ZEXAL世界にメルフィー使い復讐者ショタを投下する 〜ナンバーズハントでお兄ちゃんぶっ殺した天城カイト許せねえ!〜 作:同じ顔の別人
⭐️宇佐木視点
宇佐木 LP4000
カイト LP4000
「ぼくのターン!」
ぼくは迷わず先行を取った。遊馬とのデュエルでは後攻からの奇襲が上手く決まったが、メルフィーは元々先行優位のデッキだ。兄さんを倒したあの恐ろしいドラゴンがでてくる前に、出来るだけ場を整えたかった。
「ぼくは手札から「レスキューキャット」を召喚し、墓地に捨てることで効果発動! デッキから獣族モンスター、メルフィーを特殊召喚する! この2体でオーバーレイネットワークを構築——さあ来い! 「森のメルフィーズ」!」
「おお、早速エクシーズ召喚かよ!」
「更に、オーバーレイユニットを一つ消費し効果発動! デッキより1枚カードを加える。エンドフェイズ——さあ、おいで!」
ぼくは手札より「メルフィー・フェニィ」を特殊召喚した。メルフィーたちは通常召喚権を消費せずにフィールドと手札を縦横無尽に駆け回るカードなのだ。遊馬とデュエルした時には使わなかった能力だからか、驚く声が上がった。
『エンドフェイズにモンスターの召喚を……!?』
「なるほど、それが貴様のデッキか」
一方のナンバーズハンターに動じる様子はない。兄さん以外にも多くのデッキと戦ってきたのだろう——メルフィーのような変わった挙動にも慣れっこということだ。
でもぼくだって、たくさん勉強してきたんだ。「銀河眼の光子竜」の効果ならあの夜に見た。召喚条件だって覚えてる。攻撃力2000以上のモンスターを2体以上並べさせないように動けばいい。どんな展開で来ようとも対応しきってみせる。こっそりと唾を飲み込んだ。
「オレのターン、ドロー! 『フォトン・スラッシャー』を特殊召喚! このカードは自分フィールドにモンスターがいない時手札から特殊召喚できる。さらに『フォトン・サテライト』を通常召喚! このカードは自分フィールド上に存在する「フォトン」または「光子」と名のついたモンスター1体を選択し、そのレベル分だけ、このカードのレベルを上げる。オレが選択するのは『フォトン・スラッシャー』!」
「フォトン・サテライト」 レベル1→5
ATK 0/DEF 0
「更にこのカードをエクシーズ素材とする場合、1体で2体分の素材とする事ができる!」
「レベル5のエクシーズ……? そんなやつカイトのデッキにいたか?」
早速エクシーズ召喚だ——ぼくがメルフィの効果を使うタイミングを見計らっていると、遊馬が疑問の声を上げた。理由はすぐに判明した。繰り出されたのはナンバーズハンターが愛用するカードではなかった。もちろん兄さんを屠った「銀河眼の光子竜」でもない。
現れたのは、“ぼく”の見慣れたモンスターだ。
「『フォトン・サテライト』でオーバーレイネットワークを構築! いでよナンバーズ14!」
「は——」
「「No.14強欲のサラメーヤ」を攻撃表示でエクシーズ召喚!」
二つのオーバーレイユニットを纏った三ツ首の狼がフィールドに現れる。
ぼくはすぐに動くことが出来なかった。
「サラメーヤで守備表示の『森のメルフィーズ』を攻撃し——破壊! この時、オレはオーバーレイユニットを一つ使い効果を発動させる!」
『強欲のサラメーヤ』。星5エクシーズモンスター。ATK2500。効果なんて空で言える。このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手の効果で発生する自分への効果ダメージは代わりに相手が受ける。そしてこのカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、このカードのオーバーレイユニットを一つ使うことで、破壊したそのモンスターの元々の攻撃力以下のフィールド上のモンスターを全て破壊する。
兄さん。ぼくの兄さんが持っていた、ぼくの兄さんをおかしくした、ぼくの兄さんの魂ごと刈り取られたはずのカードが今、目の前にいる——
「う、うわぁぁぁ!」
その瞬間、サラメーヤの効果が発動した。
