戦国恋姫 播磨争奪戦   作:凱刀

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播磨の情勢 3

 吉川元春こと朱海は鬼となった尼子と激突していた

 槍で刺殺せば鬼の鋭利な爪が降りかかり、刀で斬り殺せば強靭な牙で食いちぎられる。怒号と悲鳴が鳴り響く戦場は斃れた鬼や兵士の骸が散乱していた。

 鬼と戦っている毛利の兵士たちの瞳は怒りと覚悟が見え恐れは一切ない。

「そこだ!」

 馬上で槍を振るう朱海は鬼を屠っていた。

「皆、鬼などに恐れるな! お前たちの力を見せてやれ!」

「うおぉぉぉぉー!」

味方を鼓舞する朱海の声に兵士たちは吠えた。

 奮起した兵たちは鬼たちに襲い掛かり、どす黒い血を戦場にぶちまけていった。

将の一声でここまで兵の士気を上げるのは簡単なことではない。

 並みの将ではまずなしえないことでありそれが出来ることは朱海は将として、また、一人の武人として他とは違っていることだ。

 毛利の武の要であり、中国地方で勇将として言われているだけある。

「おかしい?」

 戦況は優勢で鬼も数を減らしていっている。

「もしかして、本城いないのか?」

 隣で戦っていた家臣に尋ねる。

「今、確認させてきます」

「これは。たぶん逃げたのだろう。邪魔だ!」

 目の前から襲い掛かってきた鬼の額めがけ槍を突き刺した。

「次から次へとー!」

 横からくる鬼も突き刺し引き抜くと最後にもう一度、心臓目がけ一刺し。

「申し上げます! 本城は逃げておりました!」

「やっぱりな。まぁ、追っても仕方ない。ここの鬼を片付ける」

「はっ!」

 伝令兵は速やかに去って行った。

「お前ら! 毛利が精鋭、吉川の強さを鬼どもに見せつけろ!」

 最後の一押しだと思い、再び朱海は声を張り上げ叫んだ。

「しゃぁぁぁぁー!」

 鬼の叫びに負けないほど獰猛な声を上げる。

(本城こっちの兵力が見たいがために来て、毛利が今動ける兵力を知ったがために退却したのだろう。次は大軍をつれてやってくるかもな。あいつもつれて)

 朱海は本城が意味もなく退却したのではなく、毛利の兵力を見るために来たのだと考えている。

 彼女が恐れているのは鬼の大軍もあるが、一番は鬼となった尼子の精兵軍団とそれを指揮する鬼となった武将を恐れている。

 名を山中鹿之助、尼子の最強の将と言われ山陰の麒麟児までとも言われていた。

 その鹿之助が鬼となれば膂力や身体能力が格段と増強されている。人だった時でさえ鹿之助は強かったのに、鬼となれば勝てるか分からないほど。

 朱海は鹿之助との対決を望んでいる反面、戦いたくないとも思っている。

(一番戦いたくない相手だが、次は私がその首を取る)

 心の中で決意を固め終わったのと同時に、朱海の槍は口を開け襲い掛かってきた鬼の口腔を貫いていた。

 戦場に残った鬼の数はもう数えるほどになっており戦は終わりを迎えていた。

 

 

