だ。気合を入れ直すのは大事だ。
最初こそ爽快だった空の旅も、安全かつ単調なルート取りでは飽きてくる。暇だ。カイトってよく飛んでるけどその間何してるんだろ。音楽聴いたりするのかな。オービタルに聞いてみたが、ミュージック機能は未搭載とのことだった。
⭐️
困った、暇だ。
暇というのはすごい力を持っている。あんまり長く続くと気持ちがいっぱいいっぱいになって、余計なことをしてしまいそうになる。そうしたやらかしはたいてい碌でもない結末を迎える。だからできるだけ押さえ込もうと体をもぞもぞと動かすが、どうにも収まらない。
──トドのつまり、遊馬くんは落ち着きがないだけでしょう!
(あーそうだよそうですよ!)
生真面目な委員長の声が聞こえた気がして、遊馬は苦笑いした。
まあ、遊馬が特別苦手というだけで、皆得意なわけではないだろう。シャークだって、そうだった。
なにせ入院していたこの一週間、Dゲイザーなしの布団上デュエルだというのに稀に見る盛り上がりを見せたのだ。最初は嫌がっていたシャークも、暇ゆえか渋々了承し、試合を重ねるうちに乗り気になり、普段ならお開きになる回数を重ねても止めようと提案されることはなかった。シャークのデッキを回してみたいと言うアストラルの提案をシャークが渋々受け入れた時の衝撃と言ったら!(オレも使いたいと挙手したが却下された。容赦ねえ)
接戦を繰り返し、勝ち越しをかけた試合でホープの攻撃を宣言する。妨害をトラップカードで凌ぎ、しかしそれも相手のモンスター効果で無効化される。コレを乗り越えればオレの勝ちだ、試合は大いに盛り上がり──興奮したシャークの傷が開いちまった。
「「……あ」」『む』
包帯に滲む赤い血に、気まずい沈黙が広がる。そそくさとカードを片付け全てなかったことにしようとしたが、看護師の目を欺くことはできなかった。次の回診でしこたま叱られ、姉ちゃんからも怒られ、オレたちはデッキ没収というとんでもない罰を受け、残る一週間を再放送のテレビだけで過ごす羽目になった。そしてアストラルは推理ドラマにハマった。シャークは熱を出したのか眠る時間が増えて、オレは申し訳なくてしばらく落ち込んでいた。
(もう二度としたくねえよな、入院……)
そんな思い出に浸っていると、オービタルがゆっくりと高度を下げ始めた。ようやく現場に到着したらしい。遊馬は気合を入れ直すため、頭を横に振って、着地と同時にぐっと伸びをした。工事現場の前には今朝の事故のせいか立ち入り禁止の看板がいくつも建てられており、その向かいには幼年デュエルスクールが建っていた。
『早速一つ手掛かりだ。この校章はあの少年が身につけていたシャツの模様と同じだ』
オレとオービタルは慌てて校門へ駆け寄った。私立ハートランドデュエルスクール……遊馬でも聞いたことのある名前だった。何せプロデュエリストの半数はこの手の専門機関に通っているのだ。幼い頃、自分も通いたいと姉ちゃんに泣きつき即却下されたまさにそのスクールだった。
遊馬の服の裾が引っ張られる。下へ目を向けると、複数の子供が周りに集まっていた。犯人の少年と同じ年頃で、この学園の生徒のようだった。オレとオービタル、妙な組み合わせで大声を出していたせいで目立ちすぎたようだ。
「だあれ?」
「オレたち別にあああ怪しいものじゃ!」
「にーちゃん、九十九遊馬?」
「え? なんで知って……えーっと、お前ら、ここの生徒か?」
「うん、にーちゃんたち強いんだよね?」「デュエルしよー」「ぼくが先!」「チャンピオンじゃん!」
「お、おいおい、引っ張んなって!」
子供達は皆デュエルに熱心で、WDC優勝者である遊馬の顔を知っていた。手や足、服を引っ張られながら一斉に話しかけられる。自分の学校では冷たい扱いを受けたのもあり人気者になれるのは嬉しかった。デュエルをせがまれるのもたまらない。真月はオレのファンだっていうけど、オレとあんまデュエルしてくれねえしな。
オービタルはさっさと次の捜査をすべきと抗議したが、アストラルが探偵は足を使うもの、とかなんとかで説得した。オレは子供達と順番にデュエルをして、ギリギリ全てに勝利を収め、無事彼らの尊敬を勝ち取った。その頃にはすっかり打ち解け、こちらから聞かずともカイトを襲った犯人の情報が手に入ったのであった。