『森のメルフィーズ』の攻撃力はたったの500——しかし攻撃が苦手なメルフィーたちにとっては致命傷だった。攻撃力250以下の『メルフィー・フェニィ』も破壊され、フィールドがガラ空きになる。
「……っ!」
「「フォトン・スラッシャー」は自分フィールドに他のモンスターが存在する限り攻撃できない。よってカードを二枚伏せ、ターンエンドだ。——ナンバーズはナンバーズでしか破壊できない。さあ出すがいい、貴様のナンバーズを!」
兄の魂を奪い去った証を示しながら、ナンバーズハンターはぼくをまっすぐ指差した。
⭐️
「アストラル、何渡してんだよ! 宇佐木の兄ちゃんのナンバーズなんだろ、あれ!」
『カイトに頼まれたからな。それに彼が選んだ道には必要な試練であるように思う。カイトもそう考えたから、ああして本気で彼に立ち向かっているのではないだろうか』
「だからって……!」
遊馬はサラメーヤの正体に気づいたようだ。ナンバーズハンターの所業に戸惑う声を上げている。その声の——なんと心強いことか。ぼくを責めることのない第三者の声。たったそれだけをよすがに、なんとか理性の糸を保ち続けた。
ぼくのターン、ドロー。覚悟していたはずなのに、どうしても動きが鈍くなる。ぼくのデッキに攻撃力2400を正面から超えるカードはない。なんとか策を練らないと——手札を確認するぼくの邪魔をするように、また幻聴が聞こえた。
『あはは、アタシの出番かにゃー?』——デッキから声がする。『ほら、また頼ってよ。ぽんぽーんと私の能力で、ちょうど倒せるくらいの敵、用意してあげるからさあ』——いらない! それじゃあ目先のライフは削れても、勝ちまで辿り着かない!
「マネキンキャット」の声がガンガンと響く。こいつと話していると自分の情けなさで吐きそうだった。
「ぼくは永続魔法「メルフィーとかくれんぼ」を発動! これによりさらに一枚ドローする! そして手札から「メルフィー・ラビィーズ」を通常召喚!」
「あ、出た! あのすっげー奴……!」
遊馬の声がぼくを現実へ引き戻す。ナンバーズハンターへ隙は与えない。そのまま効果を発動させる。
「召喚に成功したことにより、デッキから「メルフィー・ラビィ」を手札に加えて、その後手札から任意の数だけ獣族モンスター、ラビィ、パピィ、ワラビィを召喚! さらに自分の手札・フィールドのメルフィーで——さあ来て、融合召喚「わくどきメルフィーズ」! この効果で「メルフィ・ラビィーズ」と「パピィ」が手札に逃げ戻る。ぼくが戻した手札と同じ枚数のカードを相手にも戻してもらう。そっちのフィールドの「フォトン・スラッシャー」と「No.14強欲のサラメーヤ」を——」
「させん! 永続トラップ「安全地帯」を発動!」
流行ってんのかそのカード! ふざけんな!
遊馬と同じカードで遊馬と同じ防ぎ方をしてきたナンバーズハンターへ思わず罵倒が飛び出しそうになる。もしやあのロボットが遊馬とのデュエルを告げ口したのだろうか。「あ、この間ハルトと一緒にパック開けた時のやつ。カイトも入れてみたんだな」遊馬のせいだった、ばーか! ナンバーズハンターは遊馬に目もくれず効果の説明を続けた。
「このカードが存在する限り、「No.14強欲のサラメーヤ」は相手の効果の対象にならず、戦闘及び相手の効果では破壊されない!」
「知ってるよ! それに……ぼくに言わせれば、そんなの全然、安全じゃ無いね! 手札から速攻魔法「強制転移」を発動! お互いのプレイヤーは、それぞれ自身のフィールドのモンスター1体を選び、そのモンスター2体のコントロールを入れ替える!」
ぼくの戦法を見た遊馬は困惑していた。無効化されてしまうのになぜ魔法カードを使ったのかと。だがナンバーズハンターは目を見開いた。このカードに潜む“逃げ道”に気づいたようだ。
「そう、この魔法カードはぼくじゃなく相手プレイヤー自身の手で対象とするモンスターを選ばせる! 故に「安全地帯」の無効は関係ない! もっともお前のフィールドにはもうサラメーヤしかいない。よって攻撃表示のワラビィをそちらへ、サラメーヤをそのままぼくのフィールドへ!」
「——っ!」
2体の獣の立ち位置がそっくり入れ替わる。
