ZEXAL世界にメルフィー使い復讐者ショタを投下する 〜ナンバーズハントでお兄ちゃんぶっ殺した天城カイト許せねえ!〜 作:同じ顔の別人
⭐️カイト視点
勝負は決した。
アストラルが手を伸ばし、『No.29マネキンキャット』を回収する。科学による不完全な蒐集と違い、カードの力のみが取り払われていく。
砂埃が晴れると、宇佐木は地面にうずくまっていた。怪我でもしたのかと遊馬が慌てて駆け寄っていく。だが肝心の宇佐木は、ナンバーズを抜かれたショックで放心するでもなく、全てをかけたのに届かなかったと悔し涙を流し、ぶつぶつと今のデュエルの反省点を呟いていた。見苦しいが幼さに見合わぬ強さの源ではあるのだろう。
負けて、心底から悔しがれる。つまりはデュエルを心の底から楽しむ才能がある。加えて兄への愛と喪失感、オレへの怒り。そういった、奴の中でぐちゃぐちゃに混ざり合っていたものたちはこのデュエルを以って完全に分たれた。
「っ、ハルト?」
デュエル中はずっと黙って行方を見守っていたハルトが、カイトの横をすり抜けて遊馬たちへ駆け寄った。宇佐木はハルトを仇の弟と睨みつけたが、ハルトは怯まなかった。ぼくにデュエルを教えて欲しいと膝をつき目線を合わせる。
「友達になってほしいんだ」
「は……?」
「だってぼくたち、まだお互いのこと全然知らないもの」
そう苦笑いしたのに毒気を抜かれた顔をして、宇佐木は恐る恐るハルトの手を取った。
(優しい子だな、ハルトは……)
二人の弟が友達になり始めたのを横目に、カイトは記憶を辿っていた。あの少年のデッキにはいくつか異常なパワーを持つカードが含まれていた。ナンバーズではない——盗品だ。カード美術館の紛失リストに載っている、まだ市場に出ていないはずのメルフィー系統の未公開カード群。
出どころは考えるまでもない。奴の兄だ。
宇佐木の兄は、とんだ小悪党だった。窃盗を繰り返し、暴力そのものに酔い、悪目立ちしていた。だから真っ先に足取りを掴みナンバーズを狩ることができたのだ。最初の獲物は悪人の方がやりやすかろうなどという、カイトの覚悟を甘く見積もったハートランドの意図もあったのだろう。カイトは数多の陰謀に導かれつつも、結局は己の意思でナンバーズハントに踏み切った。
——
いやだ、やめてくれ……
くそっ、くそぉ……!
帰らせて……
家に、帰らないと……
——
今ならばわかる。あの命乞いの意味が。あの悪人が、堕落した後もなお背負っていたものが。
そんな男の可能性を、実の弟の目の前で摘み取ったのだ。全てはハルトのためと。オレが、この手で。
「……」
「カイト、お前本当に大丈夫なのか?」
遊馬に声をかけられカイトの意識は現在へ戻る。手のひらをじっと見つめるカイトを不審に思ったのか、いつの間にそばまで近づいたらしい。
「どうした、オレがこの程度でやられると思っていたのか?」
「大怪我したって聞いてたんだぞ! そりゃあ心配するだろ!」
でもやっぱカイトはすげーよな、と遊馬は頭をかいている。遊馬こそ退院直後だったはずだが、その事実は頭から抜け落ちているらしい。
遊馬がいなければ、復讐を妥当な報いだと受け入れて、立ち止まっていたかもしれない。あの少年が未来に目を向けられたことも含めて、己一人ではこの結末には辿り着けなかっただろう。円満の大半は遊馬のかっとビングがもたらしたものであると感じていた。
『カイト』
「……アストラル」
『覚えておいてほしい。どんな時も君は一人ではない。共に未来を生きる仲間として、私と遊馬はいつでも手を貸そう』
