マジカル・リテラシー   作:自認コメディ

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第2話 終わってる防災リテラシー

 汗で手が湿る。指先もやけに冷えて、感覚が薄い。

 負けるわけにはいかない。ここまで勝ち続けてきたのだ。負けるはずがないのだ。

 

「この試合に勝てば、無敗最高段位達成──」

 

 手汗が出すぎてスマホの画面が滑るんだけど。夏なのに震えが止まらない。武者震いだぜ、こりゃあ……。

 

 感覚が研ぎ澄まされていき、周囲の音が遠ざかる。

 しかし、そんな僕の耳にも、けたたましい警報の音はかろうじて届いた。

 

 避難しなければならない。

 でも──

 

「あぁ、ああ! やめらんねぇんだけど! 避難指示出てんのにゲームやめらんねぇんだけどぉ!」

 

 地震ではない。五分そこら避難が遅れたとて、直ちに死んでしまうわけではない。

 この試合が終わったら領域外に避難する。だから今は集中──

 

『サーバーへの接続に失敗しました』

 

 ぬあああああああああああああああ!!

 

 特異災害め、よ……よ、余のランクマを邪魔しおって……!

 ゆ、許せん。憤死してしまいそうだ。

 

 僕はわなわなと震え、そのまま意識を失った。

 

 

 *

 

 

 はて、僕は何をしていたのだろうか。

 記憶が曖昧だ。眠る前に何をしていたのか、思い出そうとすると頭が痛む。

 

 とりあえずRINEでも確認しようとスマホを手に取る。

 しかし、Wi-Fiのアンテナが立っていない。

 

「ネット繋がんねぇ。ママー!」

 

 返事がない。

 うーん、いないのか。

 仕方ない。マ○クラでもして帰ってくるのを待つか。

 

 

 *

 

 

 いつまで経っても帰ってこない。

 新規データから始めて、ゲームをクリアしてしまったというのに。

 

 それに、朝が来る気配もない。

 

 いや、そもそも起きたときは夜だったのか? 確認していない。

 何を?

 時間?

 ……ジカン?

 ジカンとは、なんだったか。

 

 ぐぅ~。

 腹の虫が、しんと静まり返った部屋に響いた。

 

 ……お腹が空きすぎて、悲しくなってきた。

 泣きそうだ。

 

 学校で友達と喧嘩したって絶対に泣かないのに、この歳にもなって、空腹で泣きそうになっている。

 情けない。

 

 僕は部屋を出た。

 

 足元がふらふらする。手すりを頼りに、ゆっくりと階段を下りた。

 

 冷蔵庫を開ける。

 作り置きはない。中にあるのは卵とハム、それから長ネギ。

 どれもやけに色が悪いし、鼻が曲がりそうな臭いがする。

 

 早めに使わないとな。

 炊飯器には、冷えた米が残っていた。

 

 

 

 

 

 僕はいま、腰を入れてフライパンを振っている。

 

 チャーハンは火力が命だ。

 卵と冷や飯が混ざり合い、黄金に輝く。そこへ刻んだネギを投入。仕上げに醤油を鍋肌へ垂らす。

 醤油の色を米につけてはならない。香りだけを移すのだ。

 

 完成!

 

 うまい! うまい! 手が止まらない!

 シェフを呼んでくれ!

 

 調理前の食材に感じた不快感など、もはやどこにもなかった。

 ドン、ドン。

 高火力にかければ、腐りかけでも食えるものだな。

 ドン、ドン、ドン!

 

『エントリーします!』

 ガシャン!

「行方不明者と思しき人物を発見! 意識あり! 避難させます!」

 

 うわなにをするやめr

 

 

 *

 

 

 目が覚めると、知らない天井だった。

 長い夢を見ていたような、そんな気分だ。

 

「リツ? 起きたのね」

 

 ママがいる。

 なんだか久しぶりに見た気がする。

 

「ほんっとにバカ! あんた、すっごい迷惑かけたんだからね! ちゃんと避難しなさいよ!」

 

 頭をはたかれた。

 

「……気をつけます」

「まったく、もう……」

 

 ママは深いため息をついた。

 

「あとあんた、発見されたときは女の子になってたんだって」

「……? はい」

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