メルフィーは多彩な効果で相手を撹乱することを得意とするデッキだが、いずれもモンスターを対象とする点が弱点だ。「安全地帯」のように効果の対象に取れなくする効果を持つカードに対しては無力なのだ。
弱みを自覚しているからこその「強制転移」である。
ぼくは弱い。デュエルとか腕っぷしとかそんな小さな話じゃ無い。心や魂が——どうしようもなく弱っちい! でも、だからこそ、逃げ道探しならぼくは誰にも負けない。
サラメーヤのコントロールを奪い、ぼくの居場所へ呼び戻す。ほっとした。兄さんを破滅へ導いたカードだったとしても、こいつはもういない兄さんの象徴だった。だから攻撃なんてしたくなかったのだ。
ぼくだけは兄さんの味方でいたい。その願いが、わずかに満たされる。
「ぐっ——!? う、あ……!?」
だが代償は重かった。サラメーヤを手に入れた瞬間、マネキンキャットと同種の重圧が二重にぼくへ襲いかかる。ナンバーズが2枚。身体に二つ目の数字が浮かぶ。耐え難い苦痛に叫ばずにはいられなかった。
「うわあああああっ!」
「宇佐木! 大丈夫か!?」
視界が悪夢で埋め尽くさていく。
兄さんへの不安が増大される。『ぴーぴーうるさい奴』『お前の存在が邪魔だった』『お前がいたせいでオレの人生は台無しだ』——決して言われたことのないはずの言葉が、まるで本音であったかのような素振りで、記憶のままの声でぼくを責め立てる。肥大化した自責の念がメルフィーのぬいぐるみを八つ裂きにしようと手を伸ばす。
「っだああっ、おい宇佐木!」
「……?」
「お前兄ちゃんのために頑張るんだろ! しっかりしやがれーッ!」
それでも、悲劇の後に出会った遊馬の声が、ぼくを現在へと連れ戻してくれる。そうだ、ぼくは兄さんの味方なんだ。だったらこんなものに騙されている場合ではない。フィールド上のモンスターを確認し、サラメーヤを睨みつけた。
「そうだ、兄さんは僕のために頑張ってくれたんだ。たとえそれが悪いことだとしても……」
ぼくは怒っていた。兄の変化に、己の臆病に。そして何より、いつか向き合えたかもしれない兄との対話の機会を永遠に奪ったナンバーズハンターの選択に。
「兄さんの気持ちが、本当かどうだったかなんて今は関係ない。だって、兄さんの気持ちを知る機会は、永遠に失われてしまった。お前の、お前のせいでぇ!」
ぼくは手を振り上げる。幻聴が示す“もしも”を振り払い、ぼくが選びたかった“もしも”へ手を伸ばす。「No.14強欲のサラメーヤ」、兄さんのナンバーズが応えるように遠吠えをあげた。
「バトル、フェイズ! ぼくが送りつけた攻撃力0の「メルフィー・ワラビィ」をサラメーヤで攻撃!」
「ぐっ——! この瞬間トラップカード「デステニー・ブレイク」を発動! 相手モンスターの攻撃宣言時にデッキからカードを1枚ドローし、お互いに確認する。確認したカードがモンスターだった場合、その攻撃を無効にしてドローしたカードを手札に加え、それ以外の場合は墓地へ送る! ドロー!」
同時にぼくもドローする。……残念ながらトラップカードだ。そのまま墓地へ送る。そしてナンバーズハンターがデッキからカードを一枚引き抜く。頼む、モンスター以外であってくれ——その願いは残念ながら叶わなかった。
「オレのカードは「プラズマボール」! よってこの攻撃は無効となる! さらにこのカードの効果でドローし手札に加えたモンスターを特殊召喚する!」
「くそっ……!」
「プラズマボール」がフィールドへ特殊召喚される。せっかく相手のフィールドを空にできそうだったのにあっという間に次のモンスターのご登場だ。攻撃力2000以上という件の条件を満たしていないのが唯一の救いか——それでも、あんなに気持ちを込めた一撃だったのにライフにダメージを入れられなかったのはショックだった。一筋縄では行かない、安易な作戦など通用しない、ならどうすべきかよく考えろ——
そしてターンエンド。呼ばずとも、ふたたび「メルフィー・パピィ」がフィールドへ顔を出した。小さな子犬のメルフィーが、大きなサラメーヤと並んで、胸を張って——その光景越しに、ぼくはナンバーズハンターを睨みつけた。
⭐️