 姫路に帰った三人は絵図を見て播磨の調略した大名や国人衆に印を付けていた。

「これで別所、神吉、など調略に成功しました」

 詩乃は名前を告げた順に将の居城を小さな指で指し示した。

「問題は小寺がどうでるかですわね?」

 雫の前でも堂々と小寺が不安だと言いきる梅。

「明日もう一度、聞いてきます」

「雫、出来ますか?」

「任せてください!」

「私も付いていきますよ。いくら、元当主とはいえ危険ですわ。特にあの時、反論した家臣の目は雫さんを睨んでましてよ」

「あはは……」

 雫は苦笑いで答えるしかない。

「何かあったのですか? 雫」

「昔、彼女の武功を取るような真似をしてしまいまして……」

「雫さんが敵の首を取ったとかですか?」

「いえ、彼女が兜首を取ったのですが、そのあと敵の策に嵌りまして、その策を私は見抜き何とか彼女を助けたのですが、どうやら、武功を奪ったと思われまして」

「そんなことで」

「呆れましたわ。単に猪武者の所業ですわね」

「梅さん……」

「梅……」

 二人は梅を憐れむように見た。

「お二人とも何ですの?」

 当の梅は不思議そうな顔だった。

「雫ちゃん。詩乃ちゃん。梅ちゃん。夕餉が出来たわよー」

 時雨の夕餉を告げる声に三人は部屋から出て廊下を歩いていく。

「夕餉が出来たようですわね? 今日は何がでてくるのでしょう?」

「今日は播磨灘で取れたお魚ですよ!」

「お魚ですか!」

雫の献立を聞いた途端に詩乃は驚きと歓喜の声をあげた。

魚好きな詩乃はどうやら播磨の魚を気に入ったらしい。

「今日は母が海の漁師から鯛を貰ったらしいですよ」

「鯛ですか! 一度は食べてみたかったのです。なにせ、稲葉山では絶対に食べれられない魚です。あー、鯛が食べられるなんて生きてて良かったです」

 詩乃は今、鯛のことで頭がいっぱいらしい。

 三人は夕餉が支度されている部屋の中へと入った。

「今日は腕によりをかけて作っちゃいましたー!」

 陽気な声で手を広げ夕餉の献立を披露した。

「いい匂いですわ!」

「あれが鯛ですね!」

 瞬時に鯛の切り身に眼を遣る詩乃はもう食べたくてしょうがないだろう。

「詩乃ちゃんがお魚好きだって雫ちゃんから聞いたから、鯛を貰ってきちゃった」

「ああ~、時雨殿このご恩は一生忘れません!」

 今にも平伏しそうな勢いで頭を下げた。

「いいのよ。さあ、皆で食べましょう」

「「「はい!」」」

 四人は笑顔を交え喋り、夕餉の食材を口に運んでいた。

「う~ん、これが鯛の味なのですね」

 詩乃は鯛の味を噛みしめ幸福の味を知ったのだった。

 

「これで小寺もこちらの味方になりましたわね」

 馬上で梅は達成感に満ちた声で言った。

「梅さんのおかげですよ。あははは」

 苦笑いで礼を言う雫。

 実は小寺は雫たちが再び来て返答を訊こうとしても渋っていたのだ。

 元当主に雫も遠慮もあるゆえ、なかなか決めろとは言いづらい。

 そこで、痺れを切らした梅は雫の隣に進み出て声を大きく言った。

『いつまで、優香様は渋っているのですか! そのようなことでは周囲から要らぬ疑いがかけられます。また、小寺は臆病者、決断力の無い当主だと後ろ指を指されることにもなりかねません。織田もそのように決めかねている相手に手を差し伸べることはできません! さあ、当主優香様はどうされますか?』

 このように怒気を含ませ梅は優香に言い迫った。

 周りにいた家臣団も呆気に取られ何も言い出せず硬直していた。

 梅は優香だけではなく家臣団までも震え上がらせたかもしれない。

『わわわ、わかった。おお、織田連合に味方します。だだ、だから、怒らないで~』

 当然、優香は怯え織田連合に味方すると言った。半分、脅迫に従ったようにみえるが、こうでもしないと優香は決断しない。

 雫も何も言えずに亜呆気に取られたのも言うまでも無い。

「雫さんももっと強く言わないとダメですわよ。元当主であっても言うことは言うべきです。それに、今は剣丞隊の一味なのです。小寺家から冷たい眼で見られようとハニーがいますわ」

「はい。これからは、もう少しそうしていきます」

 播磨の主だった国人衆の引き込みは出来た。

「次は赤松ですわね」

「当主の広秀殿こと来香殿は頑固者で播磨では有名です」

播磨にある龍野城城主の赤松広秀、通称、来香。

 頑固で自分で決めたことをなかなか曲げない性格で、家臣の言葉を聞いてもなかなか折れない。

「来香殿からの書状の返事では明日会いたいと」

「明日ですか。詩乃さん。雫さん。ここは私に任せて頂きませんか?」

「梅さんにですか!?」

 詩乃は梅が自身から説得したいと宣言したのに驚く。

「私も調略してみたいのです。お二人の活躍している中で自分だけ何もしないのは納得いきませんわ」

「出来るのですか?」

 詩乃には心配でしかない。彼女はたしかに智勇はあるが調略が出来るわけではない。

 いや、彼女の性格から相手の弱みを漬け込みこちらに誘導するというよりは、言葉で攻めて相手を屈服させる方法になりかねない。悪く言えば脅しに近い。

 脅す方法も有効な手だがそれは気弱な人に対して有効なことであり、赤松広秀のような頑固者に使う手ではない。調略失敗の可能性を高めるだけで詩乃はそれを恐れている。

 梅なのに牡丹になることを。

「この蒲生梅賊秀、赤松を必ず屈服させますわ!」

(本当に大丈夫でしょうか? でも、私がやるよりは可能性はあると思うので梅さんに任せましょう。)

(ああなってしまったら止められませんね。ここは梅さんに任せるしかありません。なにかあったら私が出ましょう。梅さんが牡丹にならないことを祈りましょう)

 雫と詩乃は梅に任せようと決めた。

「では、梅さん。赤松の調略お願いしますね」

「お任せあれ! 必ず成功させてみますわ!」

 高らかと自信満々に声をあげる梅に二人は小さな不安を抱えていた。

 彼女はそんな二人の不安など知る由も無く、悠々と馬を歩かせていた。

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