そして、アストラルもまたカイトと正面から向き合っていた。彼の言葉は遊馬とはまた違った意味で純粋で、まっすぐだ。オレの所業も、あの子供の喪失も、全てを理解した上で二人はこの場に立っている。
悪い気はしなかった。
「……遊馬、アストラル。貴様らにはまた礼を言わなければならないな」
アストラルにナンバーズを返して、礼を告げる。カイトの言葉に遊馬は嬉しそうに笑った。
「じゃあさ、カイトもう一回デュエルしねーか? オレ、あの子にもリベンジしなきゃいけねーんだ」
「いや、この後も用事があるからな、失礼する。ハルトの部屋へ行くといい。好きに使って構わない」
「ええ~! じゃあ今度、今度は?」
「フ……ああ、また今度だ」
「……! ああ、約束だぜカイト!」
はしゃぐ三人を尻目に、カイトは踵を返す。オービタルが慌ててその後を追いかけた。
⭐️
「っ……傷が開いたか」
研究室に入った後、カイトは足元をふらつかせながら中央の椅子にもたれかかった。腹が燃えるように熱い。縫合しただけの、傷口がまだ癒着していない状態で、あれだけのデュエルをしたのだ。フォトンチェンジの負担も重なり腹部からは血が滲み出していた。
《カイト様、その…バイタル値が》
後ろから声をかけられる。オービタル7はカイトが重症のままデュエルに挑み、容態を悪化させていることに気づいていた。
「何をグズグズしている」
《は》
「ハルトのために、貴様には簡易的な治療機能もつけていたのを忘れたか」
《……は、はい! かしこまりぃ!》
なぜか嬉しそうなオービタルの治療を受けながら、研究設備の操作を続ける。バリアン世界、そしてアストラル世界から一方的に干渉を受けている現状を打破するため、人間世界からの渡航手段がいつか必要になる時が来る。無駄に出来る時間はない。反撃のための準備を、再開したのだった。
⭐️
あのデュエルから数日が経った。
夜も更け、宇佐木とハルトの様子を心配して遊びに来ていた遊馬が、姉からの怒りの電話を受けて帰宅したしばらく後。カイトの背後にゆらりと小さな影が立っていた。
「——やっぱり」
「……!」
目を見開き、すぐに表情を抑えて振り返る。背後に立っていたのは宇佐木だった。
気づかなかった。今も、かつてナンバーズハンターとして飛び回っていた時でさえ。この子供は気配を消すことにおいては人並外れた才能があるらしい。
《な、な、キサマはぁ! いつの間に侵入をぉー!?》
「オービタル、下がっていろ」
「血の匂いする。顔色も悪いね。まだお腹痛いんだ」
「……何のようだ」
「手伝いに来たの。ぼくも役に立ちたくて」
計器の明かりに照らされた子供と見つめ合う。
ほんの数日前、奴に刃を向けられた時、オレは運命を感じた。
オレの業がとうとうオレを捕まえに来たのだと。それがハルトと同じ年頃の、兄の仇を打たんと涙を流す弟の形をしているなどあまりに出来すぎている。
ちっぽけな刃が腹の奥に沈んでいった。下手人は、まるで己の方が傷ついたような顔をしてすぐにナイフを引き抜いて腰を抜かしてしまった。
——ハルト。
なぜそう思ったのかはわからない。オレはすぐに腹部を手のひらで圧迫し、止血をしながらオービタルを呼び寄せた。このままではまずい。すぐさま戦線を離脱し、安全地帯まで後退する。オレを打ち滅さんとした殺意が遠ざかっていく。
これで良い。運命など知ったことか。オレの進むべき道はオレが決める。だから、殺されてやることは出来なかった。
「お前のケガを作ったのはぼくで、……正直、いまだに悪いとは思えない。だってぼくの兄さんはもう痛いとすら感じられないんだから……でも、その怪我が理由でお前が何かを失敗したら、それで遊馬やハルトが悲しむことになったら……もっと許せないと思った」