ダメージこそ与えられなかったが、ナンバーズをナンバーズを使わずに突破した。その偉業をナンバーズハンターは見届けた。ぼくが毎晩悪夢に見ていたように高笑いの一つでもすればいいのに、どこか余裕を感じさせる本物の仇の表情にぼくは苛立った。
「……それが貴様の力か。ならばオレも全力で応えさせてもらう。オレのターン! 手札より儀式魔法「光子竜降臨」を発動! 自分の手札・フィールド上から、レベルの合計が4以上となるようにモンスターをリリースする。レベル3「プラズマボール」と貴様のレベル2「メルフィー・ワラビィ」をリリースし「光子竜の聖騎士」降臨!」
「!」
儀式魔法。主流のエクシーズ召喚とは異なるやや古い召喚形式で、ぼくも学校の授業ぐらいでしか勉強したことしかなかった。勝手がわからず様子を見守る。
「さらに「光子竜の聖騎士」をリリースし、デッキより指定されたモンスター1体を、召喚条件を無視して召喚できる!」
「!?」
続く効果に、ぼくは身震いした。何が来るのかわかってしまったからだ。
ナンバーズハンターが手槍のようなものを空へ放った。空間にヒビが刻まれる。
「闇に輝く銀河よ、希望の光になりて我が僕に宿れ! 光の化身、ここに降臨! 現れろ——「銀河眼の光子竜」!」
そうして悪夢が現れた。
攻撃力3000。エクシーズキラーにしてナンバーズキラー。ぼくの兄さんを成す術もなく倒した、銀河を宿した圧倒的存在。ずっと——ずっと、どう倒すべきか考えていた、ぼくの後悔の象徴。その策の一つをすぐさま繰り出した。
「「メルフィー・パピィ」! お友達を呼んできて! あのドラゴンには、なんにもさせちゃいけない!」
毛玉の子犬がギャラクシーアイズに驚いて飛んで逃げた。ただ逃げるだけじゃない。デッキを探り、狙い通りの一枚を咥えてぼくへ届けてくれる。手柄を誇るように尻尾を激しく振っているのをひと撫でしてから、そのカードを繰りだした。
「「メルフィー・パピィ」の効果でデッキから獣族モンスターを一体特殊召喚する! ぼくが選んだのは、「森の聖獣カラントーサ」!」
小さな森を背負ったハリネズミのような不思議なふわふわが現れた。ギャラクシーアイズとの体の大きさの差も、攻撃力の差さえまるでないかのような顔で、カラントーサは聖なる光を纏い力を行使する。
「カラントーサが特殊召喚されたことで効果発動! 「銀河眼の光子竜」を即刻破壊する!」
「なにっ……ギャラクシーアイズ!」
召喚した瞬間狙い撃ちされ、流石に驚いたようだ。だがこれで終わるはずがない。思った通り、ナンバーズハンターはすぐさま持ち直し、手札からカードを引き抜いた。
「だが、その程度どうということはない! 手札から速攻魔法「銀河再誕」を発動! 自分の墓地から「ギャラクシー」と名のついたモンスター1体を特殊召喚し、このカードを装備カード扱いとして装備する!」
「ぐっ、まだまだぁ! その復活に反応して「メルフィー・ラビィーズ」の効果発動! デッキからラビィを一体加えて、獣族モンスターを一斉に並べる——集合!」
新たに加わったラビィを連れて、さっき大役を果たしたパピィが舞い戻る。
「融合召喚「わくどきメルフィーズ」! この効果で「メルフィ・ラビィーズ」が手札に逃げ戻る。さあ、そっちのドラゴンも手札に戻れぇ!」
再びギャラクシーアイズがフィールドから弾かれ、装備魔法を剥ぎ取られ手札まで交代する。メルフィーだけでなく相手の切り札まで巻き込んだ召喚と妨害の攻防を、遊馬が息を呑んで見守っていた。
「——魔法カード「逆境の宝札」!」
なのにまだ。こんなに邪魔したのにまだ止まらないというのか。
「相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、デッキからカードを2枚ドローする。——オレは「オーバーレイ・スナイパー」を通常召喚! さらに「オーバーレイ・ブースター」を特殊召喚! このカードは攻撃力2000以上のモンスターが自分フィールド上に存在する場合手札から特殊召喚できる! 攻撃力2000以上のモンスターが2体!」
あんなに足掻いたのに、まだ——まだ足りていないというのか!
