戦国恋姫 播磨争奪戦   作:凱刀

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播磨争奪戦
播磨の情勢


 晴れ渡る青空の下、三人の少女が駿馬に乗っていた。

「京を出てから五日目ですね。雫、そろそろ御着には着きますか?」

 黒髪の少女は疲れた声で訊いた。名は竹中半兵衛重治、通称は詩乃。

 彼女の体力は人並み以下であり、馬での遠出や、馬を駆けさせることは苦手。

 体力がない分、彼女には天才的な軍略を考えられる智慧がある。

「はい。そろそろ姫路につきます。長かったですね~」

 肩までしかない短い髪に白い頭巾を被っている少女が答えた。

 顔は疲れた表情が窺え、声にもさほど元気はない。

 名は小寺考高、通称は雫という。

 彼女も詩乃と肩を並べるほどの智謀の持ち主。

「もう、くたくたです~」

「詩乃さん。雫さん。もう少し頑張って下さいまし、播磨の調略はお二人にかかっているのですよ!」

 二人とは対照的に、まだまだ声に活力がある金髪の巻き髪少女が鼓舞する。

 蒲生賦秀、通称は梅。

 文武両道の将であるけど突っ走る傾向があり、仲間からは梅ならず牡丹と言われるほど。

「梅さんは元気ですね~」

「あたりまえですわ! 早く終わらせてハニーの許に帰りたいのです!」

 ハニーとは梅をはじめ詩乃、雫といった剣丞隊の隊長である新田剣丞のこと。

 巷では如来の化身、天からの使い、等と言われている青年。

 彼は己の力と仲間の力を借りて数々の戦を乗り越え、この世界に跋扈する鬼を京で撃滅したのは、ついこの間の話になる。

 一方で、剣丞を軸にした同盟も結ばれ、彼の許には名のある将や大名が集い、全員が嫁という、なんとも、羨ましい称号、天下たらし状までもがある。

 名実ともに彼は日ノ本の王になろうといわんばかりだ。

「今頃、何をしているのでしょうかね? 剣丞様」

「今は久遠様たちと京で復興作業でしょうね。私も残りたかったです」

 詩乃は剣丞と一緒にいたい気持ちを暴露した。

「詩乃さん! 私もハニーと一緒にいたかったのですよ。わがままはいけませんわよ」

 前を行く梅は振り向きざまに窘めた。

「あら、京にいたとき、私たちより剣丞様と一緒にいた梅さんが言いますね」

「それは……詩乃さんや雫さんは播磨のことを話し合っていたので邪魔しちゃいけないと思い」

「それでも、一緒にいた時間は私と雫より長いのは事実で?」

 梅は京にいたときに剣丞と共にした時間は二人より長かった。

「まぁまぁ、お二人とも、もう姫路に着きますよ」

 苦笑いを浮べ雫は二人の仲裁に入った。

「ここが御着ですか」

 田畑広がり大きな集落がそこにはあった。

「あちらが優香様のお城の御着城です」

 山を背にして正面奥には播磨灘が広がる平城。

 御着城は雫の主君であった小寺政職、通称、優香の城で、この御着のより先には雫の城である姫路城がある。

「雫さん。たしか、御着の優香様は優柔不断なお方でしたわよね?」

「ええ。少し煮え切らない部分がありますが、良い人です」

 さすがに、元主である優香を悪くは言えない。

「その、優柔不断さが危ないのは事実ですね。中国地方でも鬼が出ると噂されていますし」

 京で鬼を倒したとはいえ、まだまだ、日ノ本には鬼がいるのが現状で、小寺みたいな小国人衆などでは侵略を防ぐので精一杯。

「はい。ですから、こちらの味方に入れようと思っています」

 剣丞同盟に入れれば何かと双方の利益に繋がる。

 まだ、西には毛利や九州には島津といった大名がおり、剣丞同盟に快く思っていないかもしれない。

 その対策としても播磨吸収は最初の一歩。

「着きましたよ」

 大手門は固く閉ざされ門番兵が櫓の中で三人を見下ろした。

「我が名は小寺考高雫である。御着城城主、小寺政職、優香様の拝謁に参った。門を開けてもらいたい」

 堂々たる声で門番兵に言上を述べる雫。

「考高様! はい。今、門を開けます」

 急いで門番兵は門を開聞させた。

 元とはいえ、考高は政職に仕えていた。門番兵から見れば恐れ多いほどの人物に違いはない。

 馬の蹄鉄を鳴らして門を潜った三人は、これから小寺政職の調略を開始する。

 