『情報をまとめるぞ。まず遊馬がデュエルをしている間にオービタル7が現場調査を行った。その結果、事故のあった工事現場の複数のケーブルが鋭利な刃物で切断されていることがわかった』
「それって……!」
「カイトが巻き込まれた事故は人為的なトラップだったということだ」
《許せん、このオービタル7、何としてもとっ捕まえてやります!》
カイトはどこへ行くにもオービタルで飛んでくる。空にいられては狙えないから、落としてから刺した……ということだろう。アストラルは、この計画性の高さから無差別犯ではなくピンポイントにカイトを狙った可能性が高いことがわかると補足した。
『そして次だ。カイトを襲ったのはデュエルスクールの学年主席、宇佐木である可能性が非常に高い。外見特徴も一致していて、事故が起きた時刻に登校していなかったことも確認が取れている』
「この学校で一番強い、ってみんな言ってたな。正直戦ってみたいぜ」
《このノンキでいい加減なトンマめが、あの子供が何をしたか忘れたかっ》
ギロリとオービタルに睨みつけられて慌てて口を押さえる。別に忘れたりはしてねえっての。
『オービタル7、事実と我々の感情は分けて考えるべきだ。こと推理においては。聞き込みのみから伺える宇佐木の人柄は、勉強熱心で控えめ、デュエルの腕は飛び抜けているが争いは苦手な平和主義……そして彼には歳の離れた兄がいて、“数ヶ月前から行方不明”になっている』
「…………」
アストラルの意味深な強調を、遊馬は聞き逃さなかった。
──
「っ、よくも、兄さんを……」
──
あの少年の瞳に宿る深い憎悪を思い出す。スクールでの評判とかけ離れた姿だ。ああまで変わってしまう強い動機に、行方不明になった兄への言及。
ここまで証拠が揃うと、遊馬はとある可能性しか浮かばなくなっていた。
「……あのさ、数ヶ月前って、オレたちがカイトと出会った頃だろ。なあ、やっぱりあいつの兄貴って……」
『ナンバーズハンターの件、か。可能性としては高い』
カイトは……自分にも他人にも厳しいが、基本的にはいいやつだ。あいつがあそこまで恨まれる理由など、それ以外には考えられなかった。
まさに数ヶ月前、カイトは弟のハルトの病気を治すために、ハートランド中のナンバーズ保有者にデュエルを挑み、魂ごと刈り取っていた。被害総数は二桁を超え、遊馬やシャークたちも危うく死にかけた。自分たちは何とか助かったが、もしその中に彼の兄がいたとしたら──
「なあアストラル。もしも、もしもだぜ。オレたちが考えてる通りの動機だったとしたら、オレどうしたらいいんだろ……」
現状から予想される最悪のシナリオにすくむ俺たちを、オービタルは一蹴した。
《このトンマども! だとしたらどうしてキサマは襲われたというのか! その推理は矛盾しているでしょうが!》
もっともな指摘だった。遊馬もナンバーズを集めてはいるが、アストラルの力なら魂ごと奪わずとも回収できる。恨まれる道理はない。
「あ、あれ? そりゃそうだよな……? オレも刺されかけたし、やっぱりバリアン関係だったり?」
こんがらがってわけわかんなくなってきた。オレとカイト同時に恨まれるってバリアン絡みしかなくね? いやでも、あいつってバリアン関係って感じかなあ? オービタルに押し負けそうなところを、アストラルは指をピンと立てずいと割り込んだ。
『伏せカードが多い時は、下手な推測より今ある証拠を整理するほうが重要だ。……と、かのデュエル探偵も言っていた。オービタル7、元ナンバーズ保有者のデータはないか? 宇佐木という苗字の人物がいたか知りたい』
《フン、そんなのいるわけが…………》
「…………」
『…………』
《……あ》
オレとアストラルは眉を顰めた。なんか、いたっぽい。オービタルは、胸部モニターに検索結果を表示して、オレたちに見えるようゆっくりとアームを伸ばした。
⭐️
「宇佐木、宇佐木……なあオービタル、ほんとにこっちであってんのかぁ?」
《うるさい! カイト様が搭載したGPS機能に間違いがあるはずないでしょうが!》