「覚えておけ、この程度でオレとギャラクシーアイズの歩みは止まらない。三度降臨! 現れろ——「銀河眼の光子竜」!」
銀河を瞳に宿す竜が降り立った。
星8、光属性、ドラゴン族。ATK3000の完全体が、地面に立つぼくたちを見下ろした。
「っ……!」
メルフィーたちへ指示を出そうとして、固まる。ダメだ、これ以上出来ることが無い。今の自分に攻撃力3000を正面からは突破できない。ぼくが何もできなくなったのを見て、ナンバーズハンターは兄さんのナンバーズに狙いを定めた。
「攻撃表示の「No.14強欲のサラメーヤ」を攻撃する。モンスター効果は無効化されるが……大した問題では無い」
「っ、……サラメーヤ!」
「行け、「銀河眼の光子竜」! 破滅の——フォトン・ストリーム!」
宇佐木 LP4000→LP3500
「…………い、生きてる……」
降り注ぐ熱線。砂煙が晴れた後も、サラメーヤはぼくのフィールドに立っていた。
ナンバーズはナンバーズでしか破壊できない。そんなことも頭から抜けるくらいに、ぼくは動揺していた。
「……ぼくの、ターン」
カードをドローする。
「メルフィーとかくれんぼ」の効果でさらにもう1枚ドロー。
場にはサラメーヤと、効果を使用しレベルの下がった「わくどきメルフィーズ」、そして能力を使い終わったカラントーサがいる。相手はあの「銀河眼の光子竜」。攻撃力3000のエクシーズキラー相手に、今引いたカードではパワーが足りない。じっと次の手を考える。
『ねえー私を出してくれないのぉ?』
「……お前はぼくの弱さなんだ。お前をデッキに入れたのは、ぼくがお前“に”勝つためだ。お前“で”勝っても意味がない」
『アハハ! これだから生きてる人間はさあ——気持ち悪っ』
それきりぷつりと幻聴が途切れる。「No.29マネキンキャット」は、もうこちらから声をかけても動かない。縁の切れ目というにはあまりにも静かで、呆気なかった。
「……ぼくは「マタタビ仙狸」を通常召喚。このカードをリリースすることで、墓地から水属性の「メルフィー・ラッシィ」と手札の「メルフィー・パピィ」を特殊召喚」
これで場には4体のレベル2モンスターと、一体の星5ナンバーズが揃ったことになる。
ぼくは手を挙げる。目の前の、ムカつく強いやつを睨みつけて、メルフィーみんなへ声をかける。
「っ、弱くてかわいい“だけじゃない”仲間たち! 逃げ惑うだけじゃないって、全部を振り絞って、今、見せるんだ! みんなでオーバーレイネットワークを構築! 4体のメルフィーでエクシーズ召喚! ——こい、「メルフィー・マミィ」!」
「メルフィー・マミィ」 ランク4
ATK1000/DEF1000
『メルフィーモンスター3体目のエクシーズだと……!?』
「オーバーレイユニット4つぅ!? 何回効果使う気なんだよ……!」
「使わないよ」
「えっ」
「「メルフィー・マミィ」は仲間を見捨てない。オーバーレイユニットを使わないエクシーズなんだ」
ぼくはまだ諦めていなかった。ぼくはナンバーズではなく、兄さんがくれた最後のお友達を召喚した。
遊馬へ告げた通り「メルフィー・マミィ」はエクシーズユニットの数により様々な効果を得る。エクシーズユニットを使うのではなく蓄え続ける特異な存在だ。
3つ以上で戦闘では破壊されなくなり、4つ以上で戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0になる。そして——