「舐められたものだな」
「舐めてはないよ、嫌いだけど。そうだね……二人がいなかったら、どうでもいいって放っておいたかも」
戸惑い手を止めたオービタルを睨みつけて作業へ戻らせる。オレも手を止めることはない。
しかし、この子供の言葉だけは、どれほど忙しくとも聞き流すわけにはいかない。
オレはハルトのために悪魔に魂を売った。何を犠牲にしても弟を守るとナンバーズハンターを始めた時に誓ったのだ。そしてその過程で踏みつけた全ての怨嗟を受け止め越えていく。誓ったなら、貫かねばならない。
「“兄さん”って生き物はいっつもそうだ。痩せ我慢して隠し事ばかりで、ぼくに何されてもその目を止めない」
そんな姿勢すら、この少年の癪に触るのだろう。オレたちは最悪の出会い方をして、遊馬のおかげでどうにか会話できる関係にまで落ち着いたが、それでも仲良くとはいかなかった。
カイトはドクターフェイカーとトロン……もといバイロンの姿を思い出した。彼らは気まずさを抱えながらも交友を続け、己の罪と向き合い続けている。彼らは逃げなかった。オレも決して逃げることはない。
「その敵意をオレにのみ向けるのであれば、何も問題はない」
少年は露骨に眉間に皺を寄せた。
「あのさ、言っとくけど手伝うって気持ちの話じゃないよ」
「くどい、好きにしろ。オレは知らん」
「今やってるこれ、ぼくらのために死ねないくらい大事なことなんでしょ。手伝わせてよ」
「何処の馬の骨ともわからん輩には触らせられん」
「君に私情で殺された男の弟の輩だけど、はいこれ」
電子キーボードに重ねるように置かれたのは、ナンバーズハンター用の訓練プログラム——オレやゴーシェ、ドロアたちが受けていたものの成績表だった。
被験者は宇佐木、どこから突き止めたのか、奴と同じ年頃だった頃のカイトの成績よりも全ての項目でわずかでも上回るまで執拗にやり直した形跡がある。あからさまな挑発行為に構う暇などない。古い基準とはいえ、訓練をクリアしたのであればオレから言うことは何も無い。ゴーシェとドロアという大きすぎる穴を埋める人員は、いくらいても構わない。
「……指示は後で出す。今は待機していろ」
頭の中でスケジュールを整理する。この子供を使うことにフェイカーやクリスは忌避感を示すだろうが、バイロンは歓迎するだろう。特にフェイカーはバイロンに負い目があるから説得はどうとでもなるはずだ。現地観測が必要な分野をピックアップして、同時にナンバーズがらみの事件で被害を受けた住民への補償政策の優先度を上げる。
オービタルに指示し、七皇ミザエルの残した痕跡を解析にかけた。結果が出るまでの僅かな時間を仮眠に充てることにする。瞳を閉じて、腹部の熱へ意識を寄せる。
「ぼくは……貴方のこと、一生許さないから」
知っている。
手を汚す前から、そして今は強烈な実感を伴って。オレは、それを全て聞き届ける。
「安心しろ。死後の世界があるのならば、オレは必ず地獄へ落ちる」
「……それじゃ遅いんだよ」
敵意が殺意となり、奥底で殺意がゆらりと色めき立つ。最初会った時よりは幾らかマシな声色だった。ナンバーズの呪いから解放され、今は自らの意志だけでここに立つ「天城カイト」の報いの化身。奴は、オレが本当の意味で足を止め堕落した瞬間に、懺悔の時を告げるだろう。
……ありえない話だ。
オレにはまだなすべきことがある。全てを終わらせるまで止まることはない。こいつが手を汚す未来は決して来ない。宇佐木もそれを理解したうえで言葉をぶつけている。
じっとりとした殺意に晒されながら、ひとときの眠りに落ちていった。
誓いの果ては、やがて月に至る。
ぼくは宙を見た。
ぜんぶを地から見届けた。