 大広間には小寺の家臣団が左右に座っていた。

「優香様がお見えになる」

 その言葉と共に一同は平伏した。雫たち三人も平伏し敬意を払う。

 足音が聞こえ上座で止まり、そのまま腰を下ろした。

「雫ちゃん。元気だった? 顔をあげて」

「はっ!」

 雫が顔を上げると、笑顔の優香が鎮座していた。

 茶髪の長い髪が目立ち、おっとりとしているような空気を漂わせている。

「優香様も息災でなによりです」

「うん。元気。元気。後ろのお二人は?」

「はっ! お初にお目にかかります。新田剣丞が家臣の竹中半兵衛重治、通称は詩乃と申します」

「同じく、蒲生賦秀、通称、梅でございます」

 詩乃と梅はまだ平伏したまま名を名乗った。

「竹中って、あの今孔明の竹中!?」

 詩乃の噂は遠い播磨でも知られているほど有名。

「いかにも、しかしながら、今孔明と言われるのは抵抗があるので、おやめ頂きたい所存です」

「わかった。さあ、二人も顔を上げて」

 詩乃と梅は顔を上げる。

「ところで、雫ちゃん。話って何?」

「はい。優香様に織田の味方になってほしいのです」

 雫の言葉に家臣団がざわつきはじめた。

「織田連合軍の味方? う~ん」

 首を傾げ悩む優香だがあまり深く考えてないように見える。

「毛利に味方しようと思ってたんだけど、雫ちゃんが言うなら織田に味方しても良いのかな?」

「毛利は西にかかりっきりです。小寺を助ける余裕はないと思います」

「本当に? 毛利は仲間を大切にするって聞いたけど~」

「今は別です。もし、ここが鬼に襲われても今の毛利は援軍を送ってくれないでしょう」

「鬼!? 鬼はやだやだ。鬼は怖いよ」

 怯えた顔を見せて瞳を潤ませる優香。

「織田連合軍は必ず駆けつけます。小寺をお守りしますよ」

「本当?」

「はい。必ず!」

「雫ちゃんの言う通り織田に従おうかな?」

「お願いします」

 再び平伏する雫に優香は何かを思い出したかのように口を開く。

「あっ! でもでも、毛利の方が播磨に近いから毛利に味方したほうが安全かもしれない」

 優香は先ほどまでの話をまるで聞いていなかったのか毛利に味方しようよと口にしたので、雫は思わず顔をあげ驚きの表情を見せた。

「あ、あの~。優香様!? 私のお話聞いていましたでしょうか?」

「うん。聞いてたよ。考えたら毛利の方が近いかと思って。京から播磨って結構遠いじゃん? だから、毛利に味方が安全かな~って」

(優香様は気が変わりやすいから困ります)

 雫は心の中で元当主の気の変りようを嘆いた。

「織田連合の味方になる方が得策です。優香様」

 いつもの控えめな雫が声を大にして言い放つ。

「雫、織田連合は確かに強大で頼れるが、今は京の戦で疲弊しているのでは? もし、今、鬼が我らの領内に侵入したら助けてくれるのですか?」

 家臣の一人が雫に反論してきた。

「大丈夫です。京の決戦から幾月かは過ぎています。織田連合軍の兵力は決戦前の兵力と同等、いえ、それ以上にあります」

「なら、その軍勢がこの播磨に駆けつけてくれるというのですか?」

「はい。さすがに連合すべての軍が動くわけではないですが、必ず、播磨に援軍を出します」

「なら、やっぱ織田がいいのかな?」

「優香様、毛利が良いと思います。織田連合は確かに強大ではありますが、この播磨と何の縁もないです。毛利は備中まで勢力があり、播磨の国人衆たちに書状を出していると噂されています。近いうちに優香様にも毛利からの書状が来ると」

 今まで黙っていた家臣団の中で一人だけ強く毛利に付くべきと異を唱えた。

「それは必ずしも毛利からの誘いとは断言出来ないないでしょう。また、その噂が本当なら小寺家は噂される前に書状が来ていてもおかしくないと思います」

「ぐっ……それは……」

 家臣は何も言うことができず黙り込んだ。

「この件は今決めなくても良いかな? 後で決めることにする」

「出来れば、我らが播磨にいる間に答えを出していただきたいです」

「わかった。そうするよ。雫ちゃん」

 優香は立ち上がり大広間から退室した。家臣たちも次々に退室し残ったのは三人だけとなった。

「疲れました」

 肩を押しながらため息をついた雫の顔にはドッと疲れの表情が見える。

「お疲れ様です。雫」

「お疲れ様でしたわ。雫殿」

「はい。ありがとうございます」

「それにしても、優香殿は全くもって優柔不断すぎますわ!」

 今まで黙っていた梅が優香の愚痴を盛大に漏らした。

「梅、声が大きすぎます! 聞かれたらどうするのです?」

 詩乃がすかさず窘める。さすがに、ここで梅の発言は危険すぎる。もし、誰かに聞かれたりしたら、三人の身が危なくなる。

「でもー」

「とりあえず、雫、姫路城に行きましょう」

「はい。そうしましょう」

 三人は御着城を出て姫路城へと向かった

 