「ぼくは『メルフィー・マミィ』の効果発動! 好きな獣族1体をオーバーレイユニットの仲間に加える! さあ、サラメーヤ!」
ちょっぴり大きなメルフィーであるマミィが魔法を唱えると、荒々しかったサラメーヤがぽんと音を立てて、ふわふわの仲間に変貌し団らんへ加わった。これでオーバーレイユニットは5つ。
「「メルフィー・マミィ」がオーバーレイユニットを5つ以上持つ時、このカードが攻撃表示モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に、このカードは破壊されず、ぼくはダメージも受けず、相手プレイヤーはその攻撃表示モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!」
「なんだと——!?」
この効果が発動するのは攻撃宣言時。「銀河眼の光子竜」が除外効果を発動するよりも早く、その強大すぎる力がナンバーズハンター自身へ跳ね返る。
ぼくの最初の望みが蘇る。ぼくはただ、兄さんに生きていて欲しかった。兄さんがどんな道を行こうとも、ぼくが味方であればそれでよかった。
それを奪ったあいつが憎い。叶えられなかった己の弱さが、憎い。だから叫ぶ。
「ナンバーズハンター! お前は、お前自身の力で自滅するのがふさわしい。お前が踏み躙ってきたのと、おんなじ力で! 「メルフィ・マミィ」で「銀河眼の光子竜」を攻撃!」
「ぐっ、うおおおおおっ!」
マミィがふわふわの身体で伸びをして、「銀河眼の光子竜」へ力を解き放つ。相手の攻撃力は3000、その力全てがナンバーズハンター自身のライフポイントへ突き刺さった。
カイト LP4000→1000
「さらに、マミィのオーバーレイユニットも奪わせはしない! 墓地からトラップカード「どきどきメルフィータイム」を除去して効果発動! このターン、メルフィーのエクシーズは相手が発動した効果を受けない!」
「ぐっ……!」
「さあ、次のターンでおしまいだ……! ぼくはカードを一枚伏せ、ターンエンド!」
デュエルをすれば人柄がわかる。わかりたくなくたって伝わってしまう。ナンバーズハンターにも事情があったことを、心の底から理解できてしまった。……だからなんだってんだ! 何者もお前を糾弾しない未来など認めない。お前には必ずお前自身の業と向き合ってもらう。逃げるなんて許さない。だからぼくは声を上げ続ける。
ぼくのフィールドには「メルフィー・マミィ」ひとりきり。次のターン、ナンバーズハンターがぼくにダメージを与えるには嫌でもマミィと戦闘する必要ある。その戦いすら避けるなら、更に次のターンにぼくが突きつけ返してやる。
ぼくは兄さんが期待してくれたデュエルで勝つ——あの恐ろしいナンバーズハンターに打ち勝ってみせる!
そんな覚悟をナンバーズハンターは真正面から受け止めた。ゆっくりと立ち上がり、袖元の埃を払う。目を閉じて、腕を組み、まるで感傷に浸るかのように。さっきまでの激しい攻防が嘘みたいに、静かな時間が流れる。
「宇佐木みこと」
「……何」
「ギャラクシーアイズの攻略法は当然考えてきたようだな。確かにこれならばオレのライフを0にすることができただろう。……過去のオレであれば」
ふと思う。
あれ、ぼくって下の名前って名乗ったっけ?
