マジカル・リテラシー 作:自認コメディ
汗で手が湿る。指先もやけに冷えて、感覚が薄い。
負けるわけにはいかない。ここまで勝ち続けてきたのだ。負けるはずがないのだ。
「この試合に勝てば、無敗最高段位達成──」
手汗が出すぎてスマホの画面が滑るんだけど。夏なのに震えが止まらない。武者震いだぜ、こりゃあ……。
感覚が研ぎ澄まされていき、周囲の音が遠ざかる。
しかし、そんな僕の耳にも、けたたましい警報の音はかろうじて届いた。
避難しなければならない。
でも──
「あぁ、ああ! やめらんねぇんだけど! 避難指示出てんのにゲームやめらんねぇんだけどぉ!」
地震ではない。五分そこら避難が遅れたとて、直ちに死んでしまうわけではない。
この試合が終わったら領域外に避難する。だから今は集中──
『サーバーへの接続に失敗しました』
ぬあああああああああああああああ!!
特異災害め、よ……よ、余のランクマを邪魔しおって……!
ゆ、許せん。憤死してしまいそうだ。
僕はわなわなと震え、そのまま意識を失った。
*
はて、僕は何をしていたのだろうか。
記憶が曖昧だ。眠る前に何をしていたのか、思い出そうとすると頭が痛む。
とりあえずRINEでも確認しようとスマホを手に取る。
しかし、Wi-Fiのアンテナが立っていない。
「ネット繋がんねぇ。ママー!」
返事がない。
うーん、いないのか。
仕方ない。マ○クラでもして帰ってくるのを待つか。
*
いつまで経っても帰ってこない。
新規データから始めて、ゲームをクリアしてしまったというのに。
それに、朝が来る気配もない。
いや、そもそも起きたときは夜だったのか? 確認していない。
何を?
時間?
……ジカン?
ジカンとは、なんだったか。
ぐぅ~。
腹の虫が、しんと静まり返った部屋に響いた。
……お腹が空きすぎて、悲しくなってきた。
泣きそうだ。
学校で友達と喧嘩したって絶対に泣かないのに、この歳にもなって、空腹で泣きそうになっている。
情けない。
僕は部屋を出た。
足元がふらふらする。手すりを頼りに、ゆっくりと階段を下りた。
冷蔵庫を開ける。
作り置きはない。中にあるのは卵とハム、それから長ネギ。
どれもやけに色が悪いし、鼻が曲がりそうな臭いがする。
早めに使わないとな。
炊飯器には、冷えた米が残っていた。
僕はいま、腰を入れてフライパンを振っている。
チャーハンは火力が命だ。
卵と冷や飯が混ざり合い、黄金に輝く。そこへ刻んだネギを投入。仕上げに醤油を鍋肌へ垂らす。
醤油の色を米につけてはならない。香りだけを移すのだ。
完成!
うまい! うまい! 手が止まらない!
シェフを呼んでくれ!
調理前の食材に感じた不快感など、もはやどこにもなかった。
ドン、ドン。
高火力にかければ、腐りかけでも食えるものだな。
ドン、ドン、ドン!
『エントリーします!』
ガシャン!
「行方不明者と思しき人物を発見! 意識あり! 避難させます!」
うわなにをするやめr
*
目が覚めると、知らない天井だった。
長い夢を見ていたような、そんな気分だ。
「リツ? 起きたのね」
ママがいる。
なんだか久しぶりに見た気がする。
「ほんっとにバカ! あんた、すっごい迷惑かけたんだからね! ちゃんと避難しなさいよ!」
頭をはたかれた。
「……気をつけます」
「まったく、もう……」
ママは深いため息をついた。
「あとあんた、発見されたときは女の子になってたんだって」
「……? はい」