 姫路城は姫山という山の地形を生かした城であるが、外観から見ると大きな屋敷に近い造りをしている。

 廊下から襖が解放された部屋に女性が座っているのが見えた。

「雫ちゃん! おかえり」

 肩まである浅黄色の髪を後ろで束ねた女性は、雫を見て優しい笑みを浮かべた。

 彼女は雫の母で名は小寺職隆、通称、時雨という。

 雫の母だけあって慈愛に満ちた双眸に、おっとりとした空気を漂わせている。

 母とは思えないほど綺麗で若く周囲は姉妹ではないかと思われるほどの美貌。

 残念ながら胸は雫同様に発達していない。

「ただいま帰りました」

「そちらのお二人は竹中詩乃ちゃんと蒲生梅ちゃんね」

「はい。私の友人で仲間です」

「お初にお目にかかります。竹中半兵衛重治詩乃であります」

「蒲生忠三郎梅でございます」

「そんなに堅くならないで、雫ちゃんのお友達なのだから、ここを我が家だと思ってゆっくりしていってね」

 二人の仰々しい態度に時雨は優しく言葉をかけた。

「雫ちゃん。御着の優香様に会ってきたのでしょ?」

「はい」

「でも、雫ちゃんの織田連合との同盟の件は保留という形で追い出されたみたいね」

 笑顔から真剣な顔に変った時雨の言葉は当たっていた。

「そうです。優香様は毛利に付こうと心揺らいでいます」

「優香さんは優柔不断で臆病だからね~。待つしかないわ」

 困った顔で主の返答を待つしかないと結論づける。

「詩乃ちゃんは優香様を見てどう思ったのかしら?」

 時雨に急に質問された詩乃だが堂々として口を開かせた。

「時雨さんの仰ったとおりに優柔不断で煮え切らない部分があると思いました。また、あの様子では仮にこちらの味方になると宣言されても、後々、やはり毛利に味方すると言いかねないと思います」

「さすが、詩乃ちゃんね。雫ちゃんも憧れるのも納得」

「ちょっと、お母さん!」

 頬を赤らめ恥ずかしがる雫。

「うふふ。雫ちゃん明日はどうするの?」

「明日は三木城に行きます」

「別所長治殿に会うのね」

「はい」

「雫ちゃんでは小寺家という認識があるから、今度は詩乃ちゃんがやるんでしょ?」

「あっ、は、はい!」

「別所はお堅いけど、当主の長治殿、三奈ちゃんは読書家で学問には秀でてるから、詩乃ちゃんなら説得出来るかもよ」

急に名を呼ばれたことと、自分が別所の調略をすることを見破ったことに驚く。

別所は小寺家とは仲良くは無い。小寺家の雫が調略しても織田連合軍の味方にならないと言うのが眼に見えている。

 詩乃が別所の説得となれば話は変わってくる。何のわだかまりもなく説得しやすいだろう。

 時雨はそれを知って詩乃が別所を説得するのだろうと見破りつつ、助言もあたえてくれた。

「ご助言ありがとうございます」

「いいのよ。お母さんもこれでも播磨のことは調べてるんだから」

 慈愛に満ちた笑みを浮かべつつも、彼女の洞察力に詩乃と梅は感嘆したのだった。

「ところで、三人は剣丞君とうまくいってるの?」

 好奇心旺盛な時雨は話題を三人の恋路に変えた。

「「「―――っ!」

 三人は頬を高潮させ驚いた。

「いきなり、何を言い出すのですか!? お母さん!」

「だって~、気になるじゃない~。どうなの?」

「ハニーはとても可愛がってくれます。でも、欲を言いますと、もっと可愛がってもらいたいです」

「そうですね。剣丞様はとても凛々しく素敵な方です。もうちょっと、可愛がって下さって欲しいと思っています」

 二人は剣丞を褒めるも自分の欲求も顔を赤くして言った。

「うんうん。雫ちゃんは?」

「えっ!? 私は……その……剣丞様によくしてもらってます。とても優しく勇敢なお方です」

「もぅ~三人とも可愛いー。お母さんも剣丞君に会いたくなってきたわ~」

「お母さん!?」

 雫は終始、時雨の言動に振り回されていた。

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