「だがオレにはまだなすべきことがある。貴様と、貴様の兄のために殺されてやるわけにはいかない。そしてオレは進化し続ける! 見せてやろう—— 我が魂を! ドロー、オレは手札から「銀河の魔導士」を通常召喚! 「銀河の魔導士」と「ギャラクシーアイズ」で——エクシーズ召喚!」
「……ま、まさかぁ!?」
遊馬が叫ぶ。何か心当たりがあるのか。銀河眼以外の切り札があるのか。
しかし相手を翻弄することこそメルフィーの得意分野。マミィへの効果破壊も魔法カードで防いでいるし、いざとなればトラップカードもある。何をする気だと空を見上げて——
「「銀河の魔術師」でエクシーズ召喚をする時、自身のレベルを 4つ上げ、1体で2体分の素材とする事ができる! レベル8モンスター3体でオーバーレイネットワークを構築! 逆巻く銀河よ、今怒涛の光となりて姿を現すがいい! 降臨せよ、我が魂——「超銀河眼の光子龍」!」
「え——?」
ナンバーズハンターが槍を振り上げ天を破る。空間を赤い電撃が走り、銀河眼がエクシーズの名を冠して再臨した。
「な、赤い、ギャラクシー……?!」
「「銀河の魔術師」の効果を使ってエクシーズ召喚したモンスターエクシーズ1体の攻撃力は 2000ポイントダウンする。——だが貴様を倒すには十分だ。ネオギャラクシーの効果発動! 「銀河眼の光子竜」を素材としてエクシーズ召喚に成功した時、表側表示で存在するカードの効果を全て無効にする!」
「なっ……」
赤い咆哮がフィールドを支配する。
そんなの、ぼく知らない。マミィが驚いてひっくり返った。ダメージ反射効果も、破壊耐性も、永続魔法さえも無効化する星の光が降り注ぐ。
「さらに1ターンに1度、このカードのオーバーレイユニットを1つ取り除き、相手フィールド上のオーバーレイユニットを全て取り除く! このターンこのカードの攻撃力は取り除いた数かける500ポイントアップする!」
「は——」
なんだそれ、アリかよ、強すぎる。
メルフィ・マミィがため込んだオーバーレイユニットが全て吸収されていく。500かける5つが、ネオギャラクシーアイズの攻撃力に加算されていく。
「合計、攻撃力5000……!」
メルフィー・マミィは丸裸だ。あの子の攻撃力はたったの1000。このまま攻撃を受けたら、たとえライフが満タンだろうと一発で削り取られる。ぼくは慌ててトラップカードを発動させた。
「っ、させない! ぼくはトラップカード『ダメージ・ダイエット』を発動! これでぼくがこのターン受けるダメージは半分に——」
「無駄だ! さらに、このターンこのカードは取り除いたオーバーレイユニットの数まで攻撃できる!」
「は?」
フィールドを見上げる。赤い光を携えたネオギャラクシー放たんと溜め込んだ閃光は5つ、5回? 5000のダメージが? ……5倍?
「に、にまん、ごせんだめーじ……?」
何度計算しても答えは変わらない。半減とかそんなレベルじゃない。想像をはるかに飛び越えた幾多もの閃光が、地に這う獣を天から照らす。
ナンバーズハンターの腕が、無慈悲に振り下ろされた。
「破滅の——フォトン・ストリーム!」
宇佐木 LP3500→LP0
ぼくたちはまとめて吹っ飛んだ。
⭐️
勝てなかった。正面から叩き潰された。
あの日、兄さんが死んだ日。たとえぼくが動けていたとしても、何も変わらなかったと突きつけられた気がした。
なのにどうしてだろう。ふわりと、今までぼくを苛んできた重圧が消えていく。かつてないほどに清々しい気分だった。
「負けちゃった……」
ああすればよかった、こうすればよかった……デュエル中には浮かばなかったアイデアが次々と脳裏で弾けて悔しくなった。ぼくはデュエルが好きで、兄さんがいない世界なのに、兄さんを殺した奴なのに、それでもデュエルをすると楽しくなってしまって——そんな最低な自分を見捨てずに済んだのは、遊馬のおかげだった。
ぽろぽろと、今までの歪んだ自責とは異なる涙がこぼれ落ちる。衝撃で散らばってしまったカードを拾い集める。
「兄さん、ごめんなさい」
ぼくのかわいいメルフィーたち。頼りになって、素敵で、かわいいだけじゃないぼくの相棒たち。巡り合わせてくれたのは兄さんだったのに。
あの日——死んだ日じゃない、もっと前だ——冷たい目でぼくにメルフィーをくれたあの日。ぼくはどうして黙り込んでしまったんだろう。兄さんが笑っていなかったからって。兄さんはぼくが意地を張っても笑ってくれていたのに。大好きだったのに! どうしてホントの気持ちを声に出して伝えられなかったんだろう。
「ありがとうって、もっと、ちゃんと言えばよかった…………」
——そうか。じゃ、気に入ったら持ってけよ。
砂煙の中、ぬいぐるみとデッキを抱きしめる。兄さんの声が、聞こえた気がした。