マジカル・リテラシー 作:自認コメディ
五年前。
世界に、扉が現れた。
それは魔術によって生み出されたものではなかった。
既存の理論では説明できない空間の接続。観測された現象は明らかに魔術の常識を逸脱しており、研究者たちはその原理を解き明かすことができなかった。
そして、その扉から一人の少女が姿を現した。
金色の髪の上には、ぴんと伸びた白いうさぎ耳。水色のエプロンドレスを思わせる華やかな衣装。細部にまで施された装飾は、まるで御伽噺の登場人物をそのまま現実に連れてきたかのようだった。
「初めまして。私は『うさぎ座の魔法少女』と申します」
少女は穏やかに微笑み、丁寧に頭を下げた。
「本日は、皆様に一つお願いがあって参りました。私たちの世界と、皆様の世界との間に、交流の機会を設けていただけないでしょうか」
それが、二つの世界の交流の始まりだった。
*
それから五年。
二つの世界の交流は、少しずつ広がりを見せていた。
文化、学問、技術。互いの世界に存在しないものを知り、理解しようとする試みが続けられている。
その交流の一環として、日本への留学生を募る話が、ある学校にも持ち込まれた。
「ラビリスさんは成績優秀ですし、いかがですか?」
教師からそう声をかけられたのは、ラビリス・アネット。
ウェーブがかった長い水色の髪が印象的な、勉強熱心な少女だった。
未知の文化や学問に触れる機会は、彼女にとっても有意義な経験になるだろうと考えられたのだ。
アネットはしばらく考えた後、その申し出を受けることにした。
日本。
魔物と呼ばれる存在が現れ、それに対抗する魔法少女たちが活躍する世界。
魔術とは異なる、未知の力が存在する場所。
興味を引かれないはずがなかった。
*
そして、出発の日。
アネットは家族に見送られながら、異世界へと続く扉の前に立っていた。
妹たちとは何度も言葉を交わした。
しばらく会えなくなることを惜しみ、互いに抱き合う。名残惜しそうに離れた後も、妹たちはアネットの手を握っていた。
最後に、父親がアネットの肩にそっと手を置いた。
「向こうでも、色々な経験ができるといいね。楽しんでおいで」
「うん。行ってきます」
アネットは深く頷いた。
新しい世界で多くのことを学び、見聞を広める。それが、この貴重な機会を与えられた自分にできることだろう。
そんな決意を胸に、アネットは家族に手を振った。
「それでは、参りましょうか」
案内役の『うさぎ座の魔法少女』が、穏やかな笑みを浮かべて促す。
金色の鍵が扉に触れると、向こう側に見知らぬ景色が広がった。
アネットは一度だけ振り返り、家族の姿を目に焼き付ける。
そして、扉をくぐった。
その先に待っているのは、まだ知らない街、まだ知らない人々、そしてまだ知らない自分自身。
こうして、ラビリス・アネットの日本での留学生活が始まった。
──この物語は、それとは関係ない、ネットリテラシーにやたらと過敏な少年の話である。
※留学生ちゃんは本編には出てきません。
留学生ちゃんは主人公じゃありません。彼女じゃコメディは書けませんでした。すみません許してください何でもしますから