『だが彼らにもらった地図の方が間違っている可能性もある。現在地をもう一度見直すべきだ』
《む、ムムム……》
ここまで証拠が揃ったら、あとは直接話を聞くだけだった。
あの後、デュエルスクールの教師に宇佐木という学生について尋ねると、あっさりと住所を教えてもらうことができた。あの子はデュエル大好きだからチャンピオンに会えたらきっと喜ぶわ、なんて言葉付きで。あまりにもスムーズに話が進むものだから遊馬は少し拍子抜けしていた。やはりデュエルか、デュエルっていいもんだ。
オービタルのマップ機能を使いながら宇佐木の自宅へ足を進める。街の中心部からは外れ、住宅街からも外れ、山とか林とか表現したほうがいいエリアに入ると、さすがに不安が勝った。
「ここ……だよな?」
地図に記された場所には、決闘庵よりも古くてオンボロな一軒家が建っていた。表札を確認すると、確かに『宇佐木』と書いてある。間違いであって欲しかった、なんて軽口を叩く余裕は遊馬には無くなっていた。インターフォンを押すか、玄関から声をかけるか、そのどちらも選べずに遊馬は固まった。
やばい、この家、やばい。絶対入りたくない。ボロっちいとか汚いとかそういうレベルではない。立ち止まった遊馬をオービタルとアストラルがせっついた。二人の顔には全く恐怖や警戒心が浮かんでいない。それが信じられなかった。
「お、お前ら平気なのかよ! だってよぉ、ここ……」
《ふん、怖気付いたでありますか》
『……いや待て、遊馬がここまで言うなら何かある』
「その……臭いが」
そこまで答えて気づく。アストラルもオービタルも、匂いを感じる機能はないのだ。だから遊馬だけが異変に気づいてしまった。
家に近づく前から感じていた吐き気を催す悪臭。扉を隔ててこれなら、部屋の中はどうなってしまっているのか。なんで騒ぎになってないんだ。辺りを見まわすが目に入るのは人気のない林道ばかり。だからこんなになるまで放っておかれたのか、と嫌な納得をする。
『生憎私には縁のないものだ。ゼアルになれば、感じ取ることはできるが』
「やめとけって! わざわざするようなもんじゃねえよ」
『む……そうか』
「ええい、かっとビングだぜオレ! ここまで来たら行くっきゃねー!」
なんとなく浮かんだ嫌な予感を振り切って、インターフォンを押す。……反応がない。もう一度押す。しみったれたマヌケのフヌケのおとぼけトンマなんて心無い罵倒を浴びせられる。おまけに寝坊の常習犯だ、と告げ口する声まで。聞こえてるっつーの! 最終的にアストラルが裏手の窓から中を覗けば良いと提案し、おとなしくそれに従った。
「うぇぷ、窓しまってんじゃねーか、中は………」
中を見る。見てしまう。せめてゴミ屋敷なだけであってくれという遊馬の願いは届かなかった。
部屋はきれいに整頓されていた。その真ん中に黒い影が見える。すぐにアレが何なのか理解してしまった。
ぼすん、と柔らかい音が響く。振り向く。
大きな、でも軽いぬいぐるみが落ちた様な音。
玄関に、今朝遊馬を襲った少年が立っていた。
「──待ってくれ!」
少年は── 宇佐木はすぐさま背を向けて逃げていく。
考えるより前に、反射で遊馬は飛び出した。ホントは、ずっと前から真実に気づいていたからかもしれない。
細っこい腕を掴み、引き寄せて、後ろから抱き抱える。暴れても、噛みつかれても離さない。荒い息と、震えと、遅れて体温を感じ取る。こいつは生きている。生きているのに──
「大丈夫だ! もう、大丈夫だから……!」
オレが泣いてどうすんだよ、鼻声になりながら必死に抱きしめる。絶対に離しちゃダメだ。なんなんだよ、こんなのってねえよ。
オレの涙が頬を垂れて、宇佐木の手を濡らす。ふと目が合った。宇佐木はオレが泣いているのを見てぴたりと抵抗を止める。そうして、ようやく自分の感情にも気付いたみたいに掌を見つめて、嗚咽をあげて、大粒の涙を浮かべる。ああ、やっぱり。そうだよな。怖かったよな、寂しかったよな。言葉にすると安っぽくなっちまう気がして、さらに強く抱きしめてやる。そうしてやることしかできなかった。
カイトを襲った犯人は、兄の死体と共に暮らしていた。
なぜ死んでしまったのか、その敵意を見れば